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第十八章 邪神胎動
邪神胎動 第九節
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「ほう、まさか魔人が復活するとは。しかもこの魔素…なるほどネイフェか」
邪神の揺りかごの中心部にあるザナエル達は、外の様子を映り出すビジョンを通してオズワルドの死、ウィルフレッドの復帰と逆三角が崩壊した様子を全て確認していた。
ラナとアイシャは辛そうに息しながらも、歓喜の笑顔を浮かべていた。
「ウィルくん…っ」
「ウィルくんが、戻ってきて…っ、エリーちゃんっ、ウィルくんが無事に戻ってきましたよっ」
「うんっ…私も分かります…っ、感じますっ、ウィルさん…っ」
エリネの涙がその頬を濡らす。ゾルドの邪気に覆われたこのドームの中にいても、目が見えない彼女ははっきりと感じられていた。すぐ外にある思い人の朝日のような温かな存在を。ラナもまた、無事オズワルドを撃破したレクスを思った。
(レンくん…よくやったわ…)
ホールに大きな破砕音が響き、床に亀裂が走った。怒りに顔を歪め、半アルマ化した右手から生成された槍を振り回したギルバートによるものだ。
「ウィル…っ!」
ビジョンに浮ぶウィルフレッドの新生の姿を見て、いままで飄々としていた態度からは想像もつかない憤怒の面相を浮かべるギルバート。周りの空気さえも歪めているかのように感じられ、彼の胸の赤いアスティル・クリスタルがその怒りに呼応して神秘的な音を発する。
「てめぇ…っ、いったいどこまでワガママなんだ…っ!」
「…どうして、そんなに怒ってるのですか?」
疑問を投げかけたのは、まさかのエリネだった。
「あぁ…?」
ギルバートは顔を歪めたままエリネを睨む。
「エリーちゃんっ?」
アイシャの心配に介さず、エリネが続いた。
「貴方は地球ではウィルさんをとても大事にしていました。ちゃんとあの人のことを心配しているのも声から分かります。だったらウィルさんの無事を喜ぶはずなのに、それでもウィルさんに苛立っている理由…」
ギルバートの視線は穿つようにエリネを直視する。
「ギルバートさん、あなたはウィルさんのこと、う――」
エリネの言葉は途切れた。一瞬にして彼女の目の前に移動したギルバートの槍の先端が、彼女の喉笛に皮一枚で突き立てられているからだ。
「「エリーちゃんっ!」」
ラナとアイシャが叫ぶ。
「ギルバート殿」
さすがのザナエルもこの状況を無視できず、重い声でギルバートに呼びかける。エリク達もなにがあればすぐに動けるように構えていた。
「てめえらは黙ってろ」
淡々としながらも、とても冷たい口調だった。
「なるほど、平和ボケの中で育てられたぬるいガキかと思ったが、巫女ってのは伊達じゃねえらしいな。ウィルが惚れる訳だ。だがそれ以上喋ってみろ。その小さな喉を容赦なく掻っ捌いてやるからな」
槍の先端が軽くエリネの喉に触れ、赤い血の一滴が滴る。だがエリネは動じず、ただ真っ直ぐにギルバートの方に顔を向け続けた。長い沈黙が続いた。
「…ちっ」
小さく舌打つと、ギルバートは槍を収めては祭壇を降り、外に向かって歩いていく。
「ギルバート殿、どちらへ?」
「こっちの仕事は全部片付けたんだ。後は俺の好きなようにやる。それだけだ」
ザナエル達に振り返らないままギルバートは続けた。
「世話になったな、ザナエル。もう二度と会うことはねえだろう」
「そうか…。こちらこそ色々と助けられた。そなたの行く道に、ゾルド様の祝福があらんことを」
意外にもそれは社交辞令のような淡々とした口調ではなく、気持ちが篭った感謝だった。
だがギルバートはそれ以上答えなかった。赤い雷光が砂塵を巻き上げ、ホールが震撼する。黒き魔人が赤い光を湛えては、光の通さない闇黒のドームの外へと一瞬にして飛び去っていった。
だんだんと鼓動音が強まる邪神の卵の下で、エリネはギルバートが飛んだ方向に顔を向け、思い人の身を案じた。
(ウィル、さん…)
******
「レクス様っ!大丈夫ですかっ!?」
「マティ、みんな…っ」
ようやくレクスと合流したマティ、カイ達。ミーナはすぐに彼に治癒をかける。神器が共鳴し、力が高まっているためか、傷は程なくして全治し、体力もそれなりに回復したとレクスは感じられた。
「ほんとうに心配しましたよレクス様っ、寿命が半分ぐらい持ってかれたと思いました…っ」
「まったくだぜ。でも凄いよなレクス様は、変異体になったオズワルドを倒すだなんて」
「あはは、運が良かっただけだよ」
マティに支えられて立ち上がったレクス達の前に、輝く鎧を纏ったかのようなウィルフレッドが下りてきた。
「兄貴っ!」
「ウィルくんっ!」
「ウィル、おぬしのその姿…」
「ああ。ネイフェがいま俺の装甲に同化している。お陰で肉体崩壊の痛みをまったく感じない」
『ウィルが私の本体を解放してくれたお陰です』
「ネイフェ様っ」
レクス達がネイフェの声が響くウィルフレッドのアスティル・クリスタルを見た。
『これで貴方達にもより強い守りの加護を与えることができます』
アスティル・クリスタルから発する青き光がカイ、レクスとミーナを包む。呪文の光文字が三人の身体に浮び、何度か明滅を繰り返すと消えていった。レクスが試しに手足を動かしてみる。
「おお、凄いっ、さっき以上に身体が軽くなった感じだよっ」
「ああっ、いまならどんな怪物と戦っても負ける気がしないぜっ」
同じように身体の具合を確認するミーナ。
「…ネイフェ殿」
彼女は、未だに不気味な赤の光を放つ邪神の揺りかごを見た。先ほどから中からの魔物の出現がぴたりと止まっている。
「逆三角の結界が破れたのにあれが消えないということは…」
『ええ。あれは逆三角の力がゾルドと呼応して固定された場です。ゾルドそのものを何とかしない限り、あれ自体が消えることはないでしょう』
「なら中に急ごうっ、早くアイシャやエリー達を助けないと…っ!」
『待ってくださいカイ。あの中はいまゾルドの邪気が渦巻いて、なんの対策もない人が入ったらたちまち邪気にやられてしまいます。言いましたでしょう、私の加護は元より、勇者たちをその邪気から守るためのものです』
「え…、ってことは…」
「中に入れるのは貴方とレクス、ミーナ、そしてウィルフレッド。巫女達より選ばれた勇者達と、彼らを導く封印管理者だけです」
「…行ってください、レクス様」
「マティ」
マティはクラリス達とともに強い決意を込めて頷く。
「外の敵は私達がなんとかします。ウィル殿のお陰で半分ほどの敵が倒されましたから、私達だけでもなんとかできるでしょう」
「私からもお願いします」
アランもマティに続いた。
「ラナ様たちをお願いします。レクス様」
「…うん、分かってるよ」
聖剣を強く握りしめ、レクスはカイとウィルフレッド、ミーナに目を交わす。
「それじゃいこうっ!ラナ様たちを助けに――」
「!」
言葉も終えないうちに、突如ウィルフレッドが空高く飛びあがる。
「「「うわっ!?」」」」
激しい金属のぶつかり音がカイ達の上で響いた。
「ギル…っ!」
「ウィル…っ!」
魔人化したギルバートの槍がウィルフレッドの双剣と鍔迫り合い、鈍い金属の摩擦音がギリギリと鳴り渡る。
「兄貴っ!」
「ウィルくんっ!」
ウィルフレッドとギルバートが同時に相手に向けて武器を強く押し付ける。
「「うおぉぉっ!」」
その反動で二人は互いに飛び離れ、武器を構えながら空中でにらみ合った。
「ウィルっ!」
「ミーナ!君達は先に行ってくれっ!俺はあとで追いつくっ!」
「兄貴っ、でも!」
レクスの手がカイを遮った。
「…カイ、行こう」
「レクス様…」
「マティ、外の方は任せたよ。ロバルト陛下達を支援して」
「はっ!行きましょうアラン殿、クラリス殿っ」
マティ達は最後にレクス達を一瞥すると、主戦場の方へと戻っていく。
「我らも行こう。ここで我らができることは何もない。あれはウィルの戦いだ」
「ミーナ…っ」
唇を軽く噛み締めると、カイは上空でギルバートと対峙するウィルフレッドを見上げた。
「兄貴っ!俺たち先に行って待ってるからな…っ!」
ウィルフレッドが軽く頷いた。
(ウィルくん、どうか無事でいてね…っ)
(ウィル、まだ体の治療も終わってないし、聞きたい話が一杯あるのだ。ここでくたばるのではないぞ…っ)
ウィルの身を案じながらもレクス達は邪神の揺りかご目がけて走り出した。
――――――
逆三角の結界が消え去っても、いまだに不気味な赤の模様を光らせる邪神の揺りかご。戦いを繰り広げる三国の人々の頭上を、光を通さぬ赤黒の暗雲がいまだに広がり続けている。血管のような軌跡を描く赤い雷の光が、帝都上空で静かに対峙するウィルフレッドとギルバートのシルエットを照らした。
「ギル…」
「ウィル…てめぇここまでしてここの奴らと仲良しごっこなんかして…チームを、家族を裏切るつもりなのかっ!?」
「家族…」
その言葉が、かつて地球での日々を、ジェーンやアオト達の顔を思い出させた。胸にじんわりとした痛みが感じられた。
「…そんなつもりなんてないのは、ギルが一番知ってるはずなんだろう?」
構えを解いたウィルフレッドの声は、一ミリも敵意は込めていなかった。
「ギル。どうしてそこまで他の人達を拒むんだ?地球の奴らはまだしも、ここはまったく関係のない人達ばかりじゃないか」
ギルバートはゆっくりと槍を下ろす。だが返事はしない。ウィルフレッドはただ必死に訴えた。
「俺は自分を受け入れてくれた人達を見つけることができた。ギルだって彼らを受け入れれば、きっと彼らもギルのことを受け入れてくれるっ。あんた言ってたじゃないか…っ、新しい土地では先入観を捨てて冷静に周りを観察しろってっ。ここはそもそも異世界なんだぞっ。ここの人が地球の奴らと同じなものかっ!」
「違うぜウィル、そういうのはな、関係ねぇんだよ」
「ギル…?」
「ここの奴らが地球のゴミと違うかどうか関係ねぇ。この世で家族になれるのは、戦いで流れる血が築く絆を持つ奴だけだ…っ!血を流してこそ人は生きている!命の危機に共に身を晒しててこそ絆は築かれる!その価値を知らない奴らはみな屑野郎だっ!」
雷鳴さえも遮る心の叫びだった。
「血を流すことも、命を懸けて生きることさえも分からねぇやつらが家族になれるかよ!ああいうぬるい奴らは、いつかエメリコ達の時みてぇになるがオチだっ!」
「エメリコ…?」
ギルバートの声は激情で震えていた。
「みんな俺の大事な家族だった…っ、そんなあいつらの死を重いだと…っ!?命の重みも知らねぇ奴らのことなんざ、認めてたまるかってんだ!」
「ギル、あんた…」
「そんなクソ野郎たちのために、てめぇは家族のサラ達がいたアルファチームを抜けようってんのかっ?もう俺達しかいねえチームを離れて、亡きものにしようってんのかっ、ええっ!?」
(((ウィル…っ、てめぇは、長生きしろよ…っ)))
(((こんな、不出来な俺を…まだ、兄さんと呼んでくれて…ありがとさん)))
(((僕達の分まで…生きて…最後、まで…僕の、ツバメ、さん)))
サラ達の最後の言葉が耳元で響く。胸を貫いたかのようにウィルフレッドの心が痛む。だが、この痛みが、アオト達の言葉があるからこそ…。
「ギル…」
続く言葉を恐れるようにウィルフレッドの声はかすかに震えていた。それでも彼は続けた。
「キース達は、アルファチームはもう、いないんだ…っ。それはビリーのせいでも、『組織』のせいでも、あんたが言う平和ボケの人々のせいでもない。単に、そうなってしまっただけなんだ」
初めてその事実を口にしたウィルフレッドは剣の柄を強く握る。
「けどあんただって分かるだろう?それでも俺達は精一杯生きることしかできない。それはこの世界に来ても変わらない。もうすぐ寿命が来ようとも、自分が信じる人生の価値があれば、そのために一生懸命生きる。それが、俺達の唯一の行動原理なんだ、違うか?」
エリネの笑顔が目の前に浮び、彼女への思いを胸にウィルフレッドは毅然と答える。
「ここに俺を蔑む人達がいても関係ない。俺は、俺を受け入れてくれた友人達のために、エリーのために最後まで戦う。それが俺の人生の価値、ただそれだけだっ」
沈黙が暫く二人を包んだ。
「……ああ、そうかよ。なら俺も教えてやるさ。あんたをぶちのめしたら、あの邪神とかいう奴の復活を待つまでもない。肉体が完全に崩壊するまでこの世界の全てを焼き払ってやる。あんたが家族を抜けるってンなら尚更だっ!」
「ギル…っ」
「うるせぇっ!これが俺の人生の価値ってもんだ!ボケた奴らの血でヘッレ達の無念を晴らすってな!他のことなんか知ったことかっ!」
「ギル…」
ウィルフレッドは、赤いエネルギーラインを身体に走らせるギルバートのアスティル・クリスタルを見た。
「ギル、あんたひょっとしたら、精神崩壊をきたしてるから――」
「こんなことをしてるのかって言いてぇのか?舐めるなっ、これはおれ自身の意志で決めた選択だっ!最初にこの世界に来た時のようになっ!」
「どういうことだ…?」
「この世界に来たばかりの俺を、平和ボケした物好きが家に連れて行きやがったんだ。ヒソヒソと人のことをバカにしてなっ!」
「なんだって…」
――――――
身が引き裂かれるような痛みの中、意識が朦朧としているギルバートは、自分がベッドの上に横たわってることだけ理解していた。
「…さっきの方は?」
「部屋でぐっすり寝てますよ」
超人的な聴覚が、隣の部屋の二人の男女の声を拾った。
「…見慣れない方だけど、やはりルーネウスかヘリティアの兵士さんでしょうか」
「さあな。このご時世誰が傷ついてもおかしくはない。…ふぅ、戦争はいやなものだな。敵味方を傷つけて誰も得しない。無闇に平和を乱すだけしかならないくだらない茶番だ。一日も早く終わってくれれば…」
バンッ!と、唐突に寝室のドアが開かれた。
「きゃあっ!」
「なっ、あんたっ、目が覚めたのですか?」
包帯まみれでぜぇぜぇと荒い息遣いになっているギルバートだった。
「だめですよ起きてちゃ、まだ傷も――」
「てめぇ…てめぇもそうなのか」
「え――うあぁっ!」
男性の首が、目を赤く充血させたギルバートによって片手で締め付けられ、高く持ち上げられる。
「きゃあぁっ!あなたぁっ!」
「てめぇもそうなのかっ、自分の平和だけ大事で、外で血を流してる奴らのことは重いって言い捨てて目を逸らすのかっ!あぁっ!?」
「あがっ!わっ、私は、そう言って――」
「黙りやがれぇっ!」
叫びとともにアルマ化したギルバートの異形の手が、容赦なく男の首を握りつぶした。
「きゃあぁぁぁぁっ!ばっ、ばけものっ!」
「はっ!やっぱてめぇもそうなんだなっ!」
「いやぁあぁっ!ノ――」
ギルバートの槍は瞬く間に女性の胸を貫いた。
「かふっ!あ、あ…」
視界ばぼやける女性は、最後にもう一つの寝室を見て、呟く。
「ノ…、ノ、ア…」
僅かに開いた寝室のドアの隙間から小さな目が、ぐたりと絶命した女性と、女性を殺した悪魔をずっと見つめていた。
「ぜぇ…ぜぇ…っ」
女性の死体を床に投げ、ギルバートはアルマ化したまま飛び、天井を吹き飛ばしては飛び去っていた。
――――――
指先がかすかに震えるほど、ウィルフレッドは驚愕していた。
「ギ、ギル…っ、あんた…あんただったのかっ?あの子の、ノアの両親を殺したのは…っ?」
ぼんやりとそう囁いたのかを覚えてる気がするギルバートは鼻で笑った。
「だからどうした。平和ボケした人が誰が死のうとも関係ねぇ。奴らが俺達を無視したようになっ!」
赤い雷が二人の横を通り、邪神の揺りかごへと打たれていく。再び長い沈黙が続いた。
「…確かに、もう関係ない、よな。そうなって、しまっているのだから」
震える手が止め、どこか哀しそうな声でウィルフレッドは続けた。
「…今になってなんとなく分かったよ、ギル。あんたは家族のメンバーよりも、家族そのものに拘ってんだな…。俺の気持ちよりも家族だけが大事で…」
哀しそうな声が、毅然とした決意の篭った言葉へと変わる。
「俺はアオトと約束したんだ、あんたを必ず止めるって。だからギル、俺はここであんたを倒す」
ウィルフレッドの身体が淡く光っては、元のアルマの姿へと戻る。ネイフェの同化を自分の意志で拒絶したのだ。アスティル・クリスタルからネイフェの驚愕の声があがる。
『ウィルっ?』
「すまないネイフェ、けどこの戦いだけは…ギルとの戦いだけは、俺一人でケリをつけなければならないんだ」
そう言いながら、ウィルフレッドは双剣を構えた。
『けど、ウィル』
「ウィルの言うとおりだ。外野は黙っていてな」
ギルバートが体を慣らすように槍を回す。
「いいぜウィル。ヌトで中断した戦いを続けるってことだな」
そして槍をビュンと一振りすると、同じように構えた。
「来いよウィル。正真正銘の家族最後の交流としゃれ込もうか」
邪神の揺りかごに呼応して轟く赤い雷はいま、二人の決戦を告げるかのように闇の空を照らす。時間が泥のように遅くなるほどの緊迫感が、互いに向けて静かに構える二人の間に醸し出されていく。ネイフェはそれ以上ウィルフレッドに語りかけることはしなかった。この戦いがウィルフレッドにとっていかに重大な意味を持つのを理解しているからだ。
「…ギル、いまのうちに一つ伝えておきたい」
「なんだ?」
「たとえこうなってしまっても、あんたが俺に生きる術を教え、何度もこの命を救ってくれて、楽しい日々を送ってきたことは紛れもない事実だ。そんなギルには今でも本気で感謝している。………ありがとう」
轟く雷鳴が過ぎてから、ギルバートが一笑する。
「…へっ、今になっても笑えるほどのお人よしだなてめぇは。嬉しいのやら悲しいのやら」
「………」
「だけどな、ウィル…そういう言葉はな…」
ギルバートの身体に赤いアスティルエネルギーの電光が爆ぜる。
「俺を倒して一人前になってから言えってんだっ!」
「ギルっ!」
闇黒の空に再び雷が弾き、二人は一斉に動いた。地球から続けてきた互いの関係に終止符を打つために。
【第十八章 終わり 第十九章に続く】
邪神の揺りかごの中心部にあるザナエル達は、外の様子を映り出すビジョンを通してオズワルドの死、ウィルフレッドの復帰と逆三角が崩壊した様子を全て確認していた。
ラナとアイシャは辛そうに息しながらも、歓喜の笑顔を浮かべていた。
「ウィルくん…っ」
「ウィルくんが、戻ってきて…っ、エリーちゃんっ、ウィルくんが無事に戻ってきましたよっ」
「うんっ…私も分かります…っ、感じますっ、ウィルさん…っ」
エリネの涙がその頬を濡らす。ゾルドの邪気に覆われたこのドームの中にいても、目が見えない彼女ははっきりと感じられていた。すぐ外にある思い人の朝日のような温かな存在を。ラナもまた、無事オズワルドを撃破したレクスを思った。
(レンくん…よくやったわ…)
ホールに大きな破砕音が響き、床に亀裂が走った。怒りに顔を歪め、半アルマ化した右手から生成された槍を振り回したギルバートによるものだ。
「ウィル…っ!」
ビジョンに浮ぶウィルフレッドの新生の姿を見て、いままで飄々としていた態度からは想像もつかない憤怒の面相を浮かべるギルバート。周りの空気さえも歪めているかのように感じられ、彼の胸の赤いアスティル・クリスタルがその怒りに呼応して神秘的な音を発する。
「てめぇ…っ、いったいどこまでワガママなんだ…っ!」
「…どうして、そんなに怒ってるのですか?」
疑問を投げかけたのは、まさかのエリネだった。
「あぁ…?」
ギルバートは顔を歪めたままエリネを睨む。
「エリーちゃんっ?」
アイシャの心配に介さず、エリネが続いた。
「貴方は地球ではウィルさんをとても大事にしていました。ちゃんとあの人のことを心配しているのも声から分かります。だったらウィルさんの無事を喜ぶはずなのに、それでもウィルさんに苛立っている理由…」
ギルバートの視線は穿つようにエリネを直視する。
「ギルバートさん、あなたはウィルさんのこと、う――」
エリネの言葉は途切れた。一瞬にして彼女の目の前に移動したギルバートの槍の先端が、彼女の喉笛に皮一枚で突き立てられているからだ。
「「エリーちゃんっ!」」
ラナとアイシャが叫ぶ。
「ギルバート殿」
さすがのザナエルもこの状況を無視できず、重い声でギルバートに呼びかける。エリク達もなにがあればすぐに動けるように構えていた。
「てめえらは黙ってろ」
淡々としながらも、とても冷たい口調だった。
「なるほど、平和ボケの中で育てられたぬるいガキかと思ったが、巫女ってのは伊達じゃねえらしいな。ウィルが惚れる訳だ。だがそれ以上喋ってみろ。その小さな喉を容赦なく掻っ捌いてやるからな」
槍の先端が軽くエリネの喉に触れ、赤い血の一滴が滴る。だがエリネは動じず、ただ真っ直ぐにギルバートの方に顔を向け続けた。長い沈黙が続いた。
「…ちっ」
小さく舌打つと、ギルバートは槍を収めては祭壇を降り、外に向かって歩いていく。
「ギルバート殿、どちらへ?」
「こっちの仕事は全部片付けたんだ。後は俺の好きなようにやる。それだけだ」
ザナエル達に振り返らないままギルバートは続けた。
「世話になったな、ザナエル。もう二度と会うことはねえだろう」
「そうか…。こちらこそ色々と助けられた。そなたの行く道に、ゾルド様の祝福があらんことを」
意外にもそれは社交辞令のような淡々とした口調ではなく、気持ちが篭った感謝だった。
だがギルバートはそれ以上答えなかった。赤い雷光が砂塵を巻き上げ、ホールが震撼する。黒き魔人が赤い光を湛えては、光の通さない闇黒のドームの外へと一瞬にして飛び去っていった。
だんだんと鼓動音が強まる邪神の卵の下で、エリネはギルバートが飛んだ方向に顔を向け、思い人の身を案じた。
(ウィル、さん…)
******
「レクス様っ!大丈夫ですかっ!?」
「マティ、みんな…っ」
ようやくレクスと合流したマティ、カイ達。ミーナはすぐに彼に治癒をかける。神器が共鳴し、力が高まっているためか、傷は程なくして全治し、体力もそれなりに回復したとレクスは感じられた。
「ほんとうに心配しましたよレクス様っ、寿命が半分ぐらい持ってかれたと思いました…っ」
「まったくだぜ。でも凄いよなレクス様は、変異体になったオズワルドを倒すだなんて」
「あはは、運が良かっただけだよ」
マティに支えられて立ち上がったレクス達の前に、輝く鎧を纏ったかのようなウィルフレッドが下りてきた。
「兄貴っ!」
「ウィルくんっ!」
「ウィル、おぬしのその姿…」
「ああ。ネイフェがいま俺の装甲に同化している。お陰で肉体崩壊の痛みをまったく感じない」
『ウィルが私の本体を解放してくれたお陰です』
「ネイフェ様っ」
レクス達がネイフェの声が響くウィルフレッドのアスティル・クリスタルを見た。
『これで貴方達にもより強い守りの加護を与えることができます』
アスティル・クリスタルから発する青き光がカイ、レクスとミーナを包む。呪文の光文字が三人の身体に浮び、何度か明滅を繰り返すと消えていった。レクスが試しに手足を動かしてみる。
「おお、凄いっ、さっき以上に身体が軽くなった感じだよっ」
「ああっ、いまならどんな怪物と戦っても負ける気がしないぜっ」
同じように身体の具合を確認するミーナ。
「…ネイフェ殿」
彼女は、未だに不気味な赤の光を放つ邪神の揺りかごを見た。先ほどから中からの魔物の出現がぴたりと止まっている。
「逆三角の結界が破れたのにあれが消えないということは…」
『ええ。あれは逆三角の力がゾルドと呼応して固定された場です。ゾルドそのものを何とかしない限り、あれ自体が消えることはないでしょう』
「なら中に急ごうっ、早くアイシャやエリー達を助けないと…っ!」
『待ってくださいカイ。あの中はいまゾルドの邪気が渦巻いて、なんの対策もない人が入ったらたちまち邪気にやられてしまいます。言いましたでしょう、私の加護は元より、勇者たちをその邪気から守るためのものです』
「え…、ってことは…」
「中に入れるのは貴方とレクス、ミーナ、そしてウィルフレッド。巫女達より選ばれた勇者達と、彼らを導く封印管理者だけです」
「…行ってください、レクス様」
「マティ」
マティはクラリス達とともに強い決意を込めて頷く。
「外の敵は私達がなんとかします。ウィル殿のお陰で半分ほどの敵が倒されましたから、私達だけでもなんとかできるでしょう」
「私からもお願いします」
アランもマティに続いた。
「ラナ様たちをお願いします。レクス様」
「…うん、分かってるよ」
聖剣を強く握りしめ、レクスはカイとウィルフレッド、ミーナに目を交わす。
「それじゃいこうっ!ラナ様たちを助けに――」
「!」
言葉も終えないうちに、突如ウィルフレッドが空高く飛びあがる。
「「「うわっ!?」」」」
激しい金属のぶつかり音がカイ達の上で響いた。
「ギル…っ!」
「ウィル…っ!」
魔人化したギルバートの槍がウィルフレッドの双剣と鍔迫り合い、鈍い金属の摩擦音がギリギリと鳴り渡る。
「兄貴っ!」
「ウィルくんっ!」
ウィルフレッドとギルバートが同時に相手に向けて武器を強く押し付ける。
「「うおぉぉっ!」」
その反動で二人は互いに飛び離れ、武器を構えながら空中でにらみ合った。
「ウィルっ!」
「ミーナ!君達は先に行ってくれっ!俺はあとで追いつくっ!」
「兄貴っ、でも!」
レクスの手がカイを遮った。
「…カイ、行こう」
「レクス様…」
「マティ、外の方は任せたよ。ロバルト陛下達を支援して」
「はっ!行きましょうアラン殿、クラリス殿っ」
マティ達は最後にレクス達を一瞥すると、主戦場の方へと戻っていく。
「我らも行こう。ここで我らができることは何もない。あれはウィルの戦いだ」
「ミーナ…っ」
唇を軽く噛み締めると、カイは上空でギルバートと対峙するウィルフレッドを見上げた。
「兄貴っ!俺たち先に行って待ってるからな…っ!」
ウィルフレッドが軽く頷いた。
(ウィルくん、どうか無事でいてね…っ)
(ウィル、まだ体の治療も終わってないし、聞きたい話が一杯あるのだ。ここでくたばるのではないぞ…っ)
ウィルの身を案じながらもレクス達は邪神の揺りかご目がけて走り出した。
――――――
逆三角の結界が消え去っても、いまだに不気味な赤の模様を光らせる邪神の揺りかご。戦いを繰り広げる三国の人々の頭上を、光を通さぬ赤黒の暗雲がいまだに広がり続けている。血管のような軌跡を描く赤い雷の光が、帝都上空で静かに対峙するウィルフレッドとギルバートのシルエットを照らした。
「ギル…」
「ウィル…てめぇここまでしてここの奴らと仲良しごっこなんかして…チームを、家族を裏切るつもりなのかっ!?」
「家族…」
その言葉が、かつて地球での日々を、ジェーンやアオト達の顔を思い出させた。胸にじんわりとした痛みが感じられた。
「…そんなつもりなんてないのは、ギルが一番知ってるはずなんだろう?」
構えを解いたウィルフレッドの声は、一ミリも敵意は込めていなかった。
「ギル。どうしてそこまで他の人達を拒むんだ?地球の奴らはまだしも、ここはまったく関係のない人達ばかりじゃないか」
ギルバートはゆっくりと槍を下ろす。だが返事はしない。ウィルフレッドはただ必死に訴えた。
「俺は自分を受け入れてくれた人達を見つけることができた。ギルだって彼らを受け入れれば、きっと彼らもギルのことを受け入れてくれるっ。あんた言ってたじゃないか…っ、新しい土地では先入観を捨てて冷静に周りを観察しろってっ。ここはそもそも異世界なんだぞっ。ここの人が地球の奴らと同じなものかっ!」
「違うぜウィル、そういうのはな、関係ねぇんだよ」
「ギル…?」
「ここの奴らが地球のゴミと違うかどうか関係ねぇ。この世で家族になれるのは、戦いで流れる血が築く絆を持つ奴だけだ…っ!血を流してこそ人は生きている!命の危機に共に身を晒しててこそ絆は築かれる!その価値を知らない奴らはみな屑野郎だっ!」
雷鳴さえも遮る心の叫びだった。
「血を流すことも、命を懸けて生きることさえも分からねぇやつらが家族になれるかよ!ああいうぬるい奴らは、いつかエメリコ達の時みてぇになるがオチだっ!」
「エメリコ…?」
ギルバートの声は激情で震えていた。
「みんな俺の大事な家族だった…っ、そんなあいつらの死を重いだと…っ!?命の重みも知らねぇ奴らのことなんざ、認めてたまるかってんだ!」
「ギル、あんた…」
「そんなクソ野郎たちのために、てめぇは家族のサラ達がいたアルファチームを抜けようってんのかっ?もう俺達しかいねえチームを離れて、亡きものにしようってんのかっ、ええっ!?」
(((ウィル…っ、てめぇは、長生きしろよ…っ)))
(((こんな、不出来な俺を…まだ、兄さんと呼んでくれて…ありがとさん)))
(((僕達の分まで…生きて…最後、まで…僕の、ツバメ、さん)))
サラ達の最後の言葉が耳元で響く。胸を貫いたかのようにウィルフレッドの心が痛む。だが、この痛みが、アオト達の言葉があるからこそ…。
「ギル…」
続く言葉を恐れるようにウィルフレッドの声はかすかに震えていた。それでも彼は続けた。
「キース達は、アルファチームはもう、いないんだ…っ。それはビリーのせいでも、『組織』のせいでも、あんたが言う平和ボケの人々のせいでもない。単に、そうなってしまっただけなんだ」
初めてその事実を口にしたウィルフレッドは剣の柄を強く握る。
「けどあんただって分かるだろう?それでも俺達は精一杯生きることしかできない。それはこの世界に来ても変わらない。もうすぐ寿命が来ようとも、自分が信じる人生の価値があれば、そのために一生懸命生きる。それが、俺達の唯一の行動原理なんだ、違うか?」
エリネの笑顔が目の前に浮び、彼女への思いを胸にウィルフレッドは毅然と答える。
「ここに俺を蔑む人達がいても関係ない。俺は、俺を受け入れてくれた友人達のために、エリーのために最後まで戦う。それが俺の人生の価値、ただそれだけだっ」
沈黙が暫く二人を包んだ。
「……ああ、そうかよ。なら俺も教えてやるさ。あんたをぶちのめしたら、あの邪神とかいう奴の復活を待つまでもない。肉体が完全に崩壊するまでこの世界の全てを焼き払ってやる。あんたが家族を抜けるってンなら尚更だっ!」
「ギル…っ」
「うるせぇっ!これが俺の人生の価値ってもんだ!ボケた奴らの血でヘッレ達の無念を晴らすってな!他のことなんか知ったことかっ!」
「ギル…」
ウィルフレッドは、赤いエネルギーラインを身体に走らせるギルバートのアスティル・クリスタルを見た。
「ギル、あんたひょっとしたら、精神崩壊をきたしてるから――」
「こんなことをしてるのかって言いてぇのか?舐めるなっ、これはおれ自身の意志で決めた選択だっ!最初にこの世界に来た時のようになっ!」
「どういうことだ…?」
「この世界に来たばかりの俺を、平和ボケした物好きが家に連れて行きやがったんだ。ヒソヒソと人のことをバカにしてなっ!」
「なんだって…」
――――――
身が引き裂かれるような痛みの中、意識が朦朧としているギルバートは、自分がベッドの上に横たわってることだけ理解していた。
「…さっきの方は?」
「部屋でぐっすり寝てますよ」
超人的な聴覚が、隣の部屋の二人の男女の声を拾った。
「…見慣れない方だけど、やはりルーネウスかヘリティアの兵士さんでしょうか」
「さあな。このご時世誰が傷ついてもおかしくはない。…ふぅ、戦争はいやなものだな。敵味方を傷つけて誰も得しない。無闇に平和を乱すだけしかならないくだらない茶番だ。一日も早く終わってくれれば…」
バンッ!と、唐突に寝室のドアが開かれた。
「きゃあっ!」
「なっ、あんたっ、目が覚めたのですか?」
包帯まみれでぜぇぜぇと荒い息遣いになっているギルバートだった。
「だめですよ起きてちゃ、まだ傷も――」
「てめぇ…てめぇもそうなのか」
「え――うあぁっ!」
男性の首が、目を赤く充血させたギルバートによって片手で締め付けられ、高く持ち上げられる。
「きゃあぁっ!あなたぁっ!」
「てめぇもそうなのかっ、自分の平和だけ大事で、外で血を流してる奴らのことは重いって言い捨てて目を逸らすのかっ!あぁっ!?」
「あがっ!わっ、私は、そう言って――」
「黙りやがれぇっ!」
叫びとともにアルマ化したギルバートの異形の手が、容赦なく男の首を握りつぶした。
「きゃあぁぁぁぁっ!ばっ、ばけものっ!」
「はっ!やっぱてめぇもそうなんだなっ!」
「いやぁあぁっ!ノ――」
ギルバートの槍は瞬く間に女性の胸を貫いた。
「かふっ!あ、あ…」
視界ばぼやける女性は、最後にもう一つの寝室を見て、呟く。
「ノ…、ノ、ア…」
僅かに開いた寝室のドアの隙間から小さな目が、ぐたりと絶命した女性と、女性を殺した悪魔をずっと見つめていた。
「ぜぇ…ぜぇ…っ」
女性の死体を床に投げ、ギルバートはアルマ化したまま飛び、天井を吹き飛ばしては飛び去っていた。
――――――
指先がかすかに震えるほど、ウィルフレッドは驚愕していた。
「ギ、ギル…っ、あんた…あんただったのかっ?あの子の、ノアの両親を殺したのは…っ?」
ぼんやりとそう囁いたのかを覚えてる気がするギルバートは鼻で笑った。
「だからどうした。平和ボケした人が誰が死のうとも関係ねぇ。奴らが俺達を無視したようになっ!」
赤い雷が二人の横を通り、邪神の揺りかごへと打たれていく。再び長い沈黙が続いた。
「…確かに、もう関係ない、よな。そうなって、しまっているのだから」
震える手が止め、どこか哀しそうな声でウィルフレッドは続けた。
「…今になってなんとなく分かったよ、ギル。あんたは家族のメンバーよりも、家族そのものに拘ってんだな…。俺の気持ちよりも家族だけが大事で…」
哀しそうな声が、毅然とした決意の篭った言葉へと変わる。
「俺はアオトと約束したんだ、あんたを必ず止めるって。だからギル、俺はここであんたを倒す」
ウィルフレッドの身体が淡く光っては、元のアルマの姿へと戻る。ネイフェの同化を自分の意志で拒絶したのだ。アスティル・クリスタルからネイフェの驚愕の声があがる。
『ウィルっ?』
「すまないネイフェ、けどこの戦いだけは…ギルとの戦いだけは、俺一人でケリをつけなければならないんだ」
そう言いながら、ウィルフレッドは双剣を構えた。
『けど、ウィル』
「ウィルの言うとおりだ。外野は黙っていてな」
ギルバートが体を慣らすように槍を回す。
「いいぜウィル。ヌトで中断した戦いを続けるってことだな」
そして槍をビュンと一振りすると、同じように構えた。
「来いよウィル。正真正銘の家族最後の交流としゃれ込もうか」
邪神の揺りかごに呼応して轟く赤い雷はいま、二人の決戦を告げるかのように闇の空を照らす。時間が泥のように遅くなるほどの緊迫感が、互いに向けて静かに構える二人の間に醸し出されていく。ネイフェはそれ以上ウィルフレッドに語りかけることはしなかった。この戦いがウィルフレッドにとっていかに重大な意味を持つのを理解しているからだ。
「…ギル、いまのうちに一つ伝えておきたい」
「なんだ?」
「たとえこうなってしまっても、あんたが俺に生きる術を教え、何度もこの命を救ってくれて、楽しい日々を送ってきたことは紛れもない事実だ。そんなギルには今でも本気で感謝している。………ありがとう」
轟く雷鳴が過ぎてから、ギルバートが一笑する。
「…へっ、今になっても笑えるほどのお人よしだなてめぇは。嬉しいのやら悲しいのやら」
「………」
「だけどな、ウィル…そういう言葉はな…」
ギルバートの身体に赤いアスティルエネルギーの電光が爆ぜる。
「俺を倒して一人前になってから言えってんだっ!」
「ギルっ!」
闇黒の空に再び雷が弾き、二人は一斉に動いた。地球から続けてきた互いの関係に終止符を打つために。
【第十八章 終わり 第十九章に続く】
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