自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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ハイハープの戦い

第102話 タイムトラベラーである可能性

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『玲子君、盛大に爆撃してくれ!」

 突然、何もないように見える空から、砲弾が、その名の通り降って沸いた。
 一瞬でオルコ軍の統制が乱れ、地上は大混乱になっていった。
 爆発の威力はあまり大きいものではないが、この世界の兵士たちは、基本的に密集体形による槍と弓の隊列を成している。
 そのため、爆発物が投下されると、それはまるで渋谷の交差点に爆発物が投げ込まれたような状況になる。
 一発づつの威力は小さくとも、密集した生身の人間に対して、これほど効果的な武器はないだろう。
 その爆発の中、それでも突進してくる兵士たちがオルコの中に存在していた。
 ムスキは、それら敵兵に対し、よく訓練されたスナイパーのように、妖精さんにお願いをするたびに、的確な射撃によって敵兵を次々と倒して行く。

 、、、俺は、ヤバいものをムスキに与えてしまったと、少々後悔しつつ、この状況を変える重要な戦力であるムスキの存在が有り難く感じられた。

 そんな時だった。

 敵の小銃手から、少し離れた場所に、別の小銃手がこちらに銃口を向けているのが見えた。
 、、、なんだか、いままでの小銃手とは、少し様子がおかしい、構え方が普通の小銃手と違うのだ。

『シズ、あそこに見える敵の小銃手が解るか?、あれを拡大してこっちにモニターしてくれないか」

 シズの望遠レンズが捕えた敵兵は、M-1ガーランドライフルよりかなり細い印象を受けた。
 そして、その銃の横には、明らかに何か付いている、、、、。

「ムスキ、やめるんだ、伏せろ!」

 俺がそう言うと同時に、ムスキの額を、一発の弾丸が捉えた。
 ムスキは、銃をその場に落とすと、額から流れる自身の潜血に一瞬凍り付き、その場にヘナヘナと崩れ落ちた。

「ムスキ!」

 俺は、彼女が倒れ込むと同時に、彼女をキャッチすることに成功した。
 彼女の顔面は、見る見る蒼白になって行く。
 傷を見ると、額をかすった銃弾は、頭蓋骨には達していなかった、、、本当に不幸中の幸いとはこのことだ。
 俺は倒れ込むムスキを見て、全身の血の気が引いた、それは友人であるムスキが撃たれたことだけではない。
 敵が装備している小銃は、旧日本軍の装備していた「97式狙撃銃」だったからだ。
 俺は、さっきまで敵がM-1ガーランドライフルを装備していたのは、自動銃であり、頑丈で扱いやすい特性からだと勝手に思っていた。
 しかし、それは違う、ここに旧軍の小銃があるという事は、これを彼らにもたらした人物は、恐らく第二次世界大戦からのタイムトラベラーである可能性が高いのだ。
 、、、なぜなら、この狙撃銃、戦後日本で使われた経緯がない、旧式の38式歩兵銃の弾丸を使うため、戦後の弾丸規格と合わないのだ。
 そう思い、先ほど仕留めた小銃手たちが装備していた小銃を、シズにお願いして拡大モニターしてみると、微妙に異なる小銃が含まれていた。
 ドイツのモーゼル、ソヴィエトのナガン、自動銃ではないが、いずれも戦時中に使用されていたものばかりを集めている。
 旧式であったため、実は俺が認識しているよりも多くの小銃手が、敵の中には含まれていた。
 幸い、玲子君の落とした砲弾が、効果的に敵を殲滅してくれたお陰で、それらは予想ほどの攻撃に活かすことが出来なかったようだ。
 
 したを見ると、憤慨したロームボルド連隊長が、部下の制止を、今まさに振り切らんと剣を片手に何か怒鳴り散らしていた。
 、、、あれじゃ部下は大変だ。
 
 日が傾きかけた頃、オルコ帝国軍が、後方の悌隊から、逐次後退してゆくのが見えた。
 引き際としてはこんなもんだろう、このまま日没してしまえば、生存者の救助しら敵前で行うことになってしまう。
 
 、、、、長い一日が、もうすぐ終わる。
 
 俺は、自分の立案した作戦に、絶対の自信をもってこの戦いに臨んだつもりだった、、しかし、結果はこのザマだ。
 オルコ帝国軍も、恐らく数日で体勢を整えられないレベルの損害を出して後退した、平静を装ってはいるが、ドットス王立軍もただでは済まない。
 特に、要塞守備隊であったロームボルド連隊は、予想以上の損害が出ていた。
 これが剣と槍、弓で戦っていた世界に銃器を持ち込む、つまりは大量損耗を要求する近代戦を持ち込むと言う結果なのだ。
 俺たちのいた現世が、如何に愚かで無駄の多い戦いをしているかが、この惨状を見るとよくわかる。
 民間人に犠牲を出さず、騎士同士で決着をつける旧来の方式の方が、よほどまともに見えてしまう。
 俺は、これまで中世は日本も世界も野蛮な時代なんだと思っていたが、一体どっちが野蛮なんだか、、、。 
 
 ムスキは、衛生兵によって、城内の救護所に運ばれていった。
 ノアンカ大尉と、カシラビ伍長、その部下たちも、疲労の色が隠せない。
 自分たちの使い慣れた武器で戦う分には疲労も予測値内だろうが、初めての銃器の使用は、彼らに重い疲労感をもたらした事だろう。
 そういう俺も、もうクタクタで、、、気持ちも少し、上の空だった。
 
「雄介様、お疲れ様でした」

 玲子君が、塔の上まで俺を気遣って来てくれた。
 正直、今、彼女に抱き着いて、泣いてしまいたい衝動に一瞬駆られたが、何とかそれを押し殺した。

「玲子君は無事か?シズも」

 当然無事だろうという思いからの発言だったが、玲子君の表情は少し曇っていた。

「大したことは無いのですが、、、SIZが被弾しました」
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