自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

文字の大きさ
上 下
314 / 390
横須賀鎮守府の栄光

第312話 お見合いの席

しおりを挟む
「斎藤さん、どうか桜子をもらってやってはくれませんか」

 、、、はい?、え、今、なんて?
 どうしてそんな話になった?、っていうか、今までそんな話なんて微塵も出ていなかったよな。
 、、ああ、、、、それであの晴着姿だったのか、桜子さんは。
 それにしたって、あんな美人の娘さん、いくらでも貰い手があるだろうに、なんだって知り合ったばかりの俺に?

「お話しは嬉しいのですが、私には婚約者がおりまして、、、」

 もちろん嘘だが、さすがに玲子君に申し訳が立たないからな、このまま進めてしまえば。
 しかし、北村少佐は笑ながら「それは承知の上です」と言いながら、本題に入った。

「試すような事をして、本当に申し訳ないと思っていますが、実は桜子は、私達の本当の娘ではありません」

 はい?、展開が早すぎて、追い付かないぞ?、何が言いたいんだ。
 北村少佐は、ここに至る経緯を話してくれた。
 俺が最初に北村少佐と会った時に、玲子君の写真を持っていたことを、北村少佐は少し不信に感じていたらしい。
 そもそも、桜子さんを保護した時、既に記憶が曖昧になっており、警察に相談はしたものの、戦後の混乱期に不憫に感じた北村夫妻は、彼女を自身の子供として一時的に住まわせていたのだとか。
 ってことは、やっぱり桜子さんは、玲子君でいいんだよな。
 
 凄いな、記憶がないからなのか、見事にこの時代の娘さんに仕上がっていたぞ。
 これでは未来人の俺たちも、すれ違ったくらいじゃ見間違えるな。

 そして、今日、彼女の記憶を確認するために、見合いの場をセッティングしたのだそうだ。


 、、、ん?、見合い?。


「ちょっと、北村少佐、愛娘をそんなに簡単に手放さないでください、私も少し驚くではありませんか」

 北村少佐は、それが可笑しかったようで、顔を赤くしながら暫く笑っていた。
 少佐は少佐なりに、玲子君を娘の晴れ舞台として、俺に手渡したかったのではないだろうか。
 この、子供に恵まれなかった夫婦の、束の間の親子関係に、それなりの門出を持って送りたかったのかもしれない。
 しかし、事態は思わぬ方向へ進んだ。

「いやあ、、、斎藤君、申し訳ない、、、、、桜子に泣かれてしまったよ」

 いや、、、順を追って話してもらえますか、北村さん!。
 見合いの席で泣かれたら、俺、なんだか凄く嫌がられたみたいで、、、悲しいんですけど!、ちょっと、、悲しいんですけど!。

 北村少佐が言うには、これが俺と桜子さんの見合いだと打ち明けたところ、突然泣き出して、この家を離れたくない、もう少し、お父さんとお母さんの娘でありたいとの一点張りだったのだそうだ。
 もちろん、夫妻も、彼女が俺の姿を見れば記憶を取り戻し、一件落着という場面をイメージしていたらしいのだが、残念ながら桜子さん、、、玲子君の記憶は戻らず、それどころか、本人の承諾もなく見合いを進めたと、随分責められた様子だった。
 こうなると、それまで家族ごっこのつもりだった北村夫妻にとって、それは本当の娘が出来たようになってしまい、手放すことが出来なくなってしまった。

 そりゃ、そんな事言われたら、手放せんわな、、、。

 バツの悪そうな北村少佐に、何度も気にしないで欲しいと言うものの、昔気質の海軍軍人は、どうにも俺に申し訳なく、気が許さなようで、今回の事は貸にしてくれと頭を下げた。

 逆に、俺はしばらく玲子君を北村夫妻に預けることにした。
 玲子君は、今現在、北村桜子である以上、俺たち二人の関係は一番最初からやり直さなければならない。
 
 それでも、桜子さんこと玲子君は、必ず俺に気付くと、今は信じるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちゃぼ茶のショートショート 「フラッシュモブ」

ちゃぼ茶
ミステリー
あなたの人生はあなたのもの、私の人生は私のもの……とは限らない人生も面白い

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

『量子の檻 -永遠の観測者-』

葉羽
ミステリー
【あらすじ】 天才高校生の神藤葉羽は、ある日、量子物理学者・霧島誠一教授の不可解な死亡事件に巻き込まれる。完全密室で発見された教授の遺体。そして、研究所に残された謎めいた研究ノート。 幼なじみの望月彩由美とともに真相を追う葉羽だが、事態は予想外の展開を見せ始める。二人の体に浮かび上がる不思議な模様。そして、現実世界に重なる別次元の存在。 やがて明らかになる衝撃的な真実―霧島教授の研究は、人類の存在を脅かす異次元生命体から世界を守るための「量子の檻」プロジェクトだった。 教授の死は自作自演。それは、次世代の守護者を選出するための壮大な実験だったのだ。 葉羽と彩由美は、互いへの想いと強い絆によって、人類と異次元存在の境界を守る「永遠の観測者」として選ばれる。二人の純粋な感情が、最強の量子バリアとなったのだ。 現代物理学の限界に挑戦する本格ミステリーでありながら、壮大なSFファンタジー、そしてピュアな青春ラブストーリーの要素も併せ持つ。「観測」と「愛」をテーマに、科学と感情の境界を探る新しい形の本格推理小説。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

エリカ

喜島 塔
ミステリー
 藍浦ツバサ。21歳。都内の大学に通う普通の大学生。ただ、彼には、人を愛するという感情が抜け落ちていたかのように見えた。「エリカ」という女に出逢うまでは。ツバサがエリカと出逢ってから、彼にとっての「女」は「エリカ」だけとなった。エリカ以外の、生物学上の「女」など、すべて、この世からいなくなればいい、と思った。そんなふたりが辿り着く「愛」の終着駅とはいかに?

処理中です...