ハルフェン戦記 -異世界の魔人と女神の戦士たち-

レオナード一世

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第十五章 星の巫女

星の巫女 第八節

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エリネ達がマリアーナの館から戻り、ラナ達が改めてメアリーらと三国諸侯達の会議に関する日程などを確認し終えた頃。彼女たちは、集合を呼びかけたミーナを含めた七人で接待室に集まっていた。すでに夜の帳が下りている窓の外をカイは見てから問うた。
「話しがあるってなんなんだミーナ?」
「うむ。今日の戦いで、教団の奴らがいきなり変貌した件について話しがしたくてな」

今日の襲撃を思い返すレクス。
「そういえばあいつら、いきなりめっちゃくちゃ強くなってたよね。不気味な黒いオーラと赤い模様も纏うし、あれなんだったのか分かるのミーナ殿?」
「一応な。実は今日そこでエリクと出会ったんだが、あやつはそれを邪神兵、邪神獣と呼んでいるそうだ」
「邪神兵?これまた仰々しい名前だね。まるで邪神の加護を受けたからあんな強さになったみたい」

「当たらずとも遠からずだな。時におぬしら、レイスという悪霊は聞いたことあるか?」
ルルを撫でていたエリネが頷く。
「確か生前に恨みを抱いて死んだ人の魂が、呪いとか瘴気とかによって汚染されて悪霊化した魔獣モンスターでしたよね。人に取り憑いてその生気を吸うとか」
「そうだ。そして取り憑かれた人は、普段以上の力を出せるようになってはいるが…」

ミーナが今日、戦場で拾った筒状の注射器みたいなのを机に置いた。ウィルフレッドが顔をしかめる。
「これは奴らが使ってた道具だが、この容器には霊体封印の処理が行われており、先端の針は、品質は高くないが魔晶石メタリカで作られておる。恐らくだが、この中の入れ物をこの針を通して対象へと流し込むように作られたと考える」

カイ達がその容器に注目する。
「それってどういう意味だ?まさか教団の奴ら、これを使ってあのレイスって奴を自分の体の中に打ち込んだってことか?」
頭を横に振るうアイシャ。
「でもおかしいです先生。例えレイスに取り憑かれてもそこまで力が増幅することはないはずですよ」

「…レギオンレイス」
ラナが呟いた。
「なんだいラナ様、そのレギオンレイスってのは」
「邪神の、ゾルドの眷属の話は皆知ってるわよね」
「うん、一応はね。普段は女神や勇者、邪神の方に注目されるけど。こっちも結構面白いお話いっぱいあるよね。空を暗雲で閉ざす暗黒竜とか、海そのものを飲み干す邪蛇とか、あと蒼白の死霊達の王…って、まさか」

ミーナが話を続いた。
「眷属らの真名は、一部専門書にしか書かれていないから意外と知られていない。消滅ではなく邪神と同じように封印された眷属が、名前を呼ばれることにより復活するのを防ぐためにな。そのうち一体が、ラナが言った蒼白の死霊達の王、レギオンレイスだ」

アイシャやエリネもまた、今日の戦いの状況を思い出す。
「そういえば、彼らがこれを体に突き刺さった瞬間。ザナエルと対峙したように聖痕が凄く熱くなっていました」
「あ、私もなりました。…じゃああれは、邪神の眷属であるレギオンレイスの邪気を感じ取ったから…?」

「まず間違いないだろう。この容器にはまだかすかにレイス特有の魔素マナが残っている。恐らくやつらはどこかに封印されたレギオンレイスを復活させ、その体を構成する魔素マナを微量に抽出してこの容器に封じ込めたんだろう。魔晶石メタリカの針を使ってるのは、魔素マナが飛散せずに確実に対象に打ち込めるためのものだろうな」

「うへぇ、マジですか。悪霊の魔素マナを体に打ち込むなんて。いったいどうやったらそんな発想が――」
「…ギルだ」
ウィルフレッドの両手に力が入る。

「やつらがこれを打ち込んだ動き、俺の世界で戦闘用の身体ブースターを打ち込む時みたいなものだった。きっとあいつが教団にそのことを教えたに違いない」
「そういえば…兄貴の記憶の中でも使ってたような気がする…」

「すまないみんな。もしそうだとしたら、また俺のせい――」
「違うわ、ウィルくん」
毅然としたラナが彼の言葉を遮る。
「ラナ?」
「いい?教団が使ってるこれ、材料は全て私達の世界のものよ。それはつまり、貴方達が来なくてもこの道具は作られた可能性があるってこと」

ミーナも同意する。
「そのとおりだ。それにこれに似たような構造は、一部錬金術師アルケミスト達がすでに使っているものだ。おぬしが気に悩むほどのものではない」
「ミーナ…」
「先生の言うとおりよ。だからカスパーの時みたいに自分を責めるのはやめなさい」

ラナ達の言葉に、ウィルフレッドは感激しながら会釈した。
「ありがとう、そうするよ。…またラナのお仕置きを受けるのはごめんだからな」
くすりと笑うラナ。
「そういう冗談が言えるのであれば安心ね」

「えっ、ひどい…僕だったら間違いなく拳飛んでくるのに…」
「なんか言ったレクス殿?」
「な~んでもありませ~ん」
エリネ達が小さく笑った。

「なに。戦場から離れる前に確認したのだが、これを打ち込んだ奴らの一部はそのまま絶命している人もいる。伝承では、レギオンレイスの邪気は非常に強力で、取り込まれた奴はそれに堪えられず腐敗してしまうものだから匙加減が難しいのだろう。つまり奴らもまだまだ試行錯誤の最中だ。それにこちらは神弓が覚醒したんだ。カイには苦労をかけるが、次にまた奴らと対峙したら神弓を主軸に戦えばなんとかやっていけるだろう」
ミーナの言葉にアイシャの胸が軽く痛むも、彼との決意を再び思い出しては、そっと手をカイの方に重ねる。

「そうですね。それにカイくん一人じゃなく、私も一緒にいますから」
思わず顔を赤くするカイは、アイシャの手を握り返す。
「そうだなっ、任せてくれみんな。次にまたあいつらと出会ったら俺とアイシャが先陣きって蹴散らしてやるさっ!」
カイの強い決意が篭った声に表情に、本当に成長したとしみじみ感じるエリネ。
「うん、頼りにしてるわお兄ちゃん」
「ああっ、もう兄貴一人だけ苦労させる訳にはいかないしなっ」

感謝するかのように微笑むウィルフレッド。
「…だが、神弓がこの時点で覚醒したってことは、やはりゾルドの復活が近いってことなんだな」
ラナが真顔になる。
「そうね。もし教団が本当にレギオンレイスを復活させたというのなら、彼らの方も準備が整いつつあることよ。…明後日の会議で早く意見を纏めて帝都に向かいたいわ」

レクスが頷く。
「確か教会国の大司教までも来るよね。う~緊張するなあ~、三大聖王国と教会国の人達が一同に集まるなんて、特別な祭り以外じゃ中々拝めないものだよ」
「しっかりなさい。会議を纏めるのは他でもない私達連合軍なんだから」
「合点承知してますって、これはいわゆる武者奮いって奴だよ。せっかくの見せ場なんだからヘマしちゃ軍師の名が廃るからね」

いつものにへらとした顔ではない、どこか真剣味を帯びた表情のレクスに、ラナは嬉しさを隠しながら頷く。
「期待しているわ、軍師殿」

最後にウィルフレッドはもう一度、机に置かれた注射器を見た。
(ギル…。お前も肉体の限界が近いはずなのに、このままで本当にいいのか?)


******


それからのウィルフレッド達は、明後日の会議に向けてそれぞれ用意を進めた。ラナとレクス、アイシャ、カイはルヴィアとともにその準備を。ウィルフレッドはミーナやエリネとともに薬草庫で治療の手がかりを探していた。

――やがて、会議の日が訪れた。


ラナ達が到着してから三日目の夕方。数多くの机が並ばれた広間の天井に、フラスコ画で描かれた三位一体のシンボル、三女神とそのしもべたる白い猟犬と黒猫、そして鳳凰の如く美しい青鳥。開放されたテラスからは、夕日に照らされた美しい王都セレンティアが見下ろせる。白塔城が誇る三女神の間はいま、三日前に到着したシャフナスたち含む三国の諸侯らが一同に集まっていた。

「お会いできて光栄ですラナ殿下。貴方の名は開戦前から兼ねてから伺っております。エイダーン皇帝の件、まこと今回の戦争とともに遺憾を感じずにはいられません」
「痛み入ります、ルーネウスのウルサ殿。そんな貴方がここに来て頂いたただけでも大変嬉しく思います」
「私達エステラの諸侯らも同じ思いです。ラナ様。いえ、女神エテルネの巫女様よ。他の諸侯はともかく、少なくとも私は全力でラナ様をご支援する所存です」
「感謝します、ウィミネ殿。貴女の鉄蔦騎士団の助力があれば百万の軍勢を得たのも同然です」

今回の招集者で主役でもあるラナの周りに既に各国の諸侯たちが集まっていた。その様子を、レクスはアラン、ウィルフレッドとともにテラスの方から見つめていた。
「う~むやっぱ貫禄だなあ。これだけ大きな顔ぶれが集まっても平然と対応できるだなんて。いつもながら感心しちゃうよねアラン殿」
「はは、そういうレクス殿も結構いつもどおりで中々の胆力をお持ちだと思いますよ、そうでしょうウィル殿」
「ああ、いつものレクスだな」

「二人ともやめてよ~。こう見ても割と緊張してるんだよ?見てよここの顔ぶれ…。ルーネウスで月の称号を賜ってる蒼月の騎士ウルサ。類見ない知略で数年前の辺境地帯の飢饉危機を解決したフクロウのクルト。どれもこれもルーネウスうちでは名の知れた有力貴族達だ。まだ前線での兵力も必要なのに、ロバルト王もよくここまでの人材を送ってくれたものだよ」

アランが改めてラナ達と歓談する諸侯達を見る。
「他にエステラ側でも相当な方達が集まってきてますね。エルフ百氏族の中で弓術に特に秀でたゼフ族のウィミネ女史とか。エステラ王国の文化的にあまり集まらないと思ってました」

ウィルフレッドが問うた。
「それはやはり、エステラの中立的な立場からくるものですか?」
「ええ。それに自然との調和を重視しているエステラは、元より戦い自体敬遠している傾向がありますからね。メアリー女王からの戦の招集に必ずしも応える必要がないのがエステラ流なのです」
「まっ、伝承の巫女という肩書きは伊達じゃないってことだね。巫女が現れ、邪神教団も表舞台に立ったいま、彼らも黙ってはいられないってことさ。…もっとも、別の目的でここにやってきた人もいるけど」

「いやぁ~、それにしても前からヘリティアの皇女様は大変聡明で美しい方と伺ってきましたが、まさか女神の巫女様だったとは。アイシャ様以上の麗しさに心打たれるばかりですなあ」
「ふふ、お褒めに預かり光栄です」
相手のアプローチにただ柔らかな笑顔で対応するラナ。

「ありゃルーネウスうちのダブネだね。どっかの盗賊団と結託して私腹を肥やしてる裏の噂の絶えない男だけど、あの言い方、既に相手のあるアイシャ様よりもまだ独身のラナ様に近寄ろうとしてる腹か」
「虫があるのはヘリティアこちらも同じですよ」

「ラナ殿下!まさかまたこうして殿下とお会いできるとは…っ、このジルコ、まさに感涙の極みでございますっ」
「そちらもよくぞここに来てくださいました、ジルコ候。普段保身に忙しい貴方が、まさか今回の召集に応じてくださるだなんて、そのお覚悟に頼ってもいいのでしょうか」

笑顔を崩さないラナが放つ棘ある言葉に、ジルコは悪びれずにへらへらと笑う。
「あはは、相変わらず手厳しいですねぇ。他ならぬ我らが誇る皇女様であり、女神の巫女様でもあるラナ殿下のためですから、存分に頼ってください」

「あのジルコ候は反オズワルド派とは言え、戦争前からこそこそ立ち回って戦いを避けては利益を横取りする卑しい男です。それなりの資源を有する人とはいえ、いつも裏があるあのような奴も招かないといけないのはまこと不本意です」
「仕方ないさ。を攻め落とすには、借りれる力は少しでも多いほうがいいからねぇ。背に腹は代えられないよ」

初めてこの世界の政治界隈を目の辺りにしたウィルフレッドは、思わず自分の世界地球での企業コーポや機関らの闘争を思い出す。
(規模やあり方が違うとはいえ、やはりこういうのはどこにもあるものだな…)
後ろめたい考えを振り払い、彼は改めて広間を見渡す。三国の人々が集まっているだけに、服装や風貌は勿論のことだが、珍しくもエルフやドワーフも普段以上に多く見られた。

「…そういえば、エルフやドワーフの諸侯も結構いるのだが、彼らはみんなエステラの人達のようだな」
「そうだね。エルフやドワーフは僕達みたいに国とか爵位を持つのに興味ないから、ルーネウスやヘリティアはエルフとかの諸侯は殆どいないんだ。勿論、マティとかみたいな例外はいるけど」

ふと広間の入口が騒然とする。
「おっ、どうやら来たようだね」
ラナと同じく今回の主役の一人であるアイシャが、凛々しく貴族の正装をしたカイにリードされながら入室した。着慣れない貴族界隈の服装のせいか、または初めて正式に貴族の社交圏に入ることへの緊張か、カイの動きは少しぎくしゃくしていた。

「うっわぁ…すげぇ…三国の貴族や騎士達が一堂に集まってる…」
小さく耳打ちしてくるカイからの緊張を感じて、アイシャは微笑みながらリードする彼の手を強く握り返す。
「大丈夫ですよカイくん、私もちゃんとフォローするから」
「ああっ、よろしく頼むよ」

そんな二人を、たちまち諸侯らが『包囲網』をかけた。
「ご機嫌麗しゅう、アイシャ様。あなたがまさか女神の巫女様だったとは、このウルサ、王家に仕えたことをこれほど光栄と思ったことはありません」
「お久しぶりですウルサ様。こちらこそ、今回の集会に応じてくださったことに感謝の言葉もございません」

「貴方が神器を覚醒させたという勇者ですか。聞けばどこかの農村の出の方ですが、美しきアイシャ様の勇者になられて出世するとは羨ましい限りですなあ」
「いやほんと、どのような方法でそれを成したかは分かりませぬが、神器を通してアイシャ様に近寄れるとは。先に勇気出してアイシャ様にアプローチすればよかったと悔やむばかりですよ、ははは」

目まぐるしく挨拶してくる貴族達。爽やかなものもあれば、どこかねっとりとした陰湿さも感じられる言葉。その勢いに軽く圧されるカイ。
(これが貴族の世界か…。こうして立ってるだけで凄いプレッシャーを感じるな。アイシャ、ずっとこんな世界で生きてきたのか…)
だがすぐに、彼は強く真っ直ぐに立つ。
(だからこそ、ここでしっかりしなきゃなっ。俺はもうアイシャと一緒に支え合いながら進むと決めたんだ。アイシャの全てを受け止めるって決めたんだっ)

戦意高揚としたカイが、アイシャとミーナの仕込みどおり小さく会釈する。
「恐縮です、諸侯の方々。仰るとおり、自分はまだまだ戦いも作法も未熟な若者です。だからこそ、今度の戦いで自分に色々とご指導してくれれば嬉しいですよ」

「えっ、あっ、それは勿論、でございます…」
思った以上に丁寧で濁りのない返しに、嫌味を言った貴族達が戸惑った。ウルサが気前の良い笑顔を見せてはカイに向けて騎士流の礼を示す。

「さすがアイシャ様が選んだ勇者、人柄も心意気もその名に恥じないお方だ。このウルサ、アイシャ様とその勇者のために全力でこの剣を振るいましょう」
「ああっ、よろしく頼みます。ウルサ様っ」
見事な対応を見せるカイを見て、アイシャに物言えぬ喜びがこみあげる。
(カイくん、本当に凄い…私の為にここまでがんばってくれて…)

ウィルフレッド達もまた感慨深そうに感じられた。
「カイも苦労するな。初めての社交界デビューがまさかの三国会議になったんだから」
「そうだね。これからは勇者本人にあやかる人も増えてくるはずから、アイシャ様と仲良くなりたい人達と合わさって、ますます大変になること間違い無しだ」
「カイくんならきっと問題ないでしょう。私達もできる限りのフォローをしませんと」

諸侯達の殆どがラナとアイシャに集まるなか、数名の貴族がレクスの方に声をかけた。
「おお、貴方はもしやレクス殿ではありませんか?」
(うへぇ、こっちまでやってくるの?わざわざテラスで隠れてたのにぃ~)

耳打ちされるウィルフレッドとアランが苦笑する。
(君も同じぐらい大変だな、レクス)
(なに、レクス殿ならこの手のもの、楽に対応できますよ)
(二人とも気軽に言ってくれるねえ…)

「ロムネス殿の件はまこと残念でした、レクス殿。ですがそのご子息がまさか巫女様の軍師を務め、しかも今まで常勝を誇るとは、彼もきっとあなたを誇りに思うでしょう」
「ははは、そう言ってくれてありがたいですよ」
レクスが貴族たちに対応するなか、ウィルフレッドが広間内を見渡しているのに気付くアラン。

「…エリーくんをお探しですか?」
「はい、用意できたらシスター達と一緒に来るって言ってましたが…」
「大司教様がもうすぐ来られるとルヴィア様が仰ってましたから、恐らく先に挨拶しているのかも――」

丁度この時、広間の前方にある別の入口が騒いだ。二人のシスターが先頭して人波を分けると、二人の教会騎士のリードのもと、物々しい法衣を着込んだ年長の女性が入場する。
「アイーダ大司教猊下げいかっ!」

その場にいた諸侯達が彼女を見た途端にすぐさま跪いた。アイーダと呼ばれる女性が、まるでおばあさんみたいな優しい笑顔を見せる。
「皆様方、どうか顔をお上げくださいな」
諸侯達が立ち上がると、ラナとアイシャが真っ先にアイーダの元へと挨拶した。

「アイーダ様、またお会いできて嬉しい限りです」
「お久しぶりですアイーダ様、王都での三女神聖祭り以来ですね」
「ええ、遅れて申し訳ありません。ラナ様、アイシャ様。二人ともよくぞここまで来られました。しかもがずっと貴方達と一緒に行動してきたそうですが、女神様のお導きとは本当に思いがけないものですね」

柔らかい物腰とは裏腹に、どこかメアリー以上の威厳を感じさせるアイーダを見て、ウィルフレッドでさえも思わず身が引き締められる。
「あの人が例の教会国の大司教ですか、アランさん」
「ええ。私達の世界ハルフェンにおける宗教の有権者で、ラナ様たち女神の巫女の正当性を三国に示すに欠かせない人物です。…む、来たようですよ」

アラン達がアイーダに続く人物たちに気付く。ルヴィアとシスティに案内されるメアリーと、ルルを肩に乗せたイリスとミーナが随伴するエリネもまた入場したのだ。
(エリー…っ)

ウィルフレッドの胸が軽く締め付けられる。いつもの服装を着ながらも、場慣れしてないエリネが少し緊張を示しているのを敏感に感じ取ったから。そして、混乱を避けるためとはいえ、彼女の傍で一緒にいてあげあられないことに僅かな不安を感じる。

「あの子…ひょっとしたらシャフナス殿が仰ってた星の巫女ですか?」
「ええ、先日の戦いでは随分と助けられました」
「なんとっ、では女神の巫女達は既に出揃っていたのですかっ」
「どちら出身なんでしょうか。一見ただの若い村娘に見えるようですが…」

諸侯達がざわめくなか、エリネがウィルフレッドの方に顔を向けた。彼の存在を感じ取って安心すると大丈夫とアピールするかのように笑顔を見せ、傍にいるイリスも気付いたかのように微笑んだ。二人の笑顔にウィルフレッドはさらに胸を締め付けながらもイリスに小さく会釈し、しっかりとエリネを見据えた。
(分かってるさエリー。俺達の心はいつも一緒だ)

ラナがルヴィアに確認する。
「ルヴィア様、セレンティアに来られてる諸侯はこれで全部のようですね」
「ええ、返事を頂いてない諸侯や、いまだ道中にある方もいるようですが、日程的にこれ以上待つ必要はないかと」
同意するようラナが頷くと、メアリーと視線を交わす。

メアリーが頷き返し、声高らかに言葉をあげた。
「皆様、遠路はるばるこのエステラへようこそ参られましたっ。どうぞ席についてください。これよりヘリティア皇国第一皇女であり、気高き太陽の女神エテルネ様の力を賜った太陽の巫女、ラナ・ヘスティリオス・ヘリティア様が、此度の三国会議を執り行います」


【続く】

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