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第十一章 老兵とツバメ

老兵とツバメ 第五節

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ガルシアの館の会議室でラナ達は、ガルシアが見せてくれた現在の皇国内の情勢図を見ながらこれからのルートなどについて討論をしていた。
「――して、このヴェルサネスの平原で駐屯してルーネウスの侵攻を用意してたオズワルドの軍勢は、先日カレスとルシアが撹乱したばかりですからすぐにルーネウスに動くことはまずないでしょう」
「それは助かるわ。…にしてもあの二人、帝都から追放されたのは聞いたけど、やっぱり無事だったのね」

ラナの傍に立つレクスが問う。
「知り合いなのかい?」
「父上直属の近衛騎士よ。近衛騎士団長であるダグラスに見出されて、まだ若いのに皇族直属の騎士まで上り詰めた有能者たちね」
ミーナと一緒に会議に参加してるアイシャも頷く。
「聞いたことがあります。皇帝の双腕と呼ばれるほどの猛者で、お二人が率いる騎士隊はそこらの騎士団以上の実力を持ってると聞いてます」

「二人は皇帝を守りきれなかった罪として処置されるところだったが、ダグラス殿が肩代わりして投獄されたお陰で追放処分に留めたのですが、オズワルドめ、それが己の首を縛ることを知ったらさぞ悔しがるだろうなあ」
にかっと笑うガルシア。
「けど二人で牽制するには限度があるから、あまり無茶はさせられないわね」

粛々と話を進めるラナ達がいる会議室のすぐ隣の部屋、子供用の遊戯室で、エリネとカイは館のメイドと一緒に子供達の遊び相手をしていた。
「わあっ、ルルの毛って凄く気持ち良い…」「キュキュキュッ」
「あっ、あまり力入れずにもう少し優しく触ろうね」
「ねえお兄ちゃん、一緒に鬼ごっこやろーよー」
「いたたた、髪ひっぱんなって、こっちの子との積み木が終わってからな」

楽しそうに子供達と遊ぶ二人を、傍のソファに座ってるウィルフレッドが温かい視線で見守っていた。館に到着したばかりの時と同じく、彼に近寄って遊ぶ子供はいない。恐らく自分が他の人とどこが違う雰囲気を無意識に気付いてるのかもしれない。ギルバートの言葉が再び浮び、軽く彼の心を刺すも、子供達が笑顔であればそれで良いと彼は思った。

「ほらノアくん。熊さんも一緒に遊びたいですよ~」
ふと部屋の隅っこで、熊のぬいぐるみを持ったメイドにあやかされている男の子が彼の目を引いた。メイドがいくら話しかけても、その子は何も反応せず、ただ黙々と目の前の積み木を積んでは崩し、そしてまた積んでいく。その虚ろな目が気になったのか、ウィルフレッドはメイドの傍に移動する。

「この子、どうかしたのか?」
「ああ、この子はですね、両親を失くしたショックで口がきけなくなったのです」
「両親を?」
メイドは心を痛むように、いまだ無心に積み木をしているノアを見つめる。

「ノアくんは元々両親と村の離れに住んでいました。噂ではあの両親、重傷で意識不明の旅人を助けて看病をしていたんですが、その旅人が運悪く強盗だったようで、目が覚めると恩を仇に返して彼らを殺したんです。この子はその時ベッドの下に隠れて運よく見つからずに済んで、強盗はすぐに屋敷を出たそうだけど、それがショックであまり口を利かなくなって…。夜でもよく、悪魔となった強盗が両親を殺したとうなされて、ガルシア様もかなり心配しているんです」

ウィルフレッドは改めてノアを見る。意味もなく積み木の積み崩しを繰返すその光景に、自分の世界地球での記憶が、幼い頃に味わった孤独と古傷がいつものように胸を痛める、彼はそっとノアの頭を撫でる。ノアはやはり反応しない。なまじその理由を理解できる自分だからこそ、彼は口をつぐんでは何も言わずにただ優しく撫で続けた。

「ねえお姉ちゃん。何かお話して~お話聞きたい~」
一部子供がエリネに話をねだる。
「お話ね?いいわよっ。定番だけど女神と三勇者の話はどう?」
「う~んそれもう聞き飽きた~」
「ええと、じゃあ鉄心王子と太陽の姫君のお話とか…」
「昨日ガルシアおじさんが話したばかりだよ~」
「そ、そう?ええと…」

またいくつかの話しを挙げるも、全部聞いたばっかりで騒ぐ子供達。
「どうかしたのかエリー?」
それを見て気になって寄ってきたウィルフレッド。
「ウィルさん。その、この子たちに何か童話とかをしてあげたいですけど、どうやら大抵のお話しはもう聞いたそうで、何を話すのか困ってたんです」
「童話…」

ウィルフレッドはエリネや子供達の間に座る。子供達は彼が来るのを見ておずおずと一歩引くか、手元の玩具に視線を移るようになる。
「あ、みんな大丈夫よ。このお兄さんとても優しい人なんだから」
エリネがフォローしてもやはりどこか不安そうにウィルフレッドから少し離れる子供たち。

「大丈夫だエリー、別に気にしてないから」「でも…」
「キュキュッ」
邪魔するのは悪かったのかと離れようとするウィルフレッドにルルがその肩に乗って楽しそうに鳴く。

「あ…」
さっきからルルに触れたそうな女の子が少し残念そうに声を出し、それに気付いた彼はいつも以上に優しい笑顔でルルを腕に乗せてその子に差し出す。
「ほら、大丈夫、触ってごらん」「キュ~ッ」

女の子はおずおずと彼の手に乗ったルルの柔らかな毛並みを撫でるとようやく笑い出し、ウィルフレッドも釣られて笑うと、他の子供達もようやく警戒心を解いて彼に近づいた。
「ふふ、良かったですウィルさん」
「ルルのお陰さ。それにしても、童話か…」

ウィルフレッドは置かれたこの世界の童話の一冊を手に持つと、何人かの子供が彼に話しかける。
「オオカミさん。何かお話し聞かせてくれるの?」
「お、オオカミさん?」
「そーだよ。お兄ちゃんの髪の毛、オオカミさんそっくりだもの。てっきり森から僕達をさらいに来たと思った」

エリネが思わず軽く吹き出しては笑う。
「ふふふ、ウィルさんがオオカミさん…言われてみれば少しだけそんな雰囲気がするのかも」
ウィルフレッドは少し恥ずかしそうな顔をして口を手で覆う。
「オオカミさん、何かお話聞かせて」

コートの裾を掴む子供を見て、彼は手に持った童話本を見る。かつてアオトが楽しそうに自分のコレクションを見せる光景が蘇る。そういえば、童話とは本来子供に聞かせるものだったなと思い出した。

「…じゃあ…、ここの童話ではないが、スズの兵隊とかどうだろうか」
「スズの…」「兵隊?」
子供達だけでなく、エリネまでもが興味を示した。
「ああ、ある町に、片足のスズの兵隊がいて――」


******


「――皇国内の情勢は大体以上伝えたとおりです、ラナ様」
「なるほどね。今の情報を纏めると…エステラ王国へはやはりここ、我が国ヘリティアのカスパー町を経由したルートが一番ね。今の状況でこの町に行くのが残念だけど」

地図に描かれた一つの町を指差すラナの言葉にレクスは引っかかる。
「残念って、どこが残念なんだい?」
「ここはね、温泉があることでとても有名な観光名所なのよ」
「「温泉っ!?」」
レクスだけでなくアイシャまでもがその単語に驚愕し、ミーナも珍しくほほうと興味を示した。

「ヘリティア国内だとヘリティア式の温泉ですよねっ?浸かるだけで肌や健康に良く、豪華料理も付くあの…?」
「それと場所によっては混浴文化もあったりするあの…っ?」

大興奮するアイシャとレクスにラナは苦笑する。
「二人共いったい温泉にどんなイメージを抱いているのかは知らないけど、気持ちよく浸かれるものというのは間違いないわね。ちなみにこの町はヴイネー大河が流れていて、町の中では数多くの水路が交差し、多くの独特な渡り橋もあるから、ヘリティア皇国内でも有数な風光明媚の観光地として発展しているの」

ガルシアもまた補足する。
「毎年に数回の雨季を除けば気候も基本的に温和だから、皇国の退役した騎士や隠居貴族が静養する地として有名な町でもありますな」
興味深そうに手を口元に置くミーナ。
「ふむ、町自体の名前は前から何度か聞いているから気になるし、ヘリティア式の温泉はまだ未経験だから少し興味があるな」

「もう先生まで、私達は遊びに行くのではないのですよ」
「良いではないですかラナ様。この日程ならどうせ一晩はそこに過ごす必要があるのですから、息抜きに少しだけ、というのも悪くないと思いますぞ」
「まあそれは確かにそうだけど…ガルシアの方もそろそろ引退してそこに静養するのも良いと思うわよ?」
「ははははっ、残念ながら儂はまだまだ引退する気はないし、最後までここで子供達の面倒を見る方が性に合うのですからなあっ」

豪快に笑うガルシアにラナが苦笑すると、会議をくくった。
「とにかく、今日の会議はここまでね。ガルシア、後で手紙を渡すから手はずとおりに皇国の皆に送って。連合軍は明日パスカー町へ向かう用意を。あとレクス殿はあとでお仕置きね」
「なんでぇっ!?」
「あら、さっき下心みえみえな発言をもう忘れたの?貴方らしいわね?」
ラナの致命的な言葉の一撃がレクスに深く刺さる。
「ぐぅっ、その、反省します…」

冗談交じりの謝りをレクスがして笑う一同。
「ガルシアには申し訳ないわね。シルビアのことは任せっきりになるけど」
「心配ご無用。ラナ様の目的の方が何よりも大事ですし、先ほど言ったように、女狐一匹に遅れを取るワシでもないですぞっ」
「頼もしいわね。今回の件が落ち着いたら、また帝都に来てゆっくりとお話しましょう」

礼儀正しく一礼するアイシャ。
「ガルシア様、本当にありがとうございます。私達ルーネウスも、ことが終わってまた昔のようにヘリティアの皆様をご招待できたら、ぜひわが国へ遊びに来てくださいね」
「うむっ、他でもない王女様のお言葉だ。その時はこのガルシア、必ずお邪魔しにいきますぞ」
ガルシアもきちんと会釈すると、ラナ達は会議室を後にして隣の遊戯室へと向かった。

「子守をエリーちゃん達に押し付けてしまったけど、大丈夫だったかなあ…ってうおっ!?」
レクス達が室内へ入った途端、ガルシアも含めて目の前の光景に思わず瞠目する。室内の殆どの人達がウィルフレッドを囲んでおり、彼の傍にはエリネだけでなくカイまでもが、彼の話に夢中していた。
「これはいったいどうなっているのだ?」
「あっガルシアおじさん、しーっ、オオカミさん、今とても面白い話をしているのっ」

それを見てラナ達もまた、静かに彼が語る物語を聞いた。糸を金に変える悪魔のお話、魔法をかけられたハリネズミの男、天まで届く豆の木、アリババと40人の盗賊…。ウィルフレッドの口から語られるお話の数々に、レクス達もまた思わずにその世界に引き入られていく。

「――こうして笛吹き男に連れ去られた子供達を無事取り戻したハーメルン町の親達は、二度と約束を破るようなことはしなかった」
「おお~よかった~」「約束って大事だよね~」「うん、ほんと大事だよっ」
子供達やエリネ、カイが盛大な拍手をウィルフレッドに送る。

「ウィルさん凄いっ、色んな面白いお話知ってるのですねっ」
「ああっ、それになんだか俺達の世界でもありそうな話ってのが妙に親近感湧くよなっ。アラジンの魔法のランプとかがよ」

ふと背後からミーナの声がした。
「そうだな、しかも単純な童話だけでなく、寓話的な話もあってなかなか面白い。我らの世界の童話などとの類似性とか研究のしがいがありそうだな」

ウィルフレッドが後ろを振り向くと、そこは他の子どもと同じく興味津々としていたレクス達が立っていた。
「みんな…っ」
「あはは、ごめんウィルくん。なんか凄く賑やかで寄ってみたら、君の楽しいお話につい聞き入ってしまってね」

「ええっ、凄く面白かったですっ!眠り姫のお話とかすっごく聞き入ってしまいましたよっ、王子様のキスで目覚めるとか、凄くロマンチックですねっ」
アイシャのその感想に思わず赤面になるカイ。
「ほんと、戦い一筋の人だと思ったら、面白いお話結構知ってるのねウィルくんって」
「うむっ。一目で戦いに慣れてる若者だとは思ったが、まさか文学の造詣もある文武両道の方だったとは。ウィル殿でしたな。子供たちの相手、感謝するぞ」
「いや、俺は単に自分が好きなようにしただけですから…」

ラナ達の賛辞に思わず照れて口を手で覆うと、視線が自然と部屋の隅にメイドと一緒に座るノアを見る。未だに一人の世界で積み木をしてるままだが、さっきまでの話が少しでも彼の耳に届いて、楽しんでもらえればと密かに願った。

「ねえウィルさん、もっとお話し聞かせてください。私、もっと一杯ウィルさんの世界の童話を聞きたいですっ」
いまや子供達だけでなく、エリネ達までもが子供たちと一緒にお話しをねだるようになった。
「俺ももっと聞きたいよ兄貴っ」「ぼくもっ」「あたしも~っ」「私もぜひ聞きたいですっ」

「分かった、分かったから揺らさないでくれ」
かつてない盛況にウィルフレッドは子供達にコートを掴まれてせがまれる中、彼は苦笑しながらも次にどんな話しをすべきか考え込む。やがて当然のようにあの話に思いつき、彼は自分の首飾りに触れた。

「…それじゃ、次は『物好きなツバメ』の話しをしようか」
「物好きなツバメ…?」

子供たち、エリネとカイ達は、静かに彼の語る物語を聞く。遊び好きのツバメと、病に侵された王子との邂逅を。

王子のお願いをツバメは最初嫌がりながらも、段々と報酬も要らずに自分から進んで人を助けていく。ツバメは王子の財宝を貧しい人に分け、時には王子の短剣で悪魔を追い払い、何度も何度も人々を助けていった。例えそれら行為が、誰にも知らされていなくとも。

そして冬が近づき、王子が亡くなって仲間のところへ行きなさいと書かれた遺書を見ても、最後の最後まで離れず人助けを続け、寒さで衰弱したツバメは王子の亡骸に寄り添い、口づけして亡くなった。

二人の行いは終ぞ知られることはなかったが、王子とツバメの魂はやがて女神の元へと招かれ、永遠に祝福されたという。

この世界に合わせて少し内容を脚色したウィルフレッドが話し終わると、案の定、子供たちの泣き声が部屋中に響く。
「うええぇぇんっ、ツバメさんかわいそっ!」「王子さまもかわいそ、あんなに一杯人助けをしたのに…」
エリネやアイシャ達もまた他の子と同じように流す涙を拭く。
「うん、なんだかとても悲しい話よね…」「ええ…胸が凄く痛みます…」

そんな彼らとは逆にカイは少し不満そうな顔を浮かべていた。
「なんだか納得いかないなあ。別にツバメや王子に村人から感謝を求めろって訳でもないけどさあ、少しぐらい誰かに自分たちがしたことを知らせてもいいじゃないか」
「そういうのが嫌な人だって普通にいるのお兄ちゃん、シスターも似たようなことよくしてるんでしょ」
「そりゃまあそうだけどさ…」

ウィルフレッドは微笑し、子供の一人の頭を優しく撫でながら、かつてアオトが自分に語ったことを彼らに問いかけた。
「カイの感想は結構重要なポイントだ。なぜなら最後まで人助けを続けるツバメ達の動機こそが、このお話の一番重要なところだからな。君たちは何だと思う?」

その問いに最初はエリネが答えた。
「多分だけど、最初に人助けした時にツバメさんが見た王子様の笑顔に見入ったからだと思うの。シスターが人が助けられて知ったと安心した時の声の表情もとても素敵なものだったからっ」

子供たちも次々と考えを述べ始める。
「僕は美味しい食事のためっ」
「それは君だけだよっ、僕も王子さまの笑顔が素敵だったとツバメさんが思ったと思う~」
「ぼく、ちょっと分からないや…」

「なるほど、わざとその意図を明言せず人それぞれに解釈を持たせるタイプの話か」
ミーナが実に興味深そうに頷き、ワイワイと騒ぐ子供たちに続いてアイシャやレクス達にも討論に参加する。
「私は、ツバメさんは王子さまに恋をしてしまったのだと思いますね。この世界ハルフェンの狐の恩返しの童話みたいに」
「そうだね、僕なら、多分ツバメは人助けのことから楽しみを見出したのだと思うな。それがやがて、命さえもかけられると思えるぐらい確固な理念になった、とか」

ラナがレクスに微笑む。
「珍しく意見が合うわねレクス殿。もっと正確に言うと、そのツバメは最後の最後で手に入れたのよ。たとえ誰かに知られずとも、それに全てをかけられるほどの価値があるをね。そうでしょガルシア」

何か意図があるようにラナはガルシアに振り、彼はふっと小さく笑った。
「うむ、その通りですなラナ様。ツバメも王子も、きっとその信念に殉ずる覚悟を持っていたのでしょう。誇りを持って騎士道を守り抜いた騎士たちのように」
エリネは、ガルシアの言葉に含まれる複雑な表情が気になったが、それを問い質すことはしなかった。

そして論議に集中するウィルフレッド達は気づかなかった。今までずっと積み木に集中していたノアが、いつの間にかその手を止めて彼らの話に耳を傾いていたのを。

「う~ん、よくわかんないけど、こんなに面白い話をしてくれるオオカミさんはツバメさんだったの?」
「オオカミさん?」
困惑するミーナ。
「兄貴の髪、ぼさぼさしてて狼に似てるんだってさ」
カイが説明すると、ラナやアイシャ達がプフッと笑い、ウィルフレッドはまた照れては口を手で隠す。

「だめだよ、本当にツバメさんだったら、オオカミさん死んでしまうよっ」
ウィルフレッドの心臓が強く弾いて、目を見開いた。
「でもオオカミさん、全然怖くないからやっぱツバメさんじゃない?」
「じゃあお兄ちゃんは優しいオオカミさんっ!これで決まり!」
「そうだねっ!ありがと優しいオオカミさんっ!」「ツバメさんだよっ!」「オオカミさん毛触らせて~っ!」

無邪気な子供たちがワッとウィルフレッドにしがみつき、そのボサボサとした髪に突っ込んでは楽しそうにはしゃいだ。新しい玩具と化したウィルフレッドはレクスやエリネ達に助けを求めるように視線を送る。
「ちょっ、一気にしがみつかないでくれ…っ」
「あははは、良かったねウィルくん、大人気じゃん」
「うん、ウィルさん可愛いっ」

「これこれ、ウィル殿をあまり困らせる出ない」
ガルシアが制止するも、タガが外れた子供達を止められるはずもなく、ウィルフレッドは大波に飲まれこもうとしていた。
「仕方ないな…騎士全員っ!集合っ!」

ガルシアの号令を聞いたとたん、子供達は騒ぎながら整列していく。
「騎士原則第一条!」
「「「毎朝毎食毎晩はみがきかおあらいっ!ほこりあれ~っ!」」」
「第二条!」
「「「ひとさまにめいわくをかけな~い!」」」

「そのとおりっ、ウィル殿はもう十分お話しをしたし、そろそろお疲れだからこれ以上迷惑をかけないように。…狼さんも昼寝は必要だからな」
「「「は~い!」」」
さながら小さな騎士団かのように元気に答える子供達と、それを指揮してるようなガルシアにアイシャが微笑む。

「凄いですガルシア様っ、とてもよく躾けをしてますね」
「いやはや、アイシャ様や皆様に見苦しいところを。孤児となった子供が多いだけに、彼らが道を違えないように色々と教えたつもりだが、ワシのような老いぼれだとどうしてもこのような堅苦しい感じになってしまうのが困りものよ」
「そんなことないですよ。ここの子達の声の表情、どれも活気に溢れて元気一杯で凄く素敵だと思いますからっ」
エリネの言葉にガルシアが豪快に笑い出す。
「わははははっ!ありがとうお嬢さんっ、そう言ってくれるのは騎士冥利に尽きるものですなあっ」

先ほどのガルシアの言葉に、ウィルフレッドは思い出す。ストリートの隅にある小さなアパート、自分を育てたあの老婆のこと。それが目の前のガルシアと子供達との姿と重なり、胸にじわりと温かみが湧き上がっては、ガルシアを懐かしい目で見つめていた。



【続く】

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