自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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横須賀鎮守府の栄光

第298話 俺たちの時間

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「あなた、お風呂が沸きましたよ、冷めない内に、入っちゃってくださいな」

 夕食後の、ゆっくりとした時間が実に心地よかった。
 ラジオから流れる曲が、部屋のガスストーブと相まって、部屋を暖かくする。
 、、、風呂か、、。

「シズ、、、一緒に入るか?」

「、、、イヤん、もう、旦那様!」

 といいつつ、シズは照れながら、入浴の準備を始めた。
 俺も、言った後に恥ずかしくなってきた、、、。
 この家には、小さいながら風呂が付いている。
 新婚だと言うのに、恵まれた環境だな、こんなボーナスポイント。

 シズは、部屋の明かりを消すと、僅かな街明かりだけが部屋の中を薄っすらと照らす。
 やがて眼が闇に慣れてくると、既に何も纏わない美しい妻の輪郭が確認出来た。
 妻は俺の手を取ると、更に暗い浴室に俺を誘った。

 、、、なんだか妙に緊張する。

 少し肌寒い浴室で、シズの体温が手を通じて伝わると、俺はその手を強く引き寄せ、彼女の細い身体を抱き寄せた。
 
「、、、、!」

 シズは、少し驚いたように、しかし俯いたまま、何も語らなかった。

「明かりをつけてはだめか?」

「いけません、旦那様、今日はここまでですよ」

 なんだ、勿体付けるな。
 シズめ、、、。
 まあいい、俺たちの時間はたっぷりあるんだ。
 この続きは、明日以降の楽しみとするか。

 肌寒いので、軽く身体を流した俺は、浴槽に深々と体を浸す。
 ラジオをつけっぱなしにしていたから、また音楽が流れてきたな。
 、、、並木路子かな?、リンゴの唄、、、。

 妻も浴槽に入ってくる。
 浴槽が溢れて浴室の床を湯で満たず。
 流れる音がしばらくしたあと、再び静寂が浴室を支配する。
 
 遠くから「リンゴの唄」が聞こえる。

 ああ、、、、良い夜だな、、、。




 んあ?、ん?、、、、、なんだー!?

 おいシズ、、、ってか、本当に一緒に風呂に入ってる!
 何で今はこんなに明るい?

 ちょっとは隠せよ、シズ!

「えー、いい感じだったのに」

 え?、あれ?、これ、今までの全部、新婚ごっこだったのか?
 いや、もうなんか、凄いな、凄いリアルな夢から覚めたみたいだ。

「ちょっと、シズ、さすがにやり過ぎだろ、うっかり、あっち側が本当の世界かと思ったじゃないか!」

 すると、再び辺りは真っ暗になり、薄暗い浴室に戻る。

 あれ?、やっぱりこっちが現実?
 いやいや、頭の中が混乱してきたが、これはシズの世界だ、自分をしっかり保てよ、俺。

「、、、あなた?、どうされたんですか?、怪訝そうな顔をして」

「、、、、もう止めてくれ、さすがに辛いよ、シズ、だってそうだろ、人間はこの暗さの中で、表情なんて解らないんだから」

「、、、残念、バレましたか」

 やっぱりこの世界は、シズの世界だったんだな。
 恐ろしくリアルだな、「ごっこ」の域を大きく超えてたぞ。

「随分GFもノリノリだったじゃないですか!」

「、、、、シズ、もうこんなことは止めてくれ、さすがに俺も、ちょっとショックだよ、つい今さっきまで、俺はシズとのこれからを真剣に考えていたんだぞ、現実だと思い込んで」

 さすがのシズも、やり過ぎた、という顔をしていたが、その表情は少し切ないように見えた。

「でも、記憶と五感の全てがあっち側に行っていた、さっきまでのGFは、あの戦争を生き延びて戦場から帰って来た一人の若者、私を妻として、戦後を生きた一人の若者、、、それと一体何が違うんでしょうね」

 シズの言葉に、俺は息を飲んだ。
 返す言葉が見つからなかった。
 それは、自分が感じている「認識」の曖昧さを、たった今味わったからに他ならない。

 、、、俺たち人間ごときに、どちらが現実か、なんてことは、結局区別なんてつかない、ということなんだ。

 もしかしたら、玲子君が俺のアパートに現れた時から、それ以降の事が全て偽物で、現実の俺は、まだアパートで寝ているだけかもしれない。
 玲子君がそれをしようとすれば、実行可能だということを、シズが今、証明してしまったのだ。

 、、、玲子君が言っていた、シズの部屋に長く居ることは危険だということ。
 今ならそれが少しは理解出来る。 
 
 、、、これは危険な空間だ。

 俺にとって、あまりにも心地よ過ぎるし、都合が良すぎるのだ。
 
「シズ、君は、本当は一体何なんだ?」

「、、、、いやですよ、どうしたんですかGF、私は私ですよ」

「はぐらかさないでくれ、君は、俺にとって、何か特別な存在なんだろ、さすがに今なら俺でも解るぞ」

 シズは、少しバツの悪そうな表情で、目を反らして何も答えなかった。
 そんな時、俺の背後から声が聞こえた。

「シズ、その辺で止めなさい、GFが混乱されている」

 驚いて後ろを振り返ると、そこには管理人がいた、、、姿はシズ妖精のままだったが。

「管理人さま、どうしてここに?」

 シズの表情が強張って、管理人に聞いた

「美鈴玲子が居ない間にこれか?、さすがに禁忌に触れるぞ、、、解るな?」

 管理人の一言で、シズはすっかり怯えてしまった。

 その言葉の意味を、俺は理解出来ていなかった。
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