ハルフェン戦記 -異世界の魔人と女神の戦士たち-

レオナード一世

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第十三章 ウィルフレッド

ウィルフレッド 第十二節

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エンパイアタワーの専用ジムにあるリング場。俺はサラから打ち出される連続ストレートをいなしながら、攻撃の隙間を縫って反撃の蹴りを繰り出し、彼女は即座に手足を併用してこれをガードする。
「おおっと!やるじゃねえかクソウィル!」
「サラほどじゃないさ…っ」

こういうスパーリングは昔、いつもギルか専属トレーナーの下でやっていたのだが、アルマとなって超常的な反射神経や力を得て以来、例え最新のサイバネ技術を使ったサイボーグでも相手するのは難しく、最終的にチーム同士でしかできなくなった。

暫くしてスパーが終わると、まったく汗を流してない俺とサラは傍のベンチに座りながらエナジードリンクを飲んでいた。いつものように豪快に飲み干すサラ。
「…ふぅ~、本当はビールがいいが、やっぱこういう時は定番のアイアイブルだなぁ」

アルマにこういう食事は必要ないが、アオトの眼鏡のように、人間だった時の生活習慣維持は精神のアイデンティティや心のバランス維持に繋がる。これは高度にサイバネ化されたサイボーグも同じで、それを疎かにする人の殆どは機械妄想症候群サイバーパラノイアが発症することは実証済みだ。

「…さっきの打ち合いで気付いたけど、サラって良いグローブ着てるな」
「あん?これか?」
サラは手に着けてるオープンフィンガーのグローブを見る。

「見る目あるねウィル。こりゃアタシが特注して作ったハイテク強化繊維入りの奴だ。手の防御は勿論、人を殴るにも普段以上のダメージが出せるシロものだ。面白れぇだろ?欲しいならメーカー紹介してやろうか?なんだったらこいつを譲ってやってもいいぞ。あんたが次の模擬戦でアタシに勝ったらな」
「はは、別にいいさ、俺は別に――」
「ウィル、サラ。ここにいたのか」

兵士服を着てジムに入ったキースが呼びかける。
「任務の時間だ。用意してブリーフィング室に集合しろ」


******


「あるシティで特殊な変異体ミュータンテスが潜伏している連絡が入った。シティの役員によれば、この変異体ミュータンテスは限定的であるが、サイバースペースへの接続ダイブ能力を有している新種らしい。イミテーション・ドローンの存在も確認している。詳細なデータは各自の端末に送るから、後で参照するように」
ギルやアオト達いつもの五人でブリーフィングを行うミハイルの話を聞いていた。

「場所はセメンテリオシティ連合に属するエリュシオンティ。との掛け合いも既に終わっている。後はビリーが案内――」
「…おいミハイル。いまなんつった」
ギルの声が明らかに普段と違うのを俺達はすぐに気付いた。

「…今回の任務先に不満があるのだな。ギル」
「あたりまえだ。俺にそこへ行けとか冗談にもならねえぞ」
静かに、けれど確かな怒りを篭った声だ。ギルと出会って以来、こんな声をする彼を見るのは初めてだった。

「言いたいことは分かる。だが忘れるなギル。君はすでに『組織』の所有物だ。『組織』は古い抑制的な管理をとらないが、重要な任務への拒否まで容認できるほど寛大じゃない」
「…………」
「それに変異体ミュータンテスの排除自体はシティ連合の要請がなくとも行われるものだ。あくまで『組織』の一環として行えば良い。違うか」

ギルは暫く沈黙していた。重い空気が部屋全体を覆う。
「…被害は最小限に抑えながら。なるほどいつものことだな」
「そうだ。特に最近、我らの周りに色々と嗅ぎ付いてくる連中もいるからな。機密保持のためにも被害は最小限というのが、変異体ミュータンテス排除任務の基本だ」
ミハイルの目は一瞬だけ俺の方を見て、俺は意味ありげに笑うギルの方を見た。


******


エリュシオンシティへと向かうチーム専用の万能戦術機の中。俺やサラ、キース達は待機室内で、今は一人で貨物室にいるギルについて話していた。
「なんなんだギルの奴。あんなにキレやがってよ。アオトなんか分かる?」
「ううん、あそこまで怒ってるギルなんて初めて見たよ。だよねウィル」
「ああ…。キースは何か心当たりは?」
「全然だね。あんたら古参まで分からないとなると…ひょっとしたら傭兵レッドランス時代絡みかもなあ」

「レッドランス時代…確かある日界隈から消えたって話だな」
「そ、こればかりは本人に聞かないと分からんなぁ。…まあ、セメンテリオシティ連合、特にエリュシオンシティってのはギルでなくともあまり興が乗らないのは分からなくも無いが…」

「あん?どういう意味だそれ」
「ああ、サラやあんたらセメンテリオ連合のシティは初めてなんだな」
「うん。セメンテリオ連合は鎖国的な外交政策をとっていて、今までの任務でも一度も寄ったことないから」
「百聞は一見にしかず、だ。後でビリーからシティでの注意点を聞く時に分かるだろうさ、そこの異常さをな」


******


エリュシオンシティから少し離れた小さな空港に戦術機は着陸し、シティ政府の案内人と共にモノレールを経由して俺達はシティへと入る。

セメンテリオシティ連合。12人議会を最高行政機関とし、エルドレド、ヴァルハレア、そしてエリュシオンの三つの中小規模のシティからなる連合は、連合自体が一つの企業として国際マーケットに登録されている。農場ファーム製品と各種加工、精製産業において今の地球でトップ5に入るシェアを持ちながら、その厳格な鎖国政策からシティ内の実体はあまり知らされていない。

その秘密を探ろうと各企業のスパイや傭兵による工作は絶えず、国境が隣接しているオアシス共和国とも鉱脈資源を巡って度々衝突が起こり、場合によっては小さな侵略戦争も起こることがある。それらに対応する連合の軍隊は、主に機械歩兵ドールからなる自動兵器群や、その補完として外部から募った傭兵などから構成されている。

以上が俺とアオトが自分達の権限で調べられる、セメンテリオシティ連合に関する情報だが、そんな断絶されたシティ連合にこうも簡単に入れることに、やはり『組織』は底が見えないと改めて思った。そしてモノレールの終着点に到着した俺達はすでにここの異様な雰囲気を感じていた。

「エリュシオンにようこそ、皆様。必要な事項はそちらのオペレーターが既に伝えたと思われますが、くれぐれも市民には余計な会話を交わさないようお願いします」
潔癖的と思われるぐらい質素なスーツを着た案内人が機械的な笑顔と声で伝えた。道中、彼以外の人員は。モノレールや施設内のデザインも、例え今の時代でも綺麗すぎるぐらい平面的かつ単色的で、俺とアオトは思わず悪寒を感じた。

シティでは行政機関以外の飛行型ビークルは禁止されているため、俺達は地面を走る自動ビーグルでシティ内へと入る。そこから見るシティの容貌も、やはり異質だった。

全てが平面的でなんの装飾類もない無機質な町並み、同じデザインのビルがまるでドミノのように並んでいた。店らしき場所はどこもなく、唯一飾りと言えるビルや街燈にある各種パネルには、「仕事の楽しさ」、「義務の履行」、「最高効率」などのプロパガンダが、これまた一切のアート性も感じないフォトンで白の背景画面を走る。

(ウィル、あそこを見てっ)
チーム専用の通信チャンネルで話しかけるアオトの目線を追って、俺は窓の外を見た。まるでガイド用に並んでる街燈が作り出す歩道に、全て同じ灰色のスーツを着た市民らしき人達が、街燈のパネルが走らせる言葉の下で綺麗に整列して歩いていた。

その周りには案内なのか監視なのか、あるいはその両方を兼ねてるドローンがパネルと似たような台詞をスピーカーに鳴らしては人々にライトを当てており、照らされた市民の顔は誰もが同じ表情でひたすら歩いている。散策とかそういう感じでシティを歩く人は皆無だ。

(あれがここの通勤風景なのさ)
(キース…あれが…?)
(別任務で始めてここに来た時は俺も驚いたよ。ここの市民は食事や寝床、生育に娯楽など含めてシティが管理していてね。全ての施設が24時間交代制で稼働できるよう、市民達は仕事、帰宅、食事と娯楽と睡眠、そしてまた仕事のサイクルを一年中維持してるもんだ。子供も同じような感じで教育施設に通ってて、生育は全部専門プラントで管理されてる。人間も含めて高度にシステム管理化されたシティ、それがセメンテリオシティ連合の実体だ)

(なんだそりゃ。これで暴動とかよく起こらないもんだな?)
(それがねぇ、彼らはああ見えて満ち足りてるのさ。食事と寝床はシティが供給してくれるし、仕事でのストレスとかは、帰宅後の至福の楽園ドリームランドが全て満たしてくれる)
至福の楽園ドリームランドだぁ?)

(詳しくは俺もよく分からないが、ここではどの家にもある、全感覚投影可能な仮想現実バーチャルリアリティシステムらしい。そのシステムのお陰でここの市民はどれほど過酷な仕事の内容でも耐えて過ごせるって話だ)

俺は外で整列しながら仕事場に向かう人々を見る。確かに、他のシティの労働者は大抵過酷な生活で疲れ切った顔で仕事にいくのが大半だが、ここの人々はみな同じく顔は前に向いて、少しの感情の乱れもない顔のままでいる。

仮想現実バーチャルリアリティ依存症候群は現代では普遍的なものだが、質のいい設備は高価であるため、利用できる人数が少ないことや、だからこそ現実の方が刺激的に感じる人も少なくないため、そこまで厳しい問題はなっていない。ここではシティが設備を整え、極端な管理手段の一つとして利用しているということか。

(でもさあ、いくらこのシティが閉鎖的でも、他のシティに移住したくなる人は一人や二人ぐらい出るんじゃないの?それともなんだ?ああいう奴は秘密裏でザップZAP!てやつか?)
(違う違う。彼らはそもそも外の世界を知らない。今の地球に他のシティや人々が存在していることさえも分かってないんだ)
(なんだって…っ)
ここまでくるとさすがにサラも絶句し、俺とアオトも驚きを隠せずに目を見開いた。

(言ったろ。ここの人は生まれてから教育まで全て管理されてるって。これが永い冬ロング・ウィンターの時期に成り立ったシステムかどうかは知らないが、とにかく彼らはみな、このシティと自分たちが地球最後の生き残りだと信じてる。政府機関に所属するごく少数の人達を除いてな)

俺はまるで自動機械のように規律な歩きで歩む市民たちを見た。道理でシティ全体がこんな殺風景な容貌を呈しているわけだ。ただ働く機械たちに、アートのような余分なものは必要ないということか。自分がいたストリートや他のシティが、極端的な混沌カオスと階級制度が人々を支配してるのなら、ここは絶対的な秩序ルールと均一制度が人々を支配しているのだと。

色々と衝撃的なことばかりだが、任務のこともあるからそれ以上考えないようにした。それに、自分にとって一番気になっていたのは、この間なにも言わずにいたギルのことだった。


******


『Pipipiiiiiii』
「ちぃっ!うるせぇ変異体ミュータンテスだ!ビリー!アオトとサラはどうなっているっ?!」
「コマンドに報告っ!スナイパーとジャマーは依然として変異体ミュータンテス論理障壁ファイアウォールやダミープログラムの突破に時間かかってます!」

アルマ化した俺とギルバートは、メンテナンス用アンドロイド達の残骸らが横たわる、至福の楽園ドリームランドのプロキシサーバーの一つにいた。そこにあるサーバーにへばりついては、それと接続している市民達に侵入ハッキングしてリソースを捕食する極彩色のバグ変異体を排除するために。

バグ変異体の演算能力は予想以上に高度で素早く、ネットワークへの侵入ハッキングに気付いた時は、市民達だけでなくシティ連合の中枢にあるコンピューター群までも侵食していた。

急を要する俺達は二手に分かれ、サイバースペースはチームでハッキング能力の高いアオトとサラ、現実世界の本体は俺とギル、そしてキースが対応することにした。二つあるハッキング発信源を、一方は俺とギル、そしてもう一方はキースが追跡する。

俺たちの方が本体を当てたが、サーバーと一体化した変異体ミュータンテス本体をこのまま倒しては、既に侵入ハッキングされた無数の市民がショック死してしまうため、アオト達がバグ変異体をネットワークから追い出すのを待つ必要があった。

自らのアスティル・クリスタルを高性能演算装置とし、シティが用意した接続端末とビリーのバックアップでネットワーク内の仮想空間サイバースペースに侵入したアオト達は、そこにある変異体の論理体とハッキング攻防戦を繰り広げてはいるが、進捗が遅い。

「シティ論理障壁ファイアウォール、物理防壁ともに80%突破!このままじゃターゲットに先に中枢へ到達されますっ」
「……」「ギルっ?」
バグ変異体に向けて槍を構えたギルの手を俺は抑える。

「ちょっと待てギル、何をするつもりだっ?」
「決まってる。あいつが中枢に到達する前に先にやっつけるのさ」
「まだアオト達が侵入ハッキングを止めていないっ、このまま変異体ミュータンテスを倒したら、奴と接続されてる人たちは――」
した奴らの命なんざ知ったこったあねぇな」
「ギル…っ?」

「どけっ!」「うおっ!」
コーティングカアアァァァッっ!」
俺の手を振りほどき、槍に赤のアスティルエネルギーを走らせるギルと変異体ミュータンテスの間に俺は割り込んだ。

「待ってくれギル!奴が中枢に辿り着くまでまだ時間があるっ、もう少しアオト達に時間を――」
俺の喉に、高熱化したギルの槍が突き立てられる。
「どきなウィル」
今までギルから聞いたこともない、冷酷な感情が籠った声だった。
「でなければあのクソ変異体ミュータンテスと一緒に串刺しにしてやる」
「ギ、ギル…っ!」

「シティ論理障壁ファイアウォール90%突破!もうだめ…あっ!」
『PiGaaAAaaAA!?!』
ビリーの驚愕の声と共に、ずっと不気味な鳴き声を出していたバグ変異体が突如旧世代のダイヤルアップノイズを発しながら苦しみ出した。

「ギル!ウィル!二人とも聞こえるかっ!」
内蔵インカムからキースの声が伝わってくる。
「ダミーの奴の体を拝借して本体にピンpingアタックをかけた!これからアオトとサラと協力して奴の論理体プログラム仮想空間サイバースペースから追い出す!市民との接続も解除されるはずだっ!奴が別のポイントに潜るダイブする前に叩いて…ウィル、ギルっ?」
「…了解だキース!」
応答をするまでの間、俺とギルはずっと互いを見つめたままだった。

「しゃらくせぇんだよテメェ!」「このっ、ここからでていけ!」「ウオオオっ!」
仮想空間サイバースペースでサラ達の叫びが電子信号としてこちらにも伝わり、大きなデータノイズがネットに走る。現実世界にあるバグ変異体はまるで強烈なショックを受けたかのようにサーバーから弾いた。

「ギルッ!」「ルアアアァァッ!」
対峙状態だった俺とギルは躊躇いもなく突撃し、交差する槍と剣の光が変異体ミュータンテスを捕らえた。
『GaGaGAAaGaAA!』
壊れた電子音じみた断末魔を放ち、バグ変異体は泡を立てて跡形もなく消滅した。

「バグ変異体の消滅を確認っ、シティへの侵入ハッキングが停止っ。意識を拘束された市民たちのバイタルもすべて正常!作戦成功です!」
「ヒュウッ!間一髪だねぇ!」
「ふぅ…、一時どうなるかと思ったよっ」
「おいっ!さっさとアタシ達をここから出しなビリー!気持ちわりぃったらありゃしねぇっ!」
キース達の歓声が内蔵インカムから流れるなかでも、俺とギルの間の空気は張り詰めたままだった。

「…ウィル!」
ギルが突如、いまだコーティングされたその槍を俺に向けて突き刺した。
「ギ…っ!?」
ギルの槍は俺を、俺の左脇下をくぐり、真後ろに倒れていたメンテナンス用アンドロイドの残骸に突き刺さる。

『OooOOoOOo』
アンドロイドの残骸が突如震えだし、ズルリと不思議な光沢の液体が溶けて形を成した。
「イミテーション・ドローン…っ」
異星人アウトランダーの工作用イミテーション・ドローンはギルのアスティルエネルギーに焼かれては爆散した。

「…へっ、どうやらこいつが変異体ミュータンテスを手引きしていたようだな」
ギルがアルマ化を解くと、俺も合わせて元の姿に戻る。改めて見るギルの顔には、いつもの不敵な笑みがあった。
「さっきはすまねぇな、ウィル。少し頭に来てて変なこと言っちまってよ」
「ギル…」

「さっさとここを出てサラ達と合流して、こんなところからおさらばしようぜ」
ポンポンと俺の肩を叩き、何事もなかったのようにギルはサーバールームから出て行った。そんな彼の背中を俺は暫くみつめていた、さきほど初めて聞いたギルの冷たい声を思い出しながら。

今思えば、ギルの異常を感じたのはこの任務が初めてだった。


******


サラ達と無事合流した俺達は、シティ役員を介してミハイルに任務終了の報告を終わらせると、残りのことはシティに任せて、俺達にはタワーへ戻るよう告げられた。普段このような任務の後始末は『組織』の人員も何名かいることになるが、今回は珍しく全てシティ任せになっていた。それだけに、このシティ連合は外からの介入を嫌っているのかもしれない。

「他のお客様達は既に発着場の待合室でお待ちしています。どうぞこちらに」
滞在時の私室から、例の案内人が変わらない作り笑顔で俺を案内する。真っ白な長い廊下に二人の足音が響き渡る。このシティでの光景とシステム、そしてギルのことを思い出しながら、俺は思わず案内人に質問した。
「あんたは、ここでの生活に満足しているか?」

案内人は作りもではなく本当に嬉しそうな顔を振りかえしては答えた。
「ええ、それはもう。衣食住すべてが満ち足りてる生活に満足しない訳もありませんから」
「本当か?食事はみんな栄養カプセルだけで、他の娯楽もなにもないこの生活が?」
「関係ありませんよ。向こう側ドリームランドでは何でもありますからね。いつも癒してくれる恋人達と豊かな味に満ちた食事。娯楽のバリエーションも豊富で、寧ろ毎日次はどんな遊びプレイをするのかに悩むぐらいですから」

「…それでも、他のシティとか、外の世界に少しは興味ぐらい持つことはあるんじゃないか?」
「いえ、ちっとも。にあえてつこっむ野暮な人なんてここにあるはずありません。私達には|至福の楽園ドリームランドがあれば十分なのですから」
初めて、機械的なこの人の顔に嫌悪な表情が浮んだのが見えた気がした。

ふと前から、ドローン一基が赤い警告ランプを点滅させながら俺達の頭上に飛来した。
「すみません、少し話しすぎたようですね。これ以上の会話はどうか控えてください」
元よりそれ以上聞くつもりもなく、俺は黙って彼に付いていった。

ここの人々の生活が本当に幸せなのか、俺にとっては正直どうでもいいことだった。少なくとも泣き疲れて、そのまま路地で飢え死ぬ子供はいなさそうだし、彼らの外界への無関心は極端的になってるものの、他のシティでも見られるものなのだから。気になるのは、ギルが何故ここの人達をここまで毛嫌いになったことだけ。

タワー帰りの戦術機の中で、アオトやサラ達が妙に増えたメンテ回数への愚痴など談笑するなか、俺はずっと黙り込んでいるギルの方を見ていた。今日彼が聞かせた、あの冷たい声とここの人達のことを思いながら。

あの任務から暫くして、俺はギルの冷たい声を再び聞くことになった。アルファチームの運命が変わったあの日から。


【続く】

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