188 / 411
マグネラ攻防戦
第186話 希望の雄叫び
しおりを挟む
東広場は、今や大混戦の様相を見せていた。
後方に控えていた洋弓銃《クロスボウ》の部隊も、もはや敵味方が混戦状態にあり、射撃をすることが出来なかった。
マグネラの住民は、皆一様に何かを手に持ち、闘志を見せていた。
後方に住まう老人までもが、手には包丁やこん棒まで持ち、侵略者に抗った。
ブラックナイト・ユニットは、さすがに精鋭部隊だけあって、このような近接戦闘においては目を見晴る強さを誇ったが、多勢に無勢、オルコ軍の一部は騎兵の間隙を抜けて、住宅街へ侵入してゆく。
応急的にレジスタンスが洋弓銃《クロスボウ》をもって応戦するが、薬の効いたオルコ兵は、もはや欲望の赴くままに行動し、矢が刺さっても前進を止めなかった。
居住地に浸透してくる兵士は、徐々に住民と直接交戦するようになって行き、混戦と混乱は東広場一体に広がりつつあった。
「下がるな、我々はここで敵を食い止めることに専念せよ!」
本来であれば、住民を守ってあげたいところではあったが、せっかくの騎兵部隊がバラバラに動いては意味がない、解ってはいても、ウクルキの軍人としての頭脳が、ここで戦う事が正しいと判断してしまうのである。
ウクルキの目には、部隊の先頭から、だんだん騎兵が瓦解してゆくのが確認出来た。
一番先頭の部隊を指揮していたドロエ中尉が、既に額から血を流しながら交戦している。
、、、、さすがのウクルキも、これはもはやこれまでか、と思うのである。
「ブラックナイト・ユニット、全員、ここを死守せよ!」
生き残ったブラックナイトたちは、それでも最後の力を振り絞り、大きな掛け声を挙げ、更に前進した。
それは、ウクルキ同様、前も後ろも敵だらけのこの状態が、もはや最後の場面であることを察したのだ。
あと、ほんの数日これが遅ければ、大群を率いたエレーナ皇女との再会も果たせたかも知れない。
ああ、メルガ、本当にすまない、力及《ちからおよ》ばずだ、ウクルキは剣を振り回しながら、そう思っていた。
そんな時だった、オルとゼンガが、もはや混戦状態で材木を振り回しながら応戦していたその動きを止め、敵方に向かって吠え始めたのである。
それは、低い狼の声に似ていたが、明らかに普段大人しい巨人族の声とは違い、勇ましい戦士の声である。
それはウクルキにとっても初めて聞くものだった。
最初は、いよいよ最後の戦いを悟った巨人族の雄叫びかと思ったが、戦場の興奮状態の更に奥から、何か別の重質量のような圧迫を感じた。
「何だ、この声は?」
それは、声なのか何なのか、軍人でも解らないものだった、しかし、それを考えるより前に、オルコ軍の悲鳴が聞き取ることが出来た。
それは東広場の、それもそれほど離れていない方向からはっきりと聞き取ることが出来る距離であった。
かなり重い質量の金属が、石畳を破壊する音がする、その奥からは、人間が驚くような高さまで吹き飛ばされているのが、はっきりと視認出来た。
敵味方双方は、一体何か起こっているのかが理解出来ないでいると、再びゼンガが大きく叫んだ。
すると、先ほど人間が吹き飛ばされた方向から、同じ雄叫びが複数、いや大量に発せられるではないか。
「見ろ、村長《むらおさ》が来てくれたぞ」
オルが、大きな声で指さす方向を見ると、そこには何かを背負い、とんでもない高さまでジャンプしながら、手には金棒《かなぼう》を持って大暴れする巨人の群れが、こちらに近づいてくる。
「村長《むらおさ》!、こっちです!、ここ!」
オルが、大声で先頭の巨人に声をかけると、それに気付いたように、先頭の巨人は再び大きくジャンプすると、ウクルキ達の正面で対峙していたオルコ軍のど真ん中へ降りたち、金棒を大きく振り回すと、周囲の人間をことごとく弾き飛ばしてゆく。
それを見たオルコ軍は、一斉にパニックに陥り、次々と四散していった。
巨人族の破壊力はすさまじく、金棒を一振りすると、それはまるで重機で建物を破壊するかの如く触れた者がみんな破壊されてゆく。
古い町並みも、まるで戦車が撃ちあいでもしたかの如く石で出来た建物も、石畳も次々に穴だらけになって行くのが見えた。
巨人に追われ、四散してゆくオルコ軍、マグネラの住民たちもブラックナイト・ユニットも、それは一瞬何が起こっているのか理解できないでいた。
そんな時、ウクルキが何かを見つけると
「ノアンカ?、ノアンカではないか?、、、、なんでそんな所に?」
「おお、ウクルキ!無事だったか!、良かった、間に合った、ユウスケ!、ウクルキを発見したぞ、こっちだ」
ノアンカは、巨人の背負っている大きな籠の中で銃を構えながら一緒に移動して来たようだった。
ユウスケ?、そう思ったウクルキは、ノアンカの指さす方向を見ると
「おい、ウクルキ!、生きていたか!、心配したんだぞ、玲子君と連絡も出来ないから、マグネラが既に陥落したかと思ったぞ!」
ウクルキは、その光景が未だ信じられないでいた。
そこには、大勢の巨人が手には金棒を持ち、背中には籠を背負って複数名の兵士を乗せている。
これは一体、何と言う戦術だろうか、と、そんな事を考えていると地上からもかなりの数の騎兵が乗り込んできた。
「おお、ウクルキ、良かった、存命か!、死んだと思ったぞ、ハハハ!」
豪快に笑いながら迫って来るのは、見慣れた重装甲騎兵、、、、城主直轄大隊長となったマキヤ中佐だった。
「マキヤ殿、貴君まで、一体、どうして?」
「話は後だ、巨人と我々の大隊が合流したと言っても、敵軍は3万を超える軍勢だ、あともうひと踏ん張りしなければな、増援が来るまで持ちこたえなければ」
「増援?エレーナ皇女軍の事か?、まだもう少しかかると聞いているが」
「いや、違うよ、ドットス軍から、ロームボルド旅団長が独断で部隊を派遣している、先頭には待機していたワイドロア連隊が、そのすぐ北側にはフキアエズが3個連隊の先発隊、それにエフライム軍まで実働部隊を北へ集結中だ、エフライムとフキアエズ、そしてドットス三国が軍事同盟を結んで、オルコ国境に迫っている、これもユウスケ殿のおかげだ」
それを聞いたウクルキは、あらためてユウスケの方を見た。
ユウスケは、巨人の村長《むらおさ》の背中から陣頭指揮を執りつつ、オルコ軍を北西方向へ追いやっていた。
「これは、、、、こうしてはおれんな」
ウクルキは、再び生気に満ちた顔でブラックナイト・ユニットに号令を発する
「残兵《ざんぺい》を駆逐《くちく》する。突撃に、前へ!」
後方に控えていた洋弓銃《クロスボウ》の部隊も、もはや敵味方が混戦状態にあり、射撃をすることが出来なかった。
マグネラの住民は、皆一様に何かを手に持ち、闘志を見せていた。
後方に住まう老人までもが、手には包丁やこん棒まで持ち、侵略者に抗った。
ブラックナイト・ユニットは、さすがに精鋭部隊だけあって、このような近接戦闘においては目を見晴る強さを誇ったが、多勢に無勢、オルコ軍の一部は騎兵の間隙を抜けて、住宅街へ侵入してゆく。
応急的にレジスタンスが洋弓銃《クロスボウ》をもって応戦するが、薬の効いたオルコ兵は、もはや欲望の赴くままに行動し、矢が刺さっても前進を止めなかった。
居住地に浸透してくる兵士は、徐々に住民と直接交戦するようになって行き、混戦と混乱は東広場一体に広がりつつあった。
「下がるな、我々はここで敵を食い止めることに専念せよ!」
本来であれば、住民を守ってあげたいところではあったが、せっかくの騎兵部隊がバラバラに動いては意味がない、解ってはいても、ウクルキの軍人としての頭脳が、ここで戦う事が正しいと判断してしまうのである。
ウクルキの目には、部隊の先頭から、だんだん騎兵が瓦解してゆくのが確認出来た。
一番先頭の部隊を指揮していたドロエ中尉が、既に額から血を流しながら交戦している。
、、、、さすがのウクルキも、これはもはやこれまでか、と思うのである。
「ブラックナイト・ユニット、全員、ここを死守せよ!」
生き残ったブラックナイトたちは、それでも最後の力を振り絞り、大きな掛け声を挙げ、更に前進した。
それは、ウクルキ同様、前も後ろも敵だらけのこの状態が、もはや最後の場面であることを察したのだ。
あと、ほんの数日これが遅ければ、大群を率いたエレーナ皇女との再会も果たせたかも知れない。
ああ、メルガ、本当にすまない、力及《ちからおよ》ばずだ、ウクルキは剣を振り回しながら、そう思っていた。
そんな時だった、オルとゼンガが、もはや混戦状態で材木を振り回しながら応戦していたその動きを止め、敵方に向かって吠え始めたのである。
それは、低い狼の声に似ていたが、明らかに普段大人しい巨人族の声とは違い、勇ましい戦士の声である。
それはウクルキにとっても初めて聞くものだった。
最初は、いよいよ最後の戦いを悟った巨人族の雄叫びかと思ったが、戦場の興奮状態の更に奥から、何か別の重質量のような圧迫を感じた。
「何だ、この声は?」
それは、声なのか何なのか、軍人でも解らないものだった、しかし、それを考えるより前に、オルコ軍の悲鳴が聞き取ることが出来た。
それは東広場の、それもそれほど離れていない方向からはっきりと聞き取ることが出来る距離であった。
かなり重い質量の金属が、石畳を破壊する音がする、その奥からは、人間が驚くような高さまで吹き飛ばされているのが、はっきりと視認出来た。
敵味方双方は、一体何か起こっているのかが理解出来ないでいると、再びゼンガが大きく叫んだ。
すると、先ほど人間が吹き飛ばされた方向から、同じ雄叫びが複数、いや大量に発せられるではないか。
「見ろ、村長《むらおさ》が来てくれたぞ」
オルが、大きな声で指さす方向を見ると、そこには何かを背負い、とんでもない高さまでジャンプしながら、手には金棒《かなぼう》を持って大暴れする巨人の群れが、こちらに近づいてくる。
「村長《むらおさ》!、こっちです!、ここ!」
オルが、大声で先頭の巨人に声をかけると、それに気付いたように、先頭の巨人は再び大きくジャンプすると、ウクルキ達の正面で対峙していたオルコ軍のど真ん中へ降りたち、金棒を大きく振り回すと、周囲の人間をことごとく弾き飛ばしてゆく。
それを見たオルコ軍は、一斉にパニックに陥り、次々と四散していった。
巨人族の破壊力はすさまじく、金棒を一振りすると、それはまるで重機で建物を破壊するかの如く触れた者がみんな破壊されてゆく。
古い町並みも、まるで戦車が撃ちあいでもしたかの如く石で出来た建物も、石畳も次々に穴だらけになって行くのが見えた。
巨人に追われ、四散してゆくオルコ軍、マグネラの住民たちもブラックナイト・ユニットも、それは一瞬何が起こっているのか理解できないでいた。
そんな時、ウクルキが何かを見つけると
「ノアンカ?、ノアンカではないか?、、、、なんでそんな所に?」
「おお、ウクルキ!無事だったか!、良かった、間に合った、ユウスケ!、ウクルキを発見したぞ、こっちだ」
ノアンカは、巨人の背負っている大きな籠の中で銃を構えながら一緒に移動して来たようだった。
ユウスケ?、そう思ったウクルキは、ノアンカの指さす方向を見ると
「おい、ウクルキ!、生きていたか!、心配したんだぞ、玲子君と連絡も出来ないから、マグネラが既に陥落したかと思ったぞ!」
ウクルキは、その光景が未だ信じられないでいた。
そこには、大勢の巨人が手には金棒を持ち、背中には籠を背負って複数名の兵士を乗せている。
これは一体、何と言う戦術だろうか、と、そんな事を考えていると地上からもかなりの数の騎兵が乗り込んできた。
「おお、ウクルキ、良かった、存命か!、死んだと思ったぞ、ハハハ!」
豪快に笑いながら迫って来るのは、見慣れた重装甲騎兵、、、、城主直轄大隊長となったマキヤ中佐だった。
「マキヤ殿、貴君まで、一体、どうして?」
「話は後だ、巨人と我々の大隊が合流したと言っても、敵軍は3万を超える軍勢だ、あともうひと踏ん張りしなければな、増援が来るまで持ちこたえなければ」
「増援?エレーナ皇女軍の事か?、まだもう少しかかると聞いているが」
「いや、違うよ、ドットス軍から、ロームボルド旅団長が独断で部隊を派遣している、先頭には待機していたワイドロア連隊が、そのすぐ北側にはフキアエズが3個連隊の先発隊、それにエフライム軍まで実働部隊を北へ集結中だ、エフライムとフキアエズ、そしてドットス三国が軍事同盟を結んで、オルコ国境に迫っている、これもユウスケ殿のおかげだ」
それを聞いたウクルキは、あらためてユウスケの方を見た。
ユウスケは、巨人の村長《むらおさ》の背中から陣頭指揮を執りつつ、オルコ軍を北西方向へ追いやっていた。
「これは、、、、こうしてはおれんな」
ウクルキは、再び生気に満ちた顔でブラックナイト・ユニットに号令を発する
「残兵《ざんぺい》を駆逐《くちく》する。突撃に、前へ!」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
virtual lover
空川億里
ミステリー
人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。
が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。
主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―
kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。
しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。
帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。
帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる