自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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海軍基地の攻防戦

第42話 あんた、軍曹だろ

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 原子力空母が停泊している港は、既に火災と混乱で混沌となっていた。
 俺たちが到着した時、陸軍の軍服を着ていたからか、陸軍が増援を出してきたものと勘違いされた。
 そんな混沌としたタイミングで、歴史にあった、予定通り、武装工作員による着上陸作戦が開始されていることが、ここにも情報として入り始めた。

「おい、あんた、軍曹だろ、我々は陸戦には不慣れなんだ、ここの指揮を取ってくれないか?」

「いや、俺よりここには上位者がいるのだが」

 そう言うと、彼女は、自分が軍医であることを周囲に告げる。
 なに?軍医だと?
 それでこの年齢で中尉階級なのか。
 周囲の海軍軍人たちの羨望の眼差しは、一気に俺に向けられた。
 いやいや、一応陸自では2曹だけど、訓練10日間しか受けてないし、彼らを指揮出来るレベルじゃないぞ。

「よし、敵は反対側の海方向から来る、全員ここに土嚢を積んで、東側からの攻撃に備えるんだ」

 、、、ハッタリをかましました。

 まあ、敵の来る方向は分かっていたので、指示は間違っていないよな。
 でも、武装工作員を全滅させるには、こんな警戒ポストレベルでは防げない。

「この中で、一番射撃が上手なのは誰だ」

「はい、この中ではライアン二等兵がダントツです」

「ライアン二等兵って、ベタな名前だな。」

 笑いを取ろうと思って言った言葉だったが、誰も笑う素振りを見せなかった。
 、、、みんな見てないのか?プライベート ライアン。
 まあ、なんとなく弾、当たりそうな名前ではあるけど。

「では、ライアン二等兵、それと、君たち3名は、このトンネルの上に射撃陣地を構えて、東方向からの敵が我々を襲撃している横から射撃を加え、できるだけ敵を減らしてくれないか?」

 彼らは、無我夢中で俺の指示を聞いてトンネルの上の方を目指して走っていった。
 1名には、手榴弾、機関銃と3000発の弾薬を持たせておいた。
 いやあ、重いだろうに、アメリカの若者はスタミナあるなあ。

「空母の関係者は誰かいないか?もうすぐここに敵の工作員が、空母を直接破壊に来るだろう、出航はできないか?」

 俺は、歴史上、ここで撃破される予定の空母が横須賀から出航してしまえば、ここは俺たちの勝ちだと思っていた。
 そのため、この空母が出航出来るかどうかが重要だった。
 守備隊の伍長が、それを聞いてすぐさま艦内のクルーに出航準備状況を確認すると、それは偶然にも、出航前の準備中に襲撃にあっていたため、出航自体は直ぐにでも出来るとのことだった。
 よし、それならば、迷うことはない。

「了解した、速やかに出航を進めてくれ」

 俺がそう言い終わると、まるでそれを待っていたかのように武装工作員がこちらに迫った。

「よし、応戦だ、敵をこの警戒ポストに引きつけるんだ」

 本当に昨年、予備自衛官補の英語技能試験を受けていて良かった。
 自動翻訳機全盛の時代でも、結局指揮をするときには肉声と軍用英語なんだよな。
 軍事は素人でも、これなら何とか空母を沖合に逃がせる。
 俺は初めての戦闘と、部隊を指揮する高揚感によって、少し頭に血が上っていたのかもしれない。
 俺はこの後、痛恨のミスを犯すのだ。
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