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横須賀鎮守府の栄光
第289話 横須賀の灯
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「あなた、お帰りなさい」
北村家の家長である北村幸三が、帰宅した。
この家では、幸三とその妻である北村小枝子が慎ましやかに暮らしていた。
「まったく、進駐軍の奴らは、この横須賀で我が者顔で闊歩しているな、異常はなかったかい」
この時代の横須賀は、米軍が真っ先に戦後処理に着手した場所でもあった。
連合艦隊は壊滅状態ではあったものの、まだ辛うじて稼働している軍艦や特攻兵器が残されており、進駐軍は一刻も速い武装解除を目指していた。
特にこの横須賀は、万が一不穏な行動が発生した場合、問題は大きく成りやすい場所でもあったのだ。
北村幸三《きたむらこうぞう》は元海軍の軍人であり、終戦時は少佐であった。
元々戦闘機乗りであった北村は、海軍大尉時代に本土防空戦によって受けた傷を理由に一旦は飛行機を降り、追浜の横須賀海軍航空隊から、この横須賀鎮守府へ配置換えになった頃、終戦を迎えた。
生粋の飛行機乗りであり、海軍がまだゼロ戦を装備するより前から、艦載機のテストパイロットなどを手掛け、海軍航空隊内では一目置かれる人物である。
そんな北村は、終戦と同時に、多くの戦後処理を任された人間の一人でもあった。
この横須賀には、終戦時、極秘に開発されていた特攻兵器が数多く配備されていた。
これら特攻兵器は、基本的に全て国際法違反の非人道兵器である。
そのため、北村少佐を始め、多くの海軍将校は、これら存在を極秘裏にするため、終戦の翌日から進駐軍が上陸する僅かな期間の内に、多くの特攻兵器を海洋投棄する必要に迫られていたのだった。
数週間後、進駐軍の第1陣として、米陸軍の第1騎兵師団を皮切りに、多くの進駐軍がこの横須賀へ進出してくると、これら戦後処理の引継ぎや、未だ多く残っていた海軍関連装備の投棄に向けた調整役として、北村少佐は米軍に重宝されていたのである。
それは、彼の語学力が英語に対して流暢であったことも理由となった。
こうして、横須賀の街は、あれほど秩序に満ちた日本帝国海軍の街から、いまやモラルの低い米兵の街へと豹変していった。
当の横須賀市民は、その自由奔放にして不真面目な勤務態度の進駐軍を見て、何故このような秩序の乱れた軍隊に、日本海軍は負けたのだろうか、と本心から不思議でならなかった。
当然、進駐軍に対する市民感情は良いものとは言えず、当の旧軍人も腹に据えかねる者があった。
そんな時であった。
まだ女学生ほどの年齢、うら若き乙女が、北村の目の前でアメリカ海軍の水平から乱暴を受けているのが目に入ったのである。
仕事柄、身分を明かす訳には行かない北村は、とっさに陸軍の復員軍人の振りをして、彼ら水兵に襲いかかる。
日本人の割には体格の良い北村は、柔術、剣術、体術に秀でた軍人でもあり、酒に酔った水兵が敵うはずもなく、北村は水兵から女性を奪還することに成功はしたものの、乱闘を聞きつけた地元警察の姿が見えたため、彼女を抱えて慌てて逃げて来た、というのがここに至る話である。
しかし、北村にとっても誤算だったのは、自分が抱えて来た女性が、自分の事を上手く認識出来ていない、ということであった。
まさか進駐軍相手に業務している北村が、よもや水兵相手に喧嘩をしたとバレては困ると、彼は意識の無い女性を自宅に匿うと、妻の小枝子に付き添いを依頼し、一路警察へと向かった。
横須賀警察署には、元海軍時代に自分の部下であった南条が、今は警察官として勤務していたことを思い出し、根回しを使用と考えていたのである。
こうして、乱闘騒動を何とか収束させ、帰宅した北村は、妻からあの連れて来た女性の記憶がはっきりと回復せず、身元が解らない状況であることを知るのである。
「こんばんは、、、覚えていますか?」
「ええ、、、先ほどは、危ない所を助けて頂き、本当に何とお礼を申し上げたら良いのやら」
北村は、この女性が記憶の混濁の割には、しっかりとした活舌であることに安心した。
しかし、見たところ、着ている服装は普通であるが、どうして荷物一つ持たずに闇市なんていたのだろうと、その時少し違和感を感じていた。
北村家の家長である北村幸三が、帰宅した。
この家では、幸三とその妻である北村小枝子が慎ましやかに暮らしていた。
「まったく、進駐軍の奴らは、この横須賀で我が者顔で闊歩しているな、異常はなかったかい」
この時代の横須賀は、米軍が真っ先に戦後処理に着手した場所でもあった。
連合艦隊は壊滅状態ではあったものの、まだ辛うじて稼働している軍艦や特攻兵器が残されており、進駐軍は一刻も速い武装解除を目指していた。
特にこの横須賀は、万が一不穏な行動が発生した場合、問題は大きく成りやすい場所でもあったのだ。
北村幸三《きたむらこうぞう》は元海軍の軍人であり、終戦時は少佐であった。
元々戦闘機乗りであった北村は、海軍大尉時代に本土防空戦によって受けた傷を理由に一旦は飛行機を降り、追浜の横須賀海軍航空隊から、この横須賀鎮守府へ配置換えになった頃、終戦を迎えた。
生粋の飛行機乗りであり、海軍がまだゼロ戦を装備するより前から、艦載機のテストパイロットなどを手掛け、海軍航空隊内では一目置かれる人物である。
そんな北村は、終戦と同時に、多くの戦後処理を任された人間の一人でもあった。
この横須賀には、終戦時、極秘に開発されていた特攻兵器が数多く配備されていた。
これら特攻兵器は、基本的に全て国際法違反の非人道兵器である。
そのため、北村少佐を始め、多くの海軍将校は、これら存在を極秘裏にするため、終戦の翌日から進駐軍が上陸する僅かな期間の内に、多くの特攻兵器を海洋投棄する必要に迫られていたのだった。
数週間後、進駐軍の第1陣として、米陸軍の第1騎兵師団を皮切りに、多くの進駐軍がこの横須賀へ進出してくると、これら戦後処理の引継ぎや、未だ多く残っていた海軍関連装備の投棄に向けた調整役として、北村少佐は米軍に重宝されていたのである。
それは、彼の語学力が英語に対して流暢であったことも理由となった。
こうして、横須賀の街は、あれほど秩序に満ちた日本帝国海軍の街から、いまやモラルの低い米兵の街へと豹変していった。
当の横須賀市民は、その自由奔放にして不真面目な勤務態度の進駐軍を見て、何故このような秩序の乱れた軍隊に、日本海軍は負けたのだろうか、と本心から不思議でならなかった。
当然、進駐軍に対する市民感情は良いものとは言えず、当の旧軍人も腹に据えかねる者があった。
そんな時であった。
まだ女学生ほどの年齢、うら若き乙女が、北村の目の前でアメリカ海軍の水平から乱暴を受けているのが目に入ったのである。
仕事柄、身分を明かす訳には行かない北村は、とっさに陸軍の復員軍人の振りをして、彼ら水兵に襲いかかる。
日本人の割には体格の良い北村は、柔術、剣術、体術に秀でた軍人でもあり、酒に酔った水兵が敵うはずもなく、北村は水兵から女性を奪還することに成功はしたものの、乱闘を聞きつけた地元警察の姿が見えたため、彼女を抱えて慌てて逃げて来た、というのがここに至る話である。
しかし、北村にとっても誤算だったのは、自分が抱えて来た女性が、自分の事を上手く認識出来ていない、ということであった。
まさか進駐軍相手に業務している北村が、よもや水兵相手に喧嘩をしたとバレては困ると、彼は意識の無い女性を自宅に匿うと、妻の小枝子に付き添いを依頼し、一路警察へと向かった。
横須賀警察署には、元海軍時代に自分の部下であった南条が、今は警察官として勤務していたことを思い出し、根回しを使用と考えていたのである。
こうして、乱闘騒動を何とか収束させ、帰宅した北村は、妻からあの連れて来た女性の記憶がはっきりと回復せず、身元が解らない状況であることを知るのである。
「こんばんは、、、覚えていますか?」
「ええ、、、先ほどは、危ない所を助けて頂き、本当に何とお礼を申し上げたら良いのやら」
北村は、この女性が記憶の混濁の割には、しっかりとした活舌であることに安心した。
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