自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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巨人族の戦士

第241話 薄い陣地

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 こうして俺たちは、約50丁の小銃を手に入れる事ができた。

 しかし、これから来る本隊は、あまり小銃を装備していないだろう。
 装備しているのは、更に後方の部隊となるはずだ。

 俺は、B中隊を更に後方へと隠密潜入させ、その間、増援の主力と対峙した。
 敵は散発的に発砲を繰り返すが、どうもこちらに攻めてくる様子がない。

 、、、なるほど、ようやくこの陣地の企図が解ったぞ。

 敵はここで、マキュウェル軍を出来るだけ食い止めて、損耗を与えるだけの部隊だ。

 、、、これまでに射撃をしてきた部隊は、どこも前線が薄っぺらで、縦深(陣地の厚さ)が浅い。
 本当に陣地を守ろうとしたら、これほど薄い配置にはしない。
 つまり、敵の目的は、この世界には無い「銃」による一方的な大量殺戮自体が目的だと言うことだ。

 そして、俺たちが考えているほど、彼らは銃を装備していない。
 数万人が犠牲になっているこの状況からすれば、誰でも数万丁の銃が敵の手には在ると思えてしまう。

 俺は、オルが戦死した時に最初のを感じていた。
 
 それは、オル達巨人族を最初に襲撃したのが機関銃1丁のみであったのに対して、オルコア義勇軍を殲滅した時の銃は、多くの小銃と、僅かな機関銃だけだった。
 つまり、双方に銃が無いこの世界では、数十丁程度の銃でも、一方的な虐殺が行えるという事だ。

 現世だって、銃を持たない市民に軍隊が発砲すれば、同じように一方的な虐殺となるように、だ。

 、、、つまり、マキュウェル軍を迎え撃ったこの部隊は、俺たちが考えていたような強大な部隊ではない、恐らく大隊編成がいいところだろう。

 そうなると、彼らが装備している小銃の数は、概ね100丁といった所だ。
 なぜなら、この戦いにおいて、未だ機関銃の連射音を一度も聞いていないのだから。

 そうすると、今現在俺たちの手中にある小銃50丁という数字は、敵の装備する小銃の半数に匹敵する。
 それ故に、敵は戦力が拮抗したこの状況から、動く事ができずにいる。

 彼らはここを単独で任された部隊だ。

 この形勢不利な状況にあっても、ここを撤退しないのがその理由だ。


 ならばすべき事は、ただ一つ。


「A中隊、本領発揮だ、B中隊の射撃支援が始まったら、全力で突撃だ!」

「ゲール曹長、射撃用意」

「了解!」

 重装甲A中隊が動く気配を出しているのに、後方の射撃支援部隊が撃ってこない、これは、、、いける!

「B中隊   撃て!」

 捕獲した小銃で、B中隊は一斉に射撃を開始した。
 増援に駆けつけた騎兵部隊が、次々と射撃によって崩壊して行く。

 それを見たA中隊長が、これまでの恨みを晴らそうとばかりに、最大速度で敵に肉薄して行く。

 その突然の行動に、パニックに陥ったのは、敵の騎兵であった。
 この時点で、敵の後方部隊が一切の支援射撃をしてこないということは、、、

 勝ったな。

 俺は、勝利を確信した。
 この薄い配備が、このようなディープな作戦には仇になる。
 
 勝敗は、A中隊との混戦に移行してからは拮抗した。
 なにしろ、小銃の持つ利点が、敵味方の混戦状態によって射撃ができなくなったからだ。

   まあ、味方にも当たっちゃうからな。

 それでも、正面切って戦う事にのみ名誉ととらえるA中隊の勢いは凄まじく、既に瓦解し始めた敵の騎兵が敗走へ移行するまでに、そう多くの時間を必要とはしなかった。
 
 そんな激戦の後ろで、銃声が鳴っているのを俺は気付いていたが、それも勝利の合図なんだろう。

「勝ちましたな」

 ゲール曹長が、俺に機嫌良く話してきた。

 後方に進出していたB中隊のメンバーが、まるで鬼の首を取ったように、小銃を高々と掲げながら帰ってくるのが見えた。
 
 後方の部隊も、隠密に駆逐することが出来たようだな。
 さっきの銃声は、敗走する敵兵へ向けたものだろう。

 これで、何丁の銃が入手できたかが、問題だな。
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