ハルフェン戦記 -異世界の魔人と女神の戦士たち-

レオナード一世

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第十一章 老兵とツバメ

老兵とツバメ 第八節

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翌日未明、ルーネウス上空を横切る一条の流星が山岳地帯を飛び越えていく。星はルーネウス国境の外縁にもっとも近い村の傍の森へ、他人の目につかないよう注意しながら着陸した。魔人アルマ化したウィルフレッドは抱えていたマティをそっと下ろしていく。

「ここいらで大丈夫かマティ」
「ええ、問題ありません。それにしても凄いですね。私達が空を移動するにはワイバーンとグリファスに乗るのが一般的ですが、ここまで早く長い距離を飛ぶことはできません。それに山以上に高く飛んでるのにとても快適でした」

防壁バリアを張ってたし、Gを強く感じさせないように飛ばしてたからな」
「Gですか?」
「いや、こっちの話さ」
抱えた荷物をマティに手渡す。

「ギルが近くにいない保証はないから、ここまでしか送れないのが残念だ。できればもう少し例の山脈に近づきたかったが…」
「お陰で時間を大幅に短縮できましたから十分です。この先の村で馬を調達できますから、あとは私がなんとかしますよ」
「そうか。…マティなら言わなくても分かると思うが、万が一ギルに遭遇したら…」

「ええ、その時は全力で逃げ出しますよ。山をも軽々とフッ飛ばしそうな魔人と正面からやりあうなんてさすがにごめんですからね」
ウィルフレッドは頷く。
「俺はこの世界の人ではないし、女神が俺の言葉を聞いてくれるかも分からないが…、君の道中に、女神たちのご加護があるよう祈ってるよ」

マティは秀麗な笑顔を見せた。
「その言葉、きっと女神様に届いていますよ。ありがとうございます。ウィル殿もあまり無茶はなさらずに。それと…」
「分かってる。レクスのこともちゃんと面倒見ておくさ」
「ふふ、ウィル殿がそう言うととても安心できますね。それでは、またです」
「ああ」

ゴウッと突風が起こされると、既に空高く飛び離れたウィルフレッドの姿を見送るマティ。
「さすが、人を抱えてないとスピードが段違いですね」
荷物を再チェックし、マティは村の方向へと向かった。
「さてさて、早く村に向かわないと。馬の調達や、クラリス殿のことを聞いておかないといけませんから」


******


「…あ、ウィルさん」
館の庭で、先ほどレクスとラナと一緒にマティを見送ったエリネがウィルフレッドの帰りを待っていた。レクス達はすぐにキャンプ地へと向かって出発の準備をしていたが、エリネはウィルフレッドの体のケアのためそのまま待機していた。彼が着陸し、青い輝きとともに元の姿へと戻ると、エリネがいそいそとその傍へと駆け寄る。

「お疲れ様、ウィルさん。体の調子は大丈夫ですか?今から治癒セラディンかけますね」
「ああ、お願いするよ」
エリネが杖をかざして呪文を唱えると、柔らかな光が彼を包んでその疲れを癒す。

「…これでいい、短時間の飛行だったから痛みも殆どないんだ。ありがとう」
「うん。どういたしまして」「キュキュッ」
ふと、魔法をやめた彼女からふんわりとした香りがすることに気付いた。

「これは…昨日の香水か?」
「あ、気付きました?普段用としても似合うのですから、さっそく使ってみました。どうでしょうか?」
「とても似合ってるよ。やはり元気なエリーにぴったりだな」
「えへへ。嬉しいです」
少し照れるように微笑むエリネの笑顔に、ウィルフレッドも自然と口元が緩む。

「おお、ウィルフレッド殿とエリネ殿か」
庭に入ったガルシアが二人に挨拶する。
「ウィルで構わないです、ガルシアさん」
「私もエリーで大丈夫ですよ。あ、ひょっとしたらまだ寝てたのに起こしてしまいました?」

「はっはっは、ご心配なく。単に儂が早起きなだけだ。それよりもお二人さん、今日で出発だが、できればその前に一緒にお茶でもしてくれないか?」
「構いませんよ。ウィルさんは?」
「俺も問題ありません」
「感謝する二人共。帝都からのお菓子もあるから、出発前の景気付けとしてぜひ楽しんでくれ」
「わあっ、ぜひ試してみたいですっ」

――――――

館にある小さなダイナーに案内された二人は、ガルシアが入れたお茶とお菓子を美味しそうに満喫する。
「このお茶、さっぱりしていて美味いですね」
「お菓子もお茶に合う丁度良い甘さで素敵です…っ」「キュキュッ」
エリネからの菓子屑を美味しそうに食べるルル。
「はははっ!帝都でも由緒正しい老舗から取り寄せた品ですからなあっ、管制が厳しくなる前に手に入れて良かったわい」

自分もお茶を丁寧に飲むガルシア。豪快な性格はしているが、騎士としての礼儀作法もよくマスターしているとウィルフレッドは思った。
「時にウィル殿、昨日は本当にお世話になった。子供達に色々と面白い話をしてあげただけでなく、まさかあのノアまで口を利くようになるとは…」
「聞いてたのですか?あの子との会話を」

「盗み聞くつもりはなかったがな。寝る前に最後に庭で軽くストレッチでもしようと思ったら、丁度テラスでの会話を聞いただけだ。君たち二人には改めて礼を言おう。ノアのことは引き取ってからずっと心配してたからな」
「お礼を言われるほどではありません。俺はただ自分がしたいようにしただけです」
「私だって。寧ろお話をしてあげたのは殆どウィルさんですから、気にしなくていいんですよ」

「はははっ、ラナ様が友人と認めたお方だけであって謙虚ですな。特にウィル殿、まだお若いのに相当な場数を踏んできたようだな。戦士としても一流の腕を持っていると感じるのに、意外と丁寧な好青年に感じられる」
「私もそう思いますっ。シスターもちょっとクールに感じられる雰囲気とのギャップがまた可愛いと言ってました」

「そ、そうだろうか」
少し照れながら口を手で隠してそっぽ向くウィルフレッドを、エリネやガルシアは微笑ましそうに顔を向けていた。そして彼はふと、昨日での会話で気になったことをガルシアが話してたことを思い出す。

「…ガルシアさん、差し支えなければ、一つ聞いても良いですか」
「おおう、なにかね」
「昨日あなたは先王との約束があると言いました。それはどういう意味でしょうか」
「あ、それ私も気になります」

「ああ、それか。大した話ではない。ただまだ若かった頃のちょっとした出来ことだ」
お茶をもう一口飲み干して、茶を注ぎなおすガルシア。
「あれは儂がまだ騎士でもないガキの頃の話だが、今とは違って終日遊びに暮れては放蕩の日々を送ってたな」

「えっ、そうだったのですか?今のガルシア様を見るととてもそうだったとは見えないです」
手を口に当てて驚くエリネ。
「はっはっはっ、そうであろうな。儂の家は由緒ある帝国騎士の家系で、父もそれなりに名のある騎士だが、あまりにも率直な性格のせいで社交界ではいつも損をしていてな。他の貴族の策略で文無しになり、貧困な生活を送って母ともども早死にになってた」
どこか切なそうな目をするガルシア。

「儂はそんな父のことを理解できなかった。騎士道に拘るばかりに損しかせず、果ては自分を置いて死ぬなど…。その腹いせのせいか、あの頃は女遊びや喧嘩ばかりで日々を送っていた。そんなある日、まだ皇子で、お忍びで城から出たエイダーン陛下に出会ってな」

少し懐かしそうに、ガルシアはお茶の中にある、若かりし頃の自分とエイダーンの姿を見つめた。


******


それはある日、帝都のある酒場での出来事だった。

「あんた…ワーグナー家の放蕩息子と名高いガルシアだな。一人で大男を三人も殴り倒す打なんて、中々の腕っ節のようだ」
その男達は、虫の息でガルシアの周りに倒れ込んでいる。

「あん、だったらどうすんだよ」
「いや、ただ惜しいと思っただけだ。そこまでの腕前を持ってるのならもっと楽しいことに使えたのに」
「なんだそれ、俺を舐めてんのか?それともおまえもこいつらみたいに俺のパンチくらいてえのか?」
「ははは、それは遠慮願いたいし、あんたにはできないと思う」
「てめぇ…っ!?」

ドカシャンッ!

「おおっ!凄い!あの大男をああも簡単に地面に叩きつけるだなんて…っ!」
「っつう…!」
「すまない。ちょっと力入れすぎたかな?」
「きさ…っ」
怒り心頭のガルシアが振り向きながら繰り出したパンチを、若者は余裕にかわし、ずいっと顔を近寄せた。

「その溢れんばかりの活気、気に入ったよ」
「うっ」
いきなりの急接近と、飾り気のない率直な笑顔にガルシアは戸惑い、つい追撃を忘れてしまう。

「実はそんな君を見込んで一つお願いしたいことがあるんだ」
「お願い?」
「ここから離れたある村で暴れてるワーグが一頭いるんだけど、それを俺と一緒に退治して欲しい」
「…いくらくれる?」

「おや、金が要るのかい?」
「当たり前だっ、何の得もなく無駄仕事をするほど俺は暇じゃねえんだっ!」
若者が意味ありげな笑みを見せる。
「損得勘定もせずに亡くなってしまった父親のようになりたくないから?」
「きさ――」

ガルシアが拳を振るうよりも先に、ピンッと自分に向けて飛ばされる一枚の金貨を彼はとっさに受け止める。
「な…これ、最高品質の金貨じゃ…っ」
「それは前金だよ。無事この件を片付けてくれたらさらに四枚出そう。これで来てくれるかい?」

暫くして、ガルシアは嫌そうな顔をしながらも渋々と頷いた。
「その約束、忘れるなよ」

――――――

「グルルルル…」
「あいつ…思ったよりもデカイな…」
村から少し離れた崖から、ガルシアと若者は崖の下でゆっくりと村に目がけて接近していくワーグを見下ろす。

「それじゃ予定どおり、ワーグがそこで設置した罠に嵌ったら、速攻で倒すよ。問題ないかい」
「いちいち聞くな、そのために俺を雇ったんだろうが」
「それもそうだね――」

「う、うわあああぁぁっ!なんだこいつ!」

いきなりの悲鳴にに二人が下を向くと、林の中から知らずに通り過ぎた男一人がワーグの手間で転倒していた。
「なっ、なんなんだっ?」
「服装から見て他のところから来た旅人だね。知らずにここを通ってしまっただろう」
良く見ると、男は懐に何かを抱えており、幼子らしき泣き声も聞こえる。

「お、おいっ、ガキまでいるじゃないかっ、早く助けないと――」
「いや、だめだな」
「はぁっ!?おまえ何言ってやがるっ!?」
「いま降りてしまうとせっかくの罠が台無しになるし、俺達二人であのワーグを倒すにはリスクが高すぎる」

「てめえっ、あいつを見捨てろと言いたいのかっ!?」
「損得勘定だよ。もし俺達の誰かが怪我をしてしまったら、その治療代で俺は君に残りの報酬を渡せなくなる。もしワーグが逃げてしまったら、今回の狩りは完全の無駄足になる。彼は村の人じゃないから、見捨てても特に問題ない。損なことはしない主義だろ?きみは」
「うっ…!」

「グルゥオオオォォ!」
「だ、誰か…っ、助けてくれ…!せめて、この子を…っ!」
獰猛に声を上げるワーグが男ににじり寄る。手を強く握り、歯軋り声を発しては迷うガルシアを、若者はただずっと見つめる。

「ガオッ!」
「ヒィッ!」
「―――っ! くそぉっ!」
我慢できずに下へと駆けるガルシアに、若者は小さく微笑んでは彼に続いた。

激しい戦いの末、傷を負いながらも、ガルシアと若者は勝利を収めては、ワーグの死体に倒れ込んでいた。
「ふぅ…間一髪だったなガルシア。ほら、傷薬だ」
息を上げながらも、さして傷になってない若者が袋を一つガルシアに投げた。

「後で村で本格的な治療もしないとね、君も、僕も。代金、少なく済めばいいんだけれど」
「ちっ…!それよりも、おいっ!お前、無事――」
襲われた男性に呼びかけるガルシアが目を大きく見開く。さっきまで腰抜けてた男性は何事もなく平然と立ち上がり、赤ん坊の声を出す玩具のようなものを懐から捨てた。

「アランご苦労さま。見事な演技だったよ」
若者が見知ったかのように男に声をかけるのを見て、ガルシアは全てを悟った。
「て、てめぇっ、俺を図ったのかっ!?」
「ああ。なかなか素直になれない君にちょっとした芝居をやったって訳さ」
「この…っ」

「次はこんな芝居なんて付き合いませんよエイダーン様。ワーグに引っ掛けられたとき、こっちがどれほど心配したか」
立ち上がって殴りかかろうとするガルシアの手が止まる。
「エイダーン…?どこかで聞いたことが…って、嘘だろ…っ、お前、第一皇子のエイダーン、様なのか…っ?」

若者が不敵な笑顔を見せる。
「…今は亡くなった俺の剣術指導の先生からのお願いでね。もし自分に何があったら、かわりに彼の面倒を見て欲しいってね。あの人が亡くなってから、俺はずっと君を見てきたんだ。ガルシア・ワーグナー」
エイダーンはいまだ呆然としたガルシアの前に屈んでは、手を差し出した。
「君には俺専属の騎士になって欲しい」
「――――はぁっ?」

ようやく我に返ったガルシアは、実に不満そうな顔を見せる。
「冗談じゃねえっ!よりによって騎士だとっ?絶対にお断りだね!」
「…君の父のようになりたくないからか?」
「へっ、皇子様は実によく調べてるようだな。そのとおりさっ、俺はオヤジのような損得勘定もできないアホ騎士にはなりたかねぇっ!損な役割ばかりの生き方なんざ真っ平ごめんだっ!」

「ふふ、ガルシア。君は二つ勘違いしている」
「なんだと…」
「まず、騎士になれと言うのはなにも君の父になれという意味ではない。そして、君は損な役割の生き方は嫌というが、違うんだよ。君はそもそも損得関係なく動くようにできているんだ」

「てめえ、この俺の何が分かる―――」
「分かるさ。さっきの酒場で、君が絡まれた女性を助けるためにわざとその三人に手を出したことや、アランを襲うワーグに飛び掛った様子からでも、ね」
「ぐっ…!」
「父の件でグレていても、君は自分の心にある、まだ認知してない信念に逆らえない、そういう男なんだよ」

今にも拳を振ろうするガルシアの前に、エイダーンの力強い手が差し出された。
「俺と一緒に来い、ガルシア。一緒に楽しいことを一杯しようじゃないか」
天真爛漫な子供のように輝いてそうなエイダーンの笑顔に、ガルシアはたじろいだ。

―――――――

「エイダーン…様。ハガネバチの巣の駆除が完了しました。村の被害への対処もアラン殿が殆ど対応しました」
「ああ、ご苦労様ガルシア。ハガネバチは数が増えると厄介だから、早期対処できて助かった。中々の手際だな」
「ご命令に従ったまでのことです」

「ははは、相変わらず固いなあ。俺の騎士になってからもう三ヶ月も経ってるのに」
「………」
「騎士となって何か感じることはあったかい。今ここは誰もいない、無礼講でいこうじゃないか」

「…正直、良く分からない。騎士になっても、他の奴らがよく言う騎士道というのは今だピンとこねえ。俺は、俺が好きなように任務をこなして―――」
「それだよガルシア」
「へ?」
「俺が君に言ってた真の騎士となる素質とういのは、正にいま君の言葉の中にあるんだ」

「それってどういう…」
「いいかいガルシア。真の騎士道ってのはな、いま世間が掲げる面倒くさい規律とかそういうものを指してるんじゃない。己が信ずる信念を貫くことにあると俺は思う」
「己が、信ずる信念…?」

「難しく考えることはないさ。この前のガランジャヘビの討伐、命令もしてないのに君は離れ巣の方も勝手に対処してくれたよね」
「それは、あそこは子供達の遊び場に近かったからついでで…」
「この前、帝都の離れに住んでる一家のために自分ひとりでこっそりとレイス退治もしただろ」
「う…」

「損得や規則とか関係ない、自分の心で助けるべきと感じたら助けるよう君はできている。その性分、気持ちこそが信念の雛形。それを自覚した人の選択によって確かな形を得るんだ。今の君はまだしっかりと形にしてないけどね」

「…やはり、良く分からん」
「そう急ぐこともない、これから俺と一緒にあちこち遊びまわれば、自ずとそれが見えてくるからな」
「…ったく、魔獣モンスター退治のどこが遊びなんだってんだ」
ガルシアの愚痴に、エイダーンはフフンと稚気に富んだ笑みを見せる。

「にしても良いのか。皇子がそんな、世間の騎士道が面倒臭いことなんか言って」
「ははは、だからさっきの話はアランには内緒にしてくれ。でないとまたあいつに四の五のと言われるからなあ」
エイダーンの豪快な笑顔に、ガルシアは初めて苦笑した。

「ガルシア、自分だけの騎士道を見つけろ。そしてそれが自分にとって命をかけるのに値すると思ったならば、最後までそれを貫き通せ。騎士としてではなく、俺とあんたとの約束だぞ」


******


「へえ~。そんなことがあったのですね」
エリネが軽く感嘆する。
「ふふ、今でもあの時のエイダーン陛下の笑顔を思い出すわい。まだ年も若く、既に勇猛さで名を馳せてる方なのに、妙に奥深い道理を並べおって。だがいつの間にか、ワシは陛下に剣を含んだ全てを捧げていたな。陛下が一方的に押し付けてきた約束も、今となっては自分を支える大事な出来ことの一つだ」

窓の外を眺めては感慨深そうに語るガルシア。
「苦しむ人々や子供達を見捨てられず、不義を見過ごせない。この気持ちを信じることを選択することでそれはワシの信念となり、これを最後まで貫き通せば、ワシとエイダーン様の約束を守れると思ってな」

少し感動したように頷くエリネ。ガルシアのことは勿論で、語られるエイダーンの人物像が、彼が語る騎士道の話から、ラナはやはりエイダーンとは親子だなと、密かに思った。

「…エイダーンは、あなたのだったんですね」
ウィルフレッドの唐突の一言にガルシアは困惑する。
「うむ?確かにあの時の陛下は皇子に違わないが…」
「あっ、ツバメのお話なんですね」
ウィルフレッドはエリネに頷く。

「そうです、ぐれた貴方に大事なことを教え、それで自分の信念を持ってこうして子供達を助けている…貴方は正に、あのお話に出てくるツバメじゃないかと」
最初になんのことやらという顔をしているガルシアは、昨日のお話を思い出して豪快に笑い出す。

「わははははは!これはまた中々面白い例えだ!確かに、陛下がいなかったらワシは間違いなく半端なお調子者のままでいてたのかもしれないなっ」
そんなガルシアを、エリネは勿論、ウィルフレッドは強い尊敬な眼差しを向けては微笑み、密かにツバメの首飾りに触れていた。

「むう、流石に日が山を越えてきたか」
窓の外の、遠い山脈と空の境界から朝日の光が室内を照らした。
「すまないなお二人さんとも、こんな老いぼれの話に付き合ってもらって。若いもんだからもう少し二人っきりの時間が欲しかったろうに」
「「え?」」
キョトンとした顔をする二人。

「ん?あんたたち付き合ってるのではないのか?」
「え…」「ええ~~ッ!?」
ガルシアの発言にさすがの二人も慌てふためく。普通に困惑しているウィルフレッドに対し、エリネの頬はサクランボのように赤い。

「違ったのか?昨日お嬢さんが彼からお土産もらって凄く嬉しそうな声してたから、ワシはてっきり…」
「いや、別にそういう訳では――」
「そ、そそそそうですよっ、私とウィルさんは別にそのような関係って訳ではないですっ」
ウィルフレッドの胸にチクりと妙な違和感を覚える。

「そ、そうか。ははは、言われてみれば確かにそうだ。お二人さんは恋人というより兄妹みたいな年齢――」
「年齢とかは関係ないですっ!」「キュウ~~~ッ!?」
ルルが驚いて跳び降りるほど、更にずいっと迫るエリネにさすがのガルシアもたじろいでしまい、ウィルフレッドも唖然として妙に迫力ある彼女に見とれる。

「か、関係ない、のか?つまりその、やはりお嬢さんは彼と一緒に――」
「えっ、あっ、いや、そのですね」
自分の行動に自分自身も驚くエリネの言葉を、さらに勢いよく開かれるドアが遮る。

「ガルシア様っ!」
「ひゃあっ!?」
慌てて入るメイドの叫び声にエリネがびくりとし、真っ赤な顔でガルシア達とともに彼女の方を向いた。

「いきなりどうしたリーザ?そんなに慌てて」
「そ、それが…」
驚きと緊張により荒い息遣いを落ち着かせるように一息吸いてから、リーザは続いた。
「子供たちが…寝室で寝ていた子供たちが全員いなくなりましたっ!」



【続く】
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