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不思議美人の訪問者

第1話 自称「未来人」、美鈴玲子

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 今どき珍しい木造二階建
 西日のキツいアパートの一室。
 こんな部屋で、大学2年の男が一人で暮らしている。


 考えただけで同年代の女子が一番嫌悪しそうなこの空間を、打ち破るかのように一人の女性が訪れた。

 それも、とびきりの美女、そして俺好みのインテリ女子。

 ボディーラインが美しい、黒いタイトなスーツを身に纏い、いかにも大企業の美人秘書と言ったその立ち姿の女性は、俺がドアを開けるなり、突然こう話し始めた。

「、、、貴方は斉藤雄介さいとうゆうすけさんで間違いありませんか?」

 まあ、、、フルネームで聞かれれば、特に間違いでもないので、とりあえず、「はい」と答えたものの、自分が何処の誰だかも名乗らず、随分失礼な女だと思いつつ、そのボロアパートには不釣り合いな美貌と、さっぱり噛み合わない、フォーマルな身形みなりに、その失礼さは一旦十分な理由になり得た。

 ただ、一つ気になったのは、きちんとした姿であるのだが、俺の事を見るなり、何やらと言った表情を見せた事だった。

「斉藤雄介さん、とでも大事な、そして緊急のお話があります。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 、、、いや、とりあえず、貴女は誰?、そしてなぜ私に、そして何の用?
 彼女の後ろに恐い大男がいて、何やら因縁を付けてくるとか、そんなノリではあるまいか?

 そう思えるほどに不自然なシチュエーション。

「突然そう言われましてもね、何かセールスですか?、、、正直、お金にはあまりご縁の無い身の上ですが」

 硬い表情の彼女を、和ませるつもりで放った言葉だったのだが、俺はそれを、少しだけ後悔した。

 彼女は、そのような和みには、まったく興味を示してはこなかった。
 しかし、このまま玄関で立ち話も、逆におかしなシチュエーションだと感じた俺は、下心半分に、彼女を部屋の中へと上げてしまったのだった。

 ああ、苦学生の悲しい性、刺激と女性に飢えた若者が、後ろに恐い大男がいたとしても、この魅力的な女性を前に、何をブレーキなんぞかけようか。
 そして万年床の横にある、僅かな生活スペースである、安いちゃぶ台の対角線上に彼女を案内すると、意外にも彼女は躊躇ちゅうちょなく差し出したクッションに座り、そして真っ直ぐにこちらを見てこう言った。

「まずは私を認識して頂き、ありがとうございます、申し遅れましたが私は美鈴玲子みすずれいこと申します、決してセールスなどに来た訳ではありません。これから私は少々衝撃的な事をお話しなければなりません、どうか冷静にお聞き下さい」

 、、、俺は思った、、、


 大人の女性って、随分いい匂いなんだなって。


 彼女はきっと真剣なのだろう、でも俺は今を全力で生きていたい、そしてきっと後悔は無い。

 随分と真剣な眼差しで、そして、、、言葉を溜めて、なんとも焦らすように少し俯いて、、、、そして口を開いた。

「私は100年後の未来から、あなた自身の命令により派遣されて来ましたGF直轄の職員です。もうすぐ貴方の生命に関わる重大事態が発生します。貴方は私の指示に従って行動してください。そうしないと、この世界は収集がつかない事態へと発展してしまうのです」

 その時、俺は直感した。

 彼女は、とても可愛そうな妄想癖のある女性か、三流の詐欺師《さぎし》だ。

 、、、しかし、いや、、しかし、、、、この美貌にしてこの不思議発言、これはもしや、俺好みの女性ではないか、いや、それもかなりのドストライク。
 そこで俺は、二つの選択肢を考えた。

 一つ目、
 これが、とても浅い詐欺行為であった場合でも、この詐欺がどのように俺を騙していくつもりなのか見てやろう。

 そして二つ目、
 この不思議美人の話しを親身に聞いてやり、長い時間をかけて彼女と親しくなろう、うん、そうだ親しく、、、より親しくなってゆこう。

 そう、彼女のような不思議ちゃん、それもタイトな黒いスーツが良く似合う、インテリ系不思議女子なんて、この世界で理解者など俺くらいのものだろう。
 いや、大丈夫、彼女の不思議さを、俺は理解して、共に温かい家庭を築いて行ける、、、そう、俺なら大丈夫。

 もう、この段階で、彼女が詐欺師である確率3割、ドッキリの確率1割、そして残り6割が気の毒な不思議妄想女子と言う都合の良い解釈になっていた、、いやいや、6割どころか、8割、9割でもいい!

 そんな割合の収支決算報告しゅうしけっさんほうこくが、まったく整合しない解釈を、俺は勝手に進めていた。

 何しろ、母親以外の女性が初めて自分の部屋に入った記念すべき日に、俺は少し舞い上がりすぎていたのかもしれない。
 しかし、ここでしっかり彼女の話しを聞く事で、まずは俺が理解者であると言う事を刷り込まなければならない。

 、、、俺は少し、わざとらしく、、、

「えええ、貴女はすると未来人?、GFの職員って言ってましたけど、それは秘密組織か何かですか?」

 さすがにちょっと白々しいとも思ったが、彼女の方はそうは捉えていないようだった。

「さすがは戦前のGFグランドファーザー、もう私の話しを理解し、認識できるのですね。」


 可愛いです!


 こんな表情も出来るんだ!
 俺はつくづく彼女の美しさに感心しつつ、その表情に酔いしれた。

「そう、GFとは組織名であるとともにあなたを指す言葉でもあるのです、斉藤雄介さん、貴方が100年後のGF、つまりグランドファーザーです。」

 ああ、キタキタ、彼女の中の妄想では、俺はかなりの重要役職らしい。
 大体なんだよグランドファーザーおじいちゃんって。
 この時点で、詐欺師の可能性より、不思議ちゃん率が絶賛上昇中だった。
 「吐きだめに鶴」と言う言葉を、俺は喜びとともに、しみじみ噛み締めていた。
 待っていれば、良いこともあるものだ。

「そうですかー、グランドファーザー、私は少なくとも100年後も生きていると言う事なんですねー、いやあ、さすが俺」

 しかし、その言葉を境に、彼女の表情は急に曇りだした。
 何か言いにくい事でもあるのだろうか?

 いいんだぞ、俺は君の妄想に付き合うぞ、何しろ暇な大学生ですから。
 もしかして、、、、貴方は100年後の世界では、既に死んでいるのです、、、、なんて言うのかな、

 クーっ! 可愛いです!

 いいんですよ!100年後に生きてる予定は今のところありませんからね!
 そんなに長生きしたら、ギネス更新しちゃいますから!

 、、、そんな風に思っていたのだが、それが彼女の妄想だとしても、詐欺行為だとしても、俺は少しだけ彼女の妄想が、信じられるような衝撃の一言が、この後、彼女の口から発せられるのだった。

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