自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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マグネラ攻防戦

第185話 地響きの如く

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 ズターーーーン ー・ーー

 朝靄のマグネラに、カシラビの放った銃声がこだまする。
 残弾の少ない中、カシラビが発砲するという事は、それだけ敵の勢力が本気で攻めて来ることを物語っていた。
 東広場のバリケード前には、今度こそ陽動部隊ではなく、本物の攻撃部隊が見えるほどの位置まで迫っており、朝靄に霞む大勢の人影は不気味に見えた。
 
 ズターーーーン ー・ーーーー

 今度はゼンガが対物ライフルを盛大に発砲すると、朝霞の向こう側の敵は一瞬動じたように見えたが、それは悪戯に敵を刺激しているに過ぎず、時間稼ぎにすらなっていなかった。

「今度は来そうですな、隊長」

 ヤップ曹長が、どこか笑いながらウクルキに話しかけてくる。
 無理もない、さすがにこの距離で、これほどの大軍の気配を感じたことは、長い軍隊生活の中でも初めてのことであった。
 本来であれば、強い敵を前に武者震いするところであるが、このスケールの大きさに、古参の軍人の頭ですら現実を把握することが出来ないほどの興奮状態にあった。
 これが最後の戦いになることは、もはや誰の目にも明らかだった。
 エレーナ皇女遠征軍は、マグネラに到着するのは早くても3日後、この陣営では3日どころか、半日もつかどうかと言ったところだった。
 昨日の夕方、ミスズ・レイコから聞いた話では、ユウスケの考えていた作戦が唯一この街を救える手段だったが、通信途絶により、それが不可能になってしまった、という事だった。
 彼女のあれほどの落胆ぶりを見たのは初めてであったが、ここは自分が勇敢に戦わなくてはならないと、より一層奮起するのであった。

 そんな時、敵の居る方向から何か叫びのような声がすると、それはやがて全軍に伝播してゆき、大きな唸りとなって、地響きの如く街を揺らした。
 その声の大きさは、幾重にも感じられ、自分たちの目の前に居る軍勢の数十倍が、その後方に居ることが容易に理解できるレベルであった。
 その声は、これからこのマグネラで起こる事が戦いではなく、蹂躙であることが共和国軍側の兵士には十分理解出来ている雄叫びでもあった。
 人間は、こうも残酷な行いに興奮出来るものなのだろうか、敵兵士の多くは、この街を好き勝手に奪い、殺し、暴行出来ることへの異常なまでの興奮に満ちていた。
 
 ズターーーーン ー・ーー

 それに苛立つゼンガが、再び敵の軍勢に向かって対物ライフルを放つ。
 今度は、敵の奥から悲鳴が聞こえると、それは可笑しな興奮へと変化し、より奮起した奇声へと上昇してゆくのが解る。
 
「彼らは、何か盛られてますな」

 ヤップ曹長が、長年の勘で、それを察する。
 このように、圧倒的な蹂躙を前に兵士を興奮状態にする特殊な薬の存在を、ヤップ曹長は知っていた。
 それはある意味酒であり、麻薬であもある、もしかしたらその両方かもしれない。
 それ故に、ゼンガが放った実弾も、祭りの余興程度にしかならず、実効性は無かった。

 逆に、彼らの血に飢えた興奮はいよいよピークに達し、統制の取れなくなってきたオルコ共和国軍の兵士は、奇声を挙げながら東バリケードへ向けて突進を始めた。

「ブラックナイト・ユニット、抜刀!、構え」

 バリケードを排除し、乗馬したブラックナイトは一斉に抜刀し、突撃隊形を取り、指揮官の号令を待った。
 もはや、ブラックナイト・ユニットが洋弓銃《クロスボウ》で応戦する暇がないほどの接近戦である。
 しかし、その洋弓銃《クロスボウ》を構えたマグネラ・レジスタンスが、キタヤの射撃号令を受けて、一斉に矢を放つと、ここぞとばかりにカシラビとゼンガも大きな破裂音とともに射撃を開始した。
 オルコ共和国軍の最前列は、一斉に崩れ落ちた、その次の瞬間、ウクルキは突撃の号令を発し、160騎の騎兵隊は、一斉に暴徒と化したオルコ軍兵士に襲いかかるのであった。
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