自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

マグネラ攻防戦

第212話 マグネラ解放宣言と

「ベナル司令官、ベナル司令官は何処へ？」

　エレーナは飛び起きるなり、ベナルを探し出した。
　驚いたのはリラルだった。
　今までぐっすりと寝ていたエレーナが、飛び起きたかと思いきや、自分の夫を探し出すのだから。

「エレーナ殿下、ベナルです、入ります」

　一礼してベナルが病室に入ってきた、、、、、情報統制はいいのか？、エレーナ。

「昨晩の、市民を広場に集めるお話しは、進んでるの？」

「、、、、はい！、市民は、エレーナ様を待ちわびております！」

　エレーナは、小さく「そう」とだけ答えると、リラルに人払いを依頼し、二人で別室に行ってしまった。
　残された俺やベナルは、その進展の速さに驚きつつ、ようやく少し笑顔になる事が出来たのだ。




　あの激戦が、嘘のようにバリケードも撤去され、市民は中央広場から東広場まで埋め尽くし、今や遅しとエレーナの登壇を待ちわびていた。
　それは、マグネラの市民がどれほど待ち焦がれた瞬間だったろうか。
　しかし、暗殺騒動によって命の危険に晒された親友を想って憔悴しきっていると噂されている皇女エレーナのことを、市民は同時に心配でもあった。
　そんな状況を、痛快に吹き飛ばすが如く、皇女殿下の登壇を知らせるラッパの音が、高々と響き渡ると、広場の群衆はそれまでの不安を吹き飛ばすように、大歓声に包まれた。

　その後、静粛にするよう指示が出されたが、群衆の目の前に皇帝の正装で現れたエレーナ皇女殿下を確認するや、再び大歓声が巻き起こった。
　それは地響きのように感じられた。
　
　やはり、エレーナは、何か特別な力を持っている、それは群衆の好意を一身に受けることを、まるで運命付けられたようにすら感じられた。


　カリスマ


　悔しいが、人には生まれ持った身の丈と言うものがあるのだろう。
　、、、初めて会ったときは、生意気な少女にしか見えなかったが。

　エレーナは、笑うでもなく、手を振るでもなく、市民の声が静まるまで静かに待った。
　マグネラ市民は、それを敏感に感じ取り、これからエレーナが何を話すのか、真剣に耳を澄ました。

　マグネラ市民のほとんどが集まったであろうこの広場は、おおよそその大群衆のそれとは間反対に、静寂に包まれた。

　
「マグネラの市民よ、これまでよく耐え忍び、勇敢に戦ってくれました。私は皇帝として、マグネラ市民の勇気と正義を称えます」

　広場は再び大歓声に包まれた。
　それはマグネラ市民が待ちに待った、そして恋焦がれた一言であった。
　そして、エレーナは続けた、一番大事な一言を、言わなければならない。

「本日ここに、マグネラの解放と、皇国の復活を宣言します」

　すると、この日一番の歓声と、何かを手当たり次第投げてはその喜びを表現する市民で広場は騒然とした。
　ある者はエレーナの名を叫び、ある者は抱き合い、キスをし、そして涙した。

　こうしてマグネラは解放を宣言され、皇国復活に向けた本格的な反旗を共和国軍に対し翻したのである。


　そして、エレーナはこの解放宣言を他ならぬ大親友に捧げた。
　エレーナの目には、何故か涙がこぼれていた、それは歓喜に包まれた群衆には気付かれることは無かったが、随伴していたエドには、それがよく解っていた。

　そしてもう一人、静かに涙を流す者がいたのである。