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第十五章 星の巫女
星の巫女 第一節
しおりを挟むまどろみの夢の中で、ウィルフレッドの意識が覚める。
(((…ここは?)))
周りの景色は曖昧で変化し続けており、遥か真下には深淵の宇宙が広がっていた。ふと意識の空白から、自分を呼ぶ幼い二人の思いが聞こえた。
「「魔人さん…」」
振り返ると、ウィルフレッドははっきりと意識できた。白い服の小さな少年と、黒ドレスの幼い少女の姿を。
(((君達は…確か何度かここで会ったことのある…)))
おぼろげな彼の意識は二人の姿にデジャヴを感じた。だがはっきりと思い出せない。そこが夢の世界であるが故に。けれど目の前の二人がなぜか深刻そうな表情をしているのは理解できる。
「優しい魔人さん…」
「今回は別れを言いに来たの…」
(((別れ?どういうことだ?)))
「星辰がかつてない大凶兆を示しているよ」
「この世界を根底から揺るがす恐ろしいことが起ころうとしているの」
(((大凶兆…?)))
二人が申し訳なさそうに頷く。
「そう。それに、とっても言いにくいことだけど…」
「そ■原因は■■さ■と■の■■にあ■んだよ」
一瞬、夢の世界がきしんだような音を立て、二人の姿が揺らいだ。
(((君達っ、どうかしたのか?)))
「ゾルドの気配が強くなっているんだ。元々曖昧な夢の境界をさらに歪めるぐらいに」
「僕達が魔人さん達に警告を送れるのも、今回で最後なの」
(((邪神が…?)))
「これ■最後■警告だよ。■■■■の■■が、未来■紡ぐ星辰を乱し■いるから」
「■■■■■は■■を■さない」
夢の世界が再び大きくきしみ、二人の姿が不明瞭になり始める。
(((君達…っ)))
「結末は破滅的か■しれない」「結末■絶望的かもしれない」
「でも諦めな■で」「くじ■ないで」
「未来は水の■うに常に変わ■■だから」「あの方もす■に決心が■■たのだ■ら」
夢の世界がウィルフレッドの意識を震撼させるほど大きく揺れた。けたたましい闇の咆哮とともに。
(((ぐうっ!)))
「私たちが与えられる警告はここまでだけど」
「どうかここからは貴方の意思で夢を紡いでください、最後まで」
「貴方の限りある命に、女神様たちのご加護がありますように」
「ご加護がありますよ~に」
少年少女が微笑んでは振り返る、ウィルフレッドは手を伸ばそうとするが、夢の中にそのような手は存在しない。
(((ま、待ってくれ!)))
「ばいばい、異世界のお兄さん、がんばってね」
「ファイトだよ、優しい魔人さん」
二人が手を振って離れると、夢の世界が重々しい崩壊音とともに闇が広がった。ウィルフレッドの意識が弾き飛ばされる。最後の最後に、意識という目はおぼろげに白い猟犬と黒猫の姿が見えたような気がした。
――――――
「―――あっ」
目を開くと、テントの天井が見えた。外はまだ夜。ゆっくりと身体を起こすウィルフレッドは、先ほど奇妙な夢を見たような気がして必死に思い出そうとするが、やはり思い出させずにいた。
(何なんだろう…どこか寂しそうな夢だけど、思い出せない…)
なんともいえない気分を紛らわせるよう、彼は聴覚機能を上げてすぐ隣のテントで熟睡しているエリネの呼吸音を聞いた。すぅすぅと、彼女らしい可愛らしい声だと密かに思ってつい口元が緩んでしまう。
「―――うっ」
突如走る激痛が、視界を走るノイズがそれを遮った。
「うがっ、があああぁ…っ!」
「…う、ん、ウィルさん…?ウィルさん!」「キュッ!?」
彼の苦悶の声を聞いたエリネがルルとともにテント内に駆け込む。
「あがああぁっ…!エ、エリー…っ」
「発作ですかっ?今すぐ治療しますっ!」
指先が痺れ、痛みが苛む身体をエリネがかける治癒の青の光が包む。彼女の左目の星の聖痕が輝いた。
「しっかりしてください、大丈夫ですから…っ」
「ううぅ…、ぐうううぅっ…!」
――――――
「聖痕の力と自分の意志が循環するような感覚よ。エリーちゃん」
「でもあまり力込んでマナを一気に使い果たさないよう気をつけてくださいね」
「はいっ」
看護用のテント内で、エリネは同じ巫女であるラナとアイシャの指導の元、ベッドで苦しんでるウィルフレッドに治癒をかけ続けていた。すぐ隣には杖を掲げながら彼の様態を随時確認するミーナもいた。
暫くして息遣いも落ち着いたウィルフレッドはそっとエリネの手を握る。
「…もう大丈夫だエリー、痛みはもう治まったよ」
「でも、ウィルさん…っ」
それでも心配そうなエリネの顔に別の意味の痛みを胸に感じながら、彼は微笑む。
「いま全力を出したら、もし後でまた発作した時に大変だ。巫女の力の使い方はまだ練習中だろ?看護する人は自分のケアも大事にしないと」
「ウィルくんの言うとおりよエリーちゃん。少し休みなさい」
「ラナさん…分かりました」「キュッ」
渋々魔法を止めるエリネだが、その手は依然とウィルフレッドの手を握ったままだった。肩のルルがなだめるようにエリネの頬に擦りつく。
「でもウィルくん。貴方、特に魔人化もしてないのに崩壊の症状が出たって言うことは…」
ラナの言葉に顔をしかめるウィルフレッド。
「ああ…。本格的に肉体崩壊が厳しくなってきてるんだろうな。前にあと二ヶ月の余命と言ってたが、思ったよりも短いのかも知れない」
自分の手を握るエリネの手に力が入るのを感じた。
診査が終わったのか、ゆっくりと杖をおろすミーナは小さく溜息をする。
「とりあえず今はもう問題ない。症候は収まってきたし、崩壊した箇所はエリーの魔法によって復元されている」
「…けど、完治には至らないんだな」
ウィルフレッドの指摘に苦い顔を浮かべるミーナ。
「前の観察と同じだ。崩壊した箇所は確かに復原されてはいるが、緩やかな崩壊と再生の繰り返し自体は止まっていない。崩壊が僅かに再生を凌駕している点もな」
「そんな…私、星の巫女としての力が使えるようになって、治療の力も増強されてるはずなのに…っ」
「治癒はあくまで傷などを修復するための魔法だからな…。崩壊した部分を治すことができても、崩壊という現象自体までは治すことができない。ウィルを完全に治すには、恐らく魔法だけではだめだ。霊薬などほかの手段でないと」
ラナが考え込むよう手を顎に当てる。
「今の私たちじゃ霊薬を探す時間もないわ。この件はメアリー女王に助力を仰いだ方が良さそうね、先生」
「うむ。王家専用の薬草庫なら珍しい霊薬も一杯蓄えられてるはずだからな。機を見て打診してみよう。…やれやれ、ここまで課題が山積みとは、師に師事し始めた頃を思い出すな」
疲れたように軽く溜息するミーナにウィルフレッドは恐る恐ると頭を下げる。
「すまないミーナ。俺のせいで無用な心労をかけてしまって…」
その言葉にミーナは少しむっとした。
「ふん、無用なものか、我としては未知なる技術を探索するにも丁度良い機会だ。毎日知識を貪ることに費やしているビブリオン族を舐めるでない」
気の強いミーナらしい言葉にラナやアイシャ達が小さく笑った。
――――――
「それじゃ、私も自分のテントに戻りますね。ウィルくん、エリーちゃん、また何かあったら遠慮なく私やミーナ先生を起こしてくださいね」
「ああ、ありがとう、アイシャ」
「ありがとう、アイシャさん。おやすみなさい」
ウィルフレッドの容態をもう少し観察して問題ないと確認した後、アイシャ達はそれぞれ自分のテントへと戻っていき、ウィルフレッドもエリネと手を繋ぎながらテントに戻った。自分のテントに入ると、エリネが俯いて深長な表情をしていることにウィルフレッドは気付く。
「どうしたエリー?」
「ううん。ただ、星の巫女の力ならウィルさんの体を治せるかもと思ってたから、ちょっと悔しくて…。これじゃ私が星の巫女である意味なんてないって…」
「そんなことない。完全に治せなくとも、前以上に痛みの回復速度や具体が良くなったから十分助かってるさ」
「でも…」
ルルがエリネの肩から飛び降りて周りで遊ぶと、ウィルフレッドはそっとエリネの顔に手を添えて自分に向かわせた。
「エリー…、ちょっと君の目、見せてくれるか?」
「え?う、うん」
閉じていた目を開くエリネ。透き通った青色を堪える彼女の左目は、いまやはっきりと星の聖痕が見えるようになっていた。
「エリーの目はとても綺麗だ。この星の聖痕もとても似合ってるよ。俺はそんなエリーの目が大好きなんだ。だから意味がないなんてことは絶対にないさ」
「ウィルさん…」
エリネの美しい瞳が潤う。
「えへへ、ウィルくんがそう言ってくれるのなら。私も巫女である自分は好きですね」
「それでいいさ。俺はエリーの全部が好きなんだから。巫女である君も、王女である君も、初めて出会ったブラン村の元気な村娘である君も、全部全部好きだ」
「も、もうウィルさんったら、欲張りです…」
容赦ない褒め文句にエリネの顔が真っ赤に染めると、その顔を彼の逞しい胸板に寄せた。ウィルフレッドもまた、彼女の小さな体を優しく抱きしめた。お互いの体温が、夜の寒気を追い出していく。
「私も、ウィルさんの全部が大好き。地球で一生懸命生きてるウィルさんも、魔人であるウィルさんも、全部全部好き…。だからウィルさん、私、きっと助けます。大好きなウィルさんを、きっと…」
「ああ、頼りにしているよ」
ルルが気持ちよく布団で丸くなってる傍で、二人は暫くの間、ただ互いの温もりを感じ合っていた。
******
「クラリス殿、クラリス殿」
「うぅ…マティ殿…?」
夜の森で聖剣を大事に抱えたまま眠っていたクラリスが重い瞼を上げると、マティの秀麗な顔が映りこんだ。
「そろそろ出発しませんと――クラリス殿?」
目をようやく開いたクラリスがばっと身を起こす。
「うわっ、すみません。驚かせてしまいましたか?」
「い、いえっ、なんでもありません」
胸の動悸と僅かに赤くなってる顔を隠すようクラリスは髪など身だしなみを整えて立ち上がった。
「行きましょうマティ殿。早く聖剣を送り届かなければ」
「ええ」
マティは特に気にせずに先導し、クラリスはなんとか心を落ち着かせると、彼の後に付いていった。
森の中はパルデモン山脈近辺のようなおどろおどろしさはもはやないものの、まだ夜が完全に明けておらず依然と薄い霧が立ち込めていた。だが夜目の効くマティになんら問題もなく、傷も自前の傷薬やクラリスのお陰で殆ど完治した。二人は早足で森の中を進んだ。
「こんな時に馬が一匹ぐらい見つかれば良いのですが…ままならないものですね」
クラリスが軽く嘆く。
「本当に。ここら一帯は野生のワーグの繁殖地のようですから、大きな動物達は大抵ここを避けるみたいようで…」
「それはまずいのでは…もしラナ様が帝都への進軍を始めたら、ますます離れることになって――」
「しっ!」
マティがクラリスに足を止めるようジェスチャーし、二人とも物影に隠れて屈んだ。
「マティ殿?いかがなさいました?」
「誰かが近づいてきます」
二人は霧に包まれた前方を注目する。暫くしてクラリスも、自分達に向かって近づいてくる馬のひづめ音が聞こえた。マティは目を凝らして霧の向こうを警戒するが、ほどなくして驚愕の声を上げた。
「テムシーっ!?」
霧の向こうから、全身傷だらけのテムシーを載せた馬がカポカポと二人の方向へと歩いてきた。
「うっ…マ、マティ…」
元からぐらぐらしているテムシーはついに身体を支えきれずに馬上からずり落ち、マティとクラリスは慌てて彼の元へと駆けつけた。
「なんてひどい怪我…っ」
「テムシー!しっかりしてください!」
「うっ、ぐ…マ、マティ…」
マティは素早くテムシーを診査する。その身体は一応エル族の薬草で応急処置されてるようだが、それでも傷は深く、しかも肩の一部が猛毒によって変色しているのが見て取れた。
「いったい何があったのですかテムシーっ?」
「マティ…災厄だ…災厄の手下達が…里を襲撃して…里の守り岩を…っ」
「邪神教団がっ?しかも守り岩を…?どうして…?」
「分からない…森を…離れてたら、里からおぞましい邪気が吹き出して…。注意しろ、マティ、災厄が本格的に、動き出したのだ……がふっ!」
「テムシー!」
気を失ってしまったマティはバックから薬草を取り出し、クラリスも慌てて治癒をかけた。
「これは…腕に受けた毒が治癒を妨げて…っ」
「っ、クラリス殿、テムシーを馬に」
「どうするつもりなのですかマティ?」
「毒を治す薬草のあるところにいくのです。早くっ」
クラリスは慌ててマティとともにテムシーを馬に載せると、マティとともに馬に跨り、彼は躊躇いもせず一気に馬を走らせた。
「はいやっ!」
大人三人を乗せても意に介さない強健な馬は、霧に包まれた森を走り抜けていく。
(テムシー、もう少し我慢してください…っ)
******
夜が明け、連合軍のキャンプ地内から少し離れた林で、カイはウィルフレッドの指導を受けながら弓矢を次々と周りへと当てていく。
ターンッ ターンッ
木に当たった矢が心地良い当たり音を発し、矢を射終えたらカイは素早く肩につけた超振動ナイフに切り替え、前に駆けてはウィルフレッドが立てた木の棒を見事に切断していく。
「せいっ!はっ!たあっ!」
「そこまでっ!」
カイはナイフを収め、息を整えるよう小さく息を吐いた。ウィルフレッドの傍で付き添ってるエリネが拍手する。
「お兄ちゃんお疲れ様っ、とても凄かったよ」「キュキュッ」
「おうっ」
エリネに応えるように弓を掲げて二人の元へと寄るカイ。
「さすがだカイ、武器の切り替えもだいぶ形になってきたな。弓矢やナイフについては、現時点でこれ以上教えられるテクは殆どないから、後は君自分で練習を繰り返せば良いと思う」
「本当かっ?へへ、ありがとな兄貴」
褒められて少し照れるカイは、ふとウィルフレッドがつけているツバメの首飾りが目に付いた。
「なあ兄貴、前から気になってたけどさ。兄貴が教えてくれてるこの弓術、その…アオトさんって言う人が使ってたものなのか?」
ウィルフレッドは少し目を見開く。
「カイは分かるのか?」
「ああ、兄貴の記憶の中でアオトさんと一緒に訓練を受けてる場面があってさ、あの人が弓を使ってる動き、なんとなく兄貴が教えてくれた動きと似てるような気がして」
「そうか…」
ウィルフレッドの表情はどこか優しかった。エリネはそっと彼の手を握り、彼もぎゅっと握り返す。
「そのとおりだ。アオトは弓の扱いが俺達の中でもとりわけ長けていてな。俺も時々彼からテクを教えてもらってるし、この前教えた二本撃ちも、彼が自分で編み出した戦技なんだ」
「やっぱりそうかっ。へへ、こうして兄貴の指導を受けるとさ、あのアオトさん本当に弓の扱いが上手いって分かるんだ。できれば一度弓術についてじっくり話してみたかったなあ」
弓を握る手に思わず力が入るカイ。
「なあ兄貴、俺はアオトさんのことよく分からねえから、こういうのもおこがましいかもしれないけど…彼はきっと、兄貴にやられたことを恨んでないと思う」
「カイ…」「お兄ちゃん…」
ウィルフレッドの胸が熱くなる。
「だからその…う~ん…なんていうか~…」
「ありがとう。君の言いたいことは分かるさ」
彼の手がしっかりとカイの肩を掴んだ。
「カイ、その技術をしっかりと大事な誰かを守るために使ってくれ。戦争が当たり前の俺の世界では、俺もアオトも生き残るためだけに自分を磨けてきた。所詮は血で積み上げられた技術だ。けど君ならその技術を、力を良い道に使ってくれると信じてる。…アオトもきっと、自分の技術が誰かの助けになれることに嬉しく思うよ」
ウィルフレッドの記憶を見て、その言葉の重みをしっかりと感じ取たカイは力強く頷いた。
「…ああっ、任せてくれ兄貴っ!あんたの教えも、アオトさんの技術も、絶対に誰かを助けることに使うと女神様の名で誓うよ!」
「がんばってねお兄ちゃん。私もいつも応援してるから」「キュッ」
「へへ、ありがとなエリー」
「ウィルくん、エリーちゃん、カイくん。そろそろ朝食の時間ですよ」
キャンプ地の方から呼びかけるアイシャに三人は振り向く。
「もうこんな時間か、いこうぜ兄貴、エリー」
「そうだな」「うん」「キュ~」
元気よくアイシャのところへ走るカイの背中を見て、ウィルフレッドは密かに思った。願わくば、自分やアオトが教えた技術が、カイを通して多くの誰かを救ってくれることに。きっとそれが、アオトが憧れる、誰かを助けるツバメになることに繋がるようになるのだから。
******
エステラ王国の王都セレンティアから数時間離れた林の中で、数百名の騎士達が集結していた。その鎧に頂く紋章は深紅の獅子であり、前方で彼らを率いるのは、燃えるような紅の髪を堪えた凛々しき女騎士。その後ろには、エルフのもう一人の女騎士が控えていた。
そして林の向こうから、同じ数百の騎士を率いる騎士団が、二つの異なる紋章の旗印を掲げて行進してきた。女騎士はエルフの女騎士と数名の騎士を連れて、同じ数名の騎士を率いて前に出る二人の男性を迎えた。
「遠路はるばるエステラへお運びいただき光栄の至りです。エーデルテ候にシャフナス子爵」
「こちらこそ、エステラ王国の名高き獅子姫ルヴィア様みずからお迎え頂けるとは、このヘリティアのエーデルテ、恐縮至極に存じます」
「ルーネウス、ヤーダン領のシャフナスもまた同じく、ルヴィア様に敬意を込めて礼を申し上げます」
会釈する二人に獅子姫のルヴィアが気さくに微笑んだ。
「どうか頭をお上げください。私としては、戦争中にも関わらずこうして二国の諸侯が肩を並べている光景が見られることにこそ、感激を感じずにはいられません」
「ははは、シャフナス殿とは昔からの腐れ縁でな。彼のような人が忠義を捧げた王だ。こたびの陛下暗殺の件、私は最初から信じてはおらんよ」
「腐れ縁とはないだろう、エーデルテ殿。もっとも、私もこうして君の無事を確認できたことが残念極まりないのだがな」
愉快そうに笑う二人にルヴィアが微笑む。
「仲睦ましくて何よりです。貴方がたのように両国の絆を示す方が来られたのを知れば、今回召集をかけたラナ様も嬉しく思うのでしょうね」
「確かに、さすが貴殿自慢の皇女だなエーデルテ殿。皇国内の混乱により国境の封鎖が緩くなるのを見据えて、女神連合軍に賛同する諸侯らをエステル王国へと呼びかけるとは」
「こちらもラナ陛下と盟友でもある貴国のアイシャ王女の噂を良く耳にしておるぞ。今回の会合でぜひ顔を拝みたいものです」
「お二人様、色々と積もる話もありますが、後にセレンティアでゆっくり語りましょう。既に他の諸侯達も着いてますし、今回はお二人以外にも――」
エーデルテ候達の軍後方に起こった爆発音がルヴィアの言葉を遮った。さらに戦いの鬨が広がってくる。
「なっ、なにごとだっ!?」
「エーデルテ様!敵襲です!林の中からいきなり敵軍が攻撃を仕掛けてきました!」
「敵だと!?まさかオズワルドめの軍勢かっ?」
「そ、それが、敵の上げる旗は…踊る赤い悪魔の印ですっ」
「なんだと…っ!」
シャフナスまでもがエーデルテと共に驚嘆の声をあげ、ルヴィアの顔が険しくなる。伝令は敵の正体を告げた。
「敵はあの邪神教団…っ、噂にあった邪神教団の軍勢ですっ!」
【続く】
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