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第十四章 逆三角
逆三角 第九節
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夜も深くなったフィロース町の一軒宿。ミーナにあてがわれた部屋の机で、彼女は魔晶石の灯りの下で難しい顔をしながら大量の紙と格闘していた。紙には大地の谷で暗記した内容が殴り書きされていた。
(う~む…。三位一体のシンボルが封印の秘法の魔法陣であるのは間違いない。だが三角に立つ三名の巫女以外に、後一つなにかの要素が陣の外にある…。陣の中心に封印対象の邪神があるのなら、これは恐らく施術者の立ち位置のはずだが…)
そして彼女はもう一枚の紙、今日説明のために描いた逆三角の方を分析する。
(大図書館で見た内容は極めて少なかったが、この三角がそれぞれ三女神と相反する性質の呪物…塚が置かれるのは分かる。…けど、本当にこれだけで陣が完成するのか?もしこの逆三角が世界を表す三位一体のシンボルを逆転して成すものならば…)
大地の谷のエウトーレの家で見た三位一体のシンボルを思い出す。その中心には、それまでに誰も知ることのない大地の女神ガリアを表していた。
(あれこそが三位一体のシンボルの真の姿であれば、封印の秘法の外にあるものが、女神ガリアの力を示す何かなのであれば――)
逆三角を指でトントンと叩く。
(これにも女神ガリアと相反する、四つ目の何かの要素があるはず。それはなんだ?ザナエルがもっていたあの短剣か?それとも…)
大地の谷にいる間で、エウトーレが自分に教えた、大地の女神ガリアに関することを思い出そうとする。
伝承から忘れ去られた女神ガリア。その性質は、万物を育む母なる大地を表現するように命でもあり、親でもある。また、亡くなった魂を労わる理念から死の性質をも持つ。ならそれに相反するものは何になる?教団はどのような手でその呪物を作ろうとする?そもそもガリアとはなんだ?
ガリア由来の魔法は、ガリアの加護が残る大地の谷でしか行使できないとエウトーレは言った。関連する知識の伝承もすべて口伝と、管理者による神秘継承という手段のみで、文字として記された書物は谷では一切なかった。加えてその閉鎖的な環境、まるで意図的に世間から忘れ去られようとするように…。
(まったく、いくらなんでも情報が少なすぎる。一度大図書館に戻れる時間が少しでもあれば…)
長い溜息をしながら、ミーナは椅子に背を持たせ、くらい天井を見つめた。悩むべきことはこれだけではない。
(巫女であるエリーに…異世界人であるウィル…)
二人の睦ましい姿に、ザーフィアスの警告が影として曇らせていく。二人が恋仲になることで、果たしてどのような影響をもたらすのか。
自分を奮わせるように、ミーナは頬を叩いた。
(ええい、しっかりせんか)
二人が恋仲であれどうであれ、ウィルフレッドを肉体崩壊から救うことは既に決めたのだ。ならばそういう類の危惧は少なくとも現段階ではただの雑音だ。その悩みは、まず彼の崩壊を治してからでもいい。
(ああ忙しい忙しいっ、後で霊薬のリストも作らねばっ。…どれもこれもみんなエリクのせいだっ、いつか必ずアホになるまで頭を叩いてやるっ)
半分八つあたりの愚痴を心の中で毒づきながら、ミーナは再び目の前の資料に没頭していった。
******
「う…つぅぅ…っ!」
全身に響く痛みに覚まされ、クラリスが目を開く。
「ここは…」
そこは霧が立ち込める林の中だった。ゆっくりと身を起こし、背中に背負っている聖剣の感触を感じて安心すると、改めて周りを確認した。霧の向こうに自分達が落ちたと思しき断崖が見られ、今は霧に遮られて上が見えないが、かなりの高さを持つとは一目で理解できた。
(こ、こんな高さで落ちて無事だったの?私達…)
「っ、そうだ、マティ殿…っ、マティ殿!」
再び周りを見ると、自分達が乗っていた馬の死体からそう遠く離れていない場所に、倒れこんだマティの姿を確認した。
「マティ殿っ!」
痛みに耐えて彼の元へと駆けつけては容態を確認する。打撲の痕がいくつか見られ、ブルゲストに噛まれて血を流れる腕を見ると、クラリスは申し訳なさに口を噛み締めた。
「くっ!」
マントを破り、応急処理をしては治癒をマティにかける。ほどなくしてマティが呻き声をあげて目を開いた。
「う…うぐ…クラリス殿…?」
「マティ殿!良かった…どうか動かないでください、いま治癒をかけているところなので」
先ほどの彼女のように周りを確認するマティ。
「あの崖…私達はあそこから落ちて…?よく無事にいられたものですね…」
「ええ。正に奇跡と言えるでしょう。女神様に感謝しなければなりませんね」
マティは、落ちている時に何か青い光が自分を包んだのをおぼろげに覚えている気はしたが、記憶がはっきりしない。
「さきほどはありがとうございます。マティ殿、私をかばって傷を受けてしまって…私は…」
魔法をかけ続けるクラリスの悔しそうな顔に、マティは笑顔で応えた。
「そんな貴女が意固地に待ってくれなかったら、私はとっくに命を亡くしたところでした。礼を言うのは私の方です。ありがとうございます、クラリス殿」
まだ納得はいかないクラリスだが、少しだけ気持ちが軽く感じられた。
暫くして、マティは試しに腕を動かす。
「…クラリス殿、もう大丈夫ですよ。腕の出血も止まったし、普通に動けるのですから」
「え、もう?エルフとは頑丈なものですね」
クラリスは魔法を止めた。
「いえ…どうやらこれは、クラリスの魔法が強かったからのようですね」
「そうなの、ですか…?私、魔法の練習はあまりしてませんのに…」
「先天的素質が良いのでしょう。そういえば、ヘリティア騎士は魔法よりも剣術に重きを置いてる話を聞いたことがありますが…」
「はい、勇者ダリウスは剣の達人だったこともあって、剣こそ騎士の誉れと考える人も少なくないです。ですから私も剣術の方に精が出てしまって…」
まだ少しふらついていながらも、クラリスに支えられて立ち上がるマティ。
「それは勿体無い。しっかり魔法訓練を積んで行けば、魔法使いレベルの魔法も容易に使えるはずですよ」
「そんなこと、考えもしませんでした…自分はとにかく騎士になりたい一心で必死に剣を振るうばかりで…」
「こういうことは往々にして分からないことです。どうか心の余裕を持ってください、クラリス殿。貴女は自分が思ったよりも素晴らしい人なんですから」
エルフ特有の秀麗な容姿から見せるマティの笑顔に、クラリスは少し熱に当てられたように顔を逸らす。
「クラリス殿?どうかしましたか」
「い、いえ。なんでもありません。とにかく早くここから離れましょう。追手がいつ来るのか分かりませんから」
「そうですね。行きましょう、ラナ様とレクス様の元に」
まだ足取りがおぼつかないマティはクラリスに担がれ、その場を離れる最後に一目、崖の上方を見上げた。
(テムシー…またいつか会いましょう)
かつての友人を偲びながら、クラリスとともにマティはその場を離れた。
******
エルの森深部、古き大樹を家とし、仄かな光を発する蝶達や涼やかな鳴き声を唄う小鳥達とともに生きる、エル族の里。千年前からの自然の神秘がそのまま保存されたかのような美しい村。
その村が、いまや無残にも燃え盛っており、里を流れる川はエル族の人達の亡骸によよって真っ赤に染められていた。善戦していた屈強なエル族の戦士たちも残り僅かで、テムシーを中心に敵に囲まれていた。赤い『踊る悪魔』の印をローブにつけた、邪神教団の信者達によって。
「ぐっ…災厄の手下どもめ…っ!我々の聖なる森を…っ」
傷だらけながらもふらつく身体を奮い立たせ、戦斧を構えるテムシー。彼の目の前に、自分達を包囲する信者が道を開き、昼で見た教団精鋭兵と同じ装束の人達が前に出た。彼らを率いるのは、二本の毒入りナイフを手に持った、ザレ。
「うおおぉぉっ!」
テムシーとその仲間達がザレめがけて突撃する。ザレの取り巻きが彼に先行して飛び出し、応戦した。
「うがぁっ!」
一人は『赤き目』達が放つ毒針と鎖の連係に破れ、
「――黒炎喰!」
「ぐあぁっ!」
さらに一人が呪いの炎に焼かれ、
「げふっ!」
また一人は剣を折られては、喉を貫かれた。
「ラター!テリセ!ハザン!…ぐおっ!」
戦斧で切り裂いたかと思った教団兵が放つ槍の一撃を、斧で防いで後退するテムシー。
「身代わりの符か…っ」
昼とは訳が違った。手負いで人数的に負けては、いかな屈強なエル族の戦士であっても、教団の精鋭、ザレが率いる『赤き目』の手練れたちにかなうはずもない。残るテムシーともう一名の精悍な戦士が、背中合わせをしてザレ達と対峙する。二人の戦意に衰えは無いが、戦いの結果は火を見るより明らかだった。
「…テムシー…、後で大きな精霊魔法を放つ。その隙にそなたは逃げるのだ」
「なっ、戦士長!?里を放棄すると仰るのかっ?掟を背くことになるぞっ!」
「風の流れが変わり始めたのだ。…変わりもののマティが言ったように、我々はもっと早く目を外に向けるべきなのかもしれない」
「…っ」
「行けテムシー!――七光彩!」
「「「ぬうっ!」」」」
呪文を唱え、戦士長が地面に両手を突き刺すと、森の隅々まで照らす色彩の光が羽を広げた小人の風と共に吹きまわり、彼らを囲む教団兵たちは思わず目をつぶって後ずさる。
「くっ…、貴方に母なる女神の慈悲を!」
光の風に紛れて逃げ出すテムシーを察し、ザレは瞬時に反応してナイフを投げ出した。
「ぐぅっ!」
光の中で苦悶の音が響くが、それっきりだった。
(…逃げたか)
「おおお…っ!」
少しでもテムシーに逃げる時間を作るように光幕を維持する戦士長。だが。
「ほほう…北方精霊シャーファに由来する撹乱魔法か。珍しいな」
戦士長の身体に戦慄が走る。七彩の風でも覆うことのできない闇の人影がゆらりと浮き出る。
「ンくくくく、だがいささか目に毒だな」
人影が、何かを振り上げた。死者の悲鳴にも似た怨嗟の声とともに風が切り裂かれ、背筋も凍る冷たい風がかわりに一面に吹き荒れる。
「うああぁっ!」
魔法が破られた衝撃に戦士長が吹き飛ばされて地面に無様に転ぶ。
「ぐっ…なんだ今のは…あ…」
黒い影がすぐ目の前に立っていた。倒れたままゆっくり見上げると、おぞましい黒の瘴気をまとう仮面の男が、一人。里を燃やす炎の明かりに照らされるその仮面は、まるで嗤うかのようにその影を揺らめいていた。手にしている異形の剣から彼以上の悪寒のオーラを発しており、戦士長に戦慄が走った。
「恐れることはない。さあ、余興のお礼だ。遠慮なく受け取りたまえ」
その男、ザナエルの邪神剣が彼に突き刺さる。真っ赤な鮮血が走り、戦士長は呻き声を挙げると、そのまま絶命した。
「…ザナエル様、見つけました」
「うむ、案内せよ」
報告するザレに案内され、ザナエル達は里の中心、不思議な呪文や儀式用の縄などで飾られた大きな岩に到達する。すぐ傍にはこの里の長が、教団信者達に取り押さえられた。
「お、おぬしら…っ、災厄の手先が、何もないこの里をなぜ襲って…っ?」
ザナエルは彼に構わずに大岩へと近づく。
「や、やめたまえ!その守り岩はこの森の象徴っ。それとともに生きるのが我ら一族の命そのものなのだっ!」
「…いかんなあ、長老。そなたらはいかんよ」
「え…」
いつも余裕のあるザナエルの声が、静かに抑制的なトーンへと変わる。歩みを止めて長老の前に立つと、その死人のように蒼白な両手で長老の顔を掴んだ。
「うぐ…っ」
「お主らエル族は自然と調和しすぎた。他のどのエルフよりも自然との同調に勤しみ、瞑想にのめり込んだが、その結果がどうだ?違った方向で自然と同調しすぎて植物じみた生活を送り、あまつさえここにいる理由さえも忘れるとは」
「り、理由じゃと…?」
「だがそれよりも…」
ザナエルの声がかすかに震えていた。
「そなたらは何よりも素晴らしい感情を蔑ないがしろにしすぎておる。善性の生き物ならば善性らしく平和を大いに謳歌し、自然の中で育む平和を、愛と友情を重んじるべきなのだ…っ」
それは、どこか真摯さの篭った叱責のように聞こえた。
「あ、あんたはいったい…」
長老の顔を放し、ザナエルの仮面からいつもの不気味な笑いが漏れ出す。
「くくく、だがまあ、我らが難なく計画を進められるのであればそれも良かろう」
大岩の前へと立つザナエルが呪文を唱える。空いた手に煮えたぎる黒い瘴気が集まる。
「や、やめろーーーっ!」
「――爆闇砕!」
暗黒のマグマが瘴気を散らかして爆発を起こした。エル族の信仰の対象である岩は、木っ端微塵に飛散っては溶けて行く。
「あ、ああ…」
放心した長の顔に、すぐさま驚きの表情が浮ぶ。岩があった場所には、地下へと通じると思われる大穴が現れたからだ。
「長よ、そこでこれから起こることをしかと見るがよい。ザレ」「はっ」
取り巻きに指示し、その大穴へと降りるロープが垂らされると、ザレはザナエルに随伴して大穴のしたへと降りていく。
大穴の底の地面にザナエル達が足をつくと、魔晶石入りの台座が次々と明かりがついていく。円型の大きなホールだった。周りには風化して崩れた女神像があり、壁には邪神戦争を描写する絵画が辛うじて分かるように残っている。そのホールの床には、女神のシンボルたる三位一体の三角模様が描かれ、その中心には、大人一人ぐらいの大きさの、モニュメントが一つ。
「ザナエル様、あれが…」
「そうだ。かつてゾルド様が生み出した眷族の一体、その封印だ。千年前の大戦で殆どの眷属は勇者たちに滅ぼされたが、世界各地に散りばめられた一部眷属はそれぞれ女神の助力を得た者達によってこうして封印されている。ゾルド様の封印ほどではないが、それなりに強力だ。少し下がった方が良い」
指示通りザレが後退し、ザナエル達が中心へと迫っていく。先ほどまで静かに佇むモニュメントが淡い光を発し、ガタガタと震え始めた。地の底から発する死者達の怨嗟のような声が、モニュメントの下から夥しい蒼白の瘴気とともに発せられる。ザナエルが持つ邪神剣もまた、それに呼応するかのように歓喜とも悲鳴ともつかない共鳴音で応えた。
「くくく、そう興奮するでない。今すぐに解放してやるぞ」
モニュメントの前に立つザナエルが大きく邪神剣を掲げた。剣のオーラがモニュメントの光と同調し、共鳴音が高くなるつれ、ホールが震撼する。
「ゾルド様の骨より作られしこの剣を持って命じる。偉大なる邪神ゾルド様の眷属よ、長き眠りから覚めるがよい。積もりに積もったその怨念を、ゾルド様の祝福を受けしこのザナエルに捧げるのだ!」
邪神剣が高鳴る。モニュメントが激しく震える。ザナエルが剣を振り下ろし。悲鳴と共にモニュメントが両断される。
三位一体の模様に亀裂が走り、地面がホールの中心から破砕する。とめどない蒼白の瘴気がおどろおどろしいドクロの形を成して噴出する。ザナエルのせせら笑う声がコダマした。
「ンははははははーーーっ!!!」
里の長が震えた。
「お、おおおお、女神よ…っ―――」
その言葉を最後に、地面にいた長は大穴からあふれ出した蒼白な死者たちの瘴気に飲まれた。
******
夜も深くなり、虫の規律な鳴き声だけが響くフィロース町。ラナ達がみな就寝しているこの時間で、ひっそりとキャンプ地に戻っていたアイシャは、そこから持ち出した神弓フェリアを抱えながらキャンプ地すぐ傍の林の中で座り込んでいた。月明かりが照らすアイシャの憂いの表情は、女神にも等しきその美しさを白銀の神弓とともにより一層に深みを与える。
(カイくん…)
この行軍で出会った自分の運命の名前を、愁う気持ちとともに心で何度も繰り返した。
(((これが俺の覚悟だって、君と一緒になるためなら、ちゃんと変わることができるって)))
朝のカイの言葉が、切ないほどアイシャの胸を締め付ける。
(((こうして君と過ごしてきて、俺は本当にアイシャが好きだって改めて実感したんだから)))
愛らしい気持ちがギュッと弓をさらに強く抱かせる。
(カイくん…っ)
再び思い人の名前を心の中で呼ぶ。そのたびに、アイシャもまた自分へと問いかけた質問の答えを改めて確認することになってしまう。
(…私も好きですよ、いつも前向きな貴方が好き。私に分け隔てなく接してくれる貴方が好き。私と一緒にがんばるって言ってくれる貴方が、好き…)
カイと一緒にいたい。王女である自分が平民と結ばれることなんざ不可能に近いが、この神弓を渡せば願いは叶う。実際これが唯一の方法だろう。彼自身も貴族社会での戦いに備えてるし、一生懸命に強くなろうとしている。あとは自分さえ決意すれば、二人は晴れて結ばれることができる。
でも彼を思えば思うほど、愛おしさのあまりに邪神との戦いから遠さげようとする。カイがエリクに毒蛇を仕掛けられた時、彼女は既に自覚していた。カイを失うことが、いつの間にか自分でも想像できないぐらい怖くなってきたことに。それほどに、彼は自分にとって大切な人になっていることに。
アイシャ自身も驚いていた。自分は邪神教団との戦いに少しも躊躇わないのに、大事な誰かを失うことを思うだけで、ここまで臆病になるなんて。
けどもうこれ以上迷うことはできない。教団との本格的な戦いが近づいているし、それにエリネがウィルフレッドとともに決意を示したから。自分よりも年下なのに、巫女であることを、王女である事実を受け入れ、ウィルフレッドの死期が近い事実をしっかりと受け止め、二人で歩もうとしている。兄妹二人ともに行き方を教えられた自分の不甲斐なさに思わず苦笑する。
自分も覚悟を決めよう。一人で抱えるよりも、エリネ達のように大事なカイと一緒に手を取りあって、支え合いながら困難と危険を乗り越えよう。願わくば、自分の気持ちと決意とともに彼に渡すと決めたこの神弓が、愛する人を邪神ゾルドとの戦いから守ってくれるように。
(神弓よ、どうかカイくんを守ってください。ルミアナ様よ、どうかカイくんに貴方のお導きを…)
祈りを捧げるようにそっと神弓に口付けをし、アイシャは弓を包みなおす。装備管理係のボルガにそれを渡すと、内なる決意とともにフィロース町へと戻っていった。
―――アイシャも、神弓を慎重に箱に収めるボルガも気付かなかった。アイシャが離れて間もなく、神弓が神秘な銀色の輝きを淡く発し始めたことに。
兆しが、発現し始めた。
【第十四章 終わり 第十五章へ続く】
(う~む…。三位一体のシンボルが封印の秘法の魔法陣であるのは間違いない。だが三角に立つ三名の巫女以外に、後一つなにかの要素が陣の外にある…。陣の中心に封印対象の邪神があるのなら、これは恐らく施術者の立ち位置のはずだが…)
そして彼女はもう一枚の紙、今日説明のために描いた逆三角の方を分析する。
(大図書館で見た内容は極めて少なかったが、この三角がそれぞれ三女神と相反する性質の呪物…塚が置かれるのは分かる。…けど、本当にこれだけで陣が完成するのか?もしこの逆三角が世界を表す三位一体のシンボルを逆転して成すものならば…)
大地の谷のエウトーレの家で見た三位一体のシンボルを思い出す。その中心には、それまでに誰も知ることのない大地の女神ガリアを表していた。
(あれこそが三位一体のシンボルの真の姿であれば、封印の秘法の外にあるものが、女神ガリアの力を示す何かなのであれば――)
逆三角を指でトントンと叩く。
(これにも女神ガリアと相反する、四つ目の何かの要素があるはず。それはなんだ?ザナエルがもっていたあの短剣か?それとも…)
大地の谷にいる間で、エウトーレが自分に教えた、大地の女神ガリアに関することを思い出そうとする。
伝承から忘れ去られた女神ガリア。その性質は、万物を育む母なる大地を表現するように命でもあり、親でもある。また、亡くなった魂を労わる理念から死の性質をも持つ。ならそれに相反するものは何になる?教団はどのような手でその呪物を作ろうとする?そもそもガリアとはなんだ?
ガリア由来の魔法は、ガリアの加護が残る大地の谷でしか行使できないとエウトーレは言った。関連する知識の伝承もすべて口伝と、管理者による神秘継承という手段のみで、文字として記された書物は谷では一切なかった。加えてその閉鎖的な環境、まるで意図的に世間から忘れ去られようとするように…。
(まったく、いくらなんでも情報が少なすぎる。一度大図書館に戻れる時間が少しでもあれば…)
長い溜息をしながら、ミーナは椅子に背を持たせ、くらい天井を見つめた。悩むべきことはこれだけではない。
(巫女であるエリーに…異世界人であるウィル…)
二人の睦ましい姿に、ザーフィアスの警告が影として曇らせていく。二人が恋仲になることで、果たしてどのような影響をもたらすのか。
自分を奮わせるように、ミーナは頬を叩いた。
(ええい、しっかりせんか)
二人が恋仲であれどうであれ、ウィルフレッドを肉体崩壊から救うことは既に決めたのだ。ならばそういう類の危惧は少なくとも現段階ではただの雑音だ。その悩みは、まず彼の崩壊を治してからでもいい。
(ああ忙しい忙しいっ、後で霊薬のリストも作らねばっ。…どれもこれもみんなエリクのせいだっ、いつか必ずアホになるまで頭を叩いてやるっ)
半分八つあたりの愚痴を心の中で毒づきながら、ミーナは再び目の前の資料に没頭していった。
******
「う…つぅぅ…っ!」
全身に響く痛みに覚まされ、クラリスが目を開く。
「ここは…」
そこは霧が立ち込める林の中だった。ゆっくりと身を起こし、背中に背負っている聖剣の感触を感じて安心すると、改めて周りを確認した。霧の向こうに自分達が落ちたと思しき断崖が見られ、今は霧に遮られて上が見えないが、かなりの高さを持つとは一目で理解できた。
(こ、こんな高さで落ちて無事だったの?私達…)
「っ、そうだ、マティ殿…っ、マティ殿!」
再び周りを見ると、自分達が乗っていた馬の死体からそう遠く離れていない場所に、倒れこんだマティの姿を確認した。
「マティ殿っ!」
痛みに耐えて彼の元へと駆けつけては容態を確認する。打撲の痕がいくつか見られ、ブルゲストに噛まれて血を流れる腕を見ると、クラリスは申し訳なさに口を噛み締めた。
「くっ!」
マントを破り、応急処理をしては治癒をマティにかける。ほどなくしてマティが呻き声をあげて目を開いた。
「う…うぐ…クラリス殿…?」
「マティ殿!良かった…どうか動かないでください、いま治癒をかけているところなので」
先ほどの彼女のように周りを確認するマティ。
「あの崖…私達はあそこから落ちて…?よく無事にいられたものですね…」
「ええ。正に奇跡と言えるでしょう。女神様に感謝しなければなりませんね」
マティは、落ちている時に何か青い光が自分を包んだのをおぼろげに覚えている気はしたが、記憶がはっきりしない。
「さきほどはありがとうございます。マティ殿、私をかばって傷を受けてしまって…私は…」
魔法をかけ続けるクラリスの悔しそうな顔に、マティは笑顔で応えた。
「そんな貴女が意固地に待ってくれなかったら、私はとっくに命を亡くしたところでした。礼を言うのは私の方です。ありがとうございます、クラリス殿」
まだ納得はいかないクラリスだが、少しだけ気持ちが軽く感じられた。
暫くして、マティは試しに腕を動かす。
「…クラリス殿、もう大丈夫ですよ。腕の出血も止まったし、普通に動けるのですから」
「え、もう?エルフとは頑丈なものですね」
クラリスは魔法を止めた。
「いえ…どうやらこれは、クラリスの魔法が強かったからのようですね」
「そうなの、ですか…?私、魔法の練習はあまりしてませんのに…」
「先天的素質が良いのでしょう。そういえば、ヘリティア騎士は魔法よりも剣術に重きを置いてる話を聞いたことがありますが…」
「はい、勇者ダリウスは剣の達人だったこともあって、剣こそ騎士の誉れと考える人も少なくないです。ですから私も剣術の方に精が出てしまって…」
まだ少しふらついていながらも、クラリスに支えられて立ち上がるマティ。
「それは勿体無い。しっかり魔法訓練を積んで行けば、魔法使いレベルの魔法も容易に使えるはずですよ」
「そんなこと、考えもしませんでした…自分はとにかく騎士になりたい一心で必死に剣を振るうばかりで…」
「こういうことは往々にして分からないことです。どうか心の余裕を持ってください、クラリス殿。貴女は自分が思ったよりも素晴らしい人なんですから」
エルフ特有の秀麗な容姿から見せるマティの笑顔に、クラリスは少し熱に当てられたように顔を逸らす。
「クラリス殿?どうかしましたか」
「い、いえ。なんでもありません。とにかく早くここから離れましょう。追手がいつ来るのか分かりませんから」
「そうですね。行きましょう、ラナ様とレクス様の元に」
まだ足取りがおぼつかないマティはクラリスに担がれ、その場を離れる最後に一目、崖の上方を見上げた。
(テムシー…またいつか会いましょう)
かつての友人を偲びながら、クラリスとともにマティはその場を離れた。
******
エルの森深部、古き大樹を家とし、仄かな光を発する蝶達や涼やかな鳴き声を唄う小鳥達とともに生きる、エル族の里。千年前からの自然の神秘がそのまま保存されたかのような美しい村。
その村が、いまや無残にも燃え盛っており、里を流れる川はエル族の人達の亡骸によよって真っ赤に染められていた。善戦していた屈強なエル族の戦士たちも残り僅かで、テムシーを中心に敵に囲まれていた。赤い『踊る悪魔』の印をローブにつけた、邪神教団の信者達によって。
「ぐっ…災厄の手下どもめ…っ!我々の聖なる森を…っ」
傷だらけながらもふらつく身体を奮い立たせ、戦斧を構えるテムシー。彼の目の前に、自分達を包囲する信者が道を開き、昼で見た教団精鋭兵と同じ装束の人達が前に出た。彼らを率いるのは、二本の毒入りナイフを手に持った、ザレ。
「うおおぉぉっ!」
テムシーとその仲間達がザレめがけて突撃する。ザレの取り巻きが彼に先行して飛び出し、応戦した。
「うがぁっ!」
一人は『赤き目』達が放つ毒針と鎖の連係に破れ、
「――黒炎喰!」
「ぐあぁっ!」
さらに一人が呪いの炎に焼かれ、
「げふっ!」
また一人は剣を折られては、喉を貫かれた。
「ラター!テリセ!ハザン!…ぐおっ!」
戦斧で切り裂いたかと思った教団兵が放つ槍の一撃を、斧で防いで後退するテムシー。
「身代わりの符か…っ」
昼とは訳が違った。手負いで人数的に負けては、いかな屈強なエル族の戦士であっても、教団の精鋭、ザレが率いる『赤き目』の手練れたちにかなうはずもない。残るテムシーともう一名の精悍な戦士が、背中合わせをしてザレ達と対峙する。二人の戦意に衰えは無いが、戦いの結果は火を見るより明らかだった。
「…テムシー…、後で大きな精霊魔法を放つ。その隙にそなたは逃げるのだ」
「なっ、戦士長!?里を放棄すると仰るのかっ?掟を背くことになるぞっ!」
「風の流れが変わり始めたのだ。…変わりもののマティが言ったように、我々はもっと早く目を外に向けるべきなのかもしれない」
「…っ」
「行けテムシー!――七光彩!」
「「「ぬうっ!」」」」
呪文を唱え、戦士長が地面に両手を突き刺すと、森の隅々まで照らす色彩の光が羽を広げた小人の風と共に吹きまわり、彼らを囲む教団兵たちは思わず目をつぶって後ずさる。
「くっ…、貴方に母なる女神の慈悲を!」
光の風に紛れて逃げ出すテムシーを察し、ザレは瞬時に反応してナイフを投げ出した。
「ぐぅっ!」
光の中で苦悶の音が響くが、それっきりだった。
(…逃げたか)
「おおお…っ!」
少しでもテムシーに逃げる時間を作るように光幕を維持する戦士長。だが。
「ほほう…北方精霊シャーファに由来する撹乱魔法か。珍しいな」
戦士長の身体に戦慄が走る。七彩の風でも覆うことのできない闇の人影がゆらりと浮き出る。
「ンくくくく、だがいささか目に毒だな」
人影が、何かを振り上げた。死者の悲鳴にも似た怨嗟の声とともに風が切り裂かれ、背筋も凍る冷たい風がかわりに一面に吹き荒れる。
「うああぁっ!」
魔法が破られた衝撃に戦士長が吹き飛ばされて地面に無様に転ぶ。
「ぐっ…なんだ今のは…あ…」
黒い影がすぐ目の前に立っていた。倒れたままゆっくり見上げると、おぞましい黒の瘴気をまとう仮面の男が、一人。里を燃やす炎の明かりに照らされるその仮面は、まるで嗤うかのようにその影を揺らめいていた。手にしている異形の剣から彼以上の悪寒のオーラを発しており、戦士長に戦慄が走った。
「恐れることはない。さあ、余興のお礼だ。遠慮なく受け取りたまえ」
その男、ザナエルの邪神剣が彼に突き刺さる。真っ赤な鮮血が走り、戦士長は呻き声を挙げると、そのまま絶命した。
「…ザナエル様、見つけました」
「うむ、案内せよ」
報告するザレに案内され、ザナエル達は里の中心、不思議な呪文や儀式用の縄などで飾られた大きな岩に到達する。すぐ傍にはこの里の長が、教団信者達に取り押さえられた。
「お、おぬしら…っ、災厄の手先が、何もないこの里をなぜ襲って…っ?」
ザナエルは彼に構わずに大岩へと近づく。
「や、やめたまえ!その守り岩はこの森の象徴っ。それとともに生きるのが我ら一族の命そのものなのだっ!」
「…いかんなあ、長老。そなたらはいかんよ」
「え…」
いつも余裕のあるザナエルの声が、静かに抑制的なトーンへと変わる。歩みを止めて長老の前に立つと、その死人のように蒼白な両手で長老の顔を掴んだ。
「うぐ…っ」
「お主らエル族は自然と調和しすぎた。他のどのエルフよりも自然との同調に勤しみ、瞑想にのめり込んだが、その結果がどうだ?違った方向で自然と同調しすぎて植物じみた生活を送り、あまつさえここにいる理由さえも忘れるとは」
「り、理由じゃと…?」
「だがそれよりも…」
ザナエルの声がかすかに震えていた。
「そなたらは何よりも素晴らしい感情を蔑ないがしろにしすぎておる。善性の生き物ならば善性らしく平和を大いに謳歌し、自然の中で育む平和を、愛と友情を重んじるべきなのだ…っ」
それは、どこか真摯さの篭った叱責のように聞こえた。
「あ、あんたはいったい…」
長老の顔を放し、ザナエルの仮面からいつもの不気味な笑いが漏れ出す。
「くくく、だがまあ、我らが難なく計画を進められるのであればそれも良かろう」
大岩の前へと立つザナエルが呪文を唱える。空いた手に煮えたぎる黒い瘴気が集まる。
「や、やめろーーーっ!」
「――爆闇砕!」
暗黒のマグマが瘴気を散らかして爆発を起こした。エル族の信仰の対象である岩は、木っ端微塵に飛散っては溶けて行く。
「あ、ああ…」
放心した長の顔に、すぐさま驚きの表情が浮ぶ。岩があった場所には、地下へと通じると思われる大穴が現れたからだ。
「長よ、そこでこれから起こることをしかと見るがよい。ザレ」「はっ」
取り巻きに指示し、その大穴へと降りるロープが垂らされると、ザレはザナエルに随伴して大穴のしたへと降りていく。
大穴の底の地面にザナエル達が足をつくと、魔晶石入りの台座が次々と明かりがついていく。円型の大きなホールだった。周りには風化して崩れた女神像があり、壁には邪神戦争を描写する絵画が辛うじて分かるように残っている。そのホールの床には、女神のシンボルたる三位一体の三角模様が描かれ、その中心には、大人一人ぐらいの大きさの、モニュメントが一つ。
「ザナエル様、あれが…」
「そうだ。かつてゾルド様が生み出した眷族の一体、その封印だ。千年前の大戦で殆どの眷属は勇者たちに滅ぼされたが、世界各地に散りばめられた一部眷属はそれぞれ女神の助力を得た者達によってこうして封印されている。ゾルド様の封印ほどではないが、それなりに強力だ。少し下がった方が良い」
指示通りザレが後退し、ザナエル達が中心へと迫っていく。先ほどまで静かに佇むモニュメントが淡い光を発し、ガタガタと震え始めた。地の底から発する死者達の怨嗟のような声が、モニュメントの下から夥しい蒼白の瘴気とともに発せられる。ザナエルが持つ邪神剣もまた、それに呼応するかのように歓喜とも悲鳴ともつかない共鳴音で応えた。
「くくく、そう興奮するでない。今すぐに解放してやるぞ」
モニュメントの前に立つザナエルが大きく邪神剣を掲げた。剣のオーラがモニュメントの光と同調し、共鳴音が高くなるつれ、ホールが震撼する。
「ゾルド様の骨より作られしこの剣を持って命じる。偉大なる邪神ゾルド様の眷属よ、長き眠りから覚めるがよい。積もりに積もったその怨念を、ゾルド様の祝福を受けしこのザナエルに捧げるのだ!」
邪神剣が高鳴る。モニュメントが激しく震える。ザナエルが剣を振り下ろし。悲鳴と共にモニュメントが両断される。
三位一体の模様に亀裂が走り、地面がホールの中心から破砕する。とめどない蒼白の瘴気がおどろおどろしいドクロの形を成して噴出する。ザナエルのせせら笑う声がコダマした。
「ンははははははーーーっ!!!」
里の長が震えた。
「お、おおおお、女神よ…っ―――」
その言葉を最後に、地面にいた長は大穴からあふれ出した蒼白な死者たちの瘴気に飲まれた。
******
夜も深くなり、虫の規律な鳴き声だけが響くフィロース町。ラナ達がみな就寝しているこの時間で、ひっそりとキャンプ地に戻っていたアイシャは、そこから持ち出した神弓フェリアを抱えながらキャンプ地すぐ傍の林の中で座り込んでいた。月明かりが照らすアイシャの憂いの表情は、女神にも等しきその美しさを白銀の神弓とともにより一層に深みを与える。
(カイくん…)
この行軍で出会った自分の運命の名前を、愁う気持ちとともに心で何度も繰り返した。
(((これが俺の覚悟だって、君と一緒になるためなら、ちゃんと変わることができるって)))
朝のカイの言葉が、切ないほどアイシャの胸を締め付ける。
(((こうして君と過ごしてきて、俺は本当にアイシャが好きだって改めて実感したんだから)))
愛らしい気持ちがギュッと弓をさらに強く抱かせる。
(カイくん…っ)
再び思い人の名前を心の中で呼ぶ。そのたびに、アイシャもまた自分へと問いかけた質問の答えを改めて確認することになってしまう。
(…私も好きですよ、いつも前向きな貴方が好き。私に分け隔てなく接してくれる貴方が好き。私と一緒にがんばるって言ってくれる貴方が、好き…)
カイと一緒にいたい。王女である自分が平民と結ばれることなんざ不可能に近いが、この神弓を渡せば願いは叶う。実際これが唯一の方法だろう。彼自身も貴族社会での戦いに備えてるし、一生懸命に強くなろうとしている。あとは自分さえ決意すれば、二人は晴れて結ばれることができる。
でも彼を思えば思うほど、愛おしさのあまりに邪神との戦いから遠さげようとする。カイがエリクに毒蛇を仕掛けられた時、彼女は既に自覚していた。カイを失うことが、いつの間にか自分でも想像できないぐらい怖くなってきたことに。それほどに、彼は自分にとって大切な人になっていることに。
アイシャ自身も驚いていた。自分は邪神教団との戦いに少しも躊躇わないのに、大事な誰かを失うことを思うだけで、ここまで臆病になるなんて。
けどもうこれ以上迷うことはできない。教団との本格的な戦いが近づいているし、それにエリネがウィルフレッドとともに決意を示したから。自分よりも年下なのに、巫女であることを、王女である事実を受け入れ、ウィルフレッドの死期が近い事実をしっかりと受け止め、二人で歩もうとしている。兄妹二人ともに行き方を教えられた自分の不甲斐なさに思わず苦笑する。
自分も覚悟を決めよう。一人で抱えるよりも、エリネ達のように大事なカイと一緒に手を取りあって、支え合いながら困難と危険を乗り越えよう。願わくば、自分の気持ちと決意とともに彼に渡すと決めたこの神弓が、愛する人を邪神ゾルドとの戦いから守ってくれるように。
(神弓よ、どうかカイくんを守ってください。ルミアナ様よ、どうかカイくんに貴方のお導きを…)
祈りを捧げるようにそっと神弓に口付けをし、アイシャは弓を包みなおす。装備管理係のボルガにそれを渡すと、内なる決意とともにフィロース町へと戻っていった。
―――アイシャも、神弓を慎重に箱に収めるボルガも気付かなかった。アイシャが離れて間もなく、神弓が神秘な銀色の輝きを淡く発し始めたことに。
兆しが、発現し始めた。
【第十四章 終わり 第十五章へ続く】
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