自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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怒号と雄叫び

第112話 興奮に似た恍惚

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「おいおい、城主で総司令官の君が、こんな所まで来て大丈夫なのか?」

「構いません、わが軍の戦勝を見守ることも、本来でああれば城主の務めです。」

「いけませんマキュウェル様、ここはまだ危険です」

 ベナルが慌ててマキュウェルを城内に戻そうとするが、マキュウェルはその場に留まると言って聞かなかった。
 この城は、現在衛兵以外ほぼ丸腰状態だから、ベナルの言っている通りだった、が、マキュウェルの表情には、軍人が持つ「勝利」がもたらす興奮に似た、恍惚《こうこつ》とした表情を帯びていた。
 これは、麻薬のようなもので、戦場でこれを覚えてしまうと、軍人は勝利を求めて戦い続けてしまうのだ。

 、、、、あれ?、、何で俺、そんな歴戦の勇士みたいな事が、今、解ったんだ?
 
『ですから、それが未来の思い出なんです」

『おお、シズ、大丈夫だったか?」

『いえ、今回は私、何もしていませんから。しかし、GF、お見事な勝利でした。まるで戦い慣れた将校のようで、気迫に溢れてましたわ、美鈴も、お疲れさま!」

 本当に、玲子君もよくやってくれた。
 19歳の女性が、よくここまで古式のい兵器を扱えたものだ。
 疲労した玲子君を横目に、マキュウェルが俺の方を見ている。

「どうした、マキュウェル?」

「ユウスケ殿、、、、、やはり行くのですか?」

 マキュウェルは、どうやらこの勝利の形を見て、俺の考えていたことを察していたようだった。
 、、、、若くても城主なのね、大したもんだわ、マキュウェル。

 丁度そんな時だった、最前線に到達したロームボルド大佐のいる方向から、勝鬨《かちどき》の雄叫《おたけ》びが聞こえてくると、全軍にそれは伝播《でんぱ》し、ロクソム城の周辺は、8000名の兵士によって、怒号《どごう》のような勝鬨の嵐に包まれた。
 その興奮と熱量は、ロクソム城の上にいる俺たちまで、それは地鳴りのように届いていた。

 勝利、、、、俺たちは、この戦いを制したのだ。

 これは、あまり人の事を言えないな、俺自身が、勝利の余韻に興奮している、体の芯が熱い、、、、
 これが戦いに勝つという事なのか。
 
「さあ、勇士達を出迎えましょう、兵士には酒保《しゅほ》を開放して、十分な休養を、将校には謁見《えっけん》の名誉を今夜のうちに授けましょう」

 マキュウェルがそう言うと、そこにいた一同は皆、笑顔で同意した。

 今日は、大宴会だな、これは。
 ロームボルド大佐が突進したおかげで、すっかり後方に位置してしまったA中隊長のマキヤ少佐が、早くも城内へ帰ってきていた、そして彼は、城の上にマキュウェルの姿を見つけると、中隊全員を停止させ、高々と敬礼するのであった。
 この時の、充実したA中隊の将兵の表情は、何とも印象的だった。
 感動して、目に涙を浮かべる者もいた。
 特にまだ青年将校である小隊長クラスは、マキュウェルの微笑みに感極まったようだった。

 、、、、なんだかアイドルのコンサートみたいじゃないか、、、。
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