ハルフェン戦記 -異世界の魔人と女神の戦士たち-

レオナード一世

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第十二章 恐怖の町

恐怖の町 第十二節

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宿にもどってすぐさま庭の中心で魔法陣と儀式用のアイテムを置き、アイシャに代わる儀式結界を張ったミーナがリビングに戻る。
「アイシャ、代替の結界を張った。もう結界を維持しなくてもよい」
「ありがとうございます先生」

「ラナ様、よくぞご無事で。あの怪物が外で暴れた時は本当に心配で…」
「女将さんこそ何事もなくて安心したわ、他の客も無事ですか?」
宿の奥から様子を伺いに来た女主人と状況を確認するラナとアラン。そしてそのすぐ隣に、ずっとビクビクと痙攣して倒れている寄生された男を、ウィルフレッドとカイ、レクスが囲んでいた。

「いったいどうなってんだ?こいつの口から生えているあの触手みてぇのはいったい何なんだ兄貴っ?」
「こいつらは――」

ふとカイ達の様子を見るためにアイシャが近寄る。
「カイくん、ウィルくん、みなさん怪我は…」
「まてアイシャっ、うかつに近づく――」

「ぎゃあああぁぁぁぁーーーーっっ!」

男が突如背筋も凍る凄惨な絶叫を上げる。体がピンっと強張ってミイラと化すと同時に体中からボンッと血が噴出し、部屋を鮮血色に染めた。
「「うわあっ!」」「「きゃあっ!?」」

『RoooOoOOーーー!』
血しぶきが吹き出す男の大きく開かれた口から、ヒトデに似た灰色の異形が黒き靄を散らしながら飛び出し、アイシャに絡みついた。
「きゃあああああっ!!!」「アイシャぁっ!」

『WroOooO!』
寄生体のぬめりとテカる触手が口を開けさせるように喉に巻きつき、強く締めては残りの触手を彼女のその口と耳に入り込もうと伸ばしていく。
「あぐぅっ!や、やめ…てぇ…っ」
「アイシャぁっ!こいつっ!アイシャをはなせっ!」
「アイシャ姉様!」「アイシャ!」

カイやラナ、ミーナ達が寄生体をアイシャから懸命に引き剥がすようにするが、寄生体にまとわりつく黒い靄に触れた途端謂れのない強烈な恐怖が胸に生じ、同時に吐き気がするような眩暈に襲われる。
「くぅっ!?」
「うあっ、な、なんだこれ――」

ラナとレクス達が怪訝とするなか、ウィルフレッドが彼らを、必死にアイシャを守ろうとするカイを押し退け、彼女に絡む寄生体の躯体を手で掴んだ。
「兄貴っ!」

人外の目に変化するとともに、その手に青いアスティルエネルギーの電撃が走る。
「おおっ!」
『KyoaaAAaaA!』
触手が一瞬緩んだ隙にウィルフレッドは一気に寄生体をアイシャから引き剥がし、自分の手で暴れるそれを、さらに力を混めてアスティルエネルギーを流し込んだ。

「カァッ!」
『KYAAAAAA!!!』
バチンと電光で焼かれ、断末魔の奇声とともに寄生体はグタリと垂れては、ブクブクと泡を立てて崩れていった。

「けほけほっ!…カイくんっ、カイくん…っ」
「もう大丈夫だアイシャっ、大丈夫だ…っ」
いきなりの恐ろしい出来事に怯えて震えるアイシャをカイは抱きしめてなだめた。

「くぅ、…大丈夫、レクス殿?」
まだ眩む頭を抑えて立ち上がるラナ。
「あ、ああ…でも、なんだか頭がおかしくて…」

バンと、ウィルフレッドが窓を開ける。
「窓やドアを今すぐ開けるんだ、はやくっ!」
「えっ?わ、分かったよ」

訳も分からずにレクスとカイ達は急いで残りの窓とドアを開けていく。外からの風が暫く吹くと、眩暈と胸をかき乱す気持ちがやがて消えていった。
「…あれれ、これいったいどうなってるの、ウィルくん…?」
「あの黒い靄だ。あれは人の神経を狂わせる特殊な化学物質で、それに触れた人は様々な幻覚をおこし、狂乱に至ってしまう」
「化学、物質…?」

「それだけではないぞ」
レクス達がミーナの方に向いた。
「おぬしら、先ほど外で奴らを他の誰かに見えたか?」
「そういえば…あの怪物がいきなり父上の顔になってたわ」
「僕も、亡くなった父さんが見えてた…」
「俺は死んだ母さんが…」

「我は死んだ師匠が見えていたが、さっき直接触れて確信した。あれはあの黒い靄にある、精霊ドッペルゲンガーを構成する魔素マナのせいだ。正確にはドッペルゲンガーの亜種だが、それが人の心に潜む恐怖の対象…あるいはその理性を崩して恐怖が突き入れる隙を作れる対象を見出して化けているに違いない」

「まじかよ…っ。あんなキモイ化け物が精霊だってのかっ?」
「いや、ドッペルゲンガーは亜種も含めて魔素マナの塊である精霊だ。人の体内に潜むような化け物ではない。つまりこれは――」

「『パラサイト』だ…」

ミーナ達は今度はウィルフレッドの方をみた。
「コードネーム『パラサイト』、『組織』が作った変異体ミュータンテスの中でも最高ランクの危険度を持った生体兵器の一つだ」
「『パラサイト』…」
アイシャの体がまた寒気でかすかに震える。

変異体ミュータンテスパラサイトは、一人の人間に寄生し、宿主に気付かれないようその栄養を徐々に吸収して成長する。ある程度成長したら、神経を介して宿主を操り、健康の個体に触手を使って自分の体組織を植え付ける。それが寄生体となってまた同じ手順で仲間を増やし続けるタイプの奴だ。操られた宿主は脱力などの症状を見せ、成長しきった寄生体はやがて宿主を吸い干して離れていくようになっている」
「それが…さっきの人がいきなりこうなる原因なのかい…」
地面の干からびた死体を見るレクスは思わずゴクリと唾を飲む。

「脱力…。まさか、今日診査してたジェラドにもこいつが…?だがそれならなぜ我の検査に引っかからない?マナを帯びずとも、異物を検出するぐらい我の診査でもできるはずなのに」
「恐らくパラサイトの擬態能力だ。奴は細胞レベルまで宿主の筋組織や神経などに擬態することができる。俺の世界の如何なる精密検査も逃れるほどの完璧さだ。『組織』が開発した特殊薬液を使う以外にまず発見できないと言って良い」

「なるほど…寄生された人の体内にあやつの魔素マナや化学物質とやらを検知できなかったのも、その擬態からくる変異能力か。あやつ、変異したことにより正真正銘に恐怖を喰う怪物となったという訳だな」
「つまり…どういうことなんだ?」
未だにアイシャの髪を撫でてなだめるカイ。

「あくまで推論だが、ウィルの話もまとめると恐らくこうだ」
ミーナはさきほど男が吐いた血の跡を指で触れる。
「ドッペルゲンガーの亜種は恐怖心という感情こそ糧とするが、相手の魔力マナを喰う習性はまったくない精霊だ。しかしこの男の魔力マナが完全に喰われているのを見ると、変異体ミュータンテスと化したドッペルゲンガー亜種は恐怖心がこびり付いた魔力マナを喰うように変異したと考えられる。実際この血に恐怖の念がたんまりとこびりついているからな。そしてその糧を得るために、宿主に寄生体を植え付けて恐怖心を育てさせていると考えられる。その育ての手段が――」

ウィルフレッドが続いた。
「さっきも言ってた黒い靄…あの化学物質だ。あれは本来パラサイトが宿主を操る手段や自衛手段として分泌されるものだが、ドッペルゲンガーを変異させたことで、その魔素マナと神経を乱す化学物質が混ざり合い、相手の恐怖心を搔き出すように変異したに違いない」
「うむ。さっき大気中で我が感じた異様なマナもこれのせいだろう。そして恐怖心を十分に吸い、成長しきった寄生体は恐怖に満ちた宿主の全てを奪って離れる。この男のように」

「先生、それじゃ、失踪者たちがみな勇敢で果敢な性格の人達ばかりなのは――」
「寄生体に恐怖心を育てられてたからに違いない。勇敢な心ほど生み出す恐怖が、この変異体にとって何よりも美味な餌だろうな。…あまりこんな言い方はしたくないが、おぬしの世界はつくづく恐ろしいものを作りよる。こんなおぞましい変異体まで作り出す『組織』ってのは、いったいなんだというのだっ」

ウィルフレッドは思わず俯き、唇を噛み締めては拳を握る。
「…すまない、俺は――」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょミーナ殿っ」
「レクス様の言うとおりだよっ!だってエリーが…エリーがまだ怪物たちが暴れてる外に…っ!」

「! ウィルくん!」
カイの言葉でドアから駆け出そうとするウィルフレッドをラナが掴んで止めた。
「はなしてくれラナ!エリーを探さないとっ」
「こんな大きな町で、しかも変異体で大混乱に陥ってる状況で、いくら貴方でも探すのは難しいでしょっ!落ち着きなさい!貴方が落ち着かないでどうするのっ!」
「だからと言って、このままじっとしていられ――」
この時、アランが何かに気付いた。
「! 待ってくださいっ、みなさん、あそこを!」

彼が指差す結界の外、向かいの建物の窓側に、ラナ達は目を向いた。
「あ、あれは…っ」
「ルルちゃんっ!」

「キュキュ~!」
地面へと飛び降りたルルは寄生体たちの足元を潜りながら、ラナ達宿の方へと駆けつけてくる。

「先生!」「分かってる!」
ラナの一言でミーナが結界の壁へと走り、念を込めてはルルが入れる小さな穴を結界に作った。小回りのきく儀式結界ならではだ。

「キュ、キュキュキュ!」
穴を通り、宿へと入ったルルがアイシャとカイ達のところに走り寄る。
「ルルちゃん!」
「ルル!無事だったのかっ?エリーはっ?エリーはどうしたんだっ!?」
「キュキュキュッ!キュッ!」

ルルが数度鳴くと、ウィルフレッドの足元へと走り、まるでどこかに連れて行こうとブーツを銜えては強く引っ張る。
「キュッ!キュ~…ッ!」
「ルル…っ」

ウィルフレッドは屈んでルルを抱き上げた。
「エリーが俺を探しているのか…?俺に助けを求めてるんだな、そうだなっ?」
「キュキュッ!キュッ!」
肯定するように鳴くルルを抱えたまま、彼は再び外へと出ようとした。

「まってウィルくん!僕達も一緒にいくよ!」
「そうだよ兄貴!俺もエリーを助けに――」

「来るなっ!」

ウィルフレッドの一喝に、レクス達がビタリと足を止めた。
「俺一人で行かせてくれ。頼む…っ」
「ウィル、くん…」

出会って以来、ずっと物静かな印象だった彼の顔に始めてみる、焦りの顔。何か大事なものを失いそうな子供が今にも泣きそうな表情が混ざった顔だった。

「あれは…あれは俺の世界の物なんだっ。例え放ったのが俺でなくとも、それは紛れもなく俺の世界からの物で、それがいま君達を…エリーを命の危険に晒している…っ!」
悔しさでぎりっと歯を食い縛る音が、ミシミシと強く握りしめた拳から彼の焦燥が伝わる。

「お願いだっ、俺一人の方が全力でエリーのところまで走れるっ。だから…行かせてくれっ」
ウィルフレッドの瞳にはかつてない強い意志がこもっていた。

「で、でも…」
まだ完全に落ち着いてないアイシャがおずおずと問いた。
「も、もしもですけど…、エリーちゃんが万が一、変異体に既に寄生されてたら…その時はどうするのですか?」
「たとえ寄生されても助ける方法は一つある。寄生体が成長しきる前に、あいつの…変異体ミュータンテスの本体を叩き潰すことだ」

「本体を、ですか?」
「ああ。奴の寄生体はみな、本体からの特殊な脳波を受信している。寄生体が暴れ出したのも、恐らく本体が何かの脅威を感じてそれを排除するよう命令を下したに違いない。だがこれは逆に奴らの致命傷にもなっている。本体が死ねば、その際に生じた強烈な信号のショックで寄生体は宿主から離れて死亡する。彼らを助けるにはこれしかない」

ラナが頷く。
「なるほど。だからさっき攻撃魔法は使わないようにと私を止めたのね」
「間に合えば、彼らは無事解放されることになるからな」
「でもその本体が今どこにいるのか分かるの?」
「いや、そこまでは分からない…。けど本体には巣を作ってそこに隠れる習性がある。ひょっとしたらそこにいるのかもしれない」

ミーナが正に目から鱗が落ちたかのように目を見開いた。
「そうか…、そういうことかっ!」
「ど、どうしたんだよミーナ?」
「いいかカイ、今回の事件の発端はそもそも大量の失踪者の発生にあった。あれだけの人数で殆ど見かけず、町から出た目撃情報が一つもないのはおかしいと思っていたが…」
「あっ、そっか!この町のどこかに巣を作って寄生された人たちを集めてたってことかっ」

ミーナが頷く。
「ウィル。あやつがどこに巣を作るのか分かるか?」
「それも残念ながら分からない。地球で遭遇した時はフェリーで巣を作ってたが、今はそれを探す暇も――」

「ならこうしましょう。エリーちゃんの方はウィルくんに任せて、本体の巣は私達の方で探すわ」
「ラナ…」
「これならエリーちゃんを助け次第、ウィルくんもすぐに次の行動ができる。少数精鋭で行動すれば、私達でも一応外を探索することはできるはずよ」

「お願いしていいか?」
「ええ、任せて。その代わり、エリーちゃんは必ず助け出すのよ、いいわねっ」
「…ああっ」

――――――

『WrooOo…RyooOOoOo…っ』
轟く雷と土砂降りの雨のなか、宿を囲み、未だ結界の隙を探すかのように触手をうねらせる寄生体の大群。奴らが群がる結界の境界前で、ウィルフレッドはルルをシャツの襟の中に置き、ミーナとラナを挟んではダッシュする予備姿勢を取っていた。

「よいかウィル、これから我が結界におぬしが通れる穴を開き、ラナが風塊ヴィンダートでやつらを蹴散らして道を作る。それを隙に飛び出すんだ」
「分かった。…ルル、いけるか?」
「キュキュッ!」

「ラナ!用意できたかっ!」「いつでもいけます!」
ミーナがさっきのように念じると、結界に人が通れる穴が開いた。
『『『RwoOOooOOoo!!!』』』
それを見ては寄生体たちが死に物狂いで入り込もうとする。

「――風塊ヴィンダート!」
巨大な風の塊が中に入り込もうとする寄生体たちを枯葉のように纏めて弾き飛ばした。
「おおおぉぉっ!!!」「キュッ!」
食い縛るようにルルが顔を伏せ、ウィルフレッドが全速力で外へと飛び出した。

結界が再び閉じられ、寄生体の一部が振り返ってはウィルフレッドを追おうとする。
『『『RooWooOOo!』』』
だが黒い風と化したかのような彼は寄生体たちを踏み越え、建物の壁や屋根を蹴っては、瞬く間に雨が降りしきる夜の帳の向こうへと消えていった。レクスが驚嘆する。

「す、凄い早さだ…魔人化並みの速さじゃないかなあれ…」
「ええ、普段は私達が思った以上に力をセーブしているのかも。これなら確かにウィルくん一人の方が早いわね」

「なにぼーっとしておるおぬしらっ、こっちにもまだ仕事が残ってるぞっ」
レクス達がミーナの方に振り返る。
「分かってるよ、早くあの巣って奴を探さないとっ」
「そのとおりだ。アラン、ラナっ、今日で集めた資料を全部リビングに持ってきてくれっ」
「はい、先生っ」

暫くするとリビングのテーブルには、失踪者の住所がマーキングされた町の地図と、他に集めてきた資料のメモなどが大量に置かれた。
「これで全部です、ミーナ殿」
「ご苦労、よく集めたなアラン」
レクス達はテーブルを囲んでは地図や資料に目を通す。

「これだけ見るとめっちゃ失踪者多いよね、もう千人近くはいってるんじゃないラナ様?」
「そうね。そしてあいつの巣を探すのであれば…。住所よりも失踪前の最後に目撃された場所を整理するべきね。資料を基に地図にマーキングするの手伝ってレクス殿」
「あい了解」
ミーナとレクス達は、集めた資料を基に地図に失踪者の最後の目撃地点にマークを付け始めた。

手際良く作業を終えたレクス達だが、ようやく落ち着いたアイシャとカイも含めて、乱雑に町の地図に記された大量の点を見て困惑する。
「…う~ん、パヴァル殿からもらった記録や僕達が集めた資料を全部つけたけど…」
「なんだか、あまり規則性とかないように見えますね…」
「くそっ!あいつ、いったいどこに隠れてたんだっ」

「…あら、これは」
声をあげたのは、意外とさっきから傍で覗いていた女主人だった。
「女将さん?何か不審なところでもあるのですか?」
「はい、ラナ様。その、私の夫が町の水道保守の仕事に就いてるのはご存じですよね、それが…」

女主人が一度カウンターの裏側にある物置に入り、暫くすると一枚の地図を持ってきた。それを町の地図の隣に広げると、薄い町の地図の上に様々な丸や線が引かれていたものだった。
「女将さん、これは?」
「この町の下水道の見取り図です。みなさんがマークを付けた場所とどうか見比べてみてください」

二つの図面を交互に確認すると、カイが思わず声を挙げる。
「あっ!この点が微妙に集まってるところ、どれもこの見取り図にある下水道の出入り口近くにあるじゃん!」
ラナが頷く。
「となれば、変異体ミュータンテスの巣はこの町の下水道にいる線が濃厚ね。なるほど、カスパー町の下水道は元々鉱脈採掘のために掘った坑道を基にして建造されたものだからとても入り込んでる。身を隠すにはうってつけだわ」

「でもさ、この見取り図から見ると、ここの下水道めっちゃ広いよ?寄生体が暴れてる中でこれ全部回って探すのさすがに無理じゃない?」
レクスの疑問はもっともだと頷き、ミーナが尋ねた。
「ふむ…女将、見取り図に点在している、この大きな空間のようなものはなんだ?」
「これは貯水室ですね。万が一豪雨で河が氾濫する可能性があった場合、一時的に水を溜め込むための場所です」

ミーナはそれら空間を見比べ、町の縁側近くにある一番大きい場所を指した。
「この空間、なんか妙な色の線がついてるが、どういう意味だ?」
「あそこは…結構前に下水道を見直した際に放棄した貯水室です。その上は倉庫地帯ですから、住宅も殆どなく、今は見張りの警備隊や、保守時ぐらいしかそこを通らない場所で…」

パチンと指を鳴らすレクス。
「当たりだねっ、寄生させた人達を集め、かつ人目もなく身を隠せる場所。この空間が変異体の巣になってる可能性が一番高いと思うっ」
「よしっ、ラナとレクス、そして我が向かうとしよう。アイシャはアランとカイで宿の守りを固めろ」

「ちょっと待てよっ、俺も一緒に行くったぁっ!?」
レクスのチョップが軽くカイの頭に炸裂する。
「こらこら、宿の守りだって大事な仕事だよ?守るべき人達がここにいるからね」
「あ…」

カイは自分の手を強く握り、自分を見るアイシャの不安そうな顔を見た。
「そ、その…カイくんが、行くのなら…」
「…いや、俺はここに残ってみんなを守るよ」
「うんうん、それが一番だよ」
装備を整えながら若者を温かく見守る年長者のように頷くレクス。

「時には攻めるばかりだけでなく、足を止めて守るのも重要よカイくん。忘れないようにね」
「ああ、ありがとラナ様」
「よし、ラナ、出た後は我とおぬしで結界を交互に張るぞ、レクス、はぐれないよう注意するように」
「あいよっ!」

アイシャが申し訳なさそうにカイに俯く。
「ごめんなさいカイくん、私…」
「いいんだアイシャ、さっき怖い目にあったばかりだもんな」
彼女の手をカイは強く握り返す。
「それに、がんばりは一人じゃなく、二人でないと意味ないから」
「カイくん…」

「いくぞ二人ともっ!」「ええ!」「いつでもどうぞ!」
寄生体を退けながら結界から駆け出し、雨の中へと走り去ったラナ達。彼女らを見送ると、カイは妹の、エリネの身を案じた。
(エリー…無事でいてくれ…。兄貴、エリーのこと、頼んだよ…っ)


【続く】
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