忍の恋は死んでから。

朝凪

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第12章-過去暁闇篇-

唯一無二

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「どうも。お初にお目に掛かります、幸村様」

慇懃な口調で、目の前にいる長身痩躯の男が頭を下げる。

『…やはり見覚えはないか』

男の放つ独特の雰囲気は、一度逢えば忘れたくても忘れることが出来ないだろう。一連の所作を見れば、手練れであることはすぐにわかった。

「……祭りを謳歌しに来た輩では、なさそうだな」

「そんな事はない。愉しみにしていましたよ?ずっと、この時が来るのを」

皮肉を言えば皮肉で返してくる、掴み所のない雲のような男だ。

幸村は警戒しながらゆっくりと後退る。

「お前達、子どもはどうした?」

「…子ども?」

無意味だとわかっていたが、念の為に子ども達に危害を加えていないか幸村は詰問する。

男は一瞬考え込む素振りをするも、すぐ合点がいったのかニヤリとほくそ笑んだ。

「ああ、彼等のことですか?元気ですよ。むしろ血気盛ん過ぎて、私の手に余るくらいだ」

そう言って男が手を挙げると、それが合図だったのか、井戸に身を潜めていた数人の手下が幸村の背後に詰め寄り、退路を断つ。

「私の可愛い子分こども達です。貴方と遊びたいようですよ、幸村様」

『ざっと見て十人足らずか…。成る程、あまり騒ぎを大きくすれば計画が露見する可能性もあるからな。少数精鋭で事を済ませる気か』

帯刀しているとは言え、幸村が圧倒的に不利な状況には変わりないのだ。

さて、どう切り抜けるかーーー。

数百もの策を瞬時に講じていると、目の前の男がくつくつと笑いながら吐き捨てる様に言った。

「本当なら、もっと秘密裏に事を運ぶつもりだったのに。とんだ〝犬〟に嗅ぎつけられてしまいましたよ。貴方も災難ですね。飼い犬に手を噛まれるなんて。」

「…犬、だと?」

ピクリと幸村の肩が震える。

「フッ、もう薄々気付いているんじゃないですか?貴方を殺して欲しいと頼まれたんですよ。貴方の犬に……否、佐助殿にね」

「………………」

男の問い掛けには答えず、幸村は俯いたまま黙り込む。

『それが、佐助おまえ運命さだめか』



ーーーならば俺は、それに抗おう。

自分で変えることができぬなら、俺がその運命を変えてやる。

傲慢だと言われてもいい。
自己満足だと罵られてもいい。

だけどせめてーーー、

『お前を感情のない獣にさせてたまるか!!』

ヒトとして生きていくのは、必ずしも楽な道ばかりじゃない。

だが、それでも価値はあるのだ。

腹を満たす悦び、
働いて汗を流す悦び、
満天の夜空を見上げる悦び、
飽くまで眠る悦び、

そして、誰かを愛する悦びーーー。

それは決して独りじゃ成し得ない、ヒトとしての唯一無二の〝感情〟なのだ。

垂れ流されるだけの現実を見送るだけなんて、畜生と何が違う。

佐助おまえは、空っぽの傀儡かいらいでも、ましてや忠実な殺戮兵器なんかでもない。

『お前は俺と同じ、何も知らないただの子どもがきなんだよ!』




刹那、幸村は強大な覇気を〝二人〟に向けて放った。
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