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第7章
スキマ
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……
………
「あれ以来、お前とはまともに逢う事はなかったからな。今こうして、面と向かって礼を言えるのが嬉しいのさ。」
「…そうか。」
政宗の話が終わる頃には日付が変わり、あと数時間後にはこの穏やかな時間も終わりを告げる。
佐助は空になった酒瓶を一瞥し、そろそろ潮時かと腰を上げようとした刹那、ぐいっと政宗にシャツの袖を引かれて前のめりに倒れ込む。
「!」
驚く間も無く、佐助は政宗に抱き締められていた。
「…政、宗…?」
きつく抱き寄せられ、佐助は抵抗する事も忘れて呆然とする。
同じだなーーー。
俺が此処に来るきっかけになったあの時と。
どこか頭の片隅でそう冷静に考える自分がいた。
「佐助、俺がお前に言ったこと覚えているよな。」
誰かのために生きられないのなら、俺のためにそばにいろーーー。
その意味がわからない程、佐助は鈍感じゃない。
「お前が好きだ。転生してもなお、俺はお前しか欲しくない。」
「…っ!」
だが政宗が放った言葉に呼応するかのように、一瞬であいつの姿が脳裏に浮かんだ。
無邪気に笑う、幸村の顔がーーー。
「政宗…っ!」
その瞬間、どうしようもなく理解した。
この胸に空いた隙間を埋めるのは、あいつ以外にいないのだと。
政宗の言葉で気付かせられるとは、なんて皮肉な話だろう。
駄目だ。
幾星霜を重ねても、この想いが果てる日など永久に来ない。
誰かを代わりにして、生きていく事さえもーーー。
「政宗、俺は…っ」
言い切る前に、政宗は俺の顎をすくい上げて上を向かせて囁いた。
「言ったよな、忘れさせてやるって。一晩だけでもいい。俺の事しか考えられなくしてやるよ。」
「…!」
思考が一瞬停止する。
何故か政宗の手を振りほどくことができない。
きっとそれは、触れた政宗の唇が、少し震えていたからだろう。
佐助は静かに瞼を閉じた。
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