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ウガヤ・クラントの解放

第270話 二正面作戦

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「どうされますか?、ウクルキ隊長」

 その時、既に敵と呼べる軍勢に囲まれて、1時間が経過していた。
 ドロエ大尉は、この絶望的な状況に、眼前の敵、後門の裏切りによる二正面作戦を余儀なくされていた。
 
 ウクルキ達ブラックナイト・ユニットは、俺と別れてからすぐに、元東部軍隷下の2個連隊が、本来であれば攻撃準備位置として確保していなければならない地点を偵察に来ていた。
 もちろん、この2個連隊が裏切り行為をしていないかを確認するためであったが、ウクルキ達ブラックナイト・ユニットのメンバーには、この裏切りに対する情報が嘘であってほしいとギリギリまで願う気持ちがあった。

 しかし、その願いも空しく、後方の2個連隊は予定の位置に攻撃準備態勢をとってはいないかった。

 それどころか、ブラックナイト・ユニットを背後から討つべく、連隊の両翼はブラックナイト・ユニットを包囲するように、既に展開を完了させていたのである。

「おのれ、なんと卑怯な行為を。騎士道精神というものを、彼らは持ち合わせていないのか?」

 ドロエ大尉が憤慨しながらつぶやくが、それは何の解決にも繋がらない言葉に過ぎない。
 なぜなら、そんな騎士道精神との崇高な精神を持ち合わせていれば、彼らはオルコアの虐殺にも参加せず、こうして背後からの攻撃に、賛成などしない。
 今戦っている、オルコ共和国軍とは、リベラルという皮を被った殺戮者でしかない。
 
 、、、、何が国民による政治か?、とウクルキは苦笑いした。
 
 そして、自分がユウスケ殿の言うことを、もっと真摯に受け止めなかったのだろうと、些か後悔の念に駆られていた。
 目の前にあるフキアエズの王都「ウガヤ・クラント」。
 ここは、最後を覚悟して、フキアエズ国王の庇護の元に、メルガと短い新婚生活を過ごした思い出の都であり、恩のある都市でもあった。
 それ故、自分たちがウガヤ・クラントの解放者として、一番最初に王都の民を開放してあげたいという淡い希望もあったが、この状況に鑑みれば、それは既に叶わぬ夢と果てた。

 時間軸で考えれば、早い部隊は既にオルコ共和国軍の前衛を押し出し、主力部隊と戦火を交えている頃だろう。

「ウクルキ隊長、軍使がこちらに向かってきます」

 ドロエ大尉が、後方からこちらに向かってくる軍使に気付いた。
 味方を裏切って、包囲までしておきながら、軍使などをよこすとは、随分舐められたものだと、既に怒りを通り越していた。

「ブラックナイト・ユニットの諸君、我々はオルコ共和国軍第2師団所属の連隊だ。貴君らは包囲され、前方からは我が軍がこちらに撃滅せんと進行中だ。一度は同じ側に居たよしみだ、降伏を勧告する」

 これには流石のウクルキも、腸《はらわた》が煮え返りそうな勢いであった。 
 、、、なにが一度は同じ側だ、一方的な裏切りだろうが。
 それも、裏切る事を最初から予定に入れた、薄汚い反逆者が。

 
「、、、、わかった、その降伏勧告に従おう」


 ブラックナイト・ユニットのメンバーは、その一言に、驚きを隠せないでいた。

「隊長!、さすがにそれは、騎士道精神に反します、たとえ全滅しても、彼らを迎え撃つべきです!」

 ドロエだけではなかった、その他の将兵も皆、心は一つである。
 しかし、そんな声を無視するように、ウクルキの口元には、少し笑みがあった。

「軍使殿、それでは、降伏の証として、私の身柄をそちらに預ける、こちらまで進んで欲しい」

 それは意外な反応だと、軍使は感じていた。
 あの、勇猛果敢にして、今や伝説の浪人部隊のリーダー、ウクルキ隊長が、まさかこのような屈辱的な降伏勧告に応じるとは。
 それでも、軍使の頭には、この前方にいるオルコ共和国軍の巨大な軍勢を前に、さすがのウクルキ隊長も恐れを成したものと理解した。

「了解した、それでは、ウクルキ隊長、貴官の腕を後方で縛り、武装を解除してこちらに来い、見えるようにだ」

 ウクルキは、部下に命じ、自分の腕を後ろ手に縛らせると、剣を外して前に出た。
 それは、軍使の側からでも、良く見えるように。

 ウクルキは、軍使の方向へ向け、ゆっくりと歩き始めた。
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