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マグネラ攻防戦
第178話 略奪と暴行
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ドロエ中尉の設定資料 ↓
ブラックナイト・ユニットが侵入された市街地へ急行すると、怒涛の如く押し寄せる共和国軍が、既に略奪と暴行を始めていた。
ウクルキが先陣を切って行くその先では、住民が悪戯に惨殺されている、まさに最中であった。
共和国軍は、無抵抗の初老の男性を、三人がかりで持ち上げるや、民家の壁へ全速力で加速して激突させ、頭蓋骨を砕いては大笑いしながら、それら惨殺を繰り返していた。
恐らくは、包囲部隊の一部が暴走し、住民を襲いだした、と言うのが正しい現状認識だろう。
しかし、その残虐ぶりを視認したブラックナイト・ユニットは、怒れる戦士として、この暴漢に向かい、速度を緩めることなく抜刀した。
暴漢と化した兵士たちは、少し酔っている気配がしたが、その手がうら若き女性へ伸びたその瞬間、ドロエ中尉の鋭い剣先は敵兵の顎を貫き、それは剣の根本へ達した。
「蹴散《けち》らせ、躊躇《ちゅうちょ》するな!」
ドロエは、まるで指揮官の如く自隊の士気を鼓舞すると、現場は乱戦状態となって行く。
これが正規軍同士の戦いであれば、ブラックナイト・ユニットはかなりの消耗を強いられたことだろう。
しかし、相手は多少人数が多いものの、所詮暴漢のような愚連隊、精鋭部隊のブラックナイト・ユニットの敵ではない。
本来であれば義軍である彼らだが、目の前で起きた悪行が、彼らの冷静さを失わせた。
逃げて行く暴漢に対し、ドロエ率いる部隊の一部は、共和国軍の包囲環《ほういかん》まで深追いしてしまうのである。
「よせドロエ、もう十分だ、引け、引くんだ」
ウクルキが叫ぶが、激昂《げっこう》したドロエ達には、その声がほとんど聞こえていないかの様子だった。
すると、共和国軍の包囲部隊が、ブラックナイト・ユニットへボウガンを向けて隊列を組んでいる。
ウクルキはそれを視認すると、速度を増してドロエの前に出ようとする。
「ドロエ、止まれ、冷静になれ!」
共和国軍のボウガンは、その矢を一斉に発射する。
すると、悲鳴を上げて倒れて行くのは、逃げ惑う暴漢たちの方であった。
それを見たドロエ達は、一瞬で冷静さを取り戻す。
しかし、この状況は一体何だ、ウクルキはそれでも、前進を止めず、敵部隊の方へ向かって進んだ、しかし、それはゆっくりと。
すると、敵軍の指揮官と思われる一人の男が、隊列の前に進んでくるではないか。
「貴官が、この部隊の長か?」
「その通り。当方の兵が、無礼をした。我々も軍人、民間人に無用な危害を加える者は、厳重に罰する、これは、その答えだと考えてほしい」
暴漢たちの死体が散乱する現場において、それは最も説得力のある情景だった。
ウクルキには、この目の前にいる男が、本物の軍人であり戦士であることが理解出来た。
それ故に、初対面の二人には、多くを語らずとも、それが信頼できる人間同士であることがすぐに理解出来たのである。
「貴官の言う事を信じよう、しかし、貴官のようなまともな精神の持ち主が、なぜ共和国軍に味方する?」
「勘違いしないでほしい、我々は軍人だ、間違っても君たちのように義勇や正義では動かない、我々の前には、命令しか存在しない。軍人は命令に従うだけだ」
「、、、貴官の名前を聞いておこう」
「自分は、、、オルコ帝国軍ブラックナイト討伐連隊所属、C中隊長 レッグ・ホーウエイ少佐だ」
「私は、アッガ・ウクルキだ。ブラックナイト・ユニットの指揮官をしている」
レッグ少佐もまた、立場は違うが、同じ中隊名を持つ、同じ階級の将校だった。
それは、彼もウクルキ同様に、生真面目な軍人として今日までやってきたのだろうことは容易に想像できた。
レック少佐は、ウクルキに尋ねてきた。
「ウクルキ隊長、このような事を聞くのは見当違いだと、重々承知の上で聞くが、、、貴官らはエレーナ皇女殿下を、、保護していると言う噂は、本当か?」
ウクルキは、彼の物言いに少し気になるところがあった。
生粋《きっすい》の共和国軍側の人間であれば、エレーナ皇女の事を気にせず、この街ごと滅ぼしてしまえば目的は達成できる、しかし、彼は明らかに、エレーナ皇女の安否を気遣っている、、、彼は本当に共和国側の人間なんだろうか。
先ほども、自身の所属を帝国軍と名乗っている、彼の中では、まだエレーナに忠誠を誓った古い軍人であるように思われた。
いくら政権が変わったとはいえ、昨日まで君主と崇めていた人物を、いきなり敵対など出来ないだろう。
ウクルキは、レッグ少佐の人間性を、信用してみたいと思った。
「心配するな、エレーナ皇女殿下はここにはいない、彼女は私の妻、メルガ・ウクルキだ」
「メルガ、、、あのハイヤー氏の御息女か?、そうか、そういう事情か。貴官がメルガ姫の夫?、事情は掴めないが、これは面白い。そうか、メルガ姫はご無事か」
険しい顔だったレッグ少佐が、一瞬表情が緩んだことに、ウクルキは何故か親しみを感じた。
少なくとも目の前のこの男は、住民の惨殺などは絶対にしないだろう。
敵軍にも、このような良識ある人間が居たことに、ウクルキは少しだけ救われた気持ちになった。
それは、この絶望的な状況において、何か希望のようにすら感じられたのである。
レッグ少佐は、それ以上何も言わず、部下を率いてその場を後にした。
すっかり正気を取り戻したドロエ中尉が、ウクルキの元に駆け寄った。
「、、、隊長、先ほどは大変お見苦しい所を、、、。」
「いや、構わん、我々は義軍だからな、、、、と言いたいところだが、兵にも限りがある、無駄に部下を死なせるなよ」
ドロエは、バツの悪い表情を浮かべながら、その場を去った。
ドロエの所には、先ほど助けられた若い女性が駆け寄り、何度もお礼を言っていた。
当のドロエは、経緯が経緯なだけに、遠慮がちに挨拶を交わしてその場を去った。
そして、レッグ少佐とは全く別の部隊が、反対の方角から再び街に侵入してきたとの一報が入るのである。
ブラックナイト・ユニットが侵入された市街地へ急行すると、怒涛の如く押し寄せる共和国軍が、既に略奪と暴行を始めていた。
ウクルキが先陣を切って行くその先では、住民が悪戯に惨殺されている、まさに最中であった。
共和国軍は、無抵抗の初老の男性を、三人がかりで持ち上げるや、民家の壁へ全速力で加速して激突させ、頭蓋骨を砕いては大笑いしながら、それら惨殺を繰り返していた。
恐らくは、包囲部隊の一部が暴走し、住民を襲いだした、と言うのが正しい現状認識だろう。
しかし、その残虐ぶりを視認したブラックナイト・ユニットは、怒れる戦士として、この暴漢に向かい、速度を緩めることなく抜刀した。
暴漢と化した兵士たちは、少し酔っている気配がしたが、その手がうら若き女性へ伸びたその瞬間、ドロエ中尉の鋭い剣先は敵兵の顎を貫き、それは剣の根本へ達した。
「蹴散《けち》らせ、躊躇《ちゅうちょ》するな!」
ドロエは、まるで指揮官の如く自隊の士気を鼓舞すると、現場は乱戦状態となって行く。
これが正規軍同士の戦いであれば、ブラックナイト・ユニットはかなりの消耗を強いられたことだろう。
しかし、相手は多少人数が多いものの、所詮暴漢のような愚連隊、精鋭部隊のブラックナイト・ユニットの敵ではない。
本来であれば義軍である彼らだが、目の前で起きた悪行が、彼らの冷静さを失わせた。
逃げて行く暴漢に対し、ドロエ率いる部隊の一部は、共和国軍の包囲環《ほういかん》まで深追いしてしまうのである。
「よせドロエ、もう十分だ、引け、引くんだ」
ウクルキが叫ぶが、激昂《げっこう》したドロエ達には、その声がほとんど聞こえていないかの様子だった。
すると、共和国軍の包囲部隊が、ブラックナイト・ユニットへボウガンを向けて隊列を組んでいる。
ウクルキはそれを視認すると、速度を増してドロエの前に出ようとする。
「ドロエ、止まれ、冷静になれ!」
共和国軍のボウガンは、その矢を一斉に発射する。
すると、悲鳴を上げて倒れて行くのは、逃げ惑う暴漢たちの方であった。
それを見たドロエ達は、一瞬で冷静さを取り戻す。
しかし、この状況は一体何だ、ウクルキはそれでも、前進を止めず、敵部隊の方へ向かって進んだ、しかし、それはゆっくりと。
すると、敵軍の指揮官と思われる一人の男が、隊列の前に進んでくるではないか。
「貴官が、この部隊の長か?」
「その通り。当方の兵が、無礼をした。我々も軍人、民間人に無用な危害を加える者は、厳重に罰する、これは、その答えだと考えてほしい」
暴漢たちの死体が散乱する現場において、それは最も説得力のある情景だった。
ウクルキには、この目の前にいる男が、本物の軍人であり戦士であることが理解出来た。
それ故に、初対面の二人には、多くを語らずとも、それが信頼できる人間同士であることがすぐに理解出来たのである。
「貴官の言う事を信じよう、しかし、貴官のようなまともな精神の持ち主が、なぜ共和国軍に味方する?」
「勘違いしないでほしい、我々は軍人だ、間違っても君たちのように義勇や正義では動かない、我々の前には、命令しか存在しない。軍人は命令に従うだけだ」
「、、、貴官の名前を聞いておこう」
「自分は、、、オルコ帝国軍ブラックナイト討伐連隊所属、C中隊長 レッグ・ホーウエイ少佐だ」
「私は、アッガ・ウクルキだ。ブラックナイト・ユニットの指揮官をしている」
レッグ少佐もまた、立場は違うが、同じ中隊名を持つ、同じ階級の将校だった。
それは、彼もウクルキ同様に、生真面目な軍人として今日までやってきたのだろうことは容易に想像できた。
レック少佐は、ウクルキに尋ねてきた。
「ウクルキ隊長、このような事を聞くのは見当違いだと、重々承知の上で聞くが、、、貴官らはエレーナ皇女殿下を、、保護していると言う噂は、本当か?」
ウクルキは、彼の物言いに少し気になるところがあった。
生粋《きっすい》の共和国軍側の人間であれば、エレーナ皇女の事を気にせず、この街ごと滅ぼしてしまえば目的は達成できる、しかし、彼は明らかに、エレーナ皇女の安否を気遣っている、、、彼は本当に共和国側の人間なんだろうか。
先ほども、自身の所属を帝国軍と名乗っている、彼の中では、まだエレーナに忠誠を誓った古い軍人であるように思われた。
いくら政権が変わったとはいえ、昨日まで君主と崇めていた人物を、いきなり敵対など出来ないだろう。
ウクルキは、レッグ少佐の人間性を、信用してみたいと思った。
「心配するな、エレーナ皇女殿下はここにはいない、彼女は私の妻、メルガ・ウクルキだ」
「メルガ、、、あのハイヤー氏の御息女か?、そうか、そういう事情か。貴官がメルガ姫の夫?、事情は掴めないが、これは面白い。そうか、メルガ姫はご無事か」
険しい顔だったレッグ少佐が、一瞬表情が緩んだことに、ウクルキは何故か親しみを感じた。
少なくとも目の前のこの男は、住民の惨殺などは絶対にしないだろう。
敵軍にも、このような良識ある人間が居たことに、ウクルキは少しだけ救われた気持ちになった。
それは、この絶望的な状況において、何か希望のようにすら感じられたのである。
レッグ少佐は、それ以上何も言わず、部下を率いてその場を後にした。
すっかり正気を取り戻したドロエ中尉が、ウクルキの元に駆け寄った。
「、、、隊長、先ほどは大変お見苦しい所を、、、。」
「いや、構わん、我々は義軍だからな、、、、と言いたいところだが、兵にも限りがある、無駄に部下を死なせるなよ」
ドロエは、バツの悪い表情を浮かべながら、その場を去った。
ドロエの所には、先ほど助けられた若い女性が駆け寄り、何度もお礼を言っていた。
当のドロエは、経緯が経緯なだけに、遠慮がちに挨拶を交わしてその場を去った。
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