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第十四章 逆三角
逆三角 第六節
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まるで邪神が残した爪痕にも似た深い渓谷の中で、パルデモン山脈の血かの如き溶岩が無数に流れていた。そのうち一つの溶岩川の前に、包みを背負っている黒装束の教団兵は何かを待ってるかのように佇んでいた。
暫くすると溶岩の流れが徐々に収まり、退いていくと、小さな洞窟が露になってそれへと続く道が現れた。覆面の下の顔がほくそ笑み、それを渡るよう足を踏み出す。
「なるほど隠し通路ですか、複雑怪奇な道にこんな仕掛けがあっては、案内無しで奥に進むのはまず無理ですね」
後方から響く声に教団兵は即座に両手にカタールを構えて振り返る。ほぼ同時に、小さなガラス瓶が投げ込まれ、パリンと割れた小瓶から七色のカナリア達が飛び出ては教団兵に絡んでいった。
「ぬぅっ!?」
「たぁっ!」
それを機に岩陰から飛び出すマティの剣が教団兵を襲う。だが熟練の教団兵はカナリアの撹乱を意も介さずにバク転して攻撃をかわし、後ろへ飛び離れると共に同じように小さな小瓶をマティに向けて放り出した。
「――風よ!」
それが危険なものだと睨んだマティが突風を起こしてそれを溶岩川に向けて吹き飛ばす。破裂した小瓶からボウッと撒き散らされる黒いガスは溶岩に燃やされる。
「シャアァッ!」
それを隙に低く屈んで接近した教団兵の目にも留まらないカタールの連続突きがマティ目がけて繰り出される。
「ふっ!はっ!」
だがマティの流麗な剣捌きがそれらを全て逸らしていく。ギィンギィンと金属の衝突音が火花を散らす。
一見拮抗しているかに見えた頃に、教団兵がカタールの仕掛けを作動した。バチンッ!と、カタールの刃の両脇に、さらに短い刃が展開され、それでマティの剣に絡みつき、動きを止めさせた。
「なっ!」「シッ!」
マティが動揺した隙をつき、教団兵が力ずくで絡んだ剣を彼の手から剥がし、マティの剣がカラカラン地面へと投げつけられる。
「死ねっ!」
素手になったマティに、教団兵は両手のカタールを彼の心臓と頭めがけて同時に突き出した。だが驚愕したのは教団兵の方だった。目を大きく見開いたマティは回避どころか、逆に前へと一歩踏み出し、身体を大きく捻っては、毒入りカタールを間一髪でかわす。
「なにっ…」
そしてその勢いに乗せ、両手を身体の左右に打ち開くという、教団兵が見たこともない姿勢で、マティは掌を彼の胸に打ち込んだ。
「はぁっ!」
「ぐあっ!」
大したダメージにはならなかったが、姿勢を崩された教団兵はよろめき、その隙にエルフ持ち前の俊敏さで接近するマティ。彼の拳が教団兵の喉に置かれ、追い討ちの掌打がそれを深く打ち込んだ。
「げほぉっ!」
一瞬に息が抜かれたかのような衝撃に教団兵が咳き込み、苦しむ。
「おおおっ!」
剣を拾ったマティがトドメを刺そうとするが、精鋭なだけあって教団兵の反応は早かった。痛みに耐えてを握りなおしたカタールを、自分めがけて剣を振るうマティに向けて繰り出した。
「カァッ!」
ガィンと乾いた金属音がコダマする。
「…げふっ」
正に一瞬の差だった。喉にダメージを受けたことにより僅かに方向が逸れたカタールをマティの剣が弾き、致命の一撃が教団兵に切り込まれていた。彼は糸切れ人形のように崩れて倒れ込む。
(…ふぅ。危ないところでした。ウィル殿には改めて礼を申し上げねばなりませんね)
先ほどの動きは、他ならぬウィルフレッドが教えたものだった。マティやラナ達は兼ねてから彼の独特で洗練した素手の動きに興味が沸いており、彼は行軍の合間を縫って基本中の基本の動きや形などをマティ達に教えていたのだ。
(彼が言った通り、私たちの力では彼ほど有効な打撃を繰り出すのは難しいものの、練っていけばそれなりに実用性のある技として私達の戦技に落とし込めそうですね。落ち着いたら改めて色々と学びたいものです。…さて)
マティは教団兵の背中から包みを取り、それを広げてみた。
神々しい白色の鞘に見事なまでの飾り模様。何をせずとも感じられる聖なるオーラは、この魔山において尚更輝いているかに感じられた。いつも落ち着いたマティでさえ思わず息を呑む。それはまさに、あの神弓フェリアと同じ神器であると彼は確信する。
(これが…勇者ダリウスに授けられた聖剣ヘリオス…っ)
「マティ殿!」
「クラリス殿っ」
ようやく追いついたクラリスがマティに駆けつける。
「ご無事なのですねマティ殿」
「ええ、それよりもクラリス殿、これが貴国の神器、聖剣ヘリオスで違いありませんか?」
マティから剣を受け取ったクラリスがそれを見た途端に、涙が出るほどに安心した。
「…はいっ、間違いありませんっ。これは聖剣ヘリオスです…っ、良かった…っ」
大事な宝のようにそれを強く抱きしめる彼女にマティは微笑んだ。
クラリスは聖剣を慎重に包んでは背負い、マティは奥へと続く道の方を見る。
「無事聖剣も回収できましたし、ここから離れましょう…マティ殿?」
「クラリス殿、貴方は聖剣を連れて連合軍のところに行ってください、私はこのまま奥に行って調査に行きます」
「えっ」
「私は元よりここにあると思われる教団本拠地の調査のために来たのです。貴方も元の目的を果たすよう、聖剣をラナ様のところへ送り届いてください。さっきの馬を使って構いませんから」
「ですけど、それじゃマティ殿は?」
「私でしたら、森の中でまた調達すれば良いのです」
クラリスが戸惑う。
「それではあまりにも危険ですっ。私も一緒に――」
「なりません。聖剣を持って教団本拠地の調査にいくなど、また奪われては今度こそ取り戻せなくなるかもしれませんよ」
「っ…」
クラリスが手元にある包みを見る。それを抱える手に力が入る。
「ですからクラリス殿、どうか私のことを気にせずに先に脱出を。今はそれをラナ様のところに届けるのが急務で…クラリス殿?」
マティから顔を逸らしては、クラリスは俯いた。
「すみません。自分の不甲斐なさが、あまりにも情けなくて…私は…私は…っ」
かすかに震えるクラリスの背中を、マティは暫く言葉をかけないようにした。
「…クラリス殿、先ほど教えてた、私が森から追放された経緯を覚えていますか?」
そっと零れてた涙を見えないように拭うクラリス。
「…は、はい。確か病にかかったテムシーを助けるために…」
「ええ。彼が病にかかった原因は、そもそも私にあったのですよ」
「え、どういうこと、ですか…?」
「あの日、エル族の狩人となったばかりの私とテムシーは、森の外からの魔獣退治に向かってたのですが、未熟でありながら私は無茶をしたせいで不意をつかれて死にそうになったのです。そんな私をテムシーがかばって魔獣の毒を受けて彼は病にかかってしまいました」
不思議そうな表情を浮かべるクラリス。
「そうだったのですか…?マティ殿ってとても無茶とか不意をつかれるような方には…」
苦笑するマティ。
「若気の至りですよ。しきたりに嫌気が差したとか、友人を救うとは言いましたが、結局は単に、不甲斐ない自分の不始末を片付けるためだけなのです」
クラリスの肩にマティの手が置かれる。
「みなが最初から立派に振舞える訳ではありません。未熟なのであれば未熟なりに、やれることを精一杯やっていけば良いのです。いつかきっとそれが、良き結果となって貴方に帰ってくるのですから」
「私のやれることを、精一杯…」
通路が溶岩によって再び隠されつつあるのを見て、マティは駆け出した。
「マティ殿!」
「レクス様に会ったら、どうかしっかりやってるのか代わりに見張ってください!」
マティが通路を通り過ぎた瞬間に、怒涛と溶岩が道を飲み込み、洞窟の入口も隠されてしまう。クラリスは数歩後退しながら彼が走り去った方向を見つめた。
(私ができることを…精一杯に…)
暫くして、意を決したかのように包みを背負っては、クラリスは戻り道を辿っていった。
******
「ううむ…」
夕方になったフィロース町の宿。白猫亭の時の様に大きめな部屋を貸切にしたラナ達は、エリネの左目を診査してるミーナを中心に集まっていた。ルルはカイの肩に乗っており、エリネはどこか落ち着かない感じで、ミーナは言わずもなが終始張り詰めた顔をしていた。
「どうですか先生?」
ミーナはラナを見て小さく頷くと、エリネから離れた。
「…エリー、目を開いたまま清呪を唱えてみてくれ。唱える際、自分の左目に意識を集中してみよ」
「は、はい…」
まだ少し不安そうなエリネは、とりあえず言われたとおりに呪文を唱え始めた。
「清純なる星の輝きよ――」
突如、不思議な感覚が左目から溢れた。まるで清らかな泉水がマナとなって湧き出るように。エリネの意識が自然とそこに集中され、瞳の奥にある星の聖痕が青き輝きを放つ。ラナとアイシャの聖痕もまた呼応するかのように金と銀の輝きと神秘の共鳴音を発した。
「うっ!?」「きゃっ!?」
「ラナ様っ」「アイシャっ」
「――清呪」
模擬ターゲットの花瓶に向けてエリネは魔法を放った。教団たちが使う邪悪なる呪いを浄化する青の輝きは、今までに比べにならない程の光を放ち、部屋を充満した。ウィルフレッド達は思わず目を瞑る。
光が鎮まっても、エリネはただ呆然と立ち尽くしていた。開いた左目にある星の聖痕はまるで長い眠りから覚めたように淡い光を堪え、ラナとアイシャの聖痕とともに神秘的な音と光を発する。全てを穏やかに包むような不思議な光景だった。やがてそれさえ落ち着くと、一同は黙したままだった。
「…どうやら、間違いないようだな」
「ミーナ様…これって、いったい…」
間をおいてから、ミーナは困惑しているエリネに告げた。
「エリー…その目にあるそれは確かに星の聖痕。おぬしは女神スティーナの魂の力を受け継いだ星の巫女だ」
レクスやウィルフレッド、アイシャ達が唖然とする。
「エリーちゃんが…」「女神の…星の巫女…」
「そんな…私達がずっと探してた星の巫女が、すぐ傍にいたなんて…」
「だが納得はできる。ウィルへの治癒がエリーしか効かなかったのは、ひょっとしたら星の巫女だからと疑ってはいたのだからな」
ミーナに同意するラナ。
「治癒は星の女神スティーナ様由来のものですからね」
だがエリネはその事実を未だ理解できないように苦笑する。
「そ、そんなことって…だって今まで私の目にこんな聖痕なんてなかったですし…そうよねお兄ちゃん」
「ああ、俺とシスターは小さい頃からずっとエリーの目を見てきたんだぜ?なのにどうしていきなり…」
「うむ。我がこの前エリネの身体検査をした時も聖痕はなかった。あくまで憶測だが、今までそれを封印する加護か魔法が掛かっており、それが何らかの理由で解けてようやく認識できるようになったかもしれん」
エリネの戸惑いは増すばかりだった。
「封印って…いったい誰が何のために…」
「理由自体は至って単純だ。邪神教団からおぬしを守るためだろう。星の巫女には例の事件があったからな」
「例の、事件…?」
ミーナは一度、その事件を知り、深刻そうな表情を浮かべてるラナとアイシャを見てから、カイやレクス達に問うた。
「おぬしら、邪神教団が三国の間で再認識された事件を覚えているか?」
「え?なんだよいきなり…」
「教団が再認識された事件…十六年前の、エステラ王国で起こった王族殺害事件だね」
レクスの言葉にウィルフレッドは、かつて彼の館でそれに触れたことを思い出す。
「…確か、マリアーナという王妹と、その夫が離宮で教団に殺害された事件、だったか?ミーナ」
「そうだ。世間では教団を隠れ蓑とした派閥抗争として扱われてたが、真実はそうではない。あれは紛れもなく教団による仕業で、当時マリアーナ王妹が儲けた子、星の巫女を目標とした事件なのだ」
「そうだったのっ!?」
驚くレクスに、ラナとアイシャは頷いた。
「先生の言うとおりよ。あの時、離宮で働いてたメイドの一人が教団の信者で、そこに星の巫女が生まれた情報をあいつらに知られてしまったの」
「ええ。ですから暗殺事件後、巫女に関する厳重な緘口令が敷かれたんです。私達にも同じことが起こらないようにするために」
「ちょ、ちょっと待ってくれアイシャ!そ、それじゃエリーって…エリーの本当の生まれって…っ」
カイだけではなく、ウィルフレッドやその場にいる全員が、動揺しているエリネを見た。ミーナは一度深呼吸して、真剣にエリネを見つめ、告げた。
「落ち着いて聞くのだ、エリー。…君の本当の名前はティア・スフィア・エステラ、エステラ王国の王妹マリアーナの一人娘、第二王女ティアなのだ」
エリネの体が大きく震えるほどの動揺ぶりだった。
「私が…王女…?この、エステラ王国の…?」
「まじ、かよ…エリーは巫女だけでなく、この国の王家の人間だってのか…?」
ウィルフレッドが心配そうにエリネを見るなか、レクスは質問した。
「ええと、もう少し詳しく説明してくれるかなミーナ殿。星の巫女の行方は女王に確認する必要があるって言ってたよね?あの事件は具体的にどうなってたの?」
「…離宮が襲撃されたあの日、ロイド卿は巫女である赤ん坊を、己の娘を逃がすために奮戦してやむなくやられてしまったが、王妹のマリアーナは巫女と一人の護衛騎士とともに離宮を脱出できた。しかし教団の追撃は思いのほか執拗で、護衛は運悪くマリアーナとはぐれてしまい、巫女とともに行方不明になった。我を含めた三国の指導者は必死に失踪したマリアーナとその赤ん坊を探そうとしたがなんの成果もなく、最後は各国が各々に捜査を続け、何かあったら指導者に伝えるという形となった」
ずっと俯いたままのエリネの両手に力が入る。
「キュ…」
心配するかのように、ルルがカイから彼女肩へと飛び移った。
「ロバルトやエイダーンと最後に会った時は、やはり星の巫女の消息はなかったから、メアリー女王に何か新しい情報がないか今回で確認しようと思ったが…まさかずっと一緒に行動していたとは…」
「そっか、それじゃあまだ赤ん坊だったエリーちゃんは、何らかの経緯でマリアーナ殿の手からシスターイリスのところに渡ったってことになったんだね」
ミーナは俯いているエリネに尋ねた。
「エリー、イリスから巫女や両親などについて何か聞いたことあるか?」
「な、ないですそんなっ。父さんと母さんは農民で、落盤事故に会って亡くなったとしか…。あっ、そういえば、シスターは本当に信頼できる人の前だけに目を開けていいって言い付けられていて…。まさか、シスターがこの封印を…?」
「いや。人の認識と聖痕の力に影響を及ぼせるほどの封印は、魔法よりも因果的な加護…奇跡に近いものだ。そういう類は、赤の他人では施せない。…あるとすれば、おぬしと血の繋がりのある肉親が一番可能性が高い」
エリネの体が小さく震えているのをウィルフレッドは気付く。
「ミーナ、それじゃエリーに封印を施したのは…」
「最後に赤ん坊だったエリーを連れていたマリアーナによるものだろうな。あくまで推測だが、マリアーナはエリーを教団から彼女守るために封印を施し、イリスもそのためにエリーの両親のことを黙って――」
「…っ!」
ミーナの言葉も待たずに、エリネは外へと駆け出た。
「あっ、エリー!」「エリーっ!」
彼女を追おうとするカイとウィルフレッドを、ラナとレクスがそれぞれ引き止めた。
「待ちなさい二人共、今はそっとしておきましょう」
「ラナ様っ、でも――」「エリーが…」
「ラナ様の言うとおりだよ二人とも、心配するのは分かってるけど、こういうのは一人で落ち着く時間が必要だからね。追うのなら少し間を置いてからの方がいい」
カイとウィルフレッドは釈然としないが、それでも追うのをやめ、エリネが駆け出た方向を心配そうに見つめていた。先ほどの苺タルトの味の余韻がウィルフレッドの口内で再び広がり、先ほどのエリネの思い詰めた顔と重なって、胸が小さく痛んだ。
(…エリー…)
******
熱気に満ち、毒ガスや瘴気が噴き乱れる外とは違って、いまマティが通る通路は意外とひんやりしていて、空気もそれほど淀んではいなかった。通路のいたる壁に光る苔が視界を確保してくれて、歩くのに困ることはなかった。
(まさか溶岩に満ち溢れたこの山にこんな通路が…。しかも結構入り込んでいて、万が一見つかっても正解ルートを探すには一苦労しますね)
幸い、地面には教団のものたちが利用していた痕跡が僅かだが残っており、かすかに流れる風と合わせて、マティは一応のルートを推測することができた。頭の中でルートを暗記しながら進むマティの前に、やがて出口と思われる小さな光が見えた。
(そこから出られそうですね)
さらに進むと視界が開き、奇怪な岩の群と熱気とガスが再びマティを迎える。熱やガスの量はさきほどより控えめになってはいるが、空の雲はそれに反して一層赤く染められていた。変わらず岩の群が迷宮のごとき地形を成してはいるが、地面は比較的平坦で、人の通る痕跡はさっきよりもはっきりとなった。
(…近づいて来たようですね)
周りをより警戒し、依然として呻きのように低い振動音を上げる大地を進んでいくマティは、ふとクラリスのことを案じた。
(クラリス殿、無事脱出できたのでしょうか…。あなり思い詰めてなければいいのですが…)
その考えを、いきなり胸に感じる不快感が遮った。
(っ?この感覚は…?)
さらに周りに注意しながら、腰の剣に手を置いて進むマティ。やがて岩の群が途切れ、ある盆地の縁に出たことに彼は気付いた。
とてつもなく大きな盆地だった。広大な盆地の底は地獄まで届くかのような亀裂が至るところにあり、溶岩の川がさらがら血管のように張り巡らされている。そんな盆地の中心に、それがあった。
おどろしい翼の生えた魔獣の彫刻や意匠が施された、巨大な丘を掘って作られた神殿。その真上のレリーフに踊る悪魔のシンボル。それと同じ紋章が黒いローブに描かれた教団の信者達が、せわしなく神殿とその周りの作業場らしき場所を行き来している。
(あれが、邪神教団の本拠地…?)
作業場では何かの資材が山積みになったり、鉄の箱など用途不明のものが色々と置かれ、信者達がいそいそと作業を進めていた。だがそれ以上にマティの目を引くものがあった。
それこそがマティに不快感を与えるものの正体。神殿を中心に、三角形をカタチ作るように三つの岩塔が、大地から生えた爪か牙の如く天高く聳え立っていた。
【続く】
暫くすると溶岩の流れが徐々に収まり、退いていくと、小さな洞窟が露になってそれへと続く道が現れた。覆面の下の顔がほくそ笑み、それを渡るよう足を踏み出す。
「なるほど隠し通路ですか、複雑怪奇な道にこんな仕掛けがあっては、案内無しで奥に進むのはまず無理ですね」
後方から響く声に教団兵は即座に両手にカタールを構えて振り返る。ほぼ同時に、小さなガラス瓶が投げ込まれ、パリンと割れた小瓶から七色のカナリア達が飛び出ては教団兵に絡んでいった。
「ぬぅっ!?」
「たぁっ!」
それを機に岩陰から飛び出すマティの剣が教団兵を襲う。だが熟練の教団兵はカナリアの撹乱を意も介さずにバク転して攻撃をかわし、後ろへ飛び離れると共に同じように小さな小瓶をマティに向けて放り出した。
「――風よ!」
それが危険なものだと睨んだマティが突風を起こしてそれを溶岩川に向けて吹き飛ばす。破裂した小瓶からボウッと撒き散らされる黒いガスは溶岩に燃やされる。
「シャアァッ!」
それを隙に低く屈んで接近した教団兵の目にも留まらないカタールの連続突きがマティ目がけて繰り出される。
「ふっ!はっ!」
だがマティの流麗な剣捌きがそれらを全て逸らしていく。ギィンギィンと金属の衝突音が火花を散らす。
一見拮抗しているかに見えた頃に、教団兵がカタールの仕掛けを作動した。バチンッ!と、カタールの刃の両脇に、さらに短い刃が展開され、それでマティの剣に絡みつき、動きを止めさせた。
「なっ!」「シッ!」
マティが動揺した隙をつき、教団兵が力ずくで絡んだ剣を彼の手から剥がし、マティの剣がカラカラン地面へと投げつけられる。
「死ねっ!」
素手になったマティに、教団兵は両手のカタールを彼の心臓と頭めがけて同時に突き出した。だが驚愕したのは教団兵の方だった。目を大きく見開いたマティは回避どころか、逆に前へと一歩踏み出し、身体を大きく捻っては、毒入りカタールを間一髪でかわす。
「なにっ…」
そしてその勢いに乗せ、両手を身体の左右に打ち開くという、教団兵が見たこともない姿勢で、マティは掌を彼の胸に打ち込んだ。
「はぁっ!」
「ぐあっ!」
大したダメージにはならなかったが、姿勢を崩された教団兵はよろめき、その隙にエルフ持ち前の俊敏さで接近するマティ。彼の拳が教団兵の喉に置かれ、追い討ちの掌打がそれを深く打ち込んだ。
「げほぉっ!」
一瞬に息が抜かれたかのような衝撃に教団兵が咳き込み、苦しむ。
「おおおっ!」
剣を拾ったマティがトドメを刺そうとするが、精鋭なだけあって教団兵の反応は早かった。痛みに耐えてを握りなおしたカタールを、自分めがけて剣を振るうマティに向けて繰り出した。
「カァッ!」
ガィンと乾いた金属音がコダマする。
「…げふっ」
正に一瞬の差だった。喉にダメージを受けたことにより僅かに方向が逸れたカタールをマティの剣が弾き、致命の一撃が教団兵に切り込まれていた。彼は糸切れ人形のように崩れて倒れ込む。
(…ふぅ。危ないところでした。ウィル殿には改めて礼を申し上げねばなりませんね)
先ほどの動きは、他ならぬウィルフレッドが教えたものだった。マティやラナ達は兼ねてから彼の独特で洗練した素手の動きに興味が沸いており、彼は行軍の合間を縫って基本中の基本の動きや形などをマティ達に教えていたのだ。
(彼が言った通り、私たちの力では彼ほど有効な打撃を繰り出すのは難しいものの、練っていけばそれなりに実用性のある技として私達の戦技に落とし込めそうですね。落ち着いたら改めて色々と学びたいものです。…さて)
マティは教団兵の背中から包みを取り、それを広げてみた。
神々しい白色の鞘に見事なまでの飾り模様。何をせずとも感じられる聖なるオーラは、この魔山において尚更輝いているかに感じられた。いつも落ち着いたマティでさえ思わず息を呑む。それはまさに、あの神弓フェリアと同じ神器であると彼は確信する。
(これが…勇者ダリウスに授けられた聖剣ヘリオス…っ)
「マティ殿!」
「クラリス殿っ」
ようやく追いついたクラリスがマティに駆けつける。
「ご無事なのですねマティ殿」
「ええ、それよりもクラリス殿、これが貴国の神器、聖剣ヘリオスで違いありませんか?」
マティから剣を受け取ったクラリスがそれを見た途端に、涙が出るほどに安心した。
「…はいっ、間違いありませんっ。これは聖剣ヘリオスです…っ、良かった…っ」
大事な宝のようにそれを強く抱きしめる彼女にマティは微笑んだ。
クラリスは聖剣を慎重に包んでは背負い、マティは奥へと続く道の方を見る。
「無事聖剣も回収できましたし、ここから離れましょう…マティ殿?」
「クラリス殿、貴方は聖剣を連れて連合軍のところに行ってください、私はこのまま奥に行って調査に行きます」
「えっ」
「私は元よりここにあると思われる教団本拠地の調査のために来たのです。貴方も元の目的を果たすよう、聖剣をラナ様のところへ送り届いてください。さっきの馬を使って構いませんから」
「ですけど、それじゃマティ殿は?」
「私でしたら、森の中でまた調達すれば良いのです」
クラリスが戸惑う。
「それではあまりにも危険ですっ。私も一緒に――」
「なりません。聖剣を持って教団本拠地の調査にいくなど、また奪われては今度こそ取り戻せなくなるかもしれませんよ」
「っ…」
クラリスが手元にある包みを見る。それを抱える手に力が入る。
「ですからクラリス殿、どうか私のことを気にせずに先に脱出を。今はそれをラナ様のところに届けるのが急務で…クラリス殿?」
マティから顔を逸らしては、クラリスは俯いた。
「すみません。自分の不甲斐なさが、あまりにも情けなくて…私は…私は…っ」
かすかに震えるクラリスの背中を、マティは暫く言葉をかけないようにした。
「…クラリス殿、先ほど教えてた、私が森から追放された経緯を覚えていますか?」
そっと零れてた涙を見えないように拭うクラリス。
「…は、はい。確か病にかかったテムシーを助けるために…」
「ええ。彼が病にかかった原因は、そもそも私にあったのですよ」
「え、どういうこと、ですか…?」
「あの日、エル族の狩人となったばかりの私とテムシーは、森の外からの魔獣退治に向かってたのですが、未熟でありながら私は無茶をしたせいで不意をつかれて死にそうになったのです。そんな私をテムシーがかばって魔獣の毒を受けて彼は病にかかってしまいました」
不思議そうな表情を浮かべるクラリス。
「そうだったのですか…?マティ殿ってとても無茶とか不意をつかれるような方には…」
苦笑するマティ。
「若気の至りですよ。しきたりに嫌気が差したとか、友人を救うとは言いましたが、結局は単に、不甲斐ない自分の不始末を片付けるためだけなのです」
クラリスの肩にマティの手が置かれる。
「みなが最初から立派に振舞える訳ではありません。未熟なのであれば未熟なりに、やれることを精一杯やっていけば良いのです。いつかきっとそれが、良き結果となって貴方に帰ってくるのですから」
「私のやれることを、精一杯…」
通路が溶岩によって再び隠されつつあるのを見て、マティは駆け出した。
「マティ殿!」
「レクス様に会ったら、どうかしっかりやってるのか代わりに見張ってください!」
マティが通路を通り過ぎた瞬間に、怒涛と溶岩が道を飲み込み、洞窟の入口も隠されてしまう。クラリスは数歩後退しながら彼が走り去った方向を見つめた。
(私ができることを…精一杯に…)
暫くして、意を決したかのように包みを背負っては、クラリスは戻り道を辿っていった。
******
「ううむ…」
夕方になったフィロース町の宿。白猫亭の時の様に大きめな部屋を貸切にしたラナ達は、エリネの左目を診査してるミーナを中心に集まっていた。ルルはカイの肩に乗っており、エリネはどこか落ち着かない感じで、ミーナは言わずもなが終始張り詰めた顔をしていた。
「どうですか先生?」
ミーナはラナを見て小さく頷くと、エリネから離れた。
「…エリー、目を開いたまま清呪を唱えてみてくれ。唱える際、自分の左目に意識を集中してみよ」
「は、はい…」
まだ少し不安そうなエリネは、とりあえず言われたとおりに呪文を唱え始めた。
「清純なる星の輝きよ――」
突如、不思議な感覚が左目から溢れた。まるで清らかな泉水がマナとなって湧き出るように。エリネの意識が自然とそこに集中され、瞳の奥にある星の聖痕が青き輝きを放つ。ラナとアイシャの聖痕もまた呼応するかのように金と銀の輝きと神秘の共鳴音を発した。
「うっ!?」「きゃっ!?」
「ラナ様っ」「アイシャっ」
「――清呪」
模擬ターゲットの花瓶に向けてエリネは魔法を放った。教団たちが使う邪悪なる呪いを浄化する青の輝きは、今までに比べにならない程の光を放ち、部屋を充満した。ウィルフレッド達は思わず目を瞑る。
光が鎮まっても、エリネはただ呆然と立ち尽くしていた。開いた左目にある星の聖痕はまるで長い眠りから覚めたように淡い光を堪え、ラナとアイシャの聖痕とともに神秘的な音と光を発する。全てを穏やかに包むような不思議な光景だった。やがてそれさえ落ち着くと、一同は黙したままだった。
「…どうやら、間違いないようだな」
「ミーナ様…これって、いったい…」
間をおいてから、ミーナは困惑しているエリネに告げた。
「エリー…その目にあるそれは確かに星の聖痕。おぬしは女神スティーナの魂の力を受け継いだ星の巫女だ」
レクスやウィルフレッド、アイシャ達が唖然とする。
「エリーちゃんが…」「女神の…星の巫女…」
「そんな…私達がずっと探してた星の巫女が、すぐ傍にいたなんて…」
「だが納得はできる。ウィルへの治癒がエリーしか効かなかったのは、ひょっとしたら星の巫女だからと疑ってはいたのだからな」
ミーナに同意するラナ。
「治癒は星の女神スティーナ様由来のものですからね」
だがエリネはその事実を未だ理解できないように苦笑する。
「そ、そんなことって…だって今まで私の目にこんな聖痕なんてなかったですし…そうよねお兄ちゃん」
「ああ、俺とシスターは小さい頃からずっとエリーの目を見てきたんだぜ?なのにどうしていきなり…」
「うむ。我がこの前エリネの身体検査をした時も聖痕はなかった。あくまで憶測だが、今までそれを封印する加護か魔法が掛かっており、それが何らかの理由で解けてようやく認識できるようになったかもしれん」
エリネの戸惑いは増すばかりだった。
「封印って…いったい誰が何のために…」
「理由自体は至って単純だ。邪神教団からおぬしを守るためだろう。星の巫女には例の事件があったからな」
「例の、事件…?」
ミーナは一度、その事件を知り、深刻そうな表情を浮かべてるラナとアイシャを見てから、カイやレクス達に問うた。
「おぬしら、邪神教団が三国の間で再認識された事件を覚えているか?」
「え?なんだよいきなり…」
「教団が再認識された事件…十六年前の、エステラ王国で起こった王族殺害事件だね」
レクスの言葉にウィルフレッドは、かつて彼の館でそれに触れたことを思い出す。
「…確か、マリアーナという王妹と、その夫が離宮で教団に殺害された事件、だったか?ミーナ」
「そうだ。世間では教団を隠れ蓑とした派閥抗争として扱われてたが、真実はそうではない。あれは紛れもなく教団による仕業で、当時マリアーナ王妹が儲けた子、星の巫女を目標とした事件なのだ」
「そうだったのっ!?」
驚くレクスに、ラナとアイシャは頷いた。
「先生の言うとおりよ。あの時、離宮で働いてたメイドの一人が教団の信者で、そこに星の巫女が生まれた情報をあいつらに知られてしまったの」
「ええ。ですから暗殺事件後、巫女に関する厳重な緘口令が敷かれたんです。私達にも同じことが起こらないようにするために」
「ちょ、ちょっと待ってくれアイシャ!そ、それじゃエリーって…エリーの本当の生まれって…っ」
カイだけではなく、ウィルフレッドやその場にいる全員が、動揺しているエリネを見た。ミーナは一度深呼吸して、真剣にエリネを見つめ、告げた。
「落ち着いて聞くのだ、エリー。…君の本当の名前はティア・スフィア・エステラ、エステラ王国の王妹マリアーナの一人娘、第二王女ティアなのだ」
エリネの体が大きく震えるほどの動揺ぶりだった。
「私が…王女…?この、エステラ王国の…?」
「まじ、かよ…エリーは巫女だけでなく、この国の王家の人間だってのか…?」
ウィルフレッドが心配そうにエリネを見るなか、レクスは質問した。
「ええと、もう少し詳しく説明してくれるかなミーナ殿。星の巫女の行方は女王に確認する必要があるって言ってたよね?あの事件は具体的にどうなってたの?」
「…離宮が襲撃されたあの日、ロイド卿は巫女である赤ん坊を、己の娘を逃がすために奮戦してやむなくやられてしまったが、王妹のマリアーナは巫女と一人の護衛騎士とともに離宮を脱出できた。しかし教団の追撃は思いのほか執拗で、護衛は運悪くマリアーナとはぐれてしまい、巫女とともに行方不明になった。我を含めた三国の指導者は必死に失踪したマリアーナとその赤ん坊を探そうとしたがなんの成果もなく、最後は各国が各々に捜査を続け、何かあったら指導者に伝えるという形となった」
ずっと俯いたままのエリネの両手に力が入る。
「キュ…」
心配するかのように、ルルがカイから彼女肩へと飛び移った。
「ロバルトやエイダーンと最後に会った時は、やはり星の巫女の消息はなかったから、メアリー女王に何か新しい情報がないか今回で確認しようと思ったが…まさかずっと一緒に行動していたとは…」
「そっか、それじゃあまだ赤ん坊だったエリーちゃんは、何らかの経緯でマリアーナ殿の手からシスターイリスのところに渡ったってことになったんだね」
ミーナは俯いているエリネに尋ねた。
「エリー、イリスから巫女や両親などについて何か聞いたことあるか?」
「な、ないですそんなっ。父さんと母さんは農民で、落盤事故に会って亡くなったとしか…。あっ、そういえば、シスターは本当に信頼できる人の前だけに目を開けていいって言い付けられていて…。まさか、シスターがこの封印を…?」
「いや。人の認識と聖痕の力に影響を及ぼせるほどの封印は、魔法よりも因果的な加護…奇跡に近いものだ。そういう類は、赤の他人では施せない。…あるとすれば、おぬしと血の繋がりのある肉親が一番可能性が高い」
エリネの体が小さく震えているのをウィルフレッドは気付く。
「ミーナ、それじゃエリーに封印を施したのは…」
「最後に赤ん坊だったエリーを連れていたマリアーナによるものだろうな。あくまで推測だが、マリアーナはエリーを教団から彼女守るために封印を施し、イリスもそのためにエリーの両親のことを黙って――」
「…っ!」
ミーナの言葉も待たずに、エリネは外へと駆け出た。
「あっ、エリー!」「エリーっ!」
彼女を追おうとするカイとウィルフレッドを、ラナとレクスがそれぞれ引き止めた。
「待ちなさい二人共、今はそっとしておきましょう」
「ラナ様っ、でも――」「エリーが…」
「ラナ様の言うとおりだよ二人とも、心配するのは分かってるけど、こういうのは一人で落ち着く時間が必要だからね。追うのなら少し間を置いてからの方がいい」
カイとウィルフレッドは釈然としないが、それでも追うのをやめ、エリネが駆け出た方向を心配そうに見つめていた。先ほどの苺タルトの味の余韻がウィルフレッドの口内で再び広がり、先ほどのエリネの思い詰めた顔と重なって、胸が小さく痛んだ。
(…エリー…)
******
熱気に満ち、毒ガスや瘴気が噴き乱れる外とは違って、いまマティが通る通路は意外とひんやりしていて、空気もそれほど淀んではいなかった。通路のいたる壁に光る苔が視界を確保してくれて、歩くのに困ることはなかった。
(まさか溶岩に満ち溢れたこの山にこんな通路が…。しかも結構入り込んでいて、万が一見つかっても正解ルートを探すには一苦労しますね)
幸い、地面には教団のものたちが利用していた痕跡が僅かだが残っており、かすかに流れる風と合わせて、マティは一応のルートを推測することができた。頭の中でルートを暗記しながら進むマティの前に、やがて出口と思われる小さな光が見えた。
(そこから出られそうですね)
さらに進むと視界が開き、奇怪な岩の群と熱気とガスが再びマティを迎える。熱やガスの量はさきほどより控えめになってはいるが、空の雲はそれに反して一層赤く染められていた。変わらず岩の群が迷宮のごとき地形を成してはいるが、地面は比較的平坦で、人の通る痕跡はさっきよりもはっきりとなった。
(…近づいて来たようですね)
周りをより警戒し、依然として呻きのように低い振動音を上げる大地を進んでいくマティは、ふとクラリスのことを案じた。
(クラリス殿、無事脱出できたのでしょうか…。あなり思い詰めてなければいいのですが…)
その考えを、いきなり胸に感じる不快感が遮った。
(っ?この感覚は…?)
さらに周りに注意しながら、腰の剣に手を置いて進むマティ。やがて岩の群が途切れ、ある盆地の縁に出たことに彼は気付いた。
とてつもなく大きな盆地だった。広大な盆地の底は地獄まで届くかのような亀裂が至るところにあり、溶岩の川がさらがら血管のように張り巡らされている。そんな盆地の中心に、それがあった。
おどろしい翼の生えた魔獣の彫刻や意匠が施された、巨大な丘を掘って作られた神殿。その真上のレリーフに踊る悪魔のシンボル。それと同じ紋章が黒いローブに描かれた教団の信者達が、せわしなく神殿とその周りの作業場らしき場所を行き来している。
(あれが、邪神教団の本拠地…?)
作業場では何かの資材が山積みになったり、鉄の箱など用途不明のものが色々と置かれ、信者達がいそいそと作業を進めていた。だがそれ以上にマティの目を引くものがあった。
それこそがマティに不快感を与えるものの正体。神殿を中心に、三角形をカタチ作るように三つの岩塔が、大地から生えた爪か牙の如く天高く聳え立っていた。
【続く】
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