297 / 341
横須賀鎮守府の栄光
第295話 極秘施設「邀撃基地」
しおりを挟む
「ほら、あんまり走ると転びますよ」
晴子は幼い息子を注意するが、その表情には柔らかいものがあった。
桜子は、は晴子の子供に駆け寄り、一緒に遊びだした。
その表情もまた、柔らかいものがあった。
「これ、お客さんの前だぞ、失礼ではないか」
猪上は、教育に厳しい傾向があり、目の前に北村がいても遠慮なく叱りつけた。
「あら、大丈夫ですわ、私、子供が大好きですのよ」
桜子は、笑顔で猪上にそう話す。
北村は、彼女もそんな表情が出来るものなのかと、少々関心した。
桜子は、家に来てから、ほとんど笑顔なんて見せていなかった。
この長井という地区は、とても風が強い。
三浦半島は三方向を海に囲まれている上に、この場所は太平洋に面した岬の先に建てられた家屋である。
一体、なんだってこんな不便なところに居を構えたのか、それも海軍大将にまで上り詰めたほどの人物が。
他愛の無い会話の中に、YやらXやらの隠語を隠しながらの短い会話は終わり、北村は猪上家を後にした。
Xは陸軍、Yは海軍、Zはまだ見ぬ空軍を示していた。
旧軍には、陸軍と海軍はあるが、空軍がない。
終戦間近に、陸海軍の航空戦力を統合運用しようという「航空総軍」の話は出たが、本土決戦前に終戦となったため、それも幻の空軍となってしまった。
途中まで晴子とその子供が送ってくれたおかげで、帰りの道は少し賑やかで、楽しいものになった。
桜子は、晴子と子供と、すっかり仲良しになったようで、硬かった表情は、大分穏やかなものになっていた。
北村は、ふと桜子にも良い婿がいれば、こんな毎日が訪れるのでは、と考える。
すると、どうしてもあの斎藤雄介の顔が思い出されてしまうのである。
Y号作戦の件がなければ、また戦後の混乱期でなければ、何ら疑うこともなく桜子と斎藤の結婚を祝福したことだろう。
しかし、今は陸軍の、それも旧皇道派の連中とだけは不用意に接触する訳には行かない。
4人はしばらく進むと、晴子がこちらの方が早いと言い、近道を教えてくれた。
晴子が示した道は、広大な土地をコンクリートで固め、対空偽装された旧海軍の滑走路であった。
、、、、横須賀海軍航空隊第2飛行場
ここは、ほとんど知られることなく終戦を迎えた、海軍の秘密基地である。
晴子もそんなことは知らないだろう。
海軍が無くなってしまった今現在では、管理組織も警備兵もなく、このように近道として使われるのみだ。
「猪上閣下は、どうしてここにご自宅を建てられたのですか?」
「、、、そうですね、おかしいですわね、、、母が戦前、肺を患っていまして、父はこの場所で療養を考えて建てたようですわ、ここなら長井の集落からも離れていますし」
北村は、猪上閣下にそのような事情があった事を知らず、随分無神経な事を聞いてしまったと、質問を悔いた。
そして北村は、この偶然が、Y号作戦に大きな影響を与えたことに感慨深いものを感じていた。
なぜなら、最後の海軍大将のご自宅の真横が、Y号作戦の要、横須賀海軍航空隊第2、第3飛行場であり、更に同一敷地内には、館山海軍航空隊長井分遣隊として、あの米軍による本土空襲、B-29爆撃機の迎撃専門に作られた、海軍の極秘施設「邀撃基地」があるのだから。
当然晴子がそのような事実を知る由もなく、猪上閣下は、その重大な秘密を一人胸に閉まって語ることは無かった。
ここではまだ、戦争は終わっていない、相手が米軍から旧日本陸軍へと変化しただけに過ぎない。
陸軍は、再びこの日本を戦乱に巻き込む可能性が高い。
彼らにそのつもりが無くても、結局はそうなってしまう。
この日本に、本当の平和が訪れるよう、北村は願って止まなかった。
晴子は幼い息子を注意するが、その表情には柔らかいものがあった。
桜子は、は晴子の子供に駆け寄り、一緒に遊びだした。
その表情もまた、柔らかいものがあった。
「これ、お客さんの前だぞ、失礼ではないか」
猪上は、教育に厳しい傾向があり、目の前に北村がいても遠慮なく叱りつけた。
「あら、大丈夫ですわ、私、子供が大好きですのよ」
桜子は、笑顔で猪上にそう話す。
北村は、彼女もそんな表情が出来るものなのかと、少々関心した。
桜子は、家に来てから、ほとんど笑顔なんて見せていなかった。
この長井という地区は、とても風が強い。
三浦半島は三方向を海に囲まれている上に、この場所は太平洋に面した岬の先に建てられた家屋である。
一体、なんだってこんな不便なところに居を構えたのか、それも海軍大将にまで上り詰めたほどの人物が。
他愛の無い会話の中に、YやらXやらの隠語を隠しながらの短い会話は終わり、北村は猪上家を後にした。
Xは陸軍、Yは海軍、Zはまだ見ぬ空軍を示していた。
旧軍には、陸軍と海軍はあるが、空軍がない。
終戦間近に、陸海軍の航空戦力を統合運用しようという「航空総軍」の話は出たが、本土決戦前に終戦となったため、それも幻の空軍となってしまった。
途中まで晴子とその子供が送ってくれたおかげで、帰りの道は少し賑やかで、楽しいものになった。
桜子は、晴子と子供と、すっかり仲良しになったようで、硬かった表情は、大分穏やかなものになっていた。
北村は、ふと桜子にも良い婿がいれば、こんな毎日が訪れるのでは、と考える。
すると、どうしてもあの斎藤雄介の顔が思い出されてしまうのである。
Y号作戦の件がなければ、また戦後の混乱期でなければ、何ら疑うこともなく桜子と斎藤の結婚を祝福したことだろう。
しかし、今は陸軍の、それも旧皇道派の連中とだけは不用意に接触する訳には行かない。
4人はしばらく進むと、晴子がこちらの方が早いと言い、近道を教えてくれた。
晴子が示した道は、広大な土地をコンクリートで固め、対空偽装された旧海軍の滑走路であった。
、、、、横須賀海軍航空隊第2飛行場
ここは、ほとんど知られることなく終戦を迎えた、海軍の秘密基地である。
晴子もそんなことは知らないだろう。
海軍が無くなってしまった今現在では、管理組織も警備兵もなく、このように近道として使われるのみだ。
「猪上閣下は、どうしてここにご自宅を建てられたのですか?」
「、、、そうですね、おかしいですわね、、、母が戦前、肺を患っていまして、父はこの場所で療養を考えて建てたようですわ、ここなら長井の集落からも離れていますし」
北村は、猪上閣下にそのような事情があった事を知らず、随分無神経な事を聞いてしまったと、質問を悔いた。
そして北村は、この偶然が、Y号作戦に大きな影響を与えたことに感慨深いものを感じていた。
なぜなら、最後の海軍大将のご自宅の真横が、Y号作戦の要、横須賀海軍航空隊第2、第3飛行場であり、更に同一敷地内には、館山海軍航空隊長井分遣隊として、あの米軍による本土空襲、B-29爆撃機の迎撃専門に作られた、海軍の極秘施設「邀撃基地」があるのだから。
当然晴子がそのような事実を知る由もなく、猪上閣下は、その重大な秘密を一人胸に閉まって語ることは無かった。
ここではまだ、戦争は終わっていない、相手が米軍から旧日本陸軍へと変化しただけに過ぎない。
陸軍は、再びこの日本を戦乱に巻き込む可能性が高い。
彼らにそのつもりが無くても、結局はそうなってしまう。
この日本に、本当の平和が訪れるよう、北村は願って止まなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
『おっさんが二度も転移に巻き込まれた件』〜若返ったおっさんは異世界で無双する〜
たみぞう
ファンタジー
50歳のおっさんが事故でパラレルワールドに飛ばされて死ぬ……はずだったが十代の若い体を与えられ、彼が青春を生きた昭和の時代に戻ってくると……なんの因果か同級生と共にまたもや異世界転移に巻き込まれる。現代を生きたおっさんが、過去に生きる少女と誰がなんのために二人を呼んだのか?、そして戻ることはできるのか?
途中で出会う獣人さんやエルフさんを仲間にしながらテンプレ? 何それ美味しいの? そんなおっさん坊やが冒険の旅に出る……予定?
※※※小説家になろう様にも同じ内容で投稿しております。※※※
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる