311 / 332
横須賀鎮守府の栄光
第309話 連合艦隊の終焉
しおりを挟む
冬の冷たい風が吹き抜ける2月末の横須賀は、まだ春の気配はしなかった。
さすがに横須賀鎮守府があった街だけのことがあり、至る所に海軍の痕跡が強く残る。
一番驚いたのが、「戦艦」がまだ残っていたことだった。
俺は、日本海軍の軍艦は、全て沈んだものと思っていたが、こうして見ると、意外とまだ動かせそうな軍艦もいる。
一番大きく感じたのは、やはり戦艦「長門」だろうか。
昔、何かで見た事があるから何となく解るが、人が手入れをしないと、たった半年でこれほどまでに錆びるものなんだな。
長門の艦体は潮風により、錆で真っ赤に染まっていた。
連合艦隊の終焉。
そんな言葉が俺の頭を過ぎった。
数十年も後に生まれた俺ですら、この何とも言えない不毛感を味わっているのだから、横須賀市民、いや、旧海軍の軍人は、毎日どんな気持ちでこれらを眺めているのだろう、そんな風に感じていた。
国鉄横須賀駅は、横須賀鎮守府から目と鼻の先だった。
さすがに海軍、ほぼ鎮守府専用の駅と言えるほどに利便性が良い。
中で生活している俺達からしたら、どこかへ行く時には便利だろうな。
、、、まあ、鉄道使って行く所なんて、無いんだけどね。
そんなことを言いつつ、俺は横須賀駅を背中に、小高い丘の上に建つ市街地へ向けて歩いた。
古い町独特の建物と、細い路地。
現世ならば、救急車も消防車も入る事が出来ない、極端に狭い道。
それだけに、なんだか街全体がテーマパークのように可愛く見えるほどだった。
玲子君を探す道々、俺はなんだか観光をしてるような錯覚に陥っていた。
こんな時、隣に玲子君が居てくれたら、どんなに楽しいだろう。
、、、まあ、その玲子君を探しているんだけどね。
「おや?、斉藤軍曹ではありませんか?」
まさか、こんなところで声をかけられるとは思っていなかった俺は、正直かなり驚いた。
振り返り、声の主を確認しようと目を細めると、そこにいたのはこの時代に来て最初の頃に会った北村元少佐だった。
「、、、北村さん?、どうしたんですか、こんなところで」
「斉藤さんこそ、こんな何もない住宅街なんて。もしかして、私をお訪ねでしたか?」
「え?、北村少佐のご自宅は、この付近なんですか?」
すると北村少佐は少し笑いながら
「付近も何も、ここが我が家です、そうだ、斉藤さん、少し寄って行きませんか?」
本来なら、そんな事をしている場合ではないのだが、この時代の関係者は貴重だ、お言葉に甘えて、少し寄らせてもらうか。
「斉藤さんは、横須賀が初めてでしたね、なんでもアメリカにおられたとか、早川から聞きましたよ」
ああ、そうだったな、北村少佐と早川中尉は、海軍時代からの上司と部下の関係だったな。
「そうなんです、あの時はおかしな事を言ってすいませんでした、私も初対面の方を警戒していたもので」
小さな住宅街らしく、海軍少佐の家と言っても豪邸などではなく、ごく庶民的な一軒家だった。
お彼岸に、よく祖父母の家に行くと、同じような匂いがしていた。
畳特有の藺草に、仏壇のある家の、線香の匂い、、、。
それでもよく手入れされていて、なんとなく不衛生な印象のある戦後の日本とは思えないほど、なんと言うか、普通の住宅であった。
現世との違いは、テレビや冷蔵庫と言った電化製品が少ないことだと思う。
それでも、日当たりが良く、くつろげるこの居間が、なんとなく落ち着いた。
こんな時、やはり日本人はどこまで行っても日本人なんだと思う。
奥さんと娘さんの三人暮らし。
今、奥さんは市場へ買い出しへ行って不在らしく、北村少佐がお茶を入れてくれた。
「どうも、お構いなく」
「ところでさっき、初対面の私を警戒していたと仰いましたが、、、、それは、ディッカーソン大尉から、例の計画を聞いていたから、ということで、よろしいのでしょうか?」
、、、例の計画、、、おい、シズ、何の計画か解るか?
『ほら、マーシャンが言っていた、あの陸軍と海軍の反目の事ではありませんか?」
ああ、マーシャンの側の人間かと早川中尉が言っていたやつだな。
「、、、、はい、私は北村少佐の側の人間です」
その一言で、北村少佐の表情は大きく変化した。
古い友人でももてなすように、妙に親しげになっていた。
「いやあ、それは大変申し訳無いことをしました、それでは斉藤さんに、お話しなければならない事がございます」
この北村という男の口から出てくることだ、あまり愉快な話ではあるまいな。
「ディッカーソン大尉から、「Yシャツ」という言葉を聞いたことは?」
Yシャツ、、、たしか、彼らが「Y号作戦」と呼んでいたやつだな、概要しか知らないが、、、、。
「ええ、大まかなお話なら聞いていいますが」
「、、、、そうですか、それならば、、、、」
北村少佐は、俺が以前手渡していた、玲子君の写真を卓袱台の上に差し出すと
「彼女に、当てがあります」
とだけ答えた。
なんとなく、玲子君の座標が近い予感はしていただけに、俺はそれほど驚かなかった。
『シズ、、、玲子君の中心座標、ここでいいのか?」
『、、そうですね、、本人の気配は感じませんが、話の流れからすると、恐らくここが美鈴の居場所かと思います」
ならば、もう一つの座標、、、、今回はエラーノリターンではないが、過去の世界にも、俺と玲子君で解決すべき中心座標があるだろう、、、
『シズ、、、玲子君ではない、今回の任務の中心座標は、、、」
『申し訳ありません、ちょっと評定出来ていません」
無理もない、まだ何も始まっていない、それ故に、シズのセンサーにも反応しないのだろう。
さすがに横須賀鎮守府があった街だけのことがあり、至る所に海軍の痕跡が強く残る。
一番驚いたのが、「戦艦」がまだ残っていたことだった。
俺は、日本海軍の軍艦は、全て沈んだものと思っていたが、こうして見ると、意外とまだ動かせそうな軍艦もいる。
一番大きく感じたのは、やはり戦艦「長門」だろうか。
昔、何かで見た事があるから何となく解るが、人が手入れをしないと、たった半年でこれほどまでに錆びるものなんだな。
長門の艦体は潮風により、錆で真っ赤に染まっていた。
連合艦隊の終焉。
そんな言葉が俺の頭を過ぎった。
数十年も後に生まれた俺ですら、この何とも言えない不毛感を味わっているのだから、横須賀市民、いや、旧海軍の軍人は、毎日どんな気持ちでこれらを眺めているのだろう、そんな風に感じていた。
国鉄横須賀駅は、横須賀鎮守府から目と鼻の先だった。
さすがに海軍、ほぼ鎮守府専用の駅と言えるほどに利便性が良い。
中で生活している俺達からしたら、どこかへ行く時には便利だろうな。
、、、まあ、鉄道使って行く所なんて、無いんだけどね。
そんなことを言いつつ、俺は横須賀駅を背中に、小高い丘の上に建つ市街地へ向けて歩いた。
古い町独特の建物と、細い路地。
現世ならば、救急車も消防車も入る事が出来ない、極端に狭い道。
それだけに、なんだか街全体がテーマパークのように可愛く見えるほどだった。
玲子君を探す道々、俺はなんだか観光をしてるような錯覚に陥っていた。
こんな時、隣に玲子君が居てくれたら、どんなに楽しいだろう。
、、、まあ、その玲子君を探しているんだけどね。
「おや?、斉藤軍曹ではありませんか?」
まさか、こんなところで声をかけられるとは思っていなかった俺は、正直かなり驚いた。
振り返り、声の主を確認しようと目を細めると、そこにいたのはこの時代に来て最初の頃に会った北村元少佐だった。
「、、、北村さん?、どうしたんですか、こんなところで」
「斉藤さんこそ、こんな何もない住宅街なんて。もしかして、私をお訪ねでしたか?」
「え?、北村少佐のご自宅は、この付近なんですか?」
すると北村少佐は少し笑いながら
「付近も何も、ここが我が家です、そうだ、斉藤さん、少し寄って行きませんか?」
本来なら、そんな事をしている場合ではないのだが、この時代の関係者は貴重だ、お言葉に甘えて、少し寄らせてもらうか。
「斉藤さんは、横須賀が初めてでしたね、なんでもアメリカにおられたとか、早川から聞きましたよ」
ああ、そうだったな、北村少佐と早川中尉は、海軍時代からの上司と部下の関係だったな。
「そうなんです、あの時はおかしな事を言ってすいませんでした、私も初対面の方を警戒していたもので」
小さな住宅街らしく、海軍少佐の家と言っても豪邸などではなく、ごく庶民的な一軒家だった。
お彼岸に、よく祖父母の家に行くと、同じような匂いがしていた。
畳特有の藺草に、仏壇のある家の、線香の匂い、、、。
それでもよく手入れされていて、なんとなく不衛生な印象のある戦後の日本とは思えないほど、なんと言うか、普通の住宅であった。
現世との違いは、テレビや冷蔵庫と言った電化製品が少ないことだと思う。
それでも、日当たりが良く、くつろげるこの居間が、なんとなく落ち着いた。
こんな時、やはり日本人はどこまで行っても日本人なんだと思う。
奥さんと娘さんの三人暮らし。
今、奥さんは市場へ買い出しへ行って不在らしく、北村少佐がお茶を入れてくれた。
「どうも、お構いなく」
「ところでさっき、初対面の私を警戒していたと仰いましたが、、、、それは、ディッカーソン大尉から、例の計画を聞いていたから、ということで、よろしいのでしょうか?」
、、、例の計画、、、おい、シズ、何の計画か解るか?
『ほら、マーシャンが言っていた、あの陸軍と海軍の反目の事ではありませんか?」
ああ、マーシャンの側の人間かと早川中尉が言っていたやつだな。
「、、、、はい、私は北村少佐の側の人間です」
その一言で、北村少佐の表情は大きく変化した。
古い友人でももてなすように、妙に親しげになっていた。
「いやあ、それは大変申し訳無いことをしました、それでは斉藤さんに、お話しなければならない事がございます」
この北村という男の口から出てくることだ、あまり愉快な話ではあるまいな。
「ディッカーソン大尉から、「Yシャツ」という言葉を聞いたことは?」
Yシャツ、、、たしか、彼らが「Y号作戦」と呼んでいたやつだな、概要しか知らないが、、、、。
「ええ、大まかなお話なら聞いていいますが」
「、、、、そうですか、それならば、、、、」
北村少佐は、俺が以前手渡していた、玲子君の写真を卓袱台の上に差し出すと
「彼女に、当てがあります」
とだけ答えた。
なんとなく、玲子君の座標が近い予感はしていただけに、俺はそれほど驚かなかった。
『シズ、、、玲子君の中心座標、ここでいいのか?」
『、、そうですね、、本人の気配は感じませんが、話の流れからすると、恐らくここが美鈴の居場所かと思います」
ならば、もう一つの座標、、、、今回はエラーノリターンではないが、過去の世界にも、俺と玲子君で解決すべき中心座標があるだろう、、、
『シズ、、、玲子君ではない、今回の任務の中心座標は、、、」
『申し訳ありません、ちょっと評定出来ていません」
無理もない、まだ何も始まっていない、それ故に、シズのセンサーにも反応しないのだろう。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる