自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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巨人族の戦士

第237話 地面を這う

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【本文(81行)】
「ユウスケ殿、、何か妙案を持って来てくれたのか?」

 ロームボルド少将が、目を輝かせながら俺に尋ねてきた。
 、、、まったく、さっきは変な気を回して、俺とマキュウェルを二人きりにしやがって!。
 
「今 集まってもらったのは、決して妙案などと言うレベルの話ではないんです。今からエレーナ軍がこれから取る作戦についてお話しします」

 その場に居る誰もが、藁をも掴む思いで俺の言葉に耳を傾けた。
 しかし、それは次第に神妙な面持ちとなって行き、最後には全員が軍人らしい表情となっていた。



 それは、エレーナの覚悟を聞いたからに他ならない。



 エレーナ軍は、緒戦において、2万6千もの損害を被り、さすがのベナル司令官もその立場を危うくしそうになっていた。
 そこへエレーナが言い放った。

「他国の司令官には言いたい放題で、私には何も言って来ないのは軍人として如何《いかが》なものか!、ベナル司令官はこれまでも今現在も非常によくやってくれています、むしろ最大の功労者と言えるでしょう。そんなベナル司令官に対して、文句を言うだけなら、そんな楽な仕事は無いわね」

 作戦会議に参加していた幕僚陣も指揮官陣も、その一言で黙ってしまった。
 しかし、エレーナのエレーナたる部分は、その次の言葉にこそあった。

「2万6千の尊い人命を失ったことは痛恨の極みです、しかし、それを悔いるのは今では無いわ。どんなに強靭な敵でも、波の如く、怯《ひる》むことなく突き進んで行けば、いつかは全滅します、、、、あなた方に、その覚悟はあるかしら?」


 、、、なんて奴だ。

 
 自軍で2万6千の将兵を失ったその日の夜に、どんな損耗を出そうと、必ず敵を全滅させるなんてことを言える13歳の少女がいるのかと、俺は自分の耳を疑った。

 そして、エレーナは、ここでも恐らく最適解を出していた、、、それは俺でも出せない、生まれながらのリーダー的思考によるものだ。
 なぜなら、どんなに善戦したとしても、戦う以上、勝たなくては何ら意味の無いことなのだから。

 俺もそれは良く理解しているつもりだったが、何十万の将兵を失ってでも、という言葉を発せるのは、恐らくこの世界ではエレーナだけなんだろうと感じた。



「エレーナは本気だ、一瞬でも怯めば、それまでに失った生命に対して取返しがつかないことを理解している」

 マキュウェルも、ロームボルド少将も、軍師長も、黙って考えていた。
 それは、幼い少女であるエレーナの考えかたが、本物であることを容易に理解出来たからだ。

 老体を晒し、束になっても彼女の本気には勝てない、幕舎の中には、そんな空気が流れていた。
 そして、あらためてロームボルド少将は、自隊をマキュウェル軍の先鋒師団に任命してほしいと、真剣な眼差しを向けた。

 そして、マキュウェルも、自身が抱いていたフィアンセとの未来を一旦捨てて、この戦いに全てを賭ける覚悟を決めた。

「ユウスケ、あなたが持ち帰った情報はそれだけではないな?、全て話してもらえるかしら」

 マキュウェルは、それを聞く覚悟が出来たようだった。
 彼女だって、エレーナよりは少し年上だが、まだ17歳、現世なら高校2年の女子高生くらいだ。
 そんな彼女が、今は軍指揮官の顔になるんだから、環境とは恐ろしいと思うよ。

「では、あらためてエレーナ軍から三国同盟軍に対する作戦計画を伝達する。エレーナ軍は、明朝よりフキアエズ国境を再度越境し戦闘展開を開始する。この際、敵の機関銃に有効な戦術を用いて肉迫し、主要火器の制圧を準備する。各騎兵は、これら火器の制圧が完了したならば、機を逃さず敵を急襲し、後退の暇《いとま》を与えないものとする。この際、自軍の後退行動は、その一切を認めないものとし、後退が視認出来たならばそれを反乱行為とみなし、全軍挙げてこれを討つものなり」

 王女幕舎の中は、誰も動こうとしなかった。
 それは、エレーナの覚悟を聞いた時点で、予想されたことだった。
 恐らく、自軍の敗走する兵士を討つくらいの事は、平気でするだろう、と。

「一つ質問じゃが、エレーナ皇女殿下が言っていた、敵の機関銃に有効な戦術、とは、具体的に何を指すのだ?」

「そうですね、機関銃の弾丸は真っすぐに飛びます、ですので、騎兵を後方に下げ、歩兵により出来るだけ身を低くしてゆっくり敵陣に侵入し、機関銃や銃を破壊します。そこでようやく騎兵が近迫するという先方です」

「身を低くと言ったが、このくらいか?」

 ロームボルド少将は、実際に腰を曲げて身を低くしてみた。

「いえ、そんなものではなく、もっとです」

 更に身を低くして、しゃがむような恰好を取る。

「いえ、もっとです」

「おい、ユウスケ殿、それでは地面を這うようになってしまうではないか!」

「、、、ええ、ですから、そう申しています」

 真っ当な軍人として育ってきたロームボルド少将は、その戦い方に驚きを隠せないでいた。
 そして、それはやがて怒りに変化してゆく。
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