自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

文字の大きさ
上 下
313 / 390
横須賀鎮守府の栄光

第311話 桜子?、誰だ、それは?

しおりを挟む
「やあ、斎藤さん、ようこそ。さ、お上がりください」

 俺は再び北村少佐の自宅に招かれた。
 先日約束していた、玲子君に関する情報を得るためだ。
 少なくとも、玲子君の居場所くらいは話してくれるのだろうと期待していた、そして、マーシャンが口を閉ざした東西冷戦の謎を解く詳細を、この北村少佐から聞き出すためでもあった。

 しかし、そこには俺の期待以上のものがあった、というか、、、居た。

「桜子、ほら、入りなさい」

 桜子?、誰だ、それは?
 居間から襖を隔てて、女性の声がした「失礼します」と物静かな声がすると、襖は静かに開いた。
 
 、、、、そこには美しい着物姿の玲子君と、北村少佐の奥様が居たのだ。

「、、、えっ?、、、これは?、、北村さん?、これは一体」

「失礼、彼女は私の娘で北村桜子と申します。少々体を悪くしましてね、、、もう大分良いのですが」

 どうも、さっぱり呑み込めない、、、玲子君だよな、どう見ても。

「初めまして、、、桜子と申します、斎藤様」

 三つ指を付いて、淑やかに一礼すると、奥様は玲子君、、、桜子さんを居間へ通した。
 何なのだ、この雰囲気は?
 彼女は玲子君そっくりだが、こうして接していると、雰囲気が玲子君ではない。
 明らかに戦後間もないこの時代の娘さんだ。
 この不可解な居間でのやり取りは、そのまま昼食という形で進んでしまう。
 仲の良い三人家族、躾の行き届いた、いかにも軍人の娘と言った感じの清楚な印象を受ける桜子さん。
 正月に実家に帰ったような、親戚が集まったような、不思議な感触。
 戦後の物のない時代に、これだけ準備するのは大変だったろうに、北村家ではご馳走を準備してくれた上に、酒まで準備されていた。
 熱燗が温まると、奥さんが忙しく台所と居間を往復する、何故か奥さんよりも綺麗な着物を着た桜子さんより手数が多い奥さん。
 「どうぞ」と、熱燗を御猪口に注いでくれる桜子さんは、ほとんど何も喋らないが、火鉢の熱に当てられたのか、少し頬が紅潮していた。
 
 、、、日本の冬の昼食会。
 
 ただ、本当にそれだけの、静かで細やかな会だったが、俺にとっては心が落ち着く催しとなった。

 北村少佐と俺は、少し酒がまわった頃、ようやく他愛の無い会話を始めた。
 出身は何処だとか、結婚は未だしないのか、とか、なんだか本当に他愛のない会話。
 俺はそんな会話の間も、玲子君そっくりな桜子さんの事をチラチラと横目で気にしていると、それは北村少佐も見透かしたようで、少し笑っていた。
 
「さて、桜子はお母さんの手伝いでもしていてくれ、これから男同士の大事な話があるのでな」

 結局、ほとんど何も話さないまま、桜子さんは部屋を後にした。
 残された男二人、火鉢に掛けられた薬缶だけがしゅんしゅんと静かに音を立てる他、静かな居間。

 遠くから国鉄の音が聞こえる。


「斎藤さん、今日は貴方にお話しすることが二つあります」

 おいおい、二つもあるのか?、、、で、何?!


↓ 北村 桜子(美鈴 玲子)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

ちゃぼ茶のショートショート 「フラッシュモブ」

ちゃぼ茶
ミステリー
あなたの人生はあなたのもの、私の人生は私のもの……とは限らない人生も面白い

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『量子の檻 -永遠の観測者-』

葉羽
ミステリー
【あらすじ】 天才高校生の神藤葉羽は、ある日、量子物理学者・霧島誠一教授の不可解な死亡事件に巻き込まれる。完全密室で発見された教授の遺体。そして、研究所に残された謎めいた研究ノート。 幼なじみの望月彩由美とともに真相を追う葉羽だが、事態は予想外の展開を見せ始める。二人の体に浮かび上がる不思議な模様。そして、現実世界に重なる別次元の存在。 やがて明らかになる衝撃的な真実―霧島教授の研究は、人類の存在を脅かす異次元生命体から世界を守るための「量子の檻」プロジェクトだった。 教授の死は自作自演。それは、次世代の守護者を選出するための壮大な実験だったのだ。 葉羽と彩由美は、互いへの想いと強い絆によって、人類と異次元存在の境界を守る「永遠の観測者」として選ばれる。二人の純粋な感情が、最強の量子バリアとなったのだ。 現代物理学の限界に挑戦する本格ミステリーでありながら、壮大なSFファンタジー、そしてピュアな青春ラブストーリーの要素も併せ持つ。「観測」と「愛」をテーマに、科学と感情の境界を探る新しい形の本格推理小説。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

エリカ

喜島 塔
ミステリー
 藍浦ツバサ。21歳。都内の大学に通う普通の大学生。ただ、彼には、人を愛するという感情が抜け落ちていたかのように見えた。「エリカ」という女に出逢うまでは。ツバサがエリカと出逢ってから、彼にとっての「女」は「エリカ」だけとなった。エリカ以外の、生物学上の「女」など、すべて、この世からいなくなればいい、と思った。そんなふたりが辿り着く「愛」の終着駅とはいかに?

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...