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第十一章 老兵とツバメ
老兵とツバメ 第十三節
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「う、うぅ…あ、ウィル、くん…」
アイシャが目を開くと、そこには魔人化したウィルフレッドが自分とノアをかばっていた。
「大丈夫か、アイシャ」
「ええ…私は大丈夫です。それよりもノアくんはっ?」
「あ、ああぁあ…っ」
ノアは震えながら首のツバメのメダルを掴み、恐怖に満ちた目で魔人化したウィルフレッドを見ていた。彼の姿が両親の出来事を想起させ、ノアの心を強く揺さぶっているのだ。
ウィルフレッドの心が軽く痛むも、いつものような優しい声で話しかける。
「もう大丈夫だ、ノア」
「あ…オ、オオカミ、さん…?」
ウィルフレッドは周りを確認する。ゆっくりと立ち上がるミーナに、自己治療しているラナとそれを守るレクスとアラン。未だに麻痺が完全に取れてない人達や、先ほどのシルビア変異体による二度の風塊の爆風に巻き込んで傷ついた人々と子供達。
そして、血溜まりに倒れてるガルシアと、彼を囲む子供に、必死に治癒をかけてるエリネ。ウィルフレッドは涙を流しながら表情で訴えるエリネを見て察する。ガルシアの命が風前の灯だということを。
「ガルシアさん…っ」
ノアをなだめるアイシャも涙を流しながらガルシアの方を見る。
「ガルシア様、変異体になったシルビアから操られた子供達を解放するために…っ」
ウィルフレッドの拳に力が入る。
『あやつが奴らが言ってた魔人か。…ザレめ、時間稼ぎも満足にできないとはっ』
シルビアが毒づくが、その声は僅かに震えている。変異体の本能が警鐘を鳴らしているからだ。
「アイシャ、ノアを連れてガルシアさんを助けてくれ」
「え、ええ」
「オオカミ、さん…」
「もう少しの辛抱だ、ノア」
ウィルフレッドは二人をそっと降ろし、走らせるよう軽く背中を押すと、ゆっくりと立ち上がる。
『ぬぅぅ…っ』
シルビア変異体は思わず後ずさる。先ほどからウィルフレッドの背中から沸き立つ彼の怒りに気圧されながらっ。
「シルビアァァーーーッ!」
『くっ!――風塊!』
怒りの吼え声とともに突進してくるウィルフレッドに、シルビア変異体は風の塊を放つ、だがっ。
「ルアアアァァッ!」
青のエネルギーを纏ったウィルフレッドの手刀がそれを両断し、片方の強烈なパンチがシルビアの裂けた顔へと叩き込まれるっ!
『ぐGyぁAAぁっ!』
悲鳴を上げて数歩後ずさるシルビアは翼を広げては反射的に羽を銃弾のように飛ばすっ!
「ハアッ!」
だがそれらは全てウィルフレッドの張ったバリアに弾かれてしまう。再接近されたシルビアの腹に、顔に、ウィルフレッドの怒りが込められたパンチが次々と叩き込まれるっ、シルビアが悶えるっ!
『Guえぇeeぇeぇっ!」
「ミーナっ!…ってうおっ!変異体なのかあれっ!」
ようやく駆けつけたカイはミーナに走り寄り、ふらつくミーナを支える。
「カイ…っ、我をそっちの、ガルシアのところに連れてってくれっ」
「分かった!」
ガルシアを懸命に治療するエリネに、アイシャとノアが合流する。
「エリーちゃん、私も手伝うわっ」「お願いアイシャさんっ!」
一部子供達がアイシャとともに駆けつけたノアに声をかけた。
「ノアっ、ノアっ、あそにいるのなんなのっ?魔獣なの!?」
「あれは…あの人は…オオカミさん、だよ」
「「「ええ~~っ?」」」
「カアアァァッ!」
『ぐaぁAぁっ!ぎyaあAAぁaっ!』
左!右!左!交互に繰り出され、反撃の隙さえも与えないウィルフレッドの連続パンチがシルビアに叩き込まれ、そのたび彼女は苦しい声を上げるっ。
『グっ!GuあぁAっ!』
痛みに耐えてカマイタチを繰り出すも、ウィルフレッドが覆うエネルギーと持ち前の硬さにより弾かれる。その勢いを利用してシルビアは思いっきり大きく跳躍するっ。
『KuaAAAaaAAっ!』
大きく翼を広げては、一瞬にして遥か上空へと上昇するシルビア。
『このっ、バケモノめっ!だが流石に空中戦ならこの私には――!?』
ドンッ、と、下の大地に砂塵が巻き上がり、次にシルビアが見たのは、エネルギーを纏いながら既に至近距離まで飛来してきた銀色の流星っ。
『Kuぎyaあっ!?』
さながら巨大な航空機と衝突したかのようにシルビアは大きく仰け反りる。彼女に向かって急回転してさらに突っ込むウィルフレッドっ。目にも留まらぬ速さで空を自在に飛翔する彼の姿はまるで――
「ああっ!みんな見て!ツバメさんだっ!」
「ほんとだっ!青いツバメさんだっ!オオカミさん、やっぱりツバメさんだったんだ!」
体に青き輝きを纏うウィルフレッドの姿がツバメと重なる子供達が叫び出し、ノアもまた首のツバメのメダルを握っては呟いた。
「本当に…本当にツバメさんが来てくれた…っ」
『あKuァッ!』
さらなる強烈な体当たりに危うく意識を失いそうなシルビア。
(な、なんて速さなのっ!これじゃあ空では逆に不利だわっ!地面にっ、地面に戻らないとっ!)
『KuuuAAAaAaa!』
「ぬっ!」
シルビアの全力を込めた音波攻撃にウィルフレッドの軌道が僅かに逸れ、突進が外れる。彼女はその隙に地面へと急降下する。今だ倒れてるガルシアと、彼を治療しているエリネ、ミーナ、そして子供達に向かって。
(あそこのハエどもを一匹ぐらい捕らえて人質にすれば…っ!?)
だがそれは自分に向けて飛来した、淡い銀色の光を帯びた二本の矢に阻まれるっ。
『クァaAぁっ!?』
軌道が逸れて離れた場所に墜落するシルビア。ガルシア達の傍で、同時に放たれた二本の矢をエンチャントしたアイシャの傍に、カイがガッツポーズを取る。
「ざまあみやがれ、鶏女めっ!」
『ぐっ…このガキがぁ…っ!』
ズンッ、とシルビアの手前にウィルフレッドが着地した。人ならざる赤い目に、彼女への怒りを込めながら。
『ひぃっ、こ…この化け物めぇっ!』
シルビアがボロボロな翼を広げ、ナノマシンにより再生し終えた上腕の穴を含めた全身の発声器官全てを稼働させるっ、エリネが叫ぶ!
「危ないウィルさんっ!あの音は――」
「カァァァッッッ!!!」
ウィルフレッドの一喝とともに全身のクリスタルが輝き、胸の結晶とともに強烈な衝撃波が大気をパァンと揺るがしたっ。レクス達は思わず耳を塞ぐっ。
「うわぁっ!………って、あれ…?」
『なっ、なんだと!?』
無音だ。シルビア変異体の発声器官は未だに強く振動しており、ウィルフレッドの胸のクリスタルも輝きとともに振動しているのに、周りは人々のざわめき声しか響かない。
『そ、そんなバカなっ!?これはいったい――』
「コーティングっ!」
疾走するウィルフレッドの腕から生成されたナノマシンソードが青く煌き、流星の如き一閃がシルビア変異体の片方の翼を切り落とし「カァッ!」更に片腕から発したエネルギー弾がもう片方の翼の羽を粉砕したっ。
『あGiぁァァaああaーーー!?』
シルビアが悲鳴を上げなら後ずさり、跪くっ。
一歩一歩重く地面を踏み鳴らして進むウィルフレッドは、地面に落ちたシルビア変異体の翼を強く踏み潰した。異形の鱗の羽が飛散する。
「鳥の姿に、音波で脳に干渉して麻痺させる能力、そして変異しても元の意識を保てている…発展型の変異体、『サウンドウェーブ』か」
『うぐぅ…』
「サウンドウェーブ変異体の音波は人に軽度な暗示はかけられるが、人を人形のように操るまでは出来ないはずだ。魔力を持ったハルフェンの人を変異させたことによる特異能力か。だが音波が働く原理までは知らないようだな。この程度の音波なら、アスティルクリスタルの音で簡単に相殺できる」
『お、おのれぇぇ…っ!あと一歩のところでっ!』
シルビアが歯軋りする。ザレ達が一番の脅威となるウィルフレッドを牽制しているうちにラナ達を始末しようとした計画が全て水の泡となった。自分がガルシアに固執し、変異体の力に溺れ過ぎたのが原因の一つだと、当然彼女は思いつかない。
『まだだっ!まだこちらには魔法が…っ!?』
シルビアがボロボロの体を無理やり立ち上がらせては呪文を詠唱とするその時、いわれのない激痛が全身を走り、体の一部が乾いた地面かのように亀裂が入った。
『あAAaaA!?ギャアアアッ!な、なんなのこれ…っ!』
「拒絶反応だ。発展型はまだ開発段階のものだ。適性のない人間だとこうして体組織が崩壊し、やがて灰となる。ギルは教えてなかったのか?」
ザレが言ってたリスクが伴うことを思い出すシルビア。そんなもの根性とあの人への思いでどうとでもなるとあの時は思っていたが、どうやら現実はそう甘くはなかったようだ。
「…どうやら貴様を裁くのは俺じゃないようだ」
『なに…っ?』
ウィルフレッドが一歩後退すると、アランとレクスを従い、手に浮遊した高熱の光球を持ったラナがシルビアを見据えながら前に出た。
「シルビア…っ」
『…っ、ラナ…っ!』
隠しもしない怒りを込めた目で互いを睨み合う二人。
「悪あがきもここまでのようだなっ。灰と化すまで待つ必要もない。ヘリティア第一皇女として、今度こそ不義不正を働いた貴様に制裁の鉄槌を下してやるっ!」
『思い上がるな小娘めえぇエェェェ…っ!』
崩壊する体を無理やり立ち上がらせ、最後の力を振り絞って呪文を詠唱しようとするシルビアの体に白銀の光が走り、魔力の循環が阻まれる。
『なっ!?』
さきほどアイシャの月光刃によってエンチャントされたカイの矢が、シルビアの詠唱を妨害していたのだ。
「受けよシルビアァっ!」
『ラナァァァッ!』
既に激しく渦巻く光の玉を、ラナは自分に飛び掛ろうとするシルビア変異体に向けて放った!
「光槌っ!」
光の奔流が自分を飲み込む寸前に、様々な光景がシルビアの目に浮んでは消えた。皇族の一員として生まれてから当たり前のように自分を持て囃す人々。それがただの虚像だと思い知る少女時代。絶望の底から、自分の力で全てを奪った栄光のひと時。それでも何かに飢えながら、初めて自分が必要だと言ってくれたあの人の、氷のような表情―――。
『オズワルドさマアAAァaァアaAっーーーーー!』
眩い閃光の中で爆音と衝撃が爆ぜた。
爆風と渦巻く砂塵が落ち着くと、頭と胴体がまるごと爆散したシルビアの残骸がぐらりと地面へと倒れこむ。そしてブクブクと泡を吹き、跡形もなく消え去っていった。
******
「うっ!ぐうおぉ…っ!」
「しっかりしてウィルさんっ!」「キュッ!」
アラン達が両軍の後始末をしている中、元の姿に戻り、魔人化の反動により苦しむウィルフレッドをエリネが治療していた。
「俺のことはいい、それよりも、ガルシアさんは…っ?」
「ガルシア様は…っ」
エリネがガルシアの方を向くと、彼を囲む子供達、さっきまで治療を続けたミーナとアイシャ、そしてラナはだれもが沈痛な表情を浮んでいた。
「…だめだ。治癒は外傷こそ治せるものの、心臓が既に止まった人を蘇らせることはできない…」
「でも先生っ、蘇生ならっ――」
「無理だ。星の女神由来のその魔法に今まで成功した例は殆どない、奇跡にも等しい魔法だ。それこそ星の巫女でないとまず無理だ」
「…じゃあ…おじさんはもう起きないの?」
「おじさん、ずっと眠ったまま?」
「このまま死んじゃうの?」
「そんなのいやだよっ、おじさんっ!」「おじさん…っ」
「みんな…」「くそっ、せっかく勝ったのにこんなのありかよっ!」
ガルシアの遺体に群がって泣き出す子供達に、レクスやカイ達もまた悲痛に思う。
「だからと言ってこのまま諦める訳にはいかないわっ!アイシャ姉様、手伝って!」
「ええっ!」
ラナとアイシャが最後の望みをかけているのを見て、エリネが悔しそうに拳を握る。
「私が、蘇生を習得していたら…っ、て、ウィルさんっ?まだ立っては――」
「エリー、俺を今すぐガルシアさんのところに連れてってくれ」
「えっ、でも――」
「早くっ!今ならまだ間に合うかもしれないっ!」
「はっ、はいっ!」
ラナとアイシャ、そしてミーナ三人を中心に、ガルシアの体が魔法で輝くものの、肝心の彼は依然として反応はない。
「だめだ。やはり我らの力ではどうにも――」
「まだですよ先生っ!最後までに試してみないと分からな―――ウィルくんっ?」
「兄貴っ?」「オオカミさん…?」
エリネに担がれてきたウィルフレッドが、反動の痛みを耐えながら近づく。
「みんな、少し、スペースを開けてくれ。早く…っ」
「なんだウィル?おぬしいったい何をするつもり――」
「待って先生。ウィルくん?」
ラナは真っ直ぐにウィルフレッドを見つめ、彼もまた揺ぎ無い視線を彼女に送ると、ラナは頷いて魔法を止めた。
「みんな、ウィルくんにスペースを開けてあげて、早くっ」
「ラナ様?…分かった。ほらみんなこっちに」
訳が分からないが、ラナに続いてレクスやアイシャ達もウィルフレッドのスペースを確保するよう、子供達を傍へと引き離す。
「ありがとう、ラナ、みんな」
ウィルフレッドはエリネの助けとともにガルシアの傍に膝を付くと、そっと手をガルシアの、傷が癒えた胸の上に置く。
「どうするつもりなのウィルくん?」
「…俺の世界のやり方を、試してみるっ」
ウィルフレッドはガルシアの体をセンサーで確認して彼の姿勢を正すと、その胸に置いた手から青き電光がバチンと走り、ガルシアの体が大きく仰け反った。
「うわぁぁっ!おじさんになにするんだよっ!」
わめく子供たちをなだめるラナ。
「みんな落ち着いて!これは…」
再び様子を確認したら、ウィルフレッドは両手をガルシアの胸に置いて力強く規律正しく押し始めた。見慣れない動きにアイシャ達が思わず見入る。
「この動き…先生?」
「これは…まさか外力で心臓を動かそうとしているのか?」
ガルシアの口に大きく息を吹き込んで、またひたすらと胸を押し続けるウィルフレッド。例えそれが何を意味するのが分からなくとも、彼の必死の動きがガルシアのためであるとしっかりと子供達にも伝わった。
「ツバメさん…っ」「オオカミさん…っ」
(がんばってくれ、ガルシアさん…っ!)
ガルシアの胸を圧迫し、息を吹き込むサイクルを必死に続けるウィルフレッド。カイ達もゴクリと唾を飲み、その結末を見守ろうと静まり返った。そして三回目のサイクルが終わり、もう一度強く胸を押し込んだ時―――
「がはあぁぁっ!」
さっきまで息が止まっていたガルシアが大きく咳き込み、息を吹き返した。
「ごほっ!げほげほぉっ!」
一瞬だけ、兵士を含んだ周りの人々は唖然とし、その後すぐさま歓声へと変わった。
「おお、おおおおっ!ガルシア様っ!ガルシア様が蘇った!奇跡だぁ!」
「げほごほっ!うぅ……ラナ様…?ウィル殿…?それとみんな…?」
「おじさんっ!ガルシアおじさんが蘇ったよ!」
「おじさぁんっ!」
ラナ達よりも先に、子供達が一斉にガルシアへと抱きつき、訳もわからないガルシアが狼狽する。
「おわっ!あんたたち一気に押し寄せるでないっ!」
「凄い…凄いわウィルくんっ!蘇生を使わずに蘇生ができるだなんて!」
「さすがの我も驚いたな…っ。こんな治療法があるとは…」
「ウィルさん…っ、凄いっ、本当に凄いっ!」「キュキュ~っ!」
「ああっ!兄貴すげぇよ!人の魂をも呼び戻せる方法を知ってるなんて!」
「ほんと、凄い人だとは分かってたけど、まさかここまでとはね」
「ラナ様の言うとおり、たいしたものだよウィルくんっ」
アイシャとミーナ、エリネ達が次々と驚嘆の声を上げ、ウィルフレッドはガルシアの様子を見て安心したため息をする。
「ふぅ…この世界の人体もCPRが効いて良かった…これは別に奇跡とかそういうのじゃないんだ。仕組みは後で教え―――」
「オオカミさんありがとっ!悪魔を倒しただけでなくおじさんも助けてあげて!」
「違うよっ!オオカミさんじゃなくてツバメさんだよ!」
「そうだよっ!ありがとツバメさん!」
「オオカミツバメさんありがと!」「ツバメさぁんっ!」
「きゃっ!?」「おわっ!?」
エリネを押し退けるほどの勢いで子供達がウィルフレッドに押し寄せ、彼もまたガルシアと同じく瞬く間に子供達の波に飲まれた。
「ちょっと君達…っ」
そんな光景に、ラナやアイシャ達はただ微笑ましそうに温かい視線を送った。
「ほんと、今のウィルくんを見たら、誰も彼があの魔人と思う人はいないでしょうね」
「ふふ、本当にそうですよねっ。とても可愛らしいです」
「ウィルさんは元からこういう人なんですよっ。根はとっても優しい人なんですからっ」「キュ~ッ」
「少なくとも、今の彼は確かに危険そうな人には見えんな」
子供達に囲まれ、女性陣に温かい視線で見守れてるのを色んな意味で見かねたレクスが割って入る。
「ほらほら君達、ウィルくんもガルシア殿もまだ体治ってないから、二人を安静させるようにっと」
「…すまないレクス」
「ははは、お互い様だよ、色々と…って、ノアくん?」
首に下げたツバメのメダルを掴んだまま、ノアがゆっくりとウィルフレッドに歩み寄る。
「ノア…」
「オオカミさん…ううん、ツバメさんの言うとおり、助けに来てくれたんだね」
彼の目はもはや虚ろさはなく、どこか活気を感じさせる光がその瞳にはあった。
「ああ、間に合ってよかった。怪我はないかい?」
「うん。…ねえ、ツバメさん…僕、これからもう悪い夢、見なくて済むのかな」
ウィルフレッドは痛みに耐え、優しくノアの頭を撫でながら微笑んだ。
「ああ。きっとぐっすりと眠れるようになるさ」
「…うんっ、ありがとう、ツバメさんっ!」
ノアと出会って初めて、彼は年相応の子供らしい笑顔を見せた。
【続く】
アイシャが目を開くと、そこには魔人化したウィルフレッドが自分とノアをかばっていた。
「大丈夫か、アイシャ」
「ええ…私は大丈夫です。それよりもノアくんはっ?」
「あ、ああぁあ…っ」
ノアは震えながら首のツバメのメダルを掴み、恐怖に満ちた目で魔人化したウィルフレッドを見ていた。彼の姿が両親の出来事を想起させ、ノアの心を強く揺さぶっているのだ。
ウィルフレッドの心が軽く痛むも、いつものような優しい声で話しかける。
「もう大丈夫だ、ノア」
「あ…オ、オオカミ、さん…?」
ウィルフレッドは周りを確認する。ゆっくりと立ち上がるミーナに、自己治療しているラナとそれを守るレクスとアラン。未だに麻痺が完全に取れてない人達や、先ほどのシルビア変異体による二度の風塊の爆風に巻き込んで傷ついた人々と子供達。
そして、血溜まりに倒れてるガルシアと、彼を囲む子供に、必死に治癒をかけてるエリネ。ウィルフレッドは涙を流しながら表情で訴えるエリネを見て察する。ガルシアの命が風前の灯だということを。
「ガルシアさん…っ」
ノアをなだめるアイシャも涙を流しながらガルシアの方を見る。
「ガルシア様、変異体になったシルビアから操られた子供達を解放するために…っ」
ウィルフレッドの拳に力が入る。
『あやつが奴らが言ってた魔人か。…ザレめ、時間稼ぎも満足にできないとはっ』
シルビアが毒づくが、その声は僅かに震えている。変異体の本能が警鐘を鳴らしているからだ。
「アイシャ、ノアを連れてガルシアさんを助けてくれ」
「え、ええ」
「オオカミ、さん…」
「もう少しの辛抱だ、ノア」
ウィルフレッドは二人をそっと降ろし、走らせるよう軽く背中を押すと、ゆっくりと立ち上がる。
『ぬぅぅ…っ』
シルビア変異体は思わず後ずさる。先ほどからウィルフレッドの背中から沸き立つ彼の怒りに気圧されながらっ。
「シルビアァァーーーッ!」
『くっ!――風塊!』
怒りの吼え声とともに突進してくるウィルフレッドに、シルビア変異体は風の塊を放つ、だがっ。
「ルアアアァァッ!」
青のエネルギーを纏ったウィルフレッドの手刀がそれを両断し、片方の強烈なパンチがシルビアの裂けた顔へと叩き込まれるっ!
『ぐGyぁAAぁっ!』
悲鳴を上げて数歩後ずさるシルビアは翼を広げては反射的に羽を銃弾のように飛ばすっ!
「ハアッ!」
だがそれらは全てウィルフレッドの張ったバリアに弾かれてしまう。再接近されたシルビアの腹に、顔に、ウィルフレッドの怒りが込められたパンチが次々と叩き込まれるっ、シルビアが悶えるっ!
『Guえぇeeぇeぇっ!」
「ミーナっ!…ってうおっ!変異体なのかあれっ!」
ようやく駆けつけたカイはミーナに走り寄り、ふらつくミーナを支える。
「カイ…っ、我をそっちの、ガルシアのところに連れてってくれっ」
「分かった!」
ガルシアを懸命に治療するエリネに、アイシャとノアが合流する。
「エリーちゃん、私も手伝うわっ」「お願いアイシャさんっ!」
一部子供達がアイシャとともに駆けつけたノアに声をかけた。
「ノアっ、ノアっ、あそにいるのなんなのっ?魔獣なの!?」
「あれは…あの人は…オオカミさん、だよ」
「「「ええ~~っ?」」」
「カアアァァッ!」
『ぐaぁAぁっ!ぎyaあAAぁaっ!』
左!右!左!交互に繰り出され、反撃の隙さえも与えないウィルフレッドの連続パンチがシルビアに叩き込まれ、そのたび彼女は苦しい声を上げるっ。
『グっ!GuあぁAっ!』
痛みに耐えてカマイタチを繰り出すも、ウィルフレッドが覆うエネルギーと持ち前の硬さにより弾かれる。その勢いを利用してシルビアは思いっきり大きく跳躍するっ。
『KuaAAAaaAAっ!』
大きく翼を広げては、一瞬にして遥か上空へと上昇するシルビア。
『このっ、バケモノめっ!だが流石に空中戦ならこの私には――!?』
ドンッ、と、下の大地に砂塵が巻き上がり、次にシルビアが見たのは、エネルギーを纏いながら既に至近距離まで飛来してきた銀色の流星っ。
『Kuぎyaあっ!?』
さながら巨大な航空機と衝突したかのようにシルビアは大きく仰け反りる。彼女に向かって急回転してさらに突っ込むウィルフレッドっ。目にも留まらぬ速さで空を自在に飛翔する彼の姿はまるで――
「ああっ!みんな見て!ツバメさんだっ!」
「ほんとだっ!青いツバメさんだっ!オオカミさん、やっぱりツバメさんだったんだ!」
体に青き輝きを纏うウィルフレッドの姿がツバメと重なる子供達が叫び出し、ノアもまた首のツバメのメダルを握っては呟いた。
「本当に…本当にツバメさんが来てくれた…っ」
『あKuァッ!』
さらなる強烈な体当たりに危うく意識を失いそうなシルビア。
(な、なんて速さなのっ!これじゃあ空では逆に不利だわっ!地面にっ、地面に戻らないとっ!)
『KuuuAAAaAaa!』
「ぬっ!」
シルビアの全力を込めた音波攻撃にウィルフレッドの軌道が僅かに逸れ、突進が外れる。彼女はその隙に地面へと急降下する。今だ倒れてるガルシアと、彼を治療しているエリネ、ミーナ、そして子供達に向かって。
(あそこのハエどもを一匹ぐらい捕らえて人質にすれば…っ!?)
だがそれは自分に向けて飛来した、淡い銀色の光を帯びた二本の矢に阻まれるっ。
『クァaAぁっ!?』
軌道が逸れて離れた場所に墜落するシルビア。ガルシア達の傍で、同時に放たれた二本の矢をエンチャントしたアイシャの傍に、カイがガッツポーズを取る。
「ざまあみやがれ、鶏女めっ!」
『ぐっ…このガキがぁ…っ!』
ズンッ、とシルビアの手前にウィルフレッドが着地した。人ならざる赤い目に、彼女への怒りを込めながら。
『ひぃっ、こ…この化け物めぇっ!』
シルビアがボロボロな翼を広げ、ナノマシンにより再生し終えた上腕の穴を含めた全身の発声器官全てを稼働させるっ、エリネが叫ぶ!
「危ないウィルさんっ!あの音は――」
「カァァァッッッ!!!」
ウィルフレッドの一喝とともに全身のクリスタルが輝き、胸の結晶とともに強烈な衝撃波が大気をパァンと揺るがしたっ。レクス達は思わず耳を塞ぐっ。
「うわぁっ!………って、あれ…?」
『なっ、なんだと!?』
無音だ。シルビア変異体の発声器官は未だに強く振動しており、ウィルフレッドの胸のクリスタルも輝きとともに振動しているのに、周りは人々のざわめき声しか響かない。
『そ、そんなバカなっ!?これはいったい――』
「コーティングっ!」
疾走するウィルフレッドの腕から生成されたナノマシンソードが青く煌き、流星の如き一閃がシルビア変異体の片方の翼を切り落とし「カァッ!」更に片腕から発したエネルギー弾がもう片方の翼の羽を粉砕したっ。
『あGiぁァァaああaーーー!?』
シルビアが悲鳴を上げなら後ずさり、跪くっ。
一歩一歩重く地面を踏み鳴らして進むウィルフレッドは、地面に落ちたシルビア変異体の翼を強く踏み潰した。異形の鱗の羽が飛散する。
「鳥の姿に、音波で脳に干渉して麻痺させる能力、そして変異しても元の意識を保てている…発展型の変異体、『サウンドウェーブ』か」
『うぐぅ…』
「サウンドウェーブ変異体の音波は人に軽度な暗示はかけられるが、人を人形のように操るまでは出来ないはずだ。魔力を持ったハルフェンの人を変異させたことによる特異能力か。だが音波が働く原理までは知らないようだな。この程度の音波なら、アスティルクリスタルの音で簡単に相殺できる」
『お、おのれぇぇ…っ!あと一歩のところでっ!』
シルビアが歯軋りする。ザレ達が一番の脅威となるウィルフレッドを牽制しているうちにラナ達を始末しようとした計画が全て水の泡となった。自分がガルシアに固執し、変異体の力に溺れ過ぎたのが原因の一つだと、当然彼女は思いつかない。
『まだだっ!まだこちらには魔法が…っ!?』
シルビアがボロボロの体を無理やり立ち上がらせては呪文を詠唱とするその時、いわれのない激痛が全身を走り、体の一部が乾いた地面かのように亀裂が入った。
『あAAaaA!?ギャアアアッ!な、なんなのこれ…っ!』
「拒絶反応だ。発展型はまだ開発段階のものだ。適性のない人間だとこうして体組織が崩壊し、やがて灰となる。ギルは教えてなかったのか?」
ザレが言ってたリスクが伴うことを思い出すシルビア。そんなもの根性とあの人への思いでどうとでもなるとあの時は思っていたが、どうやら現実はそう甘くはなかったようだ。
「…どうやら貴様を裁くのは俺じゃないようだ」
『なに…っ?』
ウィルフレッドが一歩後退すると、アランとレクスを従い、手に浮遊した高熱の光球を持ったラナがシルビアを見据えながら前に出た。
「シルビア…っ」
『…っ、ラナ…っ!』
隠しもしない怒りを込めた目で互いを睨み合う二人。
「悪あがきもここまでのようだなっ。灰と化すまで待つ必要もない。ヘリティア第一皇女として、今度こそ不義不正を働いた貴様に制裁の鉄槌を下してやるっ!」
『思い上がるな小娘めえぇエェェェ…っ!』
崩壊する体を無理やり立ち上がらせ、最後の力を振り絞って呪文を詠唱しようとするシルビアの体に白銀の光が走り、魔力の循環が阻まれる。
『なっ!?』
さきほどアイシャの月光刃によってエンチャントされたカイの矢が、シルビアの詠唱を妨害していたのだ。
「受けよシルビアァっ!」
『ラナァァァッ!』
既に激しく渦巻く光の玉を、ラナは自分に飛び掛ろうとするシルビア変異体に向けて放った!
「光槌っ!」
光の奔流が自分を飲み込む寸前に、様々な光景がシルビアの目に浮んでは消えた。皇族の一員として生まれてから当たり前のように自分を持て囃す人々。それがただの虚像だと思い知る少女時代。絶望の底から、自分の力で全てを奪った栄光のひと時。それでも何かに飢えながら、初めて自分が必要だと言ってくれたあの人の、氷のような表情―――。
『オズワルドさマアAAァaァアaAっーーーーー!』
眩い閃光の中で爆音と衝撃が爆ぜた。
爆風と渦巻く砂塵が落ち着くと、頭と胴体がまるごと爆散したシルビアの残骸がぐらりと地面へと倒れこむ。そしてブクブクと泡を吹き、跡形もなく消え去っていった。
******
「うっ!ぐうおぉ…っ!」
「しっかりしてウィルさんっ!」「キュッ!」
アラン達が両軍の後始末をしている中、元の姿に戻り、魔人化の反動により苦しむウィルフレッドをエリネが治療していた。
「俺のことはいい、それよりも、ガルシアさんは…っ?」
「ガルシア様は…っ」
エリネがガルシアの方を向くと、彼を囲む子供達、さっきまで治療を続けたミーナとアイシャ、そしてラナはだれもが沈痛な表情を浮んでいた。
「…だめだ。治癒は外傷こそ治せるものの、心臓が既に止まった人を蘇らせることはできない…」
「でも先生っ、蘇生ならっ――」
「無理だ。星の女神由来のその魔法に今まで成功した例は殆どない、奇跡にも等しい魔法だ。それこそ星の巫女でないとまず無理だ」
「…じゃあ…おじさんはもう起きないの?」
「おじさん、ずっと眠ったまま?」
「このまま死んじゃうの?」
「そんなのいやだよっ、おじさんっ!」「おじさん…っ」
「みんな…」「くそっ、せっかく勝ったのにこんなのありかよっ!」
ガルシアの遺体に群がって泣き出す子供達に、レクスやカイ達もまた悲痛に思う。
「だからと言ってこのまま諦める訳にはいかないわっ!アイシャ姉様、手伝って!」
「ええっ!」
ラナとアイシャが最後の望みをかけているのを見て、エリネが悔しそうに拳を握る。
「私が、蘇生を習得していたら…っ、て、ウィルさんっ?まだ立っては――」
「エリー、俺を今すぐガルシアさんのところに連れてってくれ」
「えっ、でも――」
「早くっ!今ならまだ間に合うかもしれないっ!」
「はっ、はいっ!」
ラナとアイシャ、そしてミーナ三人を中心に、ガルシアの体が魔法で輝くものの、肝心の彼は依然として反応はない。
「だめだ。やはり我らの力ではどうにも――」
「まだですよ先生っ!最後までに試してみないと分からな―――ウィルくんっ?」
「兄貴っ?」「オオカミさん…?」
エリネに担がれてきたウィルフレッドが、反動の痛みを耐えながら近づく。
「みんな、少し、スペースを開けてくれ。早く…っ」
「なんだウィル?おぬしいったい何をするつもり――」
「待って先生。ウィルくん?」
ラナは真っ直ぐにウィルフレッドを見つめ、彼もまた揺ぎ無い視線を彼女に送ると、ラナは頷いて魔法を止めた。
「みんな、ウィルくんにスペースを開けてあげて、早くっ」
「ラナ様?…分かった。ほらみんなこっちに」
訳が分からないが、ラナに続いてレクスやアイシャ達もウィルフレッドのスペースを確保するよう、子供達を傍へと引き離す。
「ありがとう、ラナ、みんな」
ウィルフレッドはエリネの助けとともにガルシアの傍に膝を付くと、そっと手をガルシアの、傷が癒えた胸の上に置く。
「どうするつもりなのウィルくん?」
「…俺の世界のやり方を、試してみるっ」
ウィルフレッドはガルシアの体をセンサーで確認して彼の姿勢を正すと、その胸に置いた手から青き電光がバチンと走り、ガルシアの体が大きく仰け反った。
「うわぁぁっ!おじさんになにするんだよっ!」
わめく子供たちをなだめるラナ。
「みんな落ち着いて!これは…」
再び様子を確認したら、ウィルフレッドは両手をガルシアの胸に置いて力強く規律正しく押し始めた。見慣れない動きにアイシャ達が思わず見入る。
「この動き…先生?」
「これは…まさか外力で心臓を動かそうとしているのか?」
ガルシアの口に大きく息を吹き込んで、またひたすらと胸を押し続けるウィルフレッド。例えそれが何を意味するのが分からなくとも、彼の必死の動きがガルシアのためであるとしっかりと子供達にも伝わった。
「ツバメさん…っ」「オオカミさん…っ」
(がんばってくれ、ガルシアさん…っ!)
ガルシアの胸を圧迫し、息を吹き込むサイクルを必死に続けるウィルフレッド。カイ達もゴクリと唾を飲み、その結末を見守ろうと静まり返った。そして三回目のサイクルが終わり、もう一度強く胸を押し込んだ時―――
「がはあぁぁっ!」
さっきまで息が止まっていたガルシアが大きく咳き込み、息を吹き返した。
「ごほっ!げほげほぉっ!」
一瞬だけ、兵士を含んだ周りの人々は唖然とし、その後すぐさま歓声へと変わった。
「おお、おおおおっ!ガルシア様っ!ガルシア様が蘇った!奇跡だぁ!」
「げほごほっ!うぅ……ラナ様…?ウィル殿…?それとみんな…?」
「おじさんっ!ガルシアおじさんが蘇ったよ!」
「おじさぁんっ!」
ラナ達よりも先に、子供達が一斉にガルシアへと抱きつき、訳もわからないガルシアが狼狽する。
「おわっ!あんたたち一気に押し寄せるでないっ!」
「凄い…凄いわウィルくんっ!蘇生を使わずに蘇生ができるだなんて!」
「さすがの我も驚いたな…っ。こんな治療法があるとは…」
「ウィルさん…っ、凄いっ、本当に凄いっ!」「キュキュ~っ!」
「ああっ!兄貴すげぇよ!人の魂をも呼び戻せる方法を知ってるなんて!」
「ほんと、凄い人だとは分かってたけど、まさかここまでとはね」
「ラナ様の言うとおり、たいしたものだよウィルくんっ」
アイシャとミーナ、エリネ達が次々と驚嘆の声を上げ、ウィルフレッドはガルシアの様子を見て安心したため息をする。
「ふぅ…この世界の人体もCPRが効いて良かった…これは別に奇跡とかそういうのじゃないんだ。仕組みは後で教え―――」
「オオカミさんありがとっ!悪魔を倒しただけでなくおじさんも助けてあげて!」
「違うよっ!オオカミさんじゃなくてツバメさんだよ!」
「そうだよっ!ありがとツバメさん!」
「オオカミツバメさんありがと!」「ツバメさぁんっ!」
「きゃっ!?」「おわっ!?」
エリネを押し退けるほどの勢いで子供達がウィルフレッドに押し寄せ、彼もまたガルシアと同じく瞬く間に子供達の波に飲まれた。
「ちょっと君達…っ」
そんな光景に、ラナやアイシャ達はただ微笑ましそうに温かい視線を送った。
「ほんと、今のウィルくんを見たら、誰も彼があの魔人と思う人はいないでしょうね」
「ふふ、本当にそうですよねっ。とても可愛らしいです」
「ウィルさんは元からこういう人なんですよっ。根はとっても優しい人なんですからっ」「キュ~ッ」
「少なくとも、今の彼は確かに危険そうな人には見えんな」
子供達に囲まれ、女性陣に温かい視線で見守れてるのを色んな意味で見かねたレクスが割って入る。
「ほらほら君達、ウィルくんもガルシア殿もまだ体治ってないから、二人を安静させるようにっと」
「…すまないレクス」
「ははは、お互い様だよ、色々と…って、ノアくん?」
首に下げたツバメのメダルを掴んだまま、ノアがゆっくりとウィルフレッドに歩み寄る。
「ノア…」
「オオカミさん…ううん、ツバメさんの言うとおり、助けに来てくれたんだね」
彼の目はもはや虚ろさはなく、どこか活気を感じさせる光がその瞳にはあった。
「ああ、間に合ってよかった。怪我はないかい?」
「うん。…ねえ、ツバメさん…僕、これからもう悪い夢、見なくて済むのかな」
ウィルフレッドは痛みに耐え、優しくノアの頭を撫でながら微笑んだ。
「ああ。きっとぐっすりと眠れるようになるさ」
「…うんっ、ありがとう、ツバメさんっ!」
ノアと出会って初めて、彼は年相応の子供らしい笑顔を見せた。
【続く】
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