ハルフェン戦記 -異世界の魔人と女神の戦士たち-

レオナード一世

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第十一章 老兵とツバメ

老兵とツバメ 第十一節

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「せいっ!せいっ!せいっ!」
両軍に挟まった中央の平地で、シルビアの目にも留まらぬレイピアが荒れるカマイタチの如く鋭くガルシアに切りつけられる。
「ぐぬうっ!」
長槍で防御するも、夥しい斬り込みが隙を縫って段々と鎧を削り、そのたび真っ赤な血が飛散る。

「やっぱりおかしいよラナ様。いきなりシルビアがそんな鋭い攻撃ができるなんてっ」
「今はシルビアのことはほっといて。子供達を確保している教団兵の位置はもう確認できてるレクス殿?」
「自分が視認できる範囲はね。いくつか目星がつく箇所もあるけど、ここからでは確認するのに限度があるなあ。こういう時にウィルくんかマティがいてくれれば…」
「ないものねだりしても仕方ないわ。確認できる範囲で確認できれば十分よ。彼らの位置をアランに知らせて頂戴」
「りょーかいっ」

レクスが離れるとラナはアイシャの方に目を配る。
「――月の明かり、闇夜の霧――」
シルビアの方から見えないようにひっそりと呪文を唱えているアイシャ。その両手は既に月の色を淡く輝かせる霧が纏っていた。
(あとはガルシア、貴方の方よ、見事シルビアの注意を逸らしてみなさいっ)

「はぁっ!」「ぐぉっ!」
鎧を貫く一刺しがガルシアの太腿を貫き、思わず膝をつこうとする。だが騎士としての矜持か、歯を食い縛ってはずしりと足を地面に強く踏み込んでは立ち直す。
「ちぃっ!老いぼれの割にはしぶといわね!」
「…くっ、くっ。人は誰でも老いぼれになっていくものよ。例え貴様のような女狐でも逃れん運命だ」

「お黙り!」「ぬぁっ!」
レイピアがガルシアの顔を横切り、鮮血を噴出しながらガルシアが後ずさる。
「前からあんたのことは気に入らなかったのよ。ことあるごとに騎士道、騎士道と煩いことこの上ない…っ。そんなものは所詮政治の道具、煌びやかに己を飾るための虚栄に過ぎないわっ!」

「…ふふ、儂も前から貴様のことは気に入らなかった。誇りある陛下の臣下としての本分を守らず、卑しい狐の如く人を誘惑し、よからぬ噂ばかり立ておって。…確かに世間でお偉い奴らが声高にもてはやしてる騎士道なんざただの飾りだ。だが子供を人質にするような貴様に真の騎士道がどんなものか分かるはずもないな」
「貴様…」

ちらりと後ろの方のラナを見たガルシアは、長槍をつっかえ棒にして地面にドンっと突き刺し、傷だらけの体を強引に立たせる。
「邪悪に染めた貴様の攻撃で儂は倒せんっ!真の騎士道とはいかなるものかを見せてやろう!」

仁王立ちしたガルシアは再び長槍の底部を大地へと強く叩き、両軍の叫び声さえも抑え込むほどの大声が大気を震わせた。
「騎士原則っ、第一条おおおぉぉっ!」

「「「毎朝毎食毎晩はみがきかおあらいっ!ほこりあれ~っ!」」」
「「「なっ!?」」」

シルビアだけでなく、ラナ達でさえも目の前の出来事に瞠目した。虚ろに立っていたままの子供たちが突如、ガルシアの吶喊に応じてビシッとまっすぐ立っては元気よく返事したのだ。

「な、なんだなんだっ?なんでシルビアの軍に子供なんかいるんだっ!?」
「こ、これはっ!?どうしてわが軍の中に子供なんか…っ!?」
全軍がどよめき、子供を確保する教団兵は狼狽え、シルビアはあまりの出来事で固まっていた。
「そんなっ!催眠がこんな簡単に破られ――」
この瞬間、アイシャ達が動いた。

「――その耳目を覆い、迷いの夢へ誘えよ、月幻霧フィネーベル!」
高く掲げるアイシャの両手から銀色の霧が噴き出し、まるで意識があるかのようにシルビア軍全体を包み込んでいく。
「うわっ!なんだこれは!?」

「今です、レクス様!」「アラン!」
「よしっ!みんなやっちゃえ!」「ええ!」
アイシャとラナの命令を受け、レクスとアラン、そして事前に指示を受けた他の騎士、兵士達の声が霧の中で鳴り響き、シルビア陣営で混乱の声が飛び交う。シルビアは鬼の如き面相を表す。
「あの小娘ぇっ!こんな霧、私の魔法で吹き飛ばし――」
「隙ありぃっ!」

呪文を唱えようとするシルビアの隙を決して見逃さないと、ガルシアの長槍が霧をも貫く勢いで彼女に放たれた。
「! このっ、おいぼれ――」
急いで構えたレイピアは虚しく折られ、長槍の旋風の如き一撃が深々とシルビアの胸へと突き刺さった。

「あああぁぁっ!」
鎧の鈍い破砕音とともに、白銀の霧が赤く染められる。

「おいっ!いったいどうなってる!?そこにいるのは仲間なのかっ!?それとも敵かっ!?」
視界を霧に奪われたシルビア軍の兵士達は、自分が周りの人々と隔離された錯覚に陥る。知覚を撹乱する月幻霧フィネーベルは、本来は狭い範囲でしか展開できないが、月の巫女たるアイシャが使えば軍を包むほどの範囲まで拡張される。術者であるアイシャの意識下で友軍に幻惑を見せず特定対象だけに絞ることもできた。

もっとも、元より効き目の短い魔法であり、いかな月の巫女といえどここまで拡大すると効果時間はさらに短縮され、すぐに霧は散り始めた。

「あっ…」
霧が散り、シルビアの正規軍たちはようやく状況を確認した。レクスとアラン、そして少人数の精鋭により教団兵たちは既に切り伏せられ、抑えられていた子供達も解放されていた。

「あれ…昨日のお兄ちゃん…?」
レクスに確保された男の子、ノアはようやく目の前の人を認識できるようになった。
「どーも、目が覚めたかい?」

「お、おい、この騎士、見たことのない奴だな…?」
シルビアの兵士達は、地面に倒れている教団兵を見てどよめき始める。
「レクス殿!」
レクスと兵士達は、シルビア軍の後方の丘にいる馬車で呼びかける、アランと連合軍の騎士たちを見る。
「仰ったとおり、残りの子達はここにおられますっ!」

騎士達の周りには既に倒された教団兵があり、まだ状況を良く分かってない子供達が馬車から次々と降ろされていく。
「思ったとおりだ。シルビアの奴、陣地ごと移動してるんだから人質も全部一緒に連れてきてると思ったよ」

「ああっ、シルビア様っ!」
困惑する兵士達はようやく、胸をガルシアの長槍で貫かれ、新緑の鎧に血がまみれては倒れて絶命しているシルビアを確認した。ラナが輝くエルドクラムを高く掲げて呼びかけた。

「シルビア軍っ、皇国の国民よ!その目でしかと見よ!シルビアは姑息にも教団を手を組み、子供を人質とする卑劣極まりない手段をとっていた!もはや彼女に大義はなく、この勝負はガルシア殿の勝ちだ!そなたらに少しでも皇国の民としての誇りを持つのならば、今すぐ降伏し、残りの子供の解放を手助けせよ!」
「ラナ、殿下…」「ラナ殿下っ」

ラナの言葉を皮切りに、兵士達は次々と武器を捨てはじめた。
「貴様っ!今まで見ない顔ぶれだなっ?」「くっ…!」
「逃がすか!囲め!」「おおおっ!」
そして周りの不審者を協力して拘束し、残りの子供を全て解放した。

「ここ、どこ…?」
「あれれ、布団の中じゃないや…それに大人が一杯…あっ!ガルシアおじさんっ!」
全身に無数の傷を負いながら、長槍で体を支えて立つガルシアを見て子供達が歓声を上げては一斉に彼へと駆けつけては囲んだ。

「おじさ~んっ、おはよー!」「おはよおじさん!」
「うおっと!こら、いきなり抱きついてくるでないっ、いたた…っ」
「わっ!ガルシアおじさん大丈夫っ?」
「は、早く手当てしなきゃっ」
「おじさんこんなところで何してんの?」

無邪気に自分へとしがみついてはワイワイ騒ぐ子供達に、ガルシアは痛みを耐えながら笑い、彼らの頭を撫でた。
「まったく、人の苦労も知らずに困った子達だ…。君達っ、怪我はないかっ?」
「「「ないよ~!」」」
子供達の元気な声が戦場の雰囲気を塗り変えた。

――――――

戦意を既に失ったシルビア軍の殆どが投降し、レクスとアランの指示のもと、子供の保護に協力をし始めた。依然として子供達に囲まれてるガルシアを、アイシャの治癒セラディンの明かりが優しく包み、その傷が徐々に癒されていく。
「これで一応の応急処置にはなったはず。後で町でしっかりとした医者に見せてくださいね」
「十分です、アイシャ様のお陰様でこのガルシア、なん年も若くなった気がするわい」
「まあ」

豪快な笑顔のガルシアにアイシャもふふっと笑うと、ラナが声をかける。
「お疲れ様ガルシア。私の考えをよく察してくれたわね」
「当然です。このガルシア、長年ラナ様や陛下のもとにいたのですから、これぐらい読み取れなくては貴方の剣術の師と名乗ることもできまい」
「ふふ、そう聞いて安心したわ」

「それにしても、思ったよりもあっけない最後でしたね」
怒りの面相で目を大きく開いたまま地面で倒れているシルビアの死体に、アイシャが呟く。いまや彼女を主とする兵士は一人もなく、誰も彼女の遺体視線を送ることはない。
「邪神教団と組んで卑劣な手段を取ったツケですな。卑しい女狐だが、それでも皇国の臣民の一人に変わりはない。哀れなものだ」

彼らのすぐ傍で兵士達への指揮を終わらせたレクスは、屈んでは自分についてるノアに話しかける。
「君は確かノアくんだね。ほかの子と一緒にガルシアのところに行かないのかい?」
「…お兄ちゃん、オオカミさんの友達?」
「オオカミ…ああ、ウィルくんか、その通りだよ」
ノアはそのまま無言でレクスの手を握る。
(へえ、この子、ウィルくんの方に懐いてるのか)

「そういやノアくん、昨日の夜はエリーちゃん達と同じ部屋で寝てたんだよね。どうして皆と一緒に館の外に出たのか覚えてる?」
「…よく、覚えてないけど…。歌が聞こえたような気がする」
「歌?」
「うん、ちょっと気持ち悪い歌が、僕達を呼んでいたんだ」

「ねえおじさん、おなか減った、早く館へかえろーよー」
「まったく、調子の良い子達だなっ。全員ここにいるのか確認が終わるまで大人しく待ちなさい」
「みこ様ーぼくまだねむーい…」
「もう少し我慢してね。あとで私がちゃんと皆を館まで送るから」

ガルシアとアイシャ達が子供達を眺める一方、ラナはシルビアの死体を片付けるように命じていた。
「アラン、シルビアの遺体の対処をお願い。丁重に――」

――イイィィッ

「つっ?」「わっ、なに?」
ラナとレクス、そしてその場にいた兵士や騎士達全員が思わず耳を塞いだ。
「ぬうっ、なんだこの面妖な音は…なっ、お前達!?」
突然の出来事だった。さっきまで年相応にじゃれあっていた子供達の目から光彩が消え、まるで何かに取り付かれたかのようにガルシアやラナ達にしがみついた。

「ちょっ、ノアくんっ!?」
さっきまで大人しく手を繋いでたノアも、まるで死に物狂いかのようにレクスの体にしがみついて離さない。

「あなたたちっ?これは…っ」
同じく子供達にしがみつかれて身動きが取れないアイシャは、彼らの異様な目から、魔法にかかった状態と似た異質な感覚を覚える。

「ラナ様!アイシャ様!」「ガルシア様っ!」
周りの騎士や兵士達が子供達をはがすように駆け寄る、丁度その時だった。

「ァハあっ!」
シルビアの遺体が突如跳ね上がり、髪をざわめかせては獰猛な笑みを浮ばせていた。兵士達が驚愕する。
「うおっ!シルビアが生き返ったっ!?」
「なっ、この女狐、生きて…っ!?」

ガルシアとラナ、アイシャ達が瞠目する。長槍により大きな穴が開いたシルビアの胸がとてつもないスピードで塞がっていき、彼女から圧倒的な威圧感が発散される。それはラナ達が良く知っている威圧感だった。

「シルビアっ、あなたまさかっ!?」
ニィっと歪んだ口を吊り上げると、シルビアが大きく両手を広げ、この世とは思えないおぞましい奇声を上げた。

『KuuAAaaaAaAA-----!』
バガンと鎧が砕かれ、シルビアの体が異常に膨らんでいく。メキメキと足が曲がり、背中から多数の穴がついている異形の翼が生え、口が大きく裂ける。胸と体中に多数の無地の異形の結晶が浮び、その見るに禍々しい翼を大きく広げた。

「う、うわあああっ!シルビアが、魔獣モンスターにっ!」
兵士達が再び悲鳴を上げて後退する。
「違うっ!あの見るにおぞましいフォルムは…!」
その独特な外見とひしひしと伝わる違和感に、レクスとラナ達はすぐさまその正体を察した。
変異体ミュータンテス…っ!」


******


「シャッ!」「ふんっ!」
ウィルフレッドとザレの交戦は今までになく白熱化していた。ザレの短剣の初撃をウィルフレッドは片方の剣でいなし、もう片方の剣が彼の首元を狙う。しかし、「はっ!」ザレはギリギリ屈んでは致命の一撃を避けた。わずかに切り落とされた髪が空を舞い、地面を滑空するほどの前屈み姿勢でウィルフレッドの懐へと飛び込もうとする。

「おおっ!」
だがウィルフレッドは瞬時に対応する。自分の体重と勢いを全て乗せた背中全体をザレに向けて、後退せずにあえて前へと急速突進した。互いの強烈な加速度によりザレは短剣を振るう暇もなく、全速力の機関車の如き衝撃を叩き込まれた。
「ぐおあっ!」

だがその瞬間、再びその体は霧と化し、やや後方でザレが燃え散る紙片とともに現れる。
「ぐふ…っ」
ザレが軽く喀血してぐらつく。あまりの速さと衝撃で身代わりの護符では賄いきれなかったのだ。そしてそのパターンを掴んだの如く、ウィルフレッドはすでに彼の出現ポイントへと向けて疾走していた。

「シャシャッ!」
その攻撃を遮るように取り巻きの教団兵はすかさず毒針と連携攻撃をしかける。ウィルフレッドは軽く舌打ちしながら急停止して毒針を全て剣で弾き、さらに左右の双剣の目にもとまらぬ連撃が、上下同時に攻撃をしかける教団兵の連携を切り払い、さらに急回転して背後を刺そうとする敵を鋭い蹴りでとらえる。

「ぎゃっ!」
護符が切れたのか、または間に合わなかったのか、双剣で切り払われた二人のうち一人が即座両断され、蹴りを受けた教団兵もまるでピンボールかのように吹っ飛び、「うおっ!」対峙しているカイと教団兵の間を通りぬいて大樹にのめり込んだ。

ウィルフレッドは攻撃をいったん止め、地面に落ちた毒針を確認しながら構え直して様子をみた。たとえアニマ・ナノマシンが毒素を全て分解できるとはいえ、それに驕らず、異なる世界での未知な毒にはやはり警戒する必要があった。

(さすが魔人、力に驕らずかつ慎重だ。いや、俺たちの底を計り終わったら、すぐにでもこちらを全滅することはできるだろう。そのはずなのだが…やはり、の言ったとおりだ)
ウィルフレッドの極限の戦いがもたらすスリリングな刺激でわずかに口元が吊り上がるザレは、懐の護符の残量と残りの部下たちを見やる。
(そろそろ限界か)

「す、すげえ…兄貴も、あの短剣二刀流の奴も…」
ジフをかばったままのカイが驚嘆する。一方、ウィルフレッドは段々と違和感を感じてきた。
(…やはりおかしい。こいつ、確かに本気で俺を殺そうと攻撃してはいるが…これぐらいでアルマである俺を倒すことができないのは百も承知のはずだ。いったい何を企んでる?)

ウィルフレッドを中心に散りばめられたジャミングチャフの金属片が徐々にその輝きを失い、彼のセンサー機能が回復していく。
(チャフの効き目が消えかけてるのか。丁度いい、これを機に一気に畳みかけ――)
ふと、ウィルフレッドはあることに気づく。
(――これはっ?)

チャフの効力が消えかけ、聴覚センサーの機能を再起動させたウィルフレッドは即座に異常を察した。自分たちを中心とした一定距離以内の円の外側の。さながら自分たちが外界から隔離されたかの如く。

(潮時だな)
ザレは最後の挑発に出た。
「気付くのが遅い。あの魔人の言ったとおりだ。貴様は時に慎重しすぎるから揚げ足を取られるとな」
「貴様ら、まさかっ!」

ウィルフレッドが次の一歩をするよりも早く、ザレはピィーっと指示を出す口笛を吹くと、数名の教団兵がウィルフレッド目掛けて全力で疾走する。
「「「シャーーーッ!」」」
「おおおっ!」

彼は反射的に双剣を振るい、黒の軌跡は寸分の狂いもせずに彼らの胴体を真っ二つにした。今度、彼らの体は霧となることはなく、代わりにその装束の下には――
(! まさか…っ!)

ドドォォンッ!と激しい爆発が火を噴き、爆風が地面を巻き上げては林を震撼させる。爆発魔法が込まれた護符だ。

「あ、兄貴ぃ!」「オオカミさぁん!」
炎で飲まれたウィルフレッドにカイとジフが叫ぶ。
「あ、あいつら、まさか自爆までしやがって…イカれてるのかよ…っ」
カイと対峙していた教団兵は他の仲間と合流し、ザレは警戒を怠らずに燃え盛る炎を見つめる。

「ガアアアアアッ!」
人外の赤い目をしたウィルフレッドの猛々しい咆哮が唸る。大きく両手を広げては胸のクリスタルの輝きが強烈な衝撃と化し、自分を取り巻く炎を全て吹き飛ばした。彼らの周りに円状で置かれている、音封じの結界を作る道具もろとも。

それを見たザレが手を挙げて撤退を指示し、ウィルフレッドは追おうとする。

「待てっ!貴様ら!」
「いいのか魔人、俺たちを追う暇なんざ貴様にはないと思うが」
「ぐっ…!」
その言葉にウィルフレッドは急停止する。ザレは冷笑すると、他の教団兵とともに林の向こう側へと消えた。

(((ハっ!またやっちまったのかウィル?前にも言っただろう、慎重なのは良いが、慎重し過ぎると逆に揚げ足取られるってな。これにこりたらもう少し大胆に行け大胆に)))
耳元でかつて地球でのギルバートの指導忠告を思い出し、己の不甲斐なさに恥じては手に力が入る。だが今はそれを悔やむ時間もない。

「あ、兄貴大丈夫かっ!?」
おずおずとしているジフを抱き上げて駆け寄るカイ。
「カイっ、俺は一先にラナ達のところに行くっ、ガルシアさん達が危ないんだっ」
「えっ…」
カイが返事するのも待たずに、ドンッと青き電光の衝撃と共に魔人アルマと化したウィルフレッドは急激に飛び上がった。
「うわあっ!」

ジフをかばったカイは飛び離れる流星を見上げた。ウィルフレッドは聞いたのだ、町を挟んでの反対側に響く、変異体ミュータンテスのおぞましい声、ガルシアの苦悶、子供たちの悲鳴、アイシャ達の叫び、そして、エリネが助けを求める声を。



【続く】

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