自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

文字の大きさ
上 下
181 / 411
マグネラ攻防戦

第179話 1000人が暴漢化し

しおりを挟む
 ウクルキ達ブラックナイト・ユニットは、街の反対側け急行する。
 すると、それは先ほどの現場と全く同じように暴漢と化したオルコの兵士たちが略奪と虐殺を繰り返している。
 ドロエ中尉も、先ほどの件を教訓に今度は冷静にウクルキの後方から現場へ向かっている。
 ウクルキ達とほぼ同時に、巨人のゼンガが至近距離から対物狙撃銃を射撃すると、その強烈な破壊力をもってオルコの兵士はまとめて数人が吹き飛ばされた。
 しかし、ゼンガの銃は、威力が大きすぎ、住民混在化の現状では使いにくく、カシラビとローハン、巨人のオルの使用する旧式銃が意外と役に立った。
 その状況を見たウクルキは、部隊を停止させ、突撃を見送った。
 それは、せっかく3人の銃士隊が精密な射撃によって、オルコの兵士を駆逐している最中に混戦状態へ陥ったら、それは狙撃を阻害することとなり、逆効果と感じたからである。
 それでも、今度の暴漢者の数は、先ほどの一部反乱、と言ったレベルではなく、まるで一個連隊が愚連隊と化したかのような異様な熱量を放っていた。
 これではいくらカシラビ達が射殺しても、まるで追い付かない。
 射撃を受けた周囲では、さすがに躊躇する兵士の様子がうかがえたが、その奥の兵士たちは、全く動ずることなく略奪を繰り返し、略奪が完了した民家は、次々と放火されていった。
 

「これじゃあきりがない、どうします、ウクルキの旦那!」

 カシラビが大声でウクルキに尋ねて来る。
 そうは言っても、この大人数、何ら作戦も無ければ、武装しているこちらですら逆に駆逐されてしまう。

 そんな時だった、美鈴玲子がウクルキに駆け寄り、何かを話しかけてきた。

「ウクルキさん、雄介様からの伝言です、街の南東方向に位置する広場に、敵を少しずつ追い込んで欲しいとのことです」

「ミスズ、ユウスケ殿は、もうここに居るんですか?どこに?」

「いえ、私達の民族には、遠くに離れていても意識を通じ合える技があるのです、それより今は南東の広場へ!」

 考えている余裕はなかった。
 いくら状況図を見ても、敗者のそれしか浮かばないこの状況にあって、もはや不確かな情報であっても雄介の伝言を信じる他に手段は無いと感じた。

「よし、中隊はこれより、前方の敵兵を襲撃し、南東方向へ押し返す、必ず押し返すのだ、損耗を恐れるな!」

 ブラックナイト・ユニットは、再び剣と長槍を抜くと、勢いよくオルコ軍へ突っ込んで行った。
 会話を聞いていたカシラビ達は、南東方向へは射撃をせず、彼らが追い込まれ、うまく南東方向へ逃走するよう作為しながら射撃を実施した。
 元々、組織化されていなかったオルコの暴漢たちは、ブラックナイト・ユニットの統制の取れた隊列を見るや、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
 しかし、それは逆に統制が取れていない分、一部は蹴散らせても、そのすぐ近くでは依然暴力と放火が繰り返されていた。
 そんな状況でも、雄介なら必ず何か策を考えてくれるだろう、という一縷の望みを繋ぐように、彼らは数時間に渡って暴漢を南東へ押し込んでいった。
 次第に状況を確認したマグネラ・レジスタンスのメンバーも、リーダーのキタヤ・マルスルの号令に従いながら、街の西側から少しづつ抵抗線を展開し、暴漢たちを東方向へと押し込んで行った。


 そんな状況が6時間も続いた頃、もはや疲労と飢えによりほとんど動けなくなった両軍兵士のいる場所で戦いは膠着状態へ移行した。


 レジスタンス側は、そこを前線と認識し、周囲の民家から家具や資材を運び込み、バリケードを築き始めた。

「まったく、なんて戦いだ、こっちはもう弾薬がほとんどなくなってしまったぞ。ユウスケはどんな作戦を考えているんだ?」

 カシラビがそう言うのも無理はない。
 結局、この抵抗勢力では雄介が指定した南東の広場に敵を追い詰めるところまでは行けず、手前で膠着してしまったのだから。
 敵は暴漢と化していた兵を下げさせ、新たな兵力をもってバリケード前に部隊を集結させていた。
 今現在ですら8000名の兵士が敵にはいる、1000人が暴漢化しても、その後方には無傷の7000名が控えている。
 そんな状況を、これから更に6日間待たなくては、エレーナ軍本体は到達しないというのだから、ウクルキやカシラビ、キタヤ、そして美鈴玲子もまた、気が遠くなる思いであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

virtual lover

空川億里
ミステリー
 人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。  が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。  主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

処理中です...