自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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マグネラ攻防戦

第195話 フキアエズ軍が動いた

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 エレーナ皇女遠征軍は、あと二日でマグネラの街に到着するという情報が入ったのは、戦局が降着して三日目のことだった。
 降着している間に、オルとゼンガを引き連れたレッグ・ホーウエイ少佐が、何度も共和国軍の包囲部隊と交渉に入ってくれた。
 さすが、オルとゼンガの巨人効果は凄まじく、それまで微妙にこちら側に付かないでいた勢力が、巨人族の参戦を境に雪崩のごとく意志崩れを起こし、共和国を離反する者が続出していた。
 そんな最中、マグネラの街には、もうすぐエレーナ皇女軍が到着すると言う嬉しい噂とともに、フキアエズ王国が、国王自ら軍を率いて大規模遠征に動き出したと言う話しが舞い込んで来た。

「ユウスケ殿、また何かしたんだろう、フキアエズが動いたって噂を聞いたぞ」

 ウクルキが少し嬉しそうに話しかけてきた。
 比較的無表情で無骨な彼が、明るい雰囲気でいることは珍しいことだった。
 生真面目な軍人であっても、あの閉息された戦況を打破し、未来が開けてきたのだから無理もない。
 しかし、ウクルキの言うとおり、フキアエズ王国軍は、今、全力を挙げて兵を南下させている最中であった。
 この、国王率いる全軍は、最終的にドットス軍と合流し、連合軍として南側からエレーナ皇女軍と合流する事を名目上は目的としていた。


 それは、あの日、エガに懇願された俺は、とうとう妖精フォンを使って、フキアエズ国王陛下と直接話してしまった。


 しかし、それはエガが思い描いていた通り、国王陛下を説得させるのには大いに効果的だった。
 そして、もう一つ効果的だったのは、俺と直接話したことだろう。
 結局、この話しを進展させたのは、これからオルコ共和国軍が、一体何を画策しているか、という俺の予想が、国王に深刻な現実を突きつける結果となったのだ。

 そして、国王は国を見捨てて亡命するのではなく、軍を自ら率いてドットス軍と合流する、という大義名分が、国王を納得させる十分な材料となり得た。
 最初は、いきなりドットスに亡命してくれ、というエガの話しを全く聞く耳持たない状態だったが、オルコ共和国軍が、これからフキアエズに一体何をしようとしているか、が重要な鍵となった。

 それは、40万兵力を全力で攻勢に使用するだけではない、彼等は我々より、かなり多くの「銃」を持っていると考えるべきだった。
 俺がそう考えたのには理由がある。
 
 まず第一に、マグネラの街を包囲した部隊規模だ。
 住民は31、000名の大軍と感じたようだが、俺からしたら、マグネラの戦略的重要性を考えれば、31、000名の兵力はむしろ小さい。
 この大事な局面に、マグネラを決戦場に選んで兵を集めるなら、確実にエレーナ皇女軍を打ち破る兵力を展開させる必要があったはずだが、共和国軍はそれをしなかった。
 それは、帝都に兵を集結させた作戦が裏にあるからに他ならない。
 
 これは俺の予想でしかない、しかし、多分正解だ。

 、、、、共和国軍は、今かなりの数の銃を兵士に訓練させている。

 そして第2に、いくら40万の軍勢とはいえ、フキアエズに全軍投入すれば、北にエフライム、南にドットス、後方にエレーナ皇女軍と、完全に囲まれた状態になる、その危険を冒してでもフキアエズ完全攻略を最善の作戦とするには、理由が必要となるだろう、、、それがやはり銃の大量保有という担保なのだと言うことだ。

 そして第三、これは俺たちの戦いが、どの方向に向かうかを占う結果になるだろう、その銃が、一体どこから調達されたものなのか、ということだ。
 あの旧式の銃には、年代や生産国に特徴がある、それを考えた時、その保有数は意外と多いはずだと、俺は気付いていた。
 これは、案外嫌な予感として、俺の中に燻《くすぶ》り続けた

 銃で武装した兵士を大量動員して、40万共和国軍は10万のフキアエズ王国に侵攻し、王国を滅ぼすだろう、、、、


 これが俺の予想だ。

 これを国王に伝えた時、しばらく国王は沈黙を保持した。
 もしこの予想が正解であった場合、無策とは国家の滅亡を意味する。
 そして対策をするならば、俺の、全軍挙げて南進する作戦以外に方法がないのだ。

 、、、どんなに兵力比が大きくても、戦う相手がいなくなったら攻撃のしようがないのだから。


 こんな事があったため、エガの俺に対する評価は、俄然向上したのだ。
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