自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

マグネラ攻防戦

第209話 このまま目を閉じて

　ウクルキが言うには、先ほどのメルガの部屋で、ウクルキは必至に問い続けたが、やはり反応がなく、万策尽きた状態で彼は氷漬けのメルガの横に座ると、メルガに話しかけながらウトウトと眠ってしまったのだそうだ。

　すると、どうだろう。

　夢の世界か現実なのか、それは妙に鮮明な状態で、目を閉じる前に良く似た、真っ白い部屋の中であった。
　
　ウクルキは、そこが夢の世界であることに気づかす、再び氷漬けの愛妻に目をやると、そこには氷の無い状態のメルガがいるではないか。

　彼は、恐る恐るメルガに問いかけた、 自分の言葉が解るか？、と。 
　すると、 メルガは依然動かないものの、彼の頭の中には、確実にメルガの意識が流れ込んできた。

　メルガは、自分の記憶を何度もループさせながら、自分が幸福だった時のことを、それはもう何度も何度も繰り返し辿っていた。

　それは、死にゆく自分の記憶を整理するように、、、


　走馬燈


　メルガは、自分の死を理解しようと、これまでの思い出を辿っているようだった。

　ウクルキの意識に、一番入ってくる彼女の想いは、ウクルキと出会ってから、今日までの短い期間のものが、彼女にとって一番幸福な時間であった。


　それら淡い心の内側まで、全て入って来るのだ。


　ウクルキは、彼女がいかにウクルキを愛していたか、どれほどの「好き」を抱えて処刑を待っていたのか、ウクルキが救出に来てくれた時、もう死んでもいいとさえ思えるほどに嬉しかったか、、そして、そんな想いを抱えたまま、メルガは自分のすべき事を、エレーナの身代わりとして何時でも身を投げ出す準備をしていたこと、、、そんな１５歳の彼女の想いが、入って来るのだ。

　ウクルキは、座ったまま、少し笑顔になりつつも、静かに涙を流しながら、自分の記憶も辿った。

　そんな時だった。



　二人の想いは、どこかで巡り会ったような錯覚を覚えた。



「メルガ、、、なのか？、メルガ、そこに居るのか？」

　ウクルキは、記憶ではない、現在進行形のメルガを、その小さな気配を必死で追いかけた。

　そして、気付くのである、ここが、夢の世界であることを。

　しかし、通常の夢ではない、繋がっていたのだ、メルガの深層心理と。

　だが、どれだけウクルキが想いを送っても、どうしても越えられない、何か壁のようなものを感じていた。

　そして、ウクルキは気付くのだ

　メルガの心にある巨大な壁、それは、エレーナに対する想いそのものであることを。

　メルガの深層心理と直結すべきは、ウクルキとエレーナの二人が必要となると、ウクルキ自身も確信した。


　、、、そして、目覚めたのだ、シズの部屋の中で寝てしまった自分という３階層を飛び出して、現実の世界へ。

　
「エレーナ様！、お手を、失礼します」

　ウクルキはそう言うと、突然エレーナの手を握った。

「ちょ、、ちょっと、なんですの、ウクルキさん」

　驚いたのは周囲の者だった。
　一番まじめそうな人物が、突然少女の手を握る、誰も予想していなかったことだ。
　
「エレーナ様、このまま目を閉じて、そしてお眠りください」

「そんなこと出来るわけないでしょ！、それに、そんなに眠くはありません！」

　ウクルキも、ようやく自分が何をしているかに気付いたようだった。

「、、、、エレーナ様、大変失礼をいたしました、、、しかし、妻はエレーナ様を、どうやら待っているようなのです」

　エレーナは怪訝そうな顔をしながら、ウクルキに問いただした

「一体、何を根拠にそんな事を言うの？、まだだれもメルガと話しなんて出来ていない、、、、あなた、もしかして、、、」

　勘の良いエレーナは、ここでメルガとウクルキの間に起こっている事に、気付いたようだった。