自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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フキアエズ大会戦

第221話 心の炎症

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「エド、帝都オルコアには、飢えた住民で満ち溢れているわ。南部からの物資輸送計画を立ててくれないかしら」

 共和国軍は、この街の食糧備蓄のほとんどを兵糧として持ち去っていた。
 
 憔悴しきったエレーナが、街の惨状を見て、とにかく今は生きている人間を助けることに思考をシフトし始めた。
 それは、13歳の少女にしては優れたリーダーシップと言えたが、皇帝としての指揮能力と、13歳の少女の感情が、エレーナの中で勢いよく鬩ぎ合っていたのだ。
 

「エド、、、ちょっと待って、こっちへ来て!」

 エレーナは、たった今エドに命じた自身の発言を退けるようにエド・キニーレイ大尉を引き戻すと、突然抱きつき、大泣きし始めた。

「、、、お願い、今だけでいいの、強く抱きしめて!。私は無力よ、皇帝を名乗ったって、お父様ももう居ない、住民も多くが虐殺されたし、巨人族も公開処刑された。美しかった帝都は、今や凄惨な死体置き場と化したわ。エド、私怖い、怖いのよ、、、、少しだけ、少しだけ、、、このままでいいかしら。少しで落ち着くと思うから、、、、」

 そして、再び幼子のように泣きじゃくるエレーナを前に、何もしてやれない自分を歯がゆく思うエドであった。

 エドは、震えるエレーナの体温が、少し高いことに気付いた。
 彼女は感情の昂りと興奮から、高熱を出していたのだ。


 心も傷付けば、炎症が起こる。


 エドは数分ほどエレーナを抱きしめた後、メルガとリラルに声をかけて、エレーナの傍に居て欲しいとお願いした。
 もちろん二人は快諾したが、メルガはエレーナの様子を見て、とても心を痛めていた。

 自分にとっても、思い出深い帝都オルコア。
 まさか、このような状態になっているとは考えもせず、これではマグネラの方が何倍もマシに思えた。
 そう、共和国軍は、マグネラで出来なかった住民虐殺を、代わりにオルコアで実行したのだ。


 そして、エドは、今自分がすべき事を、十分に理解出来た。

 エレーナの発熱が収まった時、オルコアの街が少しでも平静を取り戻せることが出来るのは、自分だと気付いていた。

 エドは、自分の兵站(補給)管理能力の高さに気付いていた、それも飛びぬけて計算と管理能力が高いのだ。
 彼はその足で、ベナル司令官の所へ赴き、39万のエレーナ皇女軍の兵站と平行して、住民の救助活動に必要な補給見積もりを提言するとともに、輸送部隊の編成、傷病者の近隣市街地への後送など、いくつかの項目を整理して瞬時にまとめ上げた。

 それは、まだ幼さの残るエレーナをここまで悲しめた共和国軍への怒りと相まって、彼の頭脳は高速回転を極めていたのである。

 そして、並行的に行われたのは、オルコア広場に晒された状態の巨人族の亡骸を、丁重に葬ることだった。
 
 それは今更のことかもしれないが、帝国軍として、これが巨人族にしてあげることの最大限であった。
 この時、オルコアの市民は、積極的に埋葬に参加した、それは恐怖に震え、共和国軍の悪行に抵抗出来なかったことへの懺悔でもあった。
 そして、生き残った市民の多くは、これらに対抗すべく、エレーナ皇女軍への志願を表明するのである。

 もちろん、直ぐに兵士として使える訳ではないが、兵力比が拮抗している現状を考えると、それは有り難い申し出だった。
 
 市民の志願者は、直ぐに2万人を超え、志願者の増加の度に、エドは兵站を回転させ、彼ら志願兵を次々と戦力化してゆくのである。
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