自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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マグネラ攻防戦

第202話 悲しみも怒りも

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「メルガ!、ああ、メルガ、メルガ」

 ウクルキは、それまで見た事のないような動揺を見せていた。
 エレーナも、目の前で広がる親友の血だまりに、もはや言葉を失い力なくその場に跪《ひざまず》いて唖然としていた。

 市民の雑踏を掻き分けて、俺がようやくメルガの元に到着した時、メルガは生気を失い、真っ青な顔になっていた。
 
「ウクルキ、しっかりしろ、エレーナ、君もだ、メルガを救うんじゃないのか、この旅は、メルガ救出の旅なんじゃなかったのか?」

 俺がそう言うと、エレーナも多少の正気を取り戻し、周囲にいた衛生要員を急行させた。

『玲子君、この状況が見えるか、君の、君たちの未来の治療法は、ここで使う事はできないか?」

『私も今、そう考えていたのですが、、、受傷部位によると思います、あの装置も万能ではないのです」

 ああ、そうだったな、空母での戦いで、玲子君が撃たれた時も、瀕死の重傷だった、、、メルガ、君が生き延びてくれなければ、エレーナ皇女軍と三国同盟軍は、ここで終了する、オルコ共和国軍は、全てを破壊し淘汰してしまう事だろう。

『シズ、そこから見えるな、メルガの受傷部位はどこだ?」

『、、、、これは、かなり厳しい状況です、心臓の少し下、腹部を貫通しています」

 よりによって、心臓の下部か、もう少し上だったら即死じゃないか。

『助けられそうか?、何とかできないか?」

『さすがに、この場所では何とも言えません、美鈴の時と同じで、明日の朝まで持てばいいのですが、、、」

 、、、なるほど、そういう状況なんだな。

 ベナルが、混乱したこの状況を統制しようと奔走しているのが遠くから聞こえる。
 マキヤ中佐も、怒りを露わにし、決闘の場を汚した将兵を殺せと叫んでいる。
 ウクルキが、必死にメルガの名を叫ぶ。

 どれもこれも、まるで白昼夢を見ているように、遠くに聞こえる。

 だめだ、俺がしっかりしなくては。
 こんな時こそ、冷静になれ、自分を俯瞰しろ、悲しみも怒りも、ここでは一旦保留だ、俺は、俺がすべき事をするんだ。

 そう、自分に言い聞かせた。





 昼間の混乱が何とか収束し、メルガは衛生兵の付きっ切りの看護により、命を繋ぎとめていた。
 ベナルは、冷静に司令官として、今回のオルコ共和国側が取った卑劣な行動に対し、関係者の拘束と、包囲部隊全将兵の降伏と投降を完了させたが、未だマグネラの解放を宣言してはいなかった。
 それは、メルガの元を離れようとしない皇女殿下が、自身の言葉で宣言すべきと考えていたからだ。

 メルガのベッドの横には、この世界でメルガの事を最も愛している3人が、言葉を交わすことなく静かに彼女を見守っていた、ハイヤー卿、エレーナ皇女、そしてウクルキ。

 俺は、この三人に、一体何と声を掛けたら良いのか、解らないでいた。

 奥の会議室では、エレーナ皇女軍の首脳陣、レジスタンスの首脳陣、ドットス、フキアエズ両軍の指揮官級が集まり、この非礼極まりない愚行に対する処罰について、激烈な議論が交わされていた。
 それは無理も無かった、この世界の一番してはいけない事を、彼らは行った。
 決闘という命を懸けた神聖な行いを、エレーナ皇女の暗殺に利用したのだから。

 この会議の熱量と、メルガのベッドの間には、とんでもない距離を、俺は感じていた。

「ウクルキ、ちょっと、いいか?」

「ユウスケ殿、、、、ちょっと今は勘弁してほしい、、、妻の、メルガの傍にいてあげたいのだ」

 俺が話しかけたことで、静まり返った病室の均衡が崩れ、エレーナは人目を憚らず、声を上げて泣き出してしまった。
 エドが慌てて駆け付け、幼子を諭すように彼女を抱き寄せ、慰める。

「あなたはいつもそうなんだわ、私が困った時に、必ず駆けつけてくれるの。どうして?、どうしてあなたは私なんかのために、そこまで出来るの?、、、私はあなたを失ったら、これから一体どう生きて行けばいいの?」

 そう言い終わると、再び泣き出すエレーナを、エガは何も言わず、ただ、共にいてあげるだけだった。
 それでも、こんな短い間に、エド・キニーレイ大尉はエレーナ皇女の支えになっていたんだな。

「ウクルキ、気落ちしているのは解るが、俺が話したいのは、まさにメルガの様態と治療についての話なんだ」

 ウクルキは、一瞬理解出来ていない表情を浮かべたが、やがて俺がこれまで起こしてきた多くの奇跡を思い出し、その眼には期待感に満ちた輝きを取り戻すのだった。
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