自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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マグネラ攻防戦

第186話 希望の雄叫び

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 東広場は、今や大混戦の様相を見せていた。
 後方に控えていた洋弓銃《クロスボウ》の部隊も、もはや敵味方が混戦状態にあり、射撃をすることが出来なかった。
 マグネラの住民は、皆一様に何かを手に持ち、闘志を見せていた。
 後方に住まう老人までもが、手には包丁やこん棒まで持ち、侵略者に抗った。

 ブラックナイト・ユニットは、さすがに精鋭部隊だけあって、このような近接戦闘においては目を見晴る強さを誇ったが、多勢に無勢、オルコ軍の一部は騎兵の間隙を抜けて、住宅街へ侵入してゆく。
 応急的にレジスタンスが洋弓銃《クロスボウ》をもって応戦するが、薬の効いたオルコ兵は、もはや欲望の赴くままに行動し、矢が刺さっても前進を止めなかった。
 居住地に浸透してくる兵士は、徐々に住民と直接交戦するようになって行き、混戦と混乱は東広場一体に広がりつつあった。

 「下がるな、我々はここで敵を食い止めることに専念せよ!」

 本来であれば、住民を守ってあげたいところではあったが、せっかくの騎兵部隊がバラバラに動いては意味がない、解ってはいても、ウクルキの軍人としての頭脳が、ここで戦う事が正しいと判断してしまうのである。
 ウクルキの目には、部隊の先頭から、だんだん騎兵が瓦解してゆくのが確認出来た。
 一番先頭の部隊を指揮していたドロエ中尉が、既に額から血を流しながら交戦している。
 
 、、、、さすがのウクルキも、これはもはやこれまでか、と思うのである。

「ブラックナイト・ユニット、全員、ここを死守せよ!」

 生き残ったブラックナイトたちは、それでも最後の力を振り絞り、大きな掛け声を挙げ、更に前進した。
 それは、ウクルキ同様、前も後ろも敵だらけのこの状態が、もはや最後の場面であることを察したのだ。
 あと、ほんの数日これが遅ければ、大群を率いたエレーナ皇女との再会も果たせたかも知れない。
ああ、メルガ、本当にすまない、力及《ちからおよ》ばずだ、ウクルキは剣を振り回しながら、そう思っていた。

 そんな時だった、オルとゼンガが、もはや混戦状態で材木を振り回しながら応戦していたその動きを止め、敵方に向かって吠え始めたのである。
 それは、低い狼の声に似ていたが、明らかに普段大人しい巨人族の声とは違い、勇ましい戦士の声である。
 それはウクルキにとっても初めて聞くものだった。
 最初は、いよいよ最後の戦いを悟った巨人族の雄叫びかと思ったが、戦場の興奮状態の更に奥から、何か別の重質量のような圧迫を感じた。

「何だ、この声は?」

 それは、声なのか何なのか、軍人でも解らないものだった、しかし、それを考えるより前に、オルコ軍の悲鳴が聞き取ることが出来た。
 それは東広場の、それもそれほど離れていない方向からはっきりと聞き取ることが出来る距離であった。
 かなり重い質量の金属が、石畳を破壊する音がする、その奥からは、人間が驚くような高さまで吹き飛ばされているのが、はっきりと視認出来た。
 敵味方双方は、一体何か起こっているのかが理解出来ないでいると、再びゼンガが大きく叫んだ。
 すると、先ほど人間が吹き飛ばされた方向から、同じ雄叫びが複数、いや大量に発せられるではないか。

「見ろ、村長《むらおさ》が来てくれたぞ」

 オルが、大きな声で指さす方向を見ると、そこには何かを背負い、とんでもない高さまでジャンプしながら、手には金棒《かなぼう》を持って大暴れする巨人の群れが、こちらに近づいてくる。

「村長《むらおさ》!、こっちです!、ここ!」

 オルが、大声で先頭の巨人に声をかけると、それに気付いたように、先頭の巨人は再び大きくジャンプすると、ウクルキ達の正面で対峙していたオルコ軍のど真ん中へ降りたち、金棒を大きく振り回すと、周囲の人間をことごとく弾き飛ばしてゆく。
 それを見たオルコ軍は、一斉にパニックに陥り、次々と四散していった。
 巨人族の破壊力はすさまじく、金棒を一振りすると、それはまるで重機で建物を破壊するかの如く触れた者がみんな破壊されてゆく。
 古い町並みも、まるで戦車が撃ちあいでもしたかの如く石で出来た建物も、石畳も次々に穴だらけになって行くのが見えた。
 巨人に追われ、四散してゆくオルコ軍、マグネラの住民たちもブラックナイト・ユニットも、それは一瞬何が起こっているのか理解できないでいた。
 そんな時、ウクルキが何かを見つけると

「ノアンカ?、ノアンカではないか?、、、、なんでそんな所に?」

「おお、ウクルキ!無事だったか!、良かった、間に合った、ユウスケ!、ウクルキを発見したぞ、こっちだ」

 ノアンカは、巨人の背負っている大きな籠の中で銃を構えながら一緒に移動して来たようだった。
 ユウスケ?、そう思ったウクルキは、ノアンカの指さす方向を見ると

「おい、ウクルキ!、生きていたか!、心配したんだぞ、玲子君と連絡も出来ないから、マグネラが既に陥落したかと思ったぞ!」

 ウクルキは、その光景が未だ信じられないでいた。
 そこには、大勢の巨人が手には金棒を持ち、背中には籠を背負って複数名の兵士を乗せている。
 これは一体、何と言う戦術だろうか、と、そんな事を考えていると地上からもかなりの数の騎兵が乗り込んできた。

「おお、ウクルキ、良かった、存命か!、死んだと思ったぞ、ハハハ!」

 豪快に笑いながら迫って来るのは、見慣れた重装甲騎兵、、、、城主直轄大隊長となったマキヤ中佐だった。

「マキヤ殿、貴君まで、一体、どうして?」

「話は後だ、巨人と我々の大隊が合流したと言っても、敵軍は3万を超える軍勢だ、あともうひと踏ん張りしなければな、増援が来るまで持ちこたえなければ」

「増援?エレーナ皇女軍の事か?、まだもう少しかかると聞いているが」

「いや、違うよ、ドットス軍から、ロームボルド旅団長が独断で部隊を派遣している、先頭には待機していたワイドロア連隊が、そのすぐ北側にはフキアエズが3個連隊の先発隊、それにエフライム軍まで実働部隊を北へ集結中だ、エフライムとフキアエズ、そしてドットス三国が軍事同盟を結んで、オルコ国境に迫っている、これもユウスケ殿のおかげだ」

 それを聞いたウクルキは、あらためてユウスケの方を見た。
 ユウスケは、巨人の村長《むらおさ》の背中から陣頭指揮を執りつつ、オルコ軍を北西方向へ追いやっていた。

「これは、、、、こうしてはおれんな」

 ウクルキは、再び生気に満ちた顔でブラックナイト・ユニットに号令を発する


「残兵《ざんぺい》を駆逐《くちく》する。突撃に、前へ!」
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