1 / 341
不思議美人の訪問者
第1話 自称「未来人」、美鈴玲子
しおりを挟む今どき珍しい木造二階建
西日のキツいアパートの一室。
こんな部屋で、大学2年の男が一人で暮らしている。
考えただけで同年代の女子が一番嫌悪しそうなこの空間を、打ち破るかのように一人の女性が訪れた。
それも、とびきりの美女、そして俺好みのインテリ女子。
ボディーラインが美しい、黒いタイトなスーツを身に纏い、いかにも大企業の美人秘書と言ったその立ち姿の女性は、俺がドアを開けるなり、突然こう話し始めた。
「、、、貴方は斉藤雄介さんで間違いありませんか?」
まあ、、、フルネームで聞かれれば、特に間違いでもないので、とりあえず、「はい」と答えたものの、自分が何処の誰だかも名乗らず、随分失礼な女だと思いつつ、そのボロアパートには不釣り合いな美貌と、さっぱり噛み合わない、フォーマルな身形に、その失礼さは一旦置いておける十分な理由になり得た。
ただ、一つ気になったのは、きちんとした姿であるのだが、俺の事を見るなり、何やら意外と言った表情を見せた事だった。
「斉藤雄介さん、とでも大事な、そして緊急のお話があります。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
、、、いや、とりあえず、貴女は誰?、そしてなぜ私に、そして何の用?
彼女の後ろに恐い大男がいて、何やら因縁を付けてくるとか、そんなノリではあるまいか?
そう思えるほどに不自然なシチュエーション。
「突然そう言われましてもね、何かセールスですか?、、、正直、お金にはあまりご縁の無い身の上ですが」
硬い表情の彼女を、和ませるつもりで放った言葉だったのだが、俺はそれを、少しだけ後悔した。
彼女は、そのような和みには、まったく興味を示してはこなかった。
しかし、このまま玄関で立ち話も、逆におかしなシチュエーションだと感じた俺は、下心半分に、彼女を部屋の中へと上げてしまったのだった。
ああ、苦学生の悲しい性、刺激と女性に飢えた若者が、後ろに恐い大男がいたとしても、この魅力的な女性を前に、何をブレーキなんぞかけようか。
そして万年床の横にある、僅かな生活スペースである、安いちゃぶ台の対角線上に彼女を案内すると、意外にも彼女は躊躇なく差し出したクッションに座り、そして真っ直ぐにこちらを見てこう言った。
「まずは私を認識して頂き、ありがとうございます、申し遅れましたが私は美鈴玲子と申します、決してセールスなどに来た訳ではありません。これから私は少々衝撃的な事をお話しなければなりません、どうか冷静にお聞き下さい」
、、、俺は思った、、、
大人の女性って、随分いい匂いなんだなって。
彼女はきっと真剣なのだろう、でも俺は今を全力で生きていたい、そしてきっと後悔は無い。
随分と真剣な眼差しで、そして、、、言葉を溜めて、なんとも焦らすように少し俯いて、、、、そして口を開いた。
「私は100年後の未来から、あなた自身の命令により派遣されて来ましたGF直轄の職員です。もうすぐ貴方の生命に関わる重大事態が発生します。貴方は私の指示に従って行動してください。そうしないと、この世界は収集がつかない事態へと発展してしまうのです」
その時、俺は直感した。
彼女は、とても可愛そうな妄想癖のある女性か、三流の詐欺師《さぎし》だ。
、、、しかし、いや、、しかし、、、、この美貌にしてこの不思議発言、これはもしや、俺好みの女性ではないか、いや、それもかなりのドストライク。
そこで俺は、二つの選択肢を考えた。
一つ目、
これが、とても浅い詐欺行為であった場合でも、この詐欺がどのように俺を騙していくつもりなのか見てやろう。
そして二つ目、
この不思議美人の話しを親身に聞いてやり、長い時間をかけて彼女と親しくなろう、うん、そうだ親しく、、、より親しくなってゆこう。
そう、彼女のような不思議ちゃん、それもタイトな黒いスーツが良く似合う、インテリ系不思議女子なんて、この世界で理解者など俺くらいのものだろう。
いや、大丈夫、彼女の不思議さを、俺は理解して、共に温かい家庭を築いて行ける、、、そう、俺なら大丈夫。
もう、この段階で、彼女が詐欺師である確率3割、ドッキリの確率1割、そして残り6割が気の毒な不思議妄想女子と言う都合の良い解釈になっていた、、いやいや、6割どころか、8割、9割でもいい!
そんな割合の収支決算報告が、まったく整合しない解釈を、俺は勝手に進めていた。
何しろ、母親以外の女性が初めて自分の部屋に入った記念すべき日に、俺は少し舞い上がりすぎていたのかもしれない。
しかし、ここでしっかり彼女の話しを聞く事で、まずは俺が理解者であると言う事を刷り込まなければならない。
、、、俺は少し、わざとらしく、、、
「えええ、貴女はすると未来人?、GFの職員って言ってましたけど、それは秘密組織か何かですか?」
さすがにちょっと白々しいとも思ったが、彼女の方はそうは捉えていないようだった。
「さすがは戦前のGF、もう私の話しを理解し、認識できるのですね。」
可愛いです!
こんな表情も出来るんだ!
俺はつくづく彼女の美しさに感心しつつ、その表情に酔いしれた。
「そう、GFとは組織名であるとともにあなたを指す言葉でもあるのです、斉藤雄介さん、貴方が100年後のGF、つまりグランドファーザーです。」
ああ、キタキタ、彼女の中の妄想では、俺はかなりの重要役職らしい。
大体なんだよグランドファーザーって。
この時点で、詐欺師の可能性より、不思議ちゃん率が絶賛上昇中だった。
「吐きだめに鶴」と言う言葉を、俺は喜びとともに、しみじみ噛み締めていた。
待っていれば、良いこともあるものだ。
「そうですかー、グランドファーザー、私は少なくとも100年後も生きていると言う事なんですねー、いやあ、さすが俺」
しかし、その言葉を境に、彼女の表情は急に曇りだした。
何か言いにくい事でもあるのだろうか?
いいんだぞ、俺は君の妄想に付き合うぞ、何しろ暇な大学生ですから。
もしかして、、、、貴方は100年後の世界では、既に死んでいるのです、、、、なんて言うのかな、
クーっ! 可愛いです!
いいんですよ!100年後に生きてる予定は今のところありませんからね!
そんなに長生きしたら、ギネス更新しちゃいますから!
、、、そんな風に思っていたのだが、それが彼女の妄想だとしても、詐欺行為だとしても、俺は少しだけ彼女の妄想が、信じられるような衝撃の一言が、この後、彼女の口から発せられるのだった。
8
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
『おっさんが二度も転移に巻き込まれた件』〜若返ったおっさんは異世界で無双する〜
たみぞう
ファンタジー
50歳のおっさんが事故でパラレルワールドに飛ばされて死ぬ……はずだったが十代の若い体を与えられ、彼が青春を生きた昭和の時代に戻ってくると……なんの因果か同級生と共にまたもや異世界転移に巻き込まれる。現代を生きたおっさんが、過去に生きる少女と誰がなんのために二人を呼んだのか?、そして戻ることはできるのか?
途中で出会う獣人さんやエルフさんを仲間にしながらテンプレ? 何それ美味しいの? そんなおっさん坊やが冒険の旅に出る……予定?
※※※小説家になろう様にも同じ内容で投稿しております。※※※
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる