自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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ウガヤ・クラントの解放

第276話 3時間

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「ウクルキ隊長、援軍は未だでありますか?」

 敵の猛攻撃に、伝令の兵士がウクルキに直接聞いてしまった。
 戦闘が開始されてから、間もなく3時間が経過する。
 ブラックナイト・ユニットは、その盤踞の体制が効果を発揮し、3時間で全滅の憂いすらあった戦況にあって、未だ健在を誇っていた。

 しかし、この態勢は、補給も補充もない状況であり、もはや射るべき矢も無く、兵士は疲弊しきっていた。
 一瞬でも気を抜けば、敵は雪崩の如く攻め入って来る。
 元々、築城もされていない林の中で、応急的な防御態勢を取っているだけの250騎が、これ以上の時間を守り抜くことは奇跡以外の何物でもない。

「ウクルキ隊長、、、、」

 ヤップ曹長が、真剣な眼差しをウクルキに向ける。
 、、、言いたいことは、痛いほどに理解出来た。
 

 最後の突撃。


 ヤップだけではない、生き残った全将兵がそれを望むところだろう。
 このまま盤踞の態勢を維持し続ければ、生存率は高くはなる。
 しかし、この状態は、体をヤスリで削られているのと同じであり、やがては朽ちてしまう。

 そうなる前に、最後の力を振り絞り、ブラックナイト・ユニットとして、その名誉ある死を得たいと、誰もが考えていたのだ。

 ウクルキも考えた、考えて、考えて、、、、そして、一つの結論に帰結した。


「、、、解った、諸君らの想いは、良く理解した、、、、それで良い。これまでよく、私についてきてくれたな、本当に感謝する」

 そう言い終わると、ウクルキは一人馬に乗り、剣を抜いた。
 この錯雑した戦場で槍でもなく、弓でもなく、剣を抜くという事が、何を示しているのかは、それを見た全員が悟った。

「全員騎乗!、隊長に続け!」

 ドロエ大尉が、激を飛ばす。
 あの、疲労困憊の兵士達が、血気盛んに騎乗してゆく。

 馬上からそれを見ていたウクルキは、なんと良い兵に恵まれたことか、と、軍人としての誉を感じていた。

「いいか、みんな!、これから最後の突撃を敢行する!、我々はブラックナイトだ、末端の兵士に至るまで、ブラックナイトを名乗り、名誉ある突撃をしてほしい。只今からこのブラックナイト・ユニットは、ブラックナイツに改める、行くぞ!」

 その言葉は、全員にしっかりと届いていた。

 
 ブラックナイツ


 それは、平民出身の兵士も多い中にあって、本物のブラックナイトの称号があるのは、他ならぬウクルキ隊長だけであり、それについて来た騎兵陣は、全てこのウクルキに従える兵士、という所から、これまでブラックナイツを名乗って来なかった。
 しかし、ここでブラックナイト本人から、この場に居る全員が、騎士の称号を得たことになる。
 それは、国王でも皇帝でもないウクルキが、ただ言っているだけなのかもしれない。
 しかし、もはや風前の灯となった彼らにとって、このウクルキの申し出は何よりの名誉であった。

 自分たちも「ブラックナイト」になることが出来た、ブラックナイトとして、戦場に散ることが出来る。

 もう、それだけで十分であった。
 そして、それ以上、何も望むものなど無いのである。

「隊長!、北の方角より、もの凄い数の軍勢がこちらに迫っています!」

「何?、新たな軍勢?、、、部隊ではないのか?」

「はい、部隊というレベルではありません、新たな軍と言えるほどの数です、数が多すぎて、まるで国境自体が動いているように見えます!、、、数千、いや、数万からの軍勢です、なんて美しい隊列、、、彼らには疲労が見えません、多分、まったくの増援のように見えます!」

 それを聞いたウクルキは、大笑いしながら将兵に激を飛ばした。

「みんな聞け!新たな軍勢がこちらに迫っているそうだ!、これは俺たちの戦いにふさわしい、強力な敵ではないか、この強大な敵とやり合って死ねるなら、軍人としてこれほど本望なことはない!」

 それを聞いたブラックナイツは、地響きのように唸り声を挙げて、最後の突撃を祝福するのである。
 
 誰の顔にも生気が漲り、騎士の誇りを胸に、彼らの突撃を阻むものは、もはや何も無かった。



 そして、北から迫る軍勢は、一斉に発砲し、国境はその猛烈な射撃音に支配されたのである。
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