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第8章
反芻
しおりを挟む「どういうことだっ!!」
彼はーーー、
否、‘真田悠希’は黒い忍装束に身を包んだ男の胸倉を掴んで怒気を滲ませる。
「た、例え貴方様でも申し上げる訳には参りませぬ!」
男は真田の気迫に気圧されながらも、頑なに口を割ろうとしない。焦りと不安で手の力はさらに増し、ギリギリと男の首を絞め付ける。
「くそっ!!」
苛立ちから力任せに男を払いのけ、真田を取り囲んでいる兵士たちに向かって怒号を上げた。
「教えろっ!!!!佐助はどこにいる!?」
しかし、誰も俯いたまま答えることはない。
深い沼底に絡め取られていくような恐怖が全身を襲い、段々と鼓動が早くなる。
息を吸う事すら困難だった。
嘘だ、嘘だ、嘘だーーー。
冷や汗がたらりとこめかみを伝って地面に滴り落ちる。
その刹那、遥か遠くで銃声と剣戟が鳴り響き、真田は弾かれたように駆け出した。
兵士たちの制止も振り切り、真田は導かれるように深い森の中をひたすら真っ直ぐに進んで行く。
不意に、佐助が言ったあの言葉が頭を過ぎった。
〈これは、俺の命の使い道だ。〉
佐助は自分と瓜二つに化け、哀しげに微笑みながらそう言った。
嫌な予感がする。
「!」
全速力で走っていた最中、太い木の根に足を取られ、真田は派手に転倒した。
上手く受身が取れず、全身を地面に打ち付ける。
「……ぅっ!」
その時、声にならない程の激痛が腹部に走り、一瞬意識が飛んだ。
暫く息をする事さえできず、真田はその場でもんどりうって蹲る。
激痛を堪えながら何とか立ち上がろうとした時、ぬるりとした感触が掌に伝う。
「……!?」
真田はそこで初めて、自分が死の淵に立っている事を悟った。腹を押さえていた掌は鮮血が滴り、拳全体を真っ赤に染めている。
こんな深手を負っている事自体気付かなかった。
急に嘔気を感じて咳き込めば、口の中いっぱいに鉄錆の味が広がり、嘔吐したもので地面は赤黒く変色する。
それでも、真田は痛みで今にも飛びそうな意識を必死につなぎ止め、段々と喧騒が大きくなる方へと前進する。
「さ、すけ…っ」
真田は泣いていた。
ぼろぼろと大粒の涙を流しながら。
いくら佐助の名を呼んでも、木霊が静かに鳴り響くばかりであった。
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