127 / 143
第12章-過去暁闇篇-
居場所
しおりを挟む一体、何が起こったのか。
身体を強張らせたまま、佐助は息を詰める。
「幸村、今何て……」
〝佐助は…犬なんかじゃない…。
佐助は俺にとってーーー
大切な家族だから…〟
幾多の修羅場を潜ってきた佐助でさえ、この状況は飲み込む事が出来なかった。
殺そうとした相手から手を差し伸べられるなんて。
今迄殺してきた輩が、死の間際に自分へ向けていたのは、怨讐や畏怖などの負の感情や言葉ばかりだったというのに。
もう佐助の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「わかっていたって……どういう、ことだよ…っ!」
計画が漏れていた?
ーーー否、それなら独りで来る道理はない筈だ。
家族だと?
ーーー此の期に及んで何を宣っている。
「俺は……っ!」
お前を殺そうとしたんだぞ!!
佐助は言い様のない感情で、心が押し潰されそうになる。
人を殺める時でさえ、何も感じなかったのに。
幸村の言葉が、声が、身体の奥底に響いて来る。
佐助は唯一動かせた唇を思い切り噛み、痛みで無理矢理覇気の呪縛から強引に逃れた。
口端から流れる血を拭うこともせず、佐助は呆然と足元の屋根瓦を見つめる。
幸村から佐助の姿は視認出来ない筈だが、何故か佐助は蛇に射竦められた蛙のように、その場から動けずにいた。
その時、
「佐助!貴様、何を躊躇っている⁉︎さっさと加勢しろ!!!」
八雲が余裕も策も投げ打って、形振り構わず佐助に援護を求めてきた。
佐助はその怒鳴り声で、弾かれたように顔を上げると、そのまま転げ落ちるように、幸村の前に姿を現した。
佐助の足元には、屈強な男達が折り重なり合うようにして地に伏していたが、幸村の言う通り全員の呼吸音は僅かに聞こえている。
この人数相手に、誰一人殺す事なく意識のみを奪うなど、並大抵の者には不可能に近い。
ゾクリと肌が粟立った。
「佐助」
「……っ!」
幸村はこの場にそぐわない程の綺麗な声音で、名を呼んだ。
顔が上げられない。
標的から視線を逸らすなど、最早戦いを放棄したに等しい行為であった。
ギシっと古びた床が僅かに軋み、幸村の気配がゆっくりと佐助に歩み寄る。何か八雲が叫んでいるが、佐助の耳には何も入っては来なかった。
「こっちを見ろ」
するりと佐助の頬に、温かな指先が触れる。
「一緒に帰るぞ、佐助」
「ーーーっ!」
ただ一言、幸村はそう言った。
この瞬間、佐助は生まれて初めて自身の躰に血が通った様な気がした。
此処に居てもいいと。
必要とされていると。
佐助は人間なのだとーーー。
他人に存在を肯定してもらう事が、こんなにも心地良いものだとは知らなかった。
佐助は、幸村の度量の大きさを思い知った。
しかしそれと同時に、自分が犯した取り返しのつかない罪に気付く。
でも、幸村になら殺されてもいいかーーー。
そう思った刹那、
パーンッ!!
耳障りな銃声が、夜空を彩る最後の打ち上げ花火の轟音に掻き消され、静かに爆ぜた。
0
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる