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第十八章 邪神胎動
邪神胎動 第一節
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先ほどまで両国の終戦を祝っていた帝都ダリウスの人々は、今や誰もが不安と恐怖に満ち、慄いていた。
「な…なんなんだ、いったい何が起こったんだっ?」
「何よあれ…なんでいきなり、あんなものがここに…?」
彼らの視線の先に聳え立つ、大地を突き破って天を貫く三本の牙のごとき黒の岩柱、塔、或いは、塚。その上に刻まれたおぞましい呪文と模様が、それぞれ異なる色を堪え、脈動するように光っていた。人々はたとえそれから視線を外さそうとも、目が吸い寄せられてしまう。物言えぬ畏怖が彼らにそう強いるよう囁いているからだ。
血の如き赤き塚を見よ。
いかな善を信じる純真な人でも、それを見れば己の甘さをあざけり、憎悪でその身を染めていくだろう。
虚無を内包せし緑の塚を見よ。
いかな熱き夢を抱く人でも、それを見れば夢なぞ稚気じみた空想だと恥じ、怠惰と虚無に溺れていくだろう。
恐怖を撒き散らす紫の塚を見よ。
いかな勇気ある人でも、それを見れば途端に心は砕かれ、全てを諦めて恐怖に身を委ねるだろう。
「ザナエルっ」
オズワルドが、ヒルダの血を吸ったばかりの邪神の短剣をザナエルに投げ渡した。それを受け取った途端、短剣から渦巻く邪気が、心を引き裂くかのような怨嗟の声とともに噴出し、周りにその暴威を振るった。
「「きゃあぁぁっ!」」
「アイシャっ!」
「ラナ様っ!」
爆風の如き邪気に吹かれて体勢を維持しようとするカイ達。既に剣形態へと戻った邪神剣を手に、ザナエルの哄笑が仮面の下から発する。
「ンははははははははっ!よくやったオズワルド!憎悪!虚無!恐怖!そして肉親殺しの大罪!聖なる逆三角の三角と中心が全て揃った!」
一瞬に多くの出来事で混乱していたラナ達はいまだ多くの疑問を抱いていた。何故外に三本の巨大な岩柱が出現したのか、ザナエル達がどうやって一瞬にしてこの地へと移動したのか。だがその答えを考える暇もない。ザナエルが高々と邪神剣を両手で掲げ、その切っ先を地面に向けた。それを見たミーナ達の本能が全力で警鐘をあげている。今すぐザナエルを止めなければ、取り返しのつかない事態になると。
「やつをっ!ザナエルを止めろーーーーッ!」
ミーナの叫びとともに、ラナが、アイシャが、レクスやカイが、動ける周りの騎士達が一斉に動いた。持ちうる最大のスピードでザナエルに向かって駆けた。だが時は既に遅きに失した。
「逆三角っ、ここに完成せりーーー!」
邪神剣が地面に刺さった。
「「「うわああああっ!」」」
「「「きゃああぁぁっ!」」」
閃光が迸る電光とともにダンスホールを包み、巨大な光柱が天へと登っていく。帝都の人々が一斉に悲鳴をあげた。皇城にいるザナエルの邪神剣中心に、三つの光が地面を伝って三つの塚へと走り、三色の光が苦悶とも嘲笑ともつかない声と顔を纏った邪気とともに塚から天へと駆ける。
三つの点から三つの色のオーラの奔流が帝都の地面を抉りながら線と円を繋いでいく。晴れていた空が赤みを帯びた暗雲により覆われ、世の終わりを告げるかのような雷が轟く。勇壮な帝都ダリウスを、逆三角の禍々しい結界が包んでいった。
「う、うあぁぁ…っ!」
「ひっ、や、やだ…!なんだこれぇ…!」
「あひ、あひひひひひっ!」
結界の中の人々が今やパニックに留まらず、みな倒れては萎縮し、ある人は怒り、ある人は泣き、ある人は気に触れたかのように笑った。先ほどまで心に満ちた幸福感に、憎悪と虚無と恐怖が否応なく押し込み、混ざり、感情の坩堝という混沌に心を飲み込まれてしまう。
さもありなん。純心を穢し続けた憎悪の塚を目にして、先ほどまで喜びに満ちた自分を笑わない人などいようか。夢の骸を積もり上げた虚無の塚を目にして、ようやく夢を追える自分に羞恥を覚えない人などいようか。気高き勇気を砕き続けた恐怖の塚を目にして、抱いてた誇りを失くさない人などいようか。
逆三角の中の人達だけでなく、郊外で駐屯していた兵士や騎士達も、ボルガやドーネ達も、みな己の中に暴れる感情の混沌に、なすすべもなく苛まれていった。
「ぐぅ…!」
「ルイ!うぅお…!」
ルドヴィグとジュリアスが苦しそうに膝をついてしまう。彼らだけではない。ホールから逃げようとする貴族達。ザナエル達に立ち向かおうとするルヴィア、元の姿に戻ったシスティ、そしてアランやミーナらはみな、謂れのない苦しみと脱力感に襲われ、次々と膝をついてしまう。
「あぐ!な、なんだこれ…っ!気持ちわりぃ…!」
「キュウウゥ…っ」
「力が…力が抜いていく…っ」
カイとレクスは立ち上がろうとするも、意に反して体がいうことを聞かない。
「んクククク…。いかがかな、三大聖王国の諸君。招待状もなく押し込み参加した我からのお詫びの土産は」
邪神剣を抜いてせせら笑うザナエルを、ミーナは杖でなんとか体を支えながら彼の傍に立つエリクとともに睨んだ。
「ザ、ザナエル…!エリク!おぬしら、逆三角の結界を…っ」
「そのとおりですよミーナ殿」
エリクはいつもの平然とした笑顔を見せる。ザナエルが陰湿な笑い声とともに続いた。
「ミーナ殿ならご存知だと思うが、この逆三角の禁法は三女神と相反する性質を持つ三つの塚と、邪神様の骨より作られしこの邪神剣からなる反女神の結界。我が生涯をかけて構築したこの結界の中では、ゾルド様の加護を受けし我らを除き、三女神に関わるものは例外なくその魂を縛られ、力が削がれる。そして――」
「くふぅ…っ!」「あぅぅ…!」
「ラナ様!」「アイシャっ!」
ラナとアイシャが、レクスやカイ以上に苦しそうな様相を呈していた。聖痕がまるで篝火のように明滅し、息遣いができないほどの圧迫感に、二人は思わず喉や胸を押さえ、苦悶する。
「んククク、当然、三女神の魂の力を受け継いだ巫女殿達だと、他人以上に苦しく感じるのであろうなぁ…」
「あ、くぅ…っ、息が…カイくん…っ」
「アイシャ…っ、くそ…!」
先ほどの衝撃でアイシャから離れてしまったカイは彼女の傍に行こうとするも、力がだんだんと抜けてしまう。
「ぐうぅ…っ!」
ラナは遠くに横たわっている母ヒルダの遺体を一瞥すると、血が滲むほど歯を食い縛り、床に落ちたエルドグラムを掴んだ。
「この私を…っ」
聖痕が焼けるほどの激痛に苛まれながら、ラナは闘志を目に燃やした。残る全ての力を振り絞って剣を抜き、ザナエルに切りかかった。
「なめるなあぁぁっ!」
ザナエルは微動だにしない。二人の間に挟む人影があるからだ。鈍い音とともに、ラナのエルドグラムがオズワルドの異形化した手によって素手で受け止められた。ラナやレクス達が瞠目する。
「な…っ」
「この状況でもなお闘志を失わない。それでこそですよラナ様」
オズワルドの顔に初めて表情が浮んでいた。喜びの顔だった。
「ですが、今は暫く大人しくしてください」
ミシミシとエルドグラムが軋み、オズワルドが異形のその手を大きく捻った。ミスリル製の剣が金属の破裂音とともにあっけなく折れてしまう。そしてさらに軽く手を振ると、ラナの体が吹き飛ばされ、エルドグラムの破片とともに地面を舐める。
「があぁっ!」
「ラナ様ぁっ!ぐぉっ…!」
立ち上がろうとするレクスの足が震え、再び倒れてしまう。
――――――
「ラナっ!ギル、あんた…っ」
闇の天幕に包まれた庭の空で、アルマ化したギルバートと鍔迫り合いしているウィルフレッドが唸る。オズワルドの先ほど擬態を解除した際の挙動。そしてあの手。忘れもしない。あれはかつてアルファチームの運命が一変したあの日で対峙したミミック変異体の機能だ。
「おうよ。ビリーが後でさらに発展型に開発した奴らしい。だが安心しな。俺が見つけてきた変異体のナノマシンはあれで打ち止めだ。もうこれ以上残っちゃいねえよ」
「ギル…っ」
ラナ達と違ってこの世界に属さず、逆三角の影響を受けない二人がお互いの剣と槍にさらに力を込める。ギャリリと火花が飛散る。
「そんなことより、さすがにそろそろチームに戻る頃合だぜウィル。もうすぐ邪神なんたらが復活するんだ、そうすりゃ――」
「きゃあぁぁっ!」
「! エリー!」
ウィルフレッドは下で悲鳴をあげるエリネを見た。逆三角により苦悶していた彼女が、ホールから流れ出た教団兵たちに取り押さえられしまう。
「いやっ、放して…っ!ウィルさぁんっ!」
「エリーっ!!!」
「ぐぅ!?」
ギルバートを弾き、ウィルフレッドはエリネを助けるために下へ飛翔する。
「おいウィルっ!」
だがギルバートが一瞬にして彼の前に立ち塞がる。
「どこ行こうとしてやがるっ!俺はてめぇと話を――」
「どけ…っ」
「あん?」
「どきやがれぇっっっ!!!」
「ぬおっ!?」
衝動に任せた双剣の一撃を辛うじて受け止めたギルバートが退いてしまい、ウィルフレッドは彼に目にもくれずに再びエリネへと飛んで行く。
「エリーっ!エ――ぐあぁっ!?」
ウィルフレッドの背中が、ギルバートの勢いの乗った蹴りが命中し、そのまま彼とともに地面へとめり込んでしまう。
「がぁ…っ!」
「おいっ!なに俺を無視しやがる!」
ウィルフレッドを踏みつけるギルバートの声は苛だっていた。
「女の尻を追っかけるなんざ情けねえぞウィル!」
「ぐおぉっ…」
背中を押さえられたウィルフレッドの目の前に、エリネが教団兵にホールの方へと連れ去れてしまう。もがくエリネの首から、双色蔦のペンダントがちぎられて落ちる。
「ウィルさん!ウィルさぁん…!」
「エリーっ!ぐぅ…があぁっ!」
「くっ!」
全身で青のアスティルエネルギーを放出し、激しい衝撃が庭を震撼させる。舞い上がる砂塵からウィルフレッドとギルバートが飛び出て、再び空中で対峙する。
「ちぃぃ、女一人でぎゃあぎゃあ喚いて!てめえらしくもねえ!」
「うるさいっ!俺の邪魔をするなあぁっ!」
二人が再び切り結んだ。
――――――
ザナエルが手に持つ邪神剣がバチンと電光が走る。帝都全体に不気味なオーラが可視化し、それが電光を伴って邪神剣に向けて集中していく。その様相はさながら邪神剣が混沌を貪るかのようだ。ラナとアイシャの聖痕が焼きつくかのような高熱を放ち、二人が苦悶する。
「あぐぁ…!」「きゃああっ!」
「ラナ様っ!」「アイシャっ!」
「おおぉ…!」
ザナエルが唸る。邪神剣が一際大きく震えては唸り声をあげ、闇夜よりも暗き暗黒の邪気を放つと、柄の宝珠がおぞましい瞳を開いた。邪神剣がついに真の覚醒を果たしたのだ。
「んハハハハハハハっ!ギルバート殿にはまこと感謝せねばなっ!『平和ボケ達を動揺したければ、絶頂の時を狙うのが一番効果的』、かっ!恐れ入った!さすが混沌とした世界から来られたお方!先日の戦いでここに渦巻く混沌も含めているとはいえ、眷属を解放した際に使った以上の邪気が一瞬にして補われ、覚醒まで至るとはな!」
スドンと、ザナエル達後方に残る最後の棺桶が爆発した。ロバルトやミーナ達に戦慄が走る。
「ぬぅっ、あれは…!」
「ふ、封印の水晶…!」
三本の塚の光が、邪神剣のオーラが、いま自主的に浮ぶ巨大な水晶玉の鼓動に呼応するかのように脈動する。水晶の中で蠢く何かが昂ぶるかのように大きく震えた。まだホールに残っている人達は、まるで生まれてから魂に刻まれた記憶が蘇ったかの如くそれに畏怖する。
「さあっ!ゾルド様復活の序曲を始めようではないかっ!」
封印の水晶へと移動し、ザナエルが覚醒した邪神剣を掲構えた。ジュリアスやルヴィア、ミーナ達が動いた。
「させるかぁっ!――破魔!」
「―――星天光!」
だが彼らの呪文は全て不発に終わった。
「ぐぅっ!呪文が…っ」
「――森霊獅!」
ミーナの精霊魔法だけが辛うじて発動し、翠色の獅子がザナエルに向かって走る。
「――黒炎喰」
「ギャオオォォッ!」
だがエリクが放つ黒炎は獅子に纏わりつき、跡形もなくそれを燃やし尽くした。
「邪魔はさせませんよミーナ殿」
「エリクっ!」
「ゾルド様よ!どうかお目覚めになされよ!」
ザナエルが邪神剣を振り下ろした。封印の水晶に一筋の切り裂き痕が走り、ピシピシと音を立てる。ミーナ達に絶望が襲う。
「あ―――」
荒れ狂う暗黒の嵐がホールを蹂躙し、人々の視界を奪った。
「「「うああああぁぁっ!」」」
******
「おいドハン!瓦礫の撤去作業はちゃんと進んでるか!?」
「見れば分かるでしょ、もう。レディにそんな大声出して失礼しちゃうわ」
戦火により一部建物が崩れたルーネウスのある町で、捕まった他の部下達ととも囚人として労役していた筋肉盗賊だったドハンが嬌声を上げて返答する。見張りは現場の様子を見て頷く。
「ならいい、もう休憩時間だから休んで良いぞ」
ドハンの部下達が歓声を挙げる。
「やったぁ!」
「俺もうくたくただよ…」
「まったくだらしないわね。筋肉の鍛錬が足りないのよ」
町の住人でもある囚人の食事係の老婆が水と食事を囚人達に配る。
「お疲れさん、さあどうぞ」
「あんた、いつもありがとね」
「いいのよ。囚人さんとはいえ、町の再建の手伝いをしてくれてるんだから」
「良い人よねおばちゃんは、どうりで今でも若く見えるわ」
「あらま、ふふ、ありがとさん」
老婆から貰った簡素な食事を部下達と一緒に食べるドハンに、先ほどの衛兵が声をかける。
「にしても、あんた意外としっかり働いてるなドハン。大抵の囚人はノルマさえ達成すればいいのに、あんたの子分らも含めてそれ以上の作業をするんだから」
「当然よ。あたしは新しい恋の炎に燃やされて生まれ変わったの。いつか思い人と再会するためにも、ここはがんばって昔の罪を償わなきゃね」
(そりゃ別にいいけど、何で僕達まで付き合わなきゃなんないの?)
(しっ!また何時間も筋トレしたくないなら黙っときな)
「そ、そうか?よくわからんが大したものだ。お陰で町の復興も進んでるし、さすがに感謝しなきゃ――」
衛兵の言葉が遮られる。段々と大きくなる地揺れによって。
「な、なんだっ、地震かっ?」
「か、かしら!空が!」
「や、やだっ、なにあれ!?」
――――――
地揺れによりガルシアの館の棚から花瓶が落ちて砕ける。
「うわー地震だー!」
「みんな落ち着いて!今すぐ机や椅子の下に隠れて!」
メイド達が慌てて子供達を誘導するなか、まだ体に包帯を巻いているガルシア本人も、外の庭で一緒に遊んでいた子供を落ち着かせる。
「す、凄く大きい地震だよおじちゃん…!」
「慌てるな!こっちに来なさいっ、建物から離れるのだっ」
なんとか子供達の安全を確保するガルシア達だが、想像以上に長く続く地揺れに段々と不安を感じる。
「ううぅ~っ、こ、怖いよおじさん~~」
「この地震いつまで続くの~?」
「おかしい…この地に地震なんて一度もなかったし、こんなに長く続く地震聞いたことが…っ」
「…あっ!みんな!あれ!」
ガルシア達は子供が指差す先を見た。血に染められたかのような暗黒の雲が雷をともなって遥か地平の空を埋め尽くしていた。
「あの方向は…まさか帝都っ!」
雷鳴にも地鳴りにもつかない大きな爆音が、彼方から響いた。
「「「わあああぁっ!」」」
それに驚いた子供達が耳を塞いでうずくまる。同じようにしたノアは祈るようにウィルフレッドからもらったツバメのメダリオンを強く握りしめる。
(ツバメさんっ)
「…あ、あれ…?」
「ぬう…っ」
ふと震動が止まった。子供が指差していた方向の暗雲も見えなくなり、恐ろしく感じるぐらいに風や大地は落ち着いていた。先ほど晴れてた空が曇天に変わってることを除いては。
「な、なんだったんだろうさっきの…」
「わかんない…」
安静した回りに反して不安が残る子供達。ガルシアもまた同じ不安を抱えながら、帝都の方向を見据えた。
(ラナ様…ウィル殿…っ)
******
帝都から爆発的に噴出した暗黒の瘴気が収束し、帝都一帯を覆う暗雲と化していた。終焉を告げるかのような雷が、赤みを帯びた暗雲から激しく轟き、逆三角の中心に構築された禍々しき暗黒のドームに打たれていく。
「う、うぅ…」
先ほどの衝撃で奪われた視界が回復したレクス達は、ゆっくりと目を開ける。
ドクン、ドクンと、大きな鼓動を打つ卵のような物体が、浮いていた。鉱石とも生物ともつかないそれに、深紅の模様が禍々しく光る。いまだその場に残る人達はその音を聞くだけで、その物体を見るだけで、謂れのない畏怖感に打ちひしがれそうになった。レクスとカイもまた例外ではなかった。
「あ…あれが…」
「邪神、なのか…?」
「…ふ、ふふふ」
「ミーナ殿っ?」
杖で体を支え、なんとか立ち上がるミーナはザナエル達を見た。
「見誤ったなエリク、ザナエル!逆三角で封印の力を削ぎ、その邪神剣とやらで水晶を砕く目論見だろうが、女神の封印の根本まで砕くことはできなかったようだな!」
「…んクククク、ンははははははははっ!」
しかしザナエルはただ嗤った。
「仰るとおり、恐るべきは三女神の封印よ。これだけ条件が揃っても完全に解くことはできない。…だが安心したまえ、封印を解く最後の鍵は既に揃っておる」
「なんだとっ?」
「放して…っ、放して!」
「エリーちゃん!」
「エリーっ!」「キュキュ~ッ!」
ホールの中に、教団兵達に縛られたエリネが連れてこられる。
「きゃあぁっ!」「アイシャっ!」
「ぐぅぅっ!」「ラナ様っ!」
床に倒れて苦しんでいたアイシャとラナも、他の教団兵に縛られ、ザナエルと邪神の卵にいる所へと連れて行かれる。
「アイ…っ!」
「ぬぐぅぅ!おのれ…!」
「この体さえ、動ければ…!」
ジュリアスやロバルト、ルドヴィグ達は立ち上がろうとも、その場にいるほかの人同様、徐々に脱力する感覚と精神への圧迫、四肢の痺れにより動くことができなかった。
「くそっ!アイシャ達をはなせ――ぐあっ!」
「キュ~ッ!」
立ち上がろうとするカイが、赤い目のフードを被ったザレの蹴りを喰らってはルルもろとも再び床を舐めてしまう。
「まだ殺すなよザレ、人が減る分、ゾルド様に捧げる混沌が減ってしまうからな」
「御意」
ザナエルに会釈するザレに、システィは大きく目を見開く。
(この声、あの男は…っ!)
「ぐぅ…くそ…!」「キュウ~…」
ルルを懐に抱いて顔を上げるカイは、ふと少し離れた場所に落ちている神弓フェリアに気付いた。
教団兵が卵の前に柱を立たせ、逆三角により力を殆ど削がれたエリネやアイシャ、ラナが縛られたまま柱に連れて行かれる。
「うぅ…っ、大丈、夫?エリーちゃん…っ」
「アイシャ、さん…っ」
三人とも柱に縛り付けられ、ラナは傍で自分を見つめ続けているオズワルドを睨む。
「オズワルド…!」
オズワルドの顔に再び冷たい悦に満ちた表情が浮んだ。
「ラナ!アイシャ!エリー!ザナエル…っ、おぬし何をするつもりなんだっ!?」
「まだ分からないのですか、ミーナ殿?我は申したであろう、ゾルド様の復活の鍵は既に揃っておると」
縛られたラナ達を一度見て、ミーナはようやくその真意を理解して目を大きく見開いた。
「ま、まさか…っ」
「ククク、ようやく理解できたようですな。我がなぜ、三人の巫女が姿を現すまで隠れ続けていたのか。そう、封印を解く最後の鍵は、女神達の魂の力を受け継いだ三人の巫女に他ならないのだ」
ミーナやレクス達が震えた。ザナエルは邪神剣の刃を愛おしそうに指を這わせながら続いた。
「そう驚くこともあるまい。三女神の封印は強力だ。因果律までも織り込んだこの封印は、ただ外力により無理やりこじ開けるわけには行かない。故に我はゾルド様が封印されて以来、ずっとその解き方を研鑽してきた。そして至ったのだ。三女神が施した封印は、他ならぬ三女神の力を持つ巫女たちの力が必要だと。しかも困ったことに、ゾルド様自身が巫女達を生贄として取り込まなければ、封印は破れない。だがゾルド様は封印の中に閉じ込められ、それができなくなっていた。なんとも完ぺきな封印だ。これが判明した時は実に絶望したものよ」
レクスがザナエルを睨む。
「な、なるほどねぇ…っ、そこであの岩柱と剣って訳かい…っ」
「その通り!逆三角の陣により封印の力を弱め、ゾルド様の骨より作られしこの剣で封印の浅層を砕く!ゾルド様の本体に至らずとも、その末端が封印から抜け出るようになれば、ゾルド様は自ら巫女達を取り込むことができる!」
寒気を誘う怨嗟の如き音を発する邪神の卵を振り返るザナエル。
「我の目論見とおり、それは今まさに成された。んクククク、ギルバート殿には本当に感謝しきれんな。最初はどうやって巫女らを結界の中へと誘うのに悩んだが、瞬時転移できるあのクリスタルのお陰で巫女の全員を確保でき、邪神剣の覚醒まで果たした。加えて三国の精鋭らをも無力化し、正に一石三鳥!あとはゾルド様が十分な混沌を吸収し、自ら端末を伸ばせば、復活は成る!我ら罪人たちの祝福の時代が訪れるのだ!ンはははははぁっ!」
レクスが歯軋りする。
(やはりウィルくんが言ってた、あの艦にあったアスティル・クリスタルの力か…っ)
「――んなこと…っ」
全員がカイの方向を向いた。いつのまにか神弓へと這いずった彼は、渾身の力を搾り出して弓をザナエルに構えた。アイシャが叫ぶ。
「カイくん…っ!」
「させるかよこの腐れ仮面野郎おぉぉぉーーーーっ!」
白銀の月の矢が放たれる。だが前に戦場で発揮した時と比べ、その輝きも強さも大きく落ちていた。ザナエルは嗤っては邪神剣を軽く振った。邪神の邪気と破魔の矢が衝突し、小さな空気の破裂が生じてザナエルの体を軽く震撼させる。
「ぬぅっ」
「「ザナエル様っ」」
緊張するエリクやザレに反し、片手で仮面を抑えるザナエルの声は歪んだ興奮に満ちていた。
「よい、かすり傷だ」
「なっ…」
弓矢の威力が落ちたことに驚くカイに向けて、ザナエルは邪神剣を突き出す。闇の電光が放たれ、強烈な重圧が頭上から追いかぶさるようにカイを襲い、彼は床にのめりこんでしまう。
「があぁっ!」
「いやぁっ!カイくんっ!」
「あぐっ!ア、アイシャ…!」
「カイくん!ザナエルやめてっ!彼に手を出さないでっ!」
アイシャの悲痛の叫びがホールに響いた。
ザナエルは冷笑し、邪神剣を収めてカイへの重圧を解いた。
「かはっ…!」
「カイくん…っ」
「さすが当代のルミアナの勇者、その活きの良さと度胸、ロジェロよりも寧ろダリウスを思い出させるな。だが言うたであろう、逆三角内にある三女神由来のものは全てその力を削がれる。神器とて例外ではない」
地面に伏せたカイを見て薄ら笑うザナエルにミーナが叫んだ。
「ザナエル…っ、おぬしは一体何者なのだっ?」
ザナエルはミーナを見た。
「大地の谷を知ってることと良い、妖魔や封印への知識、そしてまるで千年前の戦争を知っているような口ぶり…っ。おぬしは…っ」
「ンくくくく、その問いにあえて答える必要はない、が…」
邪神剣を地面に刺し、先ほどの衝撃で痛んだフードを掴むザナエル。
「場を盛り上がるためにも、やはり明かした方が作法というものだな」
フードもろとも身にまとうローブを、彼は剥がした。ミーナ達だけでなく、ザレを除いた教団兵らまでもが驚愕の声をあげた。
ザナエルは仮面をかぶってはいなかった。仮面が顔なのだ。はっきりと生身だと分かるのは、死人のように蒼白な両腕だけで、その体、上腕と足は見るにも奇怪なカラクリに、生身の肉や器官らしきものがちぐはぐにつながれている。例えるのなら、死体を一度バラバラに引き裂いては、ガラクタを使ってオンボロの人形に補修しなおすかのような、おぞましい姿だった。
【続く】
「な…なんなんだ、いったい何が起こったんだっ?」
「何よあれ…なんでいきなり、あんなものがここに…?」
彼らの視線の先に聳え立つ、大地を突き破って天を貫く三本の牙のごとき黒の岩柱、塔、或いは、塚。その上に刻まれたおぞましい呪文と模様が、それぞれ異なる色を堪え、脈動するように光っていた。人々はたとえそれから視線を外さそうとも、目が吸い寄せられてしまう。物言えぬ畏怖が彼らにそう強いるよう囁いているからだ。
血の如き赤き塚を見よ。
いかな善を信じる純真な人でも、それを見れば己の甘さをあざけり、憎悪でその身を染めていくだろう。
虚無を内包せし緑の塚を見よ。
いかな熱き夢を抱く人でも、それを見れば夢なぞ稚気じみた空想だと恥じ、怠惰と虚無に溺れていくだろう。
恐怖を撒き散らす紫の塚を見よ。
いかな勇気ある人でも、それを見れば途端に心は砕かれ、全てを諦めて恐怖に身を委ねるだろう。
「ザナエルっ」
オズワルドが、ヒルダの血を吸ったばかりの邪神の短剣をザナエルに投げ渡した。それを受け取った途端、短剣から渦巻く邪気が、心を引き裂くかのような怨嗟の声とともに噴出し、周りにその暴威を振るった。
「「きゃあぁぁっ!」」
「アイシャっ!」
「ラナ様っ!」
爆風の如き邪気に吹かれて体勢を維持しようとするカイ達。既に剣形態へと戻った邪神剣を手に、ザナエルの哄笑が仮面の下から発する。
「ンははははははははっ!よくやったオズワルド!憎悪!虚無!恐怖!そして肉親殺しの大罪!聖なる逆三角の三角と中心が全て揃った!」
一瞬に多くの出来事で混乱していたラナ達はいまだ多くの疑問を抱いていた。何故外に三本の巨大な岩柱が出現したのか、ザナエル達がどうやって一瞬にしてこの地へと移動したのか。だがその答えを考える暇もない。ザナエルが高々と邪神剣を両手で掲げ、その切っ先を地面に向けた。それを見たミーナ達の本能が全力で警鐘をあげている。今すぐザナエルを止めなければ、取り返しのつかない事態になると。
「やつをっ!ザナエルを止めろーーーーッ!」
ミーナの叫びとともに、ラナが、アイシャが、レクスやカイが、動ける周りの騎士達が一斉に動いた。持ちうる最大のスピードでザナエルに向かって駆けた。だが時は既に遅きに失した。
「逆三角っ、ここに完成せりーーー!」
邪神剣が地面に刺さった。
「「「うわああああっ!」」」
「「「きゃああぁぁっ!」」」
閃光が迸る電光とともにダンスホールを包み、巨大な光柱が天へと登っていく。帝都の人々が一斉に悲鳴をあげた。皇城にいるザナエルの邪神剣中心に、三つの光が地面を伝って三つの塚へと走り、三色の光が苦悶とも嘲笑ともつかない声と顔を纏った邪気とともに塚から天へと駆ける。
三つの点から三つの色のオーラの奔流が帝都の地面を抉りながら線と円を繋いでいく。晴れていた空が赤みを帯びた暗雲により覆われ、世の終わりを告げるかのような雷が轟く。勇壮な帝都ダリウスを、逆三角の禍々しい結界が包んでいった。
「う、うあぁぁ…っ!」
「ひっ、や、やだ…!なんだこれぇ…!」
「あひ、あひひひひひっ!」
結界の中の人々が今やパニックに留まらず、みな倒れては萎縮し、ある人は怒り、ある人は泣き、ある人は気に触れたかのように笑った。先ほどまで心に満ちた幸福感に、憎悪と虚無と恐怖が否応なく押し込み、混ざり、感情の坩堝という混沌に心を飲み込まれてしまう。
さもありなん。純心を穢し続けた憎悪の塚を目にして、先ほどまで喜びに満ちた自分を笑わない人などいようか。夢の骸を積もり上げた虚無の塚を目にして、ようやく夢を追える自分に羞恥を覚えない人などいようか。気高き勇気を砕き続けた恐怖の塚を目にして、抱いてた誇りを失くさない人などいようか。
逆三角の中の人達だけでなく、郊外で駐屯していた兵士や騎士達も、ボルガやドーネ達も、みな己の中に暴れる感情の混沌に、なすすべもなく苛まれていった。
「ぐぅ…!」
「ルイ!うぅお…!」
ルドヴィグとジュリアスが苦しそうに膝をついてしまう。彼らだけではない。ホールから逃げようとする貴族達。ザナエル達に立ち向かおうとするルヴィア、元の姿に戻ったシスティ、そしてアランやミーナらはみな、謂れのない苦しみと脱力感に襲われ、次々と膝をついてしまう。
「あぐ!な、なんだこれ…っ!気持ちわりぃ…!」
「キュウウゥ…っ」
「力が…力が抜いていく…っ」
カイとレクスは立ち上がろうとするも、意に反して体がいうことを聞かない。
「んクククク…。いかがかな、三大聖王国の諸君。招待状もなく押し込み参加した我からのお詫びの土産は」
邪神剣を抜いてせせら笑うザナエルを、ミーナは杖でなんとか体を支えながら彼の傍に立つエリクとともに睨んだ。
「ザ、ザナエル…!エリク!おぬしら、逆三角の結界を…っ」
「そのとおりですよミーナ殿」
エリクはいつもの平然とした笑顔を見せる。ザナエルが陰湿な笑い声とともに続いた。
「ミーナ殿ならご存知だと思うが、この逆三角の禁法は三女神と相反する性質を持つ三つの塚と、邪神様の骨より作られしこの邪神剣からなる反女神の結界。我が生涯をかけて構築したこの結界の中では、ゾルド様の加護を受けし我らを除き、三女神に関わるものは例外なくその魂を縛られ、力が削がれる。そして――」
「くふぅ…っ!」「あぅぅ…!」
「ラナ様!」「アイシャっ!」
ラナとアイシャが、レクスやカイ以上に苦しそうな様相を呈していた。聖痕がまるで篝火のように明滅し、息遣いができないほどの圧迫感に、二人は思わず喉や胸を押さえ、苦悶する。
「んククク、当然、三女神の魂の力を受け継いだ巫女殿達だと、他人以上に苦しく感じるのであろうなぁ…」
「あ、くぅ…っ、息が…カイくん…っ」
「アイシャ…っ、くそ…!」
先ほどの衝撃でアイシャから離れてしまったカイは彼女の傍に行こうとするも、力がだんだんと抜けてしまう。
「ぐうぅ…っ!」
ラナは遠くに横たわっている母ヒルダの遺体を一瞥すると、血が滲むほど歯を食い縛り、床に落ちたエルドグラムを掴んだ。
「この私を…っ」
聖痕が焼けるほどの激痛に苛まれながら、ラナは闘志を目に燃やした。残る全ての力を振り絞って剣を抜き、ザナエルに切りかかった。
「なめるなあぁぁっ!」
ザナエルは微動だにしない。二人の間に挟む人影があるからだ。鈍い音とともに、ラナのエルドグラムがオズワルドの異形化した手によって素手で受け止められた。ラナやレクス達が瞠目する。
「な…っ」
「この状況でもなお闘志を失わない。それでこそですよラナ様」
オズワルドの顔に初めて表情が浮んでいた。喜びの顔だった。
「ですが、今は暫く大人しくしてください」
ミシミシとエルドグラムが軋み、オズワルドが異形のその手を大きく捻った。ミスリル製の剣が金属の破裂音とともにあっけなく折れてしまう。そしてさらに軽く手を振ると、ラナの体が吹き飛ばされ、エルドグラムの破片とともに地面を舐める。
「があぁっ!」
「ラナ様ぁっ!ぐぉっ…!」
立ち上がろうとするレクスの足が震え、再び倒れてしまう。
――――――
「ラナっ!ギル、あんた…っ」
闇の天幕に包まれた庭の空で、アルマ化したギルバートと鍔迫り合いしているウィルフレッドが唸る。オズワルドの先ほど擬態を解除した際の挙動。そしてあの手。忘れもしない。あれはかつてアルファチームの運命が一変したあの日で対峙したミミック変異体の機能だ。
「おうよ。ビリーが後でさらに発展型に開発した奴らしい。だが安心しな。俺が見つけてきた変異体のナノマシンはあれで打ち止めだ。もうこれ以上残っちゃいねえよ」
「ギル…っ」
ラナ達と違ってこの世界に属さず、逆三角の影響を受けない二人がお互いの剣と槍にさらに力を込める。ギャリリと火花が飛散る。
「そんなことより、さすがにそろそろチームに戻る頃合だぜウィル。もうすぐ邪神なんたらが復活するんだ、そうすりゃ――」
「きゃあぁぁっ!」
「! エリー!」
ウィルフレッドは下で悲鳴をあげるエリネを見た。逆三角により苦悶していた彼女が、ホールから流れ出た教団兵たちに取り押さえられしまう。
「いやっ、放して…っ!ウィルさぁんっ!」
「エリーっ!!!」
「ぐぅ!?」
ギルバートを弾き、ウィルフレッドはエリネを助けるために下へ飛翔する。
「おいウィルっ!」
だがギルバートが一瞬にして彼の前に立ち塞がる。
「どこ行こうとしてやがるっ!俺はてめぇと話を――」
「どけ…っ」
「あん?」
「どきやがれぇっっっ!!!」
「ぬおっ!?」
衝動に任せた双剣の一撃を辛うじて受け止めたギルバートが退いてしまい、ウィルフレッドは彼に目にもくれずに再びエリネへと飛んで行く。
「エリーっ!エ――ぐあぁっ!?」
ウィルフレッドの背中が、ギルバートの勢いの乗った蹴りが命中し、そのまま彼とともに地面へとめり込んでしまう。
「がぁ…っ!」
「おいっ!なに俺を無視しやがる!」
ウィルフレッドを踏みつけるギルバートの声は苛だっていた。
「女の尻を追っかけるなんざ情けねえぞウィル!」
「ぐおぉっ…」
背中を押さえられたウィルフレッドの目の前に、エリネが教団兵にホールの方へと連れ去れてしまう。もがくエリネの首から、双色蔦のペンダントがちぎられて落ちる。
「ウィルさん!ウィルさぁん…!」
「エリーっ!ぐぅ…があぁっ!」
「くっ!」
全身で青のアスティルエネルギーを放出し、激しい衝撃が庭を震撼させる。舞い上がる砂塵からウィルフレッドとギルバートが飛び出て、再び空中で対峙する。
「ちぃぃ、女一人でぎゃあぎゃあ喚いて!てめえらしくもねえ!」
「うるさいっ!俺の邪魔をするなあぁっ!」
二人が再び切り結んだ。
――――――
ザナエルが手に持つ邪神剣がバチンと電光が走る。帝都全体に不気味なオーラが可視化し、それが電光を伴って邪神剣に向けて集中していく。その様相はさながら邪神剣が混沌を貪るかのようだ。ラナとアイシャの聖痕が焼きつくかのような高熱を放ち、二人が苦悶する。
「あぐぁ…!」「きゃああっ!」
「ラナ様っ!」「アイシャっ!」
「おおぉ…!」
ザナエルが唸る。邪神剣が一際大きく震えては唸り声をあげ、闇夜よりも暗き暗黒の邪気を放つと、柄の宝珠がおぞましい瞳を開いた。邪神剣がついに真の覚醒を果たしたのだ。
「んハハハハハハハっ!ギルバート殿にはまこと感謝せねばなっ!『平和ボケ達を動揺したければ、絶頂の時を狙うのが一番効果的』、かっ!恐れ入った!さすが混沌とした世界から来られたお方!先日の戦いでここに渦巻く混沌も含めているとはいえ、眷属を解放した際に使った以上の邪気が一瞬にして補われ、覚醒まで至るとはな!」
スドンと、ザナエル達後方に残る最後の棺桶が爆発した。ロバルトやミーナ達に戦慄が走る。
「ぬぅっ、あれは…!」
「ふ、封印の水晶…!」
三本の塚の光が、邪神剣のオーラが、いま自主的に浮ぶ巨大な水晶玉の鼓動に呼応するかのように脈動する。水晶の中で蠢く何かが昂ぶるかのように大きく震えた。まだホールに残っている人達は、まるで生まれてから魂に刻まれた記憶が蘇ったかの如くそれに畏怖する。
「さあっ!ゾルド様復活の序曲を始めようではないかっ!」
封印の水晶へと移動し、ザナエルが覚醒した邪神剣を掲構えた。ジュリアスやルヴィア、ミーナ達が動いた。
「させるかぁっ!――破魔!」
「―――星天光!」
だが彼らの呪文は全て不発に終わった。
「ぐぅっ!呪文が…っ」
「――森霊獅!」
ミーナの精霊魔法だけが辛うじて発動し、翠色の獅子がザナエルに向かって走る。
「――黒炎喰」
「ギャオオォォッ!」
だがエリクが放つ黒炎は獅子に纏わりつき、跡形もなくそれを燃やし尽くした。
「邪魔はさせませんよミーナ殿」
「エリクっ!」
「ゾルド様よ!どうかお目覚めになされよ!」
ザナエルが邪神剣を振り下ろした。封印の水晶に一筋の切り裂き痕が走り、ピシピシと音を立てる。ミーナ達に絶望が襲う。
「あ―――」
荒れ狂う暗黒の嵐がホールを蹂躙し、人々の視界を奪った。
「「「うああああぁぁっ!」」」
******
「おいドハン!瓦礫の撤去作業はちゃんと進んでるか!?」
「見れば分かるでしょ、もう。レディにそんな大声出して失礼しちゃうわ」
戦火により一部建物が崩れたルーネウスのある町で、捕まった他の部下達ととも囚人として労役していた筋肉盗賊だったドハンが嬌声を上げて返答する。見張りは現場の様子を見て頷く。
「ならいい、もう休憩時間だから休んで良いぞ」
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「やったぁ!」
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「あらま、ふふ、ありがとさん」
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「当然よ。あたしは新しい恋の炎に燃やされて生まれ変わったの。いつか思い人と再会するためにも、ここはがんばって昔の罪を償わなきゃね」
(そりゃ別にいいけど、何で僕達まで付き合わなきゃなんないの?)
(しっ!また何時間も筋トレしたくないなら黙っときな)
「そ、そうか?よくわからんが大したものだ。お陰で町の復興も進んでるし、さすがに感謝しなきゃ――」
衛兵の言葉が遮られる。段々と大きくなる地揺れによって。
「な、なんだっ、地震かっ?」
「か、かしら!空が!」
「や、やだっ、なにあれ!?」
――――――
地揺れによりガルシアの館の棚から花瓶が落ちて砕ける。
「うわー地震だー!」
「みんな落ち着いて!今すぐ机や椅子の下に隠れて!」
メイド達が慌てて子供達を誘導するなか、まだ体に包帯を巻いているガルシア本人も、外の庭で一緒に遊んでいた子供を落ち着かせる。
「す、凄く大きい地震だよおじちゃん…!」
「慌てるな!こっちに来なさいっ、建物から離れるのだっ」
なんとか子供達の安全を確保するガルシア達だが、想像以上に長く続く地揺れに段々と不安を感じる。
「ううぅ~っ、こ、怖いよおじさん~~」
「この地震いつまで続くの~?」
「おかしい…この地に地震なんて一度もなかったし、こんなに長く続く地震聞いたことが…っ」
「…あっ!みんな!あれ!」
ガルシア達は子供が指差す先を見た。血に染められたかのような暗黒の雲が雷をともなって遥か地平の空を埋め尽くしていた。
「あの方向は…まさか帝都っ!」
雷鳴にも地鳴りにもつかない大きな爆音が、彼方から響いた。
「「「わあああぁっ!」」」
それに驚いた子供達が耳を塞いでうずくまる。同じようにしたノアは祈るようにウィルフレッドからもらったツバメのメダリオンを強く握りしめる。
(ツバメさんっ)
「…あ、あれ…?」
「ぬう…っ」
ふと震動が止まった。子供が指差していた方向の暗雲も見えなくなり、恐ろしく感じるぐらいに風や大地は落ち着いていた。先ほど晴れてた空が曇天に変わってることを除いては。
「な、なんだったんだろうさっきの…」
「わかんない…」
安静した回りに反して不安が残る子供達。ガルシアもまた同じ不安を抱えながら、帝都の方向を見据えた。
(ラナ様…ウィル殿…っ)
******
帝都から爆発的に噴出した暗黒の瘴気が収束し、帝都一帯を覆う暗雲と化していた。終焉を告げるかのような雷が、赤みを帯びた暗雲から激しく轟き、逆三角の中心に構築された禍々しき暗黒のドームに打たれていく。
「う、うぅ…」
先ほどの衝撃で奪われた視界が回復したレクス達は、ゆっくりと目を開ける。
ドクン、ドクンと、大きな鼓動を打つ卵のような物体が、浮いていた。鉱石とも生物ともつかないそれに、深紅の模様が禍々しく光る。いまだその場に残る人達はその音を聞くだけで、その物体を見るだけで、謂れのない畏怖感に打ちひしがれそうになった。レクスとカイもまた例外ではなかった。
「あ…あれが…」
「邪神、なのか…?」
「…ふ、ふふふ」
「ミーナ殿っ?」
杖で体を支え、なんとか立ち上がるミーナはザナエル達を見た。
「見誤ったなエリク、ザナエル!逆三角で封印の力を削ぎ、その邪神剣とやらで水晶を砕く目論見だろうが、女神の封印の根本まで砕くことはできなかったようだな!」
「…んクククク、ンははははははははっ!」
しかしザナエルはただ嗤った。
「仰るとおり、恐るべきは三女神の封印よ。これだけ条件が揃っても完全に解くことはできない。…だが安心したまえ、封印を解く最後の鍵は既に揃っておる」
「なんだとっ?」
「放して…っ、放して!」
「エリーちゃん!」
「エリーっ!」「キュキュ~ッ!」
ホールの中に、教団兵達に縛られたエリネが連れてこられる。
「きゃあぁっ!」「アイシャっ!」
「ぐぅぅっ!」「ラナ様っ!」
床に倒れて苦しんでいたアイシャとラナも、他の教団兵に縛られ、ザナエルと邪神の卵にいる所へと連れて行かれる。
「アイ…っ!」
「ぬぐぅぅ!おのれ…!」
「この体さえ、動ければ…!」
ジュリアスやロバルト、ルドヴィグ達は立ち上がろうとも、その場にいるほかの人同様、徐々に脱力する感覚と精神への圧迫、四肢の痺れにより動くことができなかった。
「くそっ!アイシャ達をはなせ――ぐあっ!」
「キュ~ッ!」
立ち上がろうとするカイが、赤い目のフードを被ったザレの蹴りを喰らってはルルもろとも再び床を舐めてしまう。
「まだ殺すなよザレ、人が減る分、ゾルド様に捧げる混沌が減ってしまうからな」
「御意」
ザナエルに会釈するザレに、システィは大きく目を見開く。
(この声、あの男は…っ!)
「ぐぅ…くそ…!」「キュウ~…」
ルルを懐に抱いて顔を上げるカイは、ふと少し離れた場所に落ちている神弓フェリアに気付いた。
教団兵が卵の前に柱を立たせ、逆三角により力を殆ど削がれたエリネやアイシャ、ラナが縛られたまま柱に連れて行かれる。
「うぅ…っ、大丈、夫?エリーちゃん…っ」
「アイシャ、さん…っ」
三人とも柱に縛り付けられ、ラナは傍で自分を見つめ続けているオズワルドを睨む。
「オズワルド…!」
オズワルドの顔に再び冷たい悦に満ちた表情が浮んだ。
「ラナ!アイシャ!エリー!ザナエル…っ、おぬし何をするつもりなんだっ!?」
「まだ分からないのですか、ミーナ殿?我は申したであろう、ゾルド様の復活の鍵は既に揃っておると」
縛られたラナ達を一度見て、ミーナはようやくその真意を理解して目を大きく見開いた。
「ま、まさか…っ」
「ククク、ようやく理解できたようですな。我がなぜ、三人の巫女が姿を現すまで隠れ続けていたのか。そう、封印を解く最後の鍵は、女神達の魂の力を受け継いだ三人の巫女に他ならないのだ」
ミーナやレクス達が震えた。ザナエルは邪神剣の刃を愛おしそうに指を這わせながら続いた。
「そう驚くこともあるまい。三女神の封印は強力だ。因果律までも織り込んだこの封印は、ただ外力により無理やりこじ開けるわけには行かない。故に我はゾルド様が封印されて以来、ずっとその解き方を研鑽してきた。そして至ったのだ。三女神が施した封印は、他ならぬ三女神の力を持つ巫女たちの力が必要だと。しかも困ったことに、ゾルド様自身が巫女達を生贄として取り込まなければ、封印は破れない。だがゾルド様は封印の中に閉じ込められ、それができなくなっていた。なんとも完ぺきな封印だ。これが判明した時は実に絶望したものよ」
レクスがザナエルを睨む。
「な、なるほどねぇ…っ、そこであの岩柱と剣って訳かい…っ」
「その通り!逆三角の陣により封印の力を弱め、ゾルド様の骨より作られしこの剣で封印の浅層を砕く!ゾルド様の本体に至らずとも、その末端が封印から抜け出るようになれば、ゾルド様は自ら巫女達を取り込むことができる!」
寒気を誘う怨嗟の如き音を発する邪神の卵を振り返るザナエル。
「我の目論見とおり、それは今まさに成された。んクククク、ギルバート殿には本当に感謝しきれんな。最初はどうやって巫女らを結界の中へと誘うのに悩んだが、瞬時転移できるあのクリスタルのお陰で巫女の全員を確保でき、邪神剣の覚醒まで果たした。加えて三国の精鋭らをも無力化し、正に一石三鳥!あとはゾルド様が十分な混沌を吸収し、自ら端末を伸ばせば、復活は成る!我ら罪人たちの祝福の時代が訪れるのだ!ンはははははぁっ!」
レクスが歯軋りする。
(やはりウィルくんが言ってた、あの艦にあったアスティル・クリスタルの力か…っ)
「――んなこと…っ」
全員がカイの方向を向いた。いつのまにか神弓へと這いずった彼は、渾身の力を搾り出して弓をザナエルに構えた。アイシャが叫ぶ。
「カイくん…っ!」
「させるかよこの腐れ仮面野郎おぉぉぉーーーーっ!」
白銀の月の矢が放たれる。だが前に戦場で発揮した時と比べ、その輝きも強さも大きく落ちていた。ザナエルは嗤っては邪神剣を軽く振った。邪神の邪気と破魔の矢が衝突し、小さな空気の破裂が生じてザナエルの体を軽く震撼させる。
「ぬぅっ」
「「ザナエル様っ」」
緊張するエリクやザレに反し、片手で仮面を抑えるザナエルの声は歪んだ興奮に満ちていた。
「よい、かすり傷だ」
「なっ…」
弓矢の威力が落ちたことに驚くカイに向けて、ザナエルは邪神剣を突き出す。闇の電光が放たれ、強烈な重圧が頭上から追いかぶさるようにカイを襲い、彼は床にのめりこんでしまう。
「があぁっ!」
「いやぁっ!カイくんっ!」
「あぐっ!ア、アイシャ…!」
「カイくん!ザナエルやめてっ!彼に手を出さないでっ!」
アイシャの悲痛の叫びがホールに響いた。
ザナエルは冷笑し、邪神剣を収めてカイへの重圧を解いた。
「かはっ…!」
「カイくん…っ」
「さすが当代のルミアナの勇者、その活きの良さと度胸、ロジェロよりも寧ろダリウスを思い出させるな。だが言うたであろう、逆三角内にある三女神由来のものは全てその力を削がれる。神器とて例外ではない」
地面に伏せたカイを見て薄ら笑うザナエルにミーナが叫んだ。
「ザナエル…っ、おぬしは一体何者なのだっ?」
ザナエルはミーナを見た。
「大地の谷を知ってることと良い、妖魔や封印への知識、そしてまるで千年前の戦争を知っているような口ぶり…っ。おぬしは…っ」
「ンくくくく、その問いにあえて答える必要はない、が…」
邪神剣を地面に刺し、先ほどの衝撃で痛んだフードを掴むザナエル。
「場を盛り上がるためにも、やはり明かした方が作法というものだな」
フードもろとも身にまとうローブを、彼は剥がした。ミーナ達だけでなく、ザレを除いた教団兵らまでもが驚愕の声をあげた。
ザナエルは仮面をかぶってはいなかった。仮面が顔なのだ。はっきりと生身だと分かるのは、死人のように蒼白な両腕だけで、その体、上腕と足は見るにも奇怪なカラクリに、生身の肉や器官らしきものがちぐはぐにつながれている。例えるのなら、死体を一度バラバラに引き裂いては、ガラクタを使ってオンボロの人形に補修しなおすかのような、おぞましい姿だった。
【続く】
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