自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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怒号と雄叫び

第107話 敵軍尖兵を殲滅させなければ

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 俺は部隊の編成を大急ぎで行った。
 ベナルは、城内の各部隊へ命令を徹底させるのに奔走した、それは各連隊長を集めて、緊急の作戦会議となったが、これに異を唱える者は誰一人いなかったらしい。
 俺は俺で、3人の中隊長を集め、戦闘指導を地図上で始めた。

「マキヤ少佐、君のA中隊が先鋒として、このロクソム城から真っすぐ伸びる進路上を使って、敵の正面から全速力で突入してほしい。重装甲騎兵の意地を見せてくれ。次にウクルキ大尉のC中隊が、南の草原地帯から迂回して、敵の尖兵部隊の側面から迫ってほしい。最後にノアンカ大尉だが、B中隊は少し厳しいのだが、小銃小隊を編成し、これを先鋒としてハイハープ峡谷から敵陣深く侵入して、敵の側背を突いてほしい、小銃小隊であれば、敵の尖兵を壊滅に追いやれる。」

 しかし、一番序列上位のマキヤ少佐が異を唱えた。

「しかし、この方法では騎士道に背くことになります、A中隊はそのような姑息な手段を取らずとも正面から正々堂々と敵軍を突破してご覧にいれます。」

 こんなふうに、騎士道前面押しの意見を聞くと、やはりベナルはこの世界にあって異端な部類に入るほど、頭が柔らかいのだと改めて痛感する。
 そうなんだ、これがこの世界の標準なんだ。
 彼らが軍人らしくありたい、そう思うからこそ、彼らは危険な軍人の道を選んでいる、そんな彼らを説得しなければならない、、、それも短時間で。

「いいか、マキヤ少佐、君の言う騎士道精神は称賛出来る考えだと思う、しかし君は指揮官である私の考えを完全に理解した上でその意見を上申しているのかい?」

「、、、、いえ、、出過ぎた事を申しました、」

「まあ、作戦を聞いてくれ、納得行かないかもしれないが、これがドットス側を勝利に導く最短ルートなんだ。まず、この敵軍尖兵を殲滅させなければこの作戦の意味を成さない」

 そうなんだ、ここは本当に聞いて欲しいところなんだ。
 もう時間も無いしな。

「敵軍の背後に回り込んだ部隊と、側面を迂回する機動騎兵、それと正面切って切り込んでゆく重装甲騎兵中隊が呼吸を合わせてこそ、初めて敵軍を全滅に追いやることが出来る。敵の尖兵は、このロクソム城に繋がる道を押してくる部隊だよな、そうすると、敵の先頭部隊には、どんな部隊が配置される?」

「はい、我がA中隊と同様の重装甲騎兵が最も効果的ではないかと」

「そうだよな、そんな重装甲騎兵が、草原地帯である側面に反撃出来るかい?、ましてや側面に小銃小隊を含んだ軽歩兵中隊が回り込んだとして、君ならどう対処する?」

「、、、、なるほど、これは厄介な配置ですね、重装甲騎兵中隊の最も有利な正面からの力押しが、兵力分散され衝撃力を失うでしょう。A中隊の騎兵は皆、猪突猛進な兵が多いですからね」

 これを聞いて、他の二人の中隊長も十分に納得出来た様子だった。
 実は、この作戦にはもう一つの秘密がある。
 それは、その中隊が主力中隊であるかを解らないようにしているのだ。
 つまり、どの中隊も、考えようによっては自分たちこそが主力中隊だと感じることが出来る、そうすることで、兵士の士気が上がり、昼間の戦いで疲労している部隊の戦闘能力を最大限に高めることが出来るはずだ。
 まあ、この部分は、さっきベナルが言った「ロームボルド連隊を第2悌隊へ」との意見を参考にさせてもらったんだけどね。

「さあ、作戦が理解できたなら、速やかに各中隊は命令を徹底してくれ、時間が勝負だ、各中隊、1時間で出陣してくれ」

 最初、各中隊長は1時間という時間にとても驚いたが、事の重大さを感じ取った中隊長たちは直ちにその場を立ち去り、出陣準備に取り掛かった。
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