自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

文字の大きさ
上 下
312 / 390
横須賀鎮守府の栄光

第310話 昭和19年の暮れ

しおりを挟む
 俺は北村少佐の自宅を出て、横須賀基地へとまっすぐ向かった。
 もはや、玲子君の捜索の必要はないだろう。

 北村少佐は、次に来る時までに、玲子君の心当たりについて、あらためて話したい、と別れ際に話した。

 北村少佐が何を考えての事かは解らない。
 しかし、強引に事を進めれば、玲子君が戻っても、その後の解決に支障が出ると考え、一度帰ってマーシャン達と相談する事にした。


「え?、キタムラの家に行って来たんですか?」

 マーシャンは、俺が北村少佐の自宅を知っていたことに、かなり驚いていた。
 偶然とはいえ、マーシャンにとっても収穫だったようで、なぜかそのことを喜んでいた。
 玲子君の居場所について、北村少佐が何か知っている素振りであったことに関し、何か心当たりがないか聞いたが、マーシャンにも皆目検討が付かない様子だった。

 俺は、ここで先ほどの「Yシャツ」ついて、マーシャンに聞いた。
 何しろ、コードネームなんて出されても、話を合わせるのがやっとだからな。

「Yシャツとは、「Y号作戦」と彼らが呼ぶ計画の事で、戦後のこの時代に、我々米軍の協力を得て、最軍備しようという計画の事です」

 それは前にも聞いたが、、、、それだと、北村少佐が、やたら何かを警戒している意味が分からなくなってしまう。
 米軍と共同して、、、

「マーシャン、、海軍が米軍と協力して、戦後の再軍備を進め始めたのは、、、何時頃だ?」

「ワオ、GFは勘が鋭いですね!、そこ、重要なところです」

 マーシャンが言うには、このコードネーム「Yシャツ」は、昭和19年の暮れ、、、つまり1年以上前から計画はスタートしていたのだ。

 、、、1年前、、、、
 終戦が半年前だから、単純に終戦の半年以上前には、既に戦後の再軍備計画を米軍と進めていたことになる。
 そんな事が有り得るのか?。
 ここにも俺の知らない戦後史が存在するのか?
 それにしたって、日本は本土決戦も視野に入れて、軍備を温存していた時代だよな、そんな頃に、日本を裏切るような行為、あの時代に日本で可能かのか?。

「海軍だけではないですよ、陸軍だって、アメリカ以外の国と、戦後処理について水面下で進めていましたから」

 なんだって?。
 海軍は、なんとなく紳士なイメージがあったから、そんなこともあるかと思ったが、まさか、あの陸軍までも、戦争に負けた後の交渉をしていたなんて。
 しかし、陸軍はどこの国と交渉していたんだ?。

「マーシャン、戦時中に日本の海軍と米軍が秘密裏に裏工作していたのは理解できる、しかし、陸軍と交渉するような国家が、この時代に存在なんてするのか?」

 すると、マーシャンは笑ながら「ヒントは東西冷戦です」とだけ答えた。
 東西冷戦、、、、、東西冷戦?
 アメリカと敵対していたのは、他ならぬソヴィエト連邦、、、、まさか、ソ連と陸軍が取引をしていた?、さすがにそれは無いだろう。
 しかし、マーシャンは悪戯っぽい表情を浮かべると、詳細は北村に聞いた方が良い、と答え、それ以上は教えてくれなかった。
 なんだよ、未来ではGFの職員なんだろうに、俺に隠し事なんてしても、仕方あるまい。
 
 俺はその時、そんな風に焦らすマーシャンを少し恨んだが、なるほどたしかにこれは、北村少佐から直接聞いた方が良い内容だった。

 何しろ、俺の知っている戦後史とは、まったく別の戦後史が、密に進行していたのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『量子の檻 -永遠の観測者-』

葉羽
ミステリー
【あらすじ】 天才高校生の神藤葉羽は、ある日、量子物理学者・霧島誠一教授の不可解な死亡事件に巻き込まれる。完全密室で発見された教授の遺体。そして、研究所に残された謎めいた研究ノート。 幼なじみの望月彩由美とともに真相を追う葉羽だが、事態は予想外の展開を見せ始める。二人の体に浮かび上がる不思議な模様。そして、現実世界に重なる別次元の存在。 やがて明らかになる衝撃的な真実―霧島教授の研究は、人類の存在を脅かす異次元生命体から世界を守るための「量子の檻」プロジェクトだった。 教授の死は自作自演。それは、次世代の守護者を選出するための壮大な実験だったのだ。 葉羽と彩由美は、互いへの想いと強い絆によって、人類と異次元存在の境界を守る「永遠の観測者」として選ばれる。二人の純粋な感情が、最強の量子バリアとなったのだ。 現代物理学の限界に挑戦する本格ミステリーでありながら、壮大なSFファンタジー、そしてピュアな青春ラブストーリーの要素も併せ持つ。「観測」と「愛」をテーマに、科学と感情の境界を探る新しい形の本格推理小説。

ちゃぼ茶のショートショート 「フラッシュモブ」

ちゃぼ茶
ミステリー
あなたの人生はあなたのもの、私の人生は私のもの……とは限らない人生も面白い

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

次はきっと貴方の番です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ミステリー
「えっ、何俺殺されちゃうの……?」 *** 『次はきっと貴方の番です』 ただの平凡な会社員。 そんな俺の下にある日届いた、送り主不明のこのメール。 どうやら「貰うと殺される」という都市伝説があるらしい。 最初はそんなのただの噂だと高をくくっていたけれど、次第に不可解な事が頻発して……。 これは不可解な現状に恐怖しつつもとある出会いを経て、やがて真実を見つけだす。 そんな、ちょっぴりホラーな謎解きミステリー。 ◇ ◇ ◇ 以下の通り、ミステリージャンルでランクインを果たしました。 ありがとうございます。 2021年4月 日間1位、週間2位にランクイン。 2021年5月 年間15位にランクイン。 2021年6月21日  改稿作業のため、第一章以降を一時非公開にしております。

「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」

百門一新
ミステリー
 雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。  彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!? 日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。 『蒼緋蔵家の番犬』 彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...