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決 意

第167話 迷ってはいけないな

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 ウクルキ率いる「ブラックナイト・ユニット」は、土砂降りの雨の中、エレーナ皇女に扮したメルガを伴って、一路南へ向け前進していた。
 しかし、撃退した敵増援部隊からの報告により、オルコ反乱軍部隊は、速やかにエレーナ奪還部隊を組織し、ブラックナイト・ユニット討伐の命が下った。
 急遽編成された部隊ではあったが、その数5000の大規模部隊である。
 既に反乱軍と交戦により、ブラックナイトユニットの勢力も7割まで低下し、当初準備した兵糧も、あと三日程度しかなく、ウクルキ達は南下すべきか北上すべきか、いよいよ難しい選択を迫られていた。
 メルガを乗せていた馬車は、速度低下を懸念して、既に放棄されており、メルガ自身も倒れた兵の馬を使っての移動となっていた。

「中隊長、このまま進むとマグネラの都に着いてしまいます、いかがしますか?」

 ウクルキは、正直かなり迷っていた。
 このままマグネラの街に入れば、間違いなくオルコ軍と交戦状態に入る、全員を平民に化けさせて入ることも考えたが、さすがに70名からの男たちが突然街に現れたら不審者以外の何者でもない。
 身を隠す深林もあまり無いことから、この判断は余計に急がれた。
 そんな状況がウクルキを悩ませているその時であった。

「中隊長、前方マグネラ市街から、煙が見えます」

 見張りの兵士が、ウクルキに報告をする。
 たしかに見張りが言う通り、マグネラの町からは煙が上がっている。
 一見すると、ただの火事に見えるが、これが同時に複数個所から上がっているのを見ると、それが単なる事故ではないとウクルキは判断した。
 彼らは双眼鏡で市街地を見ると、それは火災と言うより、暴動に見えた。
 そして、事情は解らないものの、抵抗する市民に対し、マグネラ駐屯軍と思われるオルコ帝国軍兵士が、市民を制圧しようとする動きに見えた。

「中隊長、どうしますか、少し様子を見ますか?」

 ウクルキは少し考えていた。
 自分のためについてきてくれた部下たちを、既に30人も失った現在、出来るだけ戦闘を回避しながらロクソム城へ帰ると言うのが第一目標であった。
 しかし、今、目の前で起きている虐殺行為を、どうして見過ごす事が出来ようか。
 それは、自分たちは君主を持たないブラックナイト・ユニットであることが、ウクルキの正義感を炊き付けていたのである。
 自分たちは、義軍でなければならない。
 それを信念としなければ、この部隊は存在意義を失ってしまう。
 
「あなた、、、」

 メルガが、ウクルキの元に駆け寄ると、それはもう、全てが伝わって来るほど表情に出ていた。
 メルガもまた、保身などという事は考えていなかった。
 目の前で起こる残虐行為に対してのみ、救いたいと考えるのであった。
 結局、この夫婦は自分の事よりも、他人の事が大事であり、大好きなのである。

「そうだなメルガ、俺たちは迷ってはいけないな」

 ウクルキがそう言うと、メルガはいつもの美しい笑顔でウクルキに答えるのであった。
 それを見ていたヤップ曹長が、部隊の全員に中隊長の元へ集まるよう伝えた。

 それは、ウクルキ達がマグネラの町に近づく直前のことであった。
 旧皇帝派の貴族集団が、マグネラの旧皇帝派住民と密に会合を開くためにこの街を訪れていた。
 そこには雄介達と別れてオルコ領内で反対勢力を助長するために工作活動中だった玲子君《レディー》やメルガの父親、ルガ・ハイヤー氏がいた。
 ルガは、旧皇帝派の貴族に極秘裏に接触し、帝都での工作を活発化させていた。
 そこへ、このマグネラで旧皇帝派住民による武装蜂起《ぶそうほうき》の話を聞きつけ、現場に急行していたのであった。
 それは、反乱を助長させるのではなく、まだ時期尚早であることを伝え、蜂起する時期を雄介達巨人族との合流時期まで待つように伝えることが目的であった。

 しかし、現実は玲子君たちの考えた通りには行かなかった。
 武装蜂起の情報を聞きつけたオルコ反乱軍は、この武装蜂起を準備していた住民と貴族の両方を一網打尽にしようとマグネラの街を包囲し、住民を虐殺しようとしていた、まさにそのタイミングでブラックナイト・ユニットが到着していた。

 ウクルキ達は、街を包囲する圧倒的な軍勢を前に、今、突撃せんとしていたのである。
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