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横須賀鎮守府の栄光

第309話 連合艦隊の終焉

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 冬の冷たい風が吹き抜ける2月末の横須賀は、まだ春の気配はしなかった。
 さすがに横須賀鎮守府ちんじゅふがあった街だけのことがあり、至る所に海軍の痕跡が強く残る。
 一番驚いたのが、「戦艦」がまだ残っていたことだった。
 俺は、日本海軍の軍艦は、全て沈んだものと思っていたが、こうして見ると、意外とまだ動かせそうな軍艦もいる。
 一番大きく感じたのは、やはり戦艦「長門」だろうか。
 昔、何かで見た事があるから何となく解るが、人が手入れをしないと、たった半年でこれほどまでに錆びるものなんだな。
 長門の艦体は潮風により、錆で真っ赤に染まっていた。

 連合艦隊の終焉。

 そんな言葉が俺の頭を過ぎった。
 数十年も後に生まれた俺ですら、この何とも言えない不毛感を味わっているのだから、横須賀市民、いや、旧海軍の軍人は、毎日どんな気持ちでこれらを眺めているのだろう、そんな風に感じていた。

 国鉄横須賀駅は、横須賀鎮守府から目と鼻の先だった。
 さすがに海軍、ほぼ鎮守府専用の駅と言えるほどに利便性が良い。
 中で生活している俺達からしたら、どこかへ行く時には便利だろうな。
 、、、まあ、鉄道使って行く所なんて、無いんだけどね。

 そんなことを言いつつ、俺は横須賀駅を背中に、小高い丘の上に建つ市街地へ向けて歩いた。
 古い町独特の建物と、細い路地。
 現世ならば、救急車も消防車も入る事が出来ない、極端に狭い道。
 それだけに、なんだか街全体がテーマパークのように可愛く見えるほどだった。
 玲子君を探す道々、俺はなんだか観光をしてるような錯覚に陥っていた。
 こんな時、隣に玲子君が居てくれたら、どんなに楽しいだろう。
 、、、まあ、その玲子君を探しているんだけどね。

「おや?、斉藤軍曹ではありませんか?」

 まさか、こんなところで声をかけられるとは思っていなかった俺は、正直かなり驚いた。
 振り返り、声の主を確認しようと目を細めると、そこにいたのはこの時代に来て最初の頃に会った北村元少佐だった。

「、、、北村さん?、どうしたんですか、こんなところで」

「斉藤さんこそ、こんな何もない住宅街なんて。もしかして、私をお訪ねでしたか?」

「え?、北村少佐のご自宅は、この付近なんですか?」

 すると北村少佐は少し笑いながら

「付近も何も、ここが我が家です、そうだ、斉藤さん、少し寄って行きませんか?」

 本来なら、そんな事をしている場合ではないのだが、この時代の関係者は貴重だ、お言葉に甘えて、少し寄らせてもらうか。

「斉藤さんは、横須賀が初めてでしたね、なんでもアメリカにおられたとか、早川から聞きましたよ」

 ああ、そうだったな、北村少佐と早川中尉は、海軍時代からの上司と部下の関係だったな。

「そうなんです、あの時はおかしな事を言ってすいませんでした、私も初対面の方を警戒していたもので」

 小さな住宅街らしく、海軍少佐の家と言っても豪邸などではなく、ごく庶民的な一軒家だった。
 お彼岸に、よく祖父母の家に行くと、同じような匂いがしていた。

 畳特有の藺草に、仏壇のある家の、線香の匂い、、、。

 それでもよく手入れされていて、なんとなく不衛生な印象のある戦後の日本とは思えないほど、なんと言うか、普通の住宅であった。
 現世との違いは、テレビや冷蔵庫と言った電化製品が少ないことだと思う。
 それでも、日当たりが良く、くつろげるこの居間が、なんとなく落ち着いた。
 こんな時、やはり日本人はどこまで行っても日本人なんだと思う。
 奥さんと娘さんの三人暮らし。
今、奥さんは市場へ買い出しへ行って不在らしく、北村少佐がお茶を入れてくれた。

「どうも、お構いなく」

「ところでさっき、初対面の私を警戒していたと仰いましたが、、、、それは、ディッカーソン大尉から、例の計画を聞いていたから、ということで、よろしいのでしょうか?」

 、、、例の計画、、、おい、シズ、何の計画か解るか?

『ほら、マーシャンが言っていた、あの陸軍と海軍の反目の事ではありませんか?」

 ああ、マーシャンの側の人間かと早川中尉が言っていたやつだな。

「、、、、はい、私は北村少佐の側の人間です」

 その一言で、北村少佐の表情は大きく変化した。
 古い友人でももてなすように、妙に親しげになっていた。
 
「いやあ、それは大変申し訳無いことをしました、それでは斉藤さんに、お話しなければならない事がございます」

 この北村という男の口から出てくることだ、あまり愉快な話ではあるまいな。

「ディッカーソン大尉から、「Yシャツ」という言葉を聞いたことは?」

 Yシャツ、、、たしか、彼らが「Y号作戦」と呼んでいたやつだな、概要しか知らないが、、、、。

「ええ、大まかなお話なら聞いていいますが」

「、、、、そうですか、それならば、、、、」

 北村少佐は、俺が以前手渡していた、玲子君の写真を卓袱台の上に差し出すと

「彼女に、当てがあります」

 とだけ答えた。
 なんとなく、玲子君の座標が近い予感はしていただけに、俺はそれほど驚かなかった。

『シズ、、、玲子君の中心座標、ここでいいのか?」

『、、そうですね、、本人の気配は感じませんが、話の流れからすると、恐らくここが美鈴の居場所かと思います」

 ならば、もう一つの座標、、、、今回はエラーノリターンではないが、過去の世界にも、俺と玲子君で解決すべき中心座標があるだろう、、、

『シズ、、、玲子君ではない、今回の任務の中心座標は、、、」

『申し訳ありません、ちょっと評定出来ていません」

 無理もない、まだ何も始まっていない、それ故に、シズのセンサーにも反応しないのだろう。
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