162 / 332
決 意
第160話 ブラックナイト ユニットの結団
しおりを挟む
彼は、恐る恐る手紙を開封すると、メルガからウクルキへ宛てた最後のメッセージが書かれていた。
それは、まだ15歳の新妻からの、精一杯であった。
手紙には、自分を妻として、メルガ・ウクルキとしてくれたことへの感謝の気持ち、彼への一途な思いと、彼女が最初にウクルキを意識したのが、実は初めて会ったその瞬間であったことなど赤裸々に語られていた。
そして、最後に書かれた一文は、それまで我慢していた涙を、ついに流させるものだった、そこには
≪どうか私の事は忘れてください、私は最初からいなかったのです。
あなたはまだ未来があります、私に気兼ねせず、どうか初婚として新しい奥様をお迎えください。
どうかこれだけは聞き入れて頂けますよう。
それでは、さようなら。≫
ウクルキは、もはや立場を超えて、誰かに見られようが関係なく、ただ妻のために泣いた。
そして、怒りを露わにし、泣き崩れながら、メルガの名前を呼び続けた。
「新たな妻とは、一体なんだ、メルガ、お前が私にとって生涯ただ一人の妻ではないか、なぜそのような事を申す!」
ウクルキも、メルガの気持ちをよく解っていた。
しかし、それが理屈で入って来ないのだ。
彼は、公人として、軍人としては正しい行いをしただろう。
しかし、一人の女性の夫として、それは正しい事だったのだろうか、ウクルキの頭の中では、それが呪文のように回り続けていた。
そうなのだ、夫として、処刑されることが解っていながら、目の前で妻を引き渡すなど、許される行為ではない。
涙も枯れるより前に、ウクルキは自身が一体何をすべきかを悟ったように、準備を始めた。
一人になった部屋の隅で、彼は機動騎兵中隊長の軍服姿に身を包み、鏡台の前に立っていた。
「最初からこうすべきだったな、私は」
頬を流れた涙の跡に、微笑む彼の笑皺《わらいじわ》が重なると、胸に描かれたドットス王立軍の軍章を勢いよく剥ぎ取り、彼は君主を持たない孤高の騎士となった。
「黒騎士《ブラックナイト》、、これじゃあユウスケ殿の事を言えないな」
ようやく上がった朝日を横目に、ウクルキは帯剣し館を去った。
メルガとの思い出の詰まった愛しい館に、最後一礼すると、決意を新たに最後の戦場へ向け馬を走らせた。
ウクルキは、それが公人として落第点であることを十分に理解した上で、単騎妻の奪還に乗り出したのだ。
それが、確実に負ける戦であると理解していても、彼の騎士道精神がそれを許さなかった。
メルガが彼の良妻であろうとしたように、ウクルキも夫としての責務を果たそうとしていた。
ウクルキは、単騎による行動としても、世話になったフキアエズ王国に迷惑をかける訳にはいかないと、メルガの護送部隊への襲撃は、正々堂々とオルコ帝国領内へ入ってから行うつもりであった。
それであれば、ブラックナイトが単騎で仕出かしたこと、責任は自分一人で背負えると考えていた。
ウクルキが護送部隊から一定の距離を取りながら追跡を開始してまもなく、フキアエズ王都の城門を出てすぐに、ウクルキの目には意外なものが飛び込んできた。
何やら騎兵隊のような一団が、こちらに整列して何かを待っているかのようだった。
ウクルキは、フキアエズの騎兵が自分に何か用でもあってのことか、不思議そうに見ていたが、それはよく見れば、、、よく見知った騎兵である。
「ヤップ曹長?、ドロエ中尉、、、みんな、どうした?」
「先ほど通過した車列は、もしやエレーナ様の、、、」
ヤップ曹長がウクルキに聞いて来た。
100騎以上はいるであろうその大軍は、よく見れば全員C中隊の隊員だった。
ヤップ曹長は、下士官を束ねる先任下士官、ドロエ中尉は中隊長であるウクルキに次ぐナンバー2の立場で、先任小隊長兼ねて先任士官でもあった。
「どうしたみんな、と言うか、ここはフキアエズ領内だぞ」
「中隊長こそ、今の車列はエレーナ皇女を乗せた反乱勢力の車列ではありませんか、もしや、、、連行されたのですか?」
「ああ、たった今、連れて行かれた」
指揮官と隊員の間を、静寂が支配する。
「、、、、中隊長、行かれるのですね」
「、、、、君たちには、関係の無いことだ、これは夫として、私個人のことだ」
すると、「夫」という言葉を聞いた隊員から、少し冷やかすような口笛と笑声が聞こえてきた。
「何だと言うのだ、冷やかしに来たのなら越境してまですることではないぞ」
「いえ、中隊長へご結婚のお祝いを、一同まだ言えていませんでしたから、、、、皆、心は一つにございます」
先ほどまでお道化ていた雰囲気が、一気に張りつめ、ウクルキは隊員が一体どのような覚悟でここへ来ているかを悟るのである。
「いかん、それはならぬぞ、これは私闘にすぎぬ、諸君らを巻き込むことなど出来る訳なかろう、速やかに転進し、原隊へ復帰せよ」
「それはできません、お解りになりませんか?我らC中隊、中隊長あってのC中隊です。それに、我々はもはやドットス軍人ではございません」
よく見れば、マントの内に秘める彼らの胸には、本来あるべき場所にドットス軍章が剥ぎ取られ、それはウクルキと同様に全員がブラックナイトになっていた。
「よせ、まだ間に合う、愚かな選択をするのではない!」
「愚かではありあせん、単騎で花嫁を奪還しに行く中隊長よりは、よほど正常です」
「中隊長、我々はみな家族への別れも済ませ覚悟を決めてきた者です。ロームボルト旅団長も、越境演習《えっきょうえんしゅう》には興味が無いと仰っておりました」
ロームボルド准将の、粋な計らいもウクルキの心には響いていた。
部下たちのこれからを考えれば、それは指揮官として了承出来るものでは到底ないものであったが、彼らの真剣な眼差しに、その決意を見出したウクルキは、それ以上は何も言うまいと心を決めたのである。
こうして、黒騎士部隊《ブラックナイト ユニット》は、皇女《メルガ》奪還作戦を開始するのである。
※ ブラック・ナイトとなったウクルキ少佐 ↓
それは、まだ15歳の新妻からの、精一杯であった。
手紙には、自分を妻として、メルガ・ウクルキとしてくれたことへの感謝の気持ち、彼への一途な思いと、彼女が最初にウクルキを意識したのが、実は初めて会ったその瞬間であったことなど赤裸々に語られていた。
そして、最後に書かれた一文は、それまで我慢していた涙を、ついに流させるものだった、そこには
≪どうか私の事は忘れてください、私は最初からいなかったのです。
あなたはまだ未来があります、私に気兼ねせず、どうか初婚として新しい奥様をお迎えください。
どうかこれだけは聞き入れて頂けますよう。
それでは、さようなら。≫
ウクルキは、もはや立場を超えて、誰かに見られようが関係なく、ただ妻のために泣いた。
そして、怒りを露わにし、泣き崩れながら、メルガの名前を呼び続けた。
「新たな妻とは、一体なんだ、メルガ、お前が私にとって生涯ただ一人の妻ではないか、なぜそのような事を申す!」
ウクルキも、メルガの気持ちをよく解っていた。
しかし、それが理屈で入って来ないのだ。
彼は、公人として、軍人としては正しい行いをしただろう。
しかし、一人の女性の夫として、それは正しい事だったのだろうか、ウクルキの頭の中では、それが呪文のように回り続けていた。
そうなのだ、夫として、処刑されることが解っていながら、目の前で妻を引き渡すなど、許される行為ではない。
涙も枯れるより前に、ウクルキは自身が一体何をすべきかを悟ったように、準備を始めた。
一人になった部屋の隅で、彼は機動騎兵中隊長の軍服姿に身を包み、鏡台の前に立っていた。
「最初からこうすべきだったな、私は」
頬を流れた涙の跡に、微笑む彼の笑皺《わらいじわ》が重なると、胸に描かれたドットス王立軍の軍章を勢いよく剥ぎ取り、彼は君主を持たない孤高の騎士となった。
「黒騎士《ブラックナイト》、、これじゃあユウスケ殿の事を言えないな」
ようやく上がった朝日を横目に、ウクルキは帯剣し館を去った。
メルガとの思い出の詰まった愛しい館に、最後一礼すると、決意を新たに最後の戦場へ向け馬を走らせた。
ウクルキは、それが公人として落第点であることを十分に理解した上で、単騎妻の奪還に乗り出したのだ。
それが、確実に負ける戦であると理解していても、彼の騎士道精神がそれを許さなかった。
メルガが彼の良妻であろうとしたように、ウクルキも夫としての責務を果たそうとしていた。
ウクルキは、単騎による行動としても、世話になったフキアエズ王国に迷惑をかける訳にはいかないと、メルガの護送部隊への襲撃は、正々堂々とオルコ帝国領内へ入ってから行うつもりであった。
それであれば、ブラックナイトが単騎で仕出かしたこと、責任は自分一人で背負えると考えていた。
ウクルキが護送部隊から一定の距離を取りながら追跡を開始してまもなく、フキアエズ王都の城門を出てすぐに、ウクルキの目には意外なものが飛び込んできた。
何やら騎兵隊のような一団が、こちらに整列して何かを待っているかのようだった。
ウクルキは、フキアエズの騎兵が自分に何か用でもあってのことか、不思議そうに見ていたが、それはよく見れば、、、よく見知った騎兵である。
「ヤップ曹長?、ドロエ中尉、、、みんな、どうした?」
「先ほど通過した車列は、もしやエレーナ様の、、、」
ヤップ曹長がウクルキに聞いて来た。
100騎以上はいるであろうその大軍は、よく見れば全員C中隊の隊員だった。
ヤップ曹長は、下士官を束ねる先任下士官、ドロエ中尉は中隊長であるウクルキに次ぐナンバー2の立場で、先任小隊長兼ねて先任士官でもあった。
「どうしたみんな、と言うか、ここはフキアエズ領内だぞ」
「中隊長こそ、今の車列はエレーナ皇女を乗せた反乱勢力の車列ではありませんか、もしや、、、連行されたのですか?」
「ああ、たった今、連れて行かれた」
指揮官と隊員の間を、静寂が支配する。
「、、、、中隊長、行かれるのですね」
「、、、、君たちには、関係の無いことだ、これは夫として、私個人のことだ」
すると、「夫」という言葉を聞いた隊員から、少し冷やかすような口笛と笑声が聞こえてきた。
「何だと言うのだ、冷やかしに来たのなら越境してまですることではないぞ」
「いえ、中隊長へご結婚のお祝いを、一同まだ言えていませんでしたから、、、、皆、心は一つにございます」
先ほどまでお道化ていた雰囲気が、一気に張りつめ、ウクルキは隊員が一体どのような覚悟でここへ来ているかを悟るのである。
「いかん、それはならぬぞ、これは私闘にすぎぬ、諸君らを巻き込むことなど出来る訳なかろう、速やかに転進し、原隊へ復帰せよ」
「それはできません、お解りになりませんか?我らC中隊、中隊長あってのC中隊です。それに、我々はもはやドットス軍人ではございません」
よく見れば、マントの内に秘める彼らの胸には、本来あるべき場所にドットス軍章が剥ぎ取られ、それはウクルキと同様に全員がブラックナイトになっていた。
「よせ、まだ間に合う、愚かな選択をするのではない!」
「愚かではありあせん、単騎で花嫁を奪還しに行く中隊長よりは、よほど正常です」
「中隊長、我々はみな家族への別れも済ませ覚悟を決めてきた者です。ロームボルト旅団長も、越境演習《えっきょうえんしゅう》には興味が無いと仰っておりました」
ロームボルド准将の、粋な計らいもウクルキの心には響いていた。
部下たちのこれからを考えれば、それは指揮官として了承出来るものでは到底ないものであったが、彼らの真剣な眼差しに、その決意を見出したウクルキは、それ以上は何も言うまいと心を決めたのである。
こうして、黒騎士部隊《ブラックナイト ユニット》は、皇女《メルガ》奪還作戦を開始するのである。
※ ブラック・ナイトとなったウクルキ少佐 ↓
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる