80 / 207
第九章 遠き日の約束
遠き日の約束 第八節
しおりを挟む
「オズワルド殿」
夜も深くなった帝都ダリウスの自室の外から、ラナと瓜二つの声が響く。
「ラナ様か、どうぞ」
宮内用のドレスを着た偽ラナが部屋へと入り、一度外を確認し、ドアを閉じてもう一度周りを確認すると、深々と頭を下げて丁寧に報告する。
「オズワルド様。さきほどオーデルめがラナ達に敗れたとの報告が入りました」
「そうか」
特に驚くこともなく、失望した素振りも見せずに、オズワルドはグラスを傾ける。ワインの芳醇な味と匂いが喉と舌を潤う。
「…ワインは奥深い。熟成するための時間がなければ至高の味を引き出せず、かと言って放置しすぎては乾いたマズイ味になる」
「と、仰いますと?」
「今はまだ飲み頃ではなかったということだ」
また一口ワインを飲み、目の前の魔晶石の照明の揺らぎを見つめるオズワルド。
「他には?」
「ガルシアの件についてはシルビアに既に伝え済みで、近日中動くかと思われます」
「分かった」
淡々と相槌するオズワルドがグラスを置き、偽ラナの方を見た。
「君には苦労をかけるな、メディナ」
無表情な顔。抑揚のない事務的な労いの言葉。だがその一言は、偽ラナ――メディナにとっては皇帝の賛辞以上の言葉のようで、その表情には感激の念で満たされていた。
「いえ、全てはオズワルド様のためであれば」
「そうか。もう下がって良い」
「かしこまりました」
礼儀正しく一礼すると、メディナはオズワルドの自室から退出する。グラスの縁を指で暫くなぞると、またワインを注いではその香りを満喫するオズワルド。魔晶石の照明がまた小さく揺らぎ、無表情のオズワルドの顔に影の表情を作らせた。
******
ヌトの残骸での回収と処理作業を終え、これからの道のりの会議も済ませては、キャンプ地内の喧々とした声も徐々に落ち着いてきた頃。空に浮ぶ月の明かりに照らされ、雨上がりの大地はまるで真珠をばら撒かれたかのように輝く。
そんな景色を俯瞰できるやや離れた丘の上で、ラナは木に身をもたせながらエリネが淹れてくれた温かい紅茶を飲んではそれを眺めた。今まで自分の気持ちを管理するよう、父エイダーンと母ヒルデのことを極力考えないようにしていたが、今日の様々な出来事でようやくそれに向き合うこととなった。
(((それでは父上、母上、出発致します。戻るまでどうかお体には気を配ってくださいね)))
(((ええ、いってらっしゃい。戻ったらまた久々に離宮でお茶会でも開きましょう)))
(((そうだな。ついでに今回の旅で、お気に入りの相手でも連れて帰ればいいのだが)))
(((ふふ、相変わらずね父上。ご心配なく、皇女の務めとして、父上に勝てるぐらいしっかりした配偶者を見つけて見せますよ)))
(((わははははっ!そんな条件では一生見つけられそうにないではないかっ)))
(((もう二人とも、早く孫を見たい私の気持ちも考えてくださいね?)))
ふと一筋の涙が頬に流れる。もうそれを抑えることはしない。確かに皇女として、巫女として弱みを他人に見せてはいけない。けれど一人の時だけは、追悼の涙ぐらい流しても良いと思うようになった。やがて彼女はそっと目を閉じて、未だ安否を知らない母の無事を女神に祈り、偲んだ。
「ここにいたんだねラナ様」
声からして数秒置いてから、後ろからレクスが姿を見せた。自分が涙を拭く時間があるように配慮したのだろう。
「まだ寝てなかったのレクス殿」
「治ったばかりの体がまだ少し火照ってね。ちょっと夜風に当たりたくて」
懐から防水シーツを取り出しては地面に敷くレクス。
「どうぞ。座りながらの方がリラックスできるよ」
「ありがとう」
二人は隣り合って座り、それに応じるかのように心地良いそよ風が吹く。
「…ねえレクス殿。貴方、今までずっと猫被ってたんでしょ?」
「へ、どういうこと?」
「こうしてわざととぼけてることよ。教団兵の三人を切り倒したあの剣捌き、特に最後の一刺し。あの状況で敵の防具の隙間を縫って倒すだなんて、手練れの剣士でもできる人はそうそういないわ」
「あ~あれね。買い被りですよ。あん時は単にラナ様を助けたい一心で、まぐれに当たっただけんあんですから」
いつものようなにへらな顔でごまかすレクスにラナは苦笑する。
「そういう態度も、自分の実力を隠すための演技ってことね。ほんとまんまと騙されたわ。似たような感じで自分を隠す人は結構見てきたはずなんだけど。なぜ貴方のことは気付かなかったんでしょうね?」
意味ありげに言うラナに、レクスはやはりいつもの笑顔を浮んで答える。
「そりゃきっと、僕が元からこういうおちゃらけな性格だからさ」
「よく言うわよ。…まあ良いわ。それが半分、私を紛らわすためのものだしね」
「あれま、気付きましたか」
「寧ろ気付かないと思ってたの?」
「いや、ラナ様だったら流石に気付くよね」
悪事を暴かれても悪びれない子供のように笑うレクス。
「だって前にも言ったでしょ。僕は堅苦しい雰囲気というのは苦手だし、ラナ様はいつもツーンとしかめっ面っぽくしているから、もう少し貴方が気楽になれるよう配慮してたんですよ」
「余計なお世話よ。まったく、そういう所は本当に変わってないわね」
懐かしそうに語るラナにレクスの表情が少し引き締める。
「あれって確か、エイダーン皇帝が主催した各国貴族との親睦舞踏会の時だったよね」
「ええ。あの日は新築の離宮ヘリヴェリアで開催されたものだから、つい護衛とはぐれてしまって迷子になってたの」
「そして花園に座り込んでたのを僕が見つけたって訳だね」
「そうよ。舞踏会は数日間開催されてたけど、結構楽しかったわ。一緒で衛兵にイタズラしたことも、それで叱れても今みたいに腑抜けた態度でごまかす貴方もね」
「あはは、確かエイダーン様にも笑われてたっけ。色んな意味で大物になれるって」
かつての思い出を歓談する二人。
「…エイダーン様のことはおぼろげだけど、大きな体で強面な外見に反して、優しくて逞しい人だと覚えてるよ」
「そう言ってくれてありがとう。慰めだけのお世辞でも嬉しいわ」
「別にお世辞じゃなく本当にそう思ってたんだよ。全部思い出したお陰でね。まあ、その…今までラナ様のこと忘れてたのは本当に悪かったよよあああいたあぁあっ!」
ラナ得意のつねり攻撃がレクスを捉えた。
「ほんっとうに、あの時あんなに立派そうに胸を張って頼りにしていいと言ったのに、ずっと覚えてた私がバカみたいだわ」
「いででででっ!だって仕方ないもんっ!まだ子供だったしっ、その後色んなことがあったからさっ」
「色んなこと?」
解放されたレクスが頬を小さくさする。
「舞踏会が終わって、父さんと一緒にレタ領に戻ってからのことなんだけど、母さんが亡くなってたんだ」
「モニカ殿が?」
レクスが空を仰ぐように倒れ込む。
「ラナ様は、ルーネウス王族のオーレアン家の醜聞は聞いたことある?」
「確か芸術界と社交界両方に深い繋がりを持ち、ロバルト王の叔父にあたる家系で、遺産問題で三人の姉妹達が争ってた話だったわね。何でも正統の相続者だった長女ヴィヴィアンは魔晶石不当密売の不祥事で捕まり、次女モリーは男性とのふしだらな関係が発覚して、いつの間にか姿を消し、最終的には三女のメリッサが相続したことになったけど。…まさか」
「モリーは母さんの古い名前さ。あのことを忘れるために、父さんと結婚した際に名前を変えてたんだ」
いつものお調子な口調もなくなり、彼は真剣に語る。
「メリッサは最年少でありながらなかなか悪辣でね、姉のヴィヴィアンに濡れ衣を着させて投獄させ、あらぬ噂をばら撒いて母さんの退路を断ててから始末しようとしただそうだ。それで行き場をなくした母さんを、舞踏会で一面の縁があった父さんが自分の領地で保護するように提案したんだ。自分は下級貴族で辺境の領主だから目立たないし、新しい生活するには都合が良いって」
「それで、名前も変えて保護生活をしている内に恋に落ちたってこと?ロムネス殿らしいわね」
「普通ならそのままハッピーエンドになるはずなんだけどねぇ」
レクスが小さく苦笑する。
「何かあったの?」
「ラナ様と出会ってレタに戻ったら、母さんが病で倒れてたんだ。これが中々の奇病で治療法も殆どなくてさ、程なくして他界してしまった。で、この病気をどこで患ってしまったのか調べたら、それが農民からの献上品のリンゴが原因だと分かったんだよ。しかも妙なことに、あれは僕と父さんが出掛けて程なくして贈られたものなんだ」
「それって…」
「うん、メリッサは凄く神経質な女でね、名前を変えた母さんがレタのオーレアン家にいるのを突き止めて、後顧の憂いを断つようタイミングを見計らって毒殺したんだ」
ラナは静かに耳を傾ける。
「それを知った父さんはすぐに証拠を揃えてロバルト王や貴族達の前でメリッサを訴えたさ。だけどメリッサは認めるどころか、不埒な関係の噂の相手が他ならぬ父さんであり、二人が共謀してオーレアン家の財産を狙ってると逆に非難してきた。結局メリッサを告発どころが、母さんはふしだらな女としての醜名を負い、父さんも危うく姦者の汚名を背負うところだったよ」
「辺境貴族に過ぎないロムネス殿だけじゃ、オーレアン家の勢力に対抗するのは難しそうね」
「まあね。ロバルト王は当時王都での軍事改革や北方での戦いに気を取られて調査は他の人達に任せっきりだったし、殆どの貴族はオーレアン家の勢力を恐れて父さんや母さんを味方する人は誰もいなかった。最終的にメリッサの数々の悪行が暴かれて取り押さえられ、母の汚名を返上できたのは随分後のことだったよ」
「そんな事情が…オーレアン家の話は耳にしたことあるけど、ロムネス殿やモニカ殿が当事者でもあったことは知らなかったわ」
「父さんの希望で自分達が関わったことを消して欲しいとお願いしたんだ。これ以上母さんに恥をかかせたくないって」
小さくため息してから、少し眉を寄せるレクスは語り続ける。
「だから僕は、王族や貴族達のことに嫌気がさしたんだ。本来なら傍系のことを本人が調査すべきロバルト王への不満もあるし、体面だけを重視し、本当は自分たちも愛人とか作ってるくせに、母さんだけをふしだらと認定する貴族達のことにもさ。ロバルト王が忙しい理由も一応は理解してるけど、気持ち的にどうしても…ね」
「それで皇国と開戦時の召集に応じなかったのね」
「それもあるけど…あの時は喧嘩したばかりの父さんと死別したばかりだから、それが相まって領土から出る気がなかったんだよ」
「喧嘩?ロムネス殿と?」
「父さんは母さんの件以来、いま自分の力を固めようと社交界や財政界へ勢力を拡張するよう躍起してたんだ。それこそ一ヶ月中殆どレタにいない日もあってね。自分に力があれば、母さんの名誉を…またはその命をも守れたと思い込んでると思う。僕はそんな父さんが嫌だったんだ。それじゃ闘争のために母さんを手助けしなかった貴族たちと同じって感じがしたから」
(((父さん。今年のヘリティア親睦使節団の一員に選ばれたって?)))
(((ああ。タークス伯爵の推薦でな。これで王都におけるレタ領の発言力も更に高くなる)))
(((ふうん。まあ、おめでとうとだけ言っておくよ)))
(((…レクス、君もそろそろ将来のことを考えてもう少し真面目に社交界で顔を出すべきとは思わないのか?)))
(((それで?母さんを侮辱した連中みたいになれと?)))
(((っ、レクス…)))
(((そんな連中を仕返しするために、連中と同じようになるのは真っ平ごめんだよ。面倒くさいし)))
(((レクス、私は別にそのために――)))
(((違わないよ。母さんも可哀相だ、生臭い闘争に巻き込まれ、その夫までもそんな人達みたいになろうとしてるんだから)))
(((レクスっ!)))
(((…ごめん、ちょっと言い過ぎた)))
(((別にいい。…戻ったらこの件についてもう少し話そう)))
(((そう、だね)))
起き上がって、いつの間にか頬に流れる涙を拭くレクス。
「あのことは今でも後悔しているよ。本当はもっと前から、母さんについて父さんとゆっくり話すべきだとね。それがまさか今生の別れになるだなんて…。だからラナ様たちと出会うまでは領地でだらだらと半隠居生活をしてたって訳」
「お互い色々と苦労してたのね。親のことで」
今までにない優しい口調。本来ならもう少し厳しい対応をしてたかも知れないが、親を亡くした痛みを、今のラナは十分に理解している。レクスは小さく微笑みながらそんな彼女を見据える。
「んで、その時だったよ。僕の前にとても立派な皇女様が来てさ、同じく父さんを亡くしたばかりなのに凄くしっかりしていて、自堕落な僕にはとても眩しく見えたんだ。ちょいと意地悪なところもあるけど、彼女が自分を叱ってくれなかったら、きっと今でもレタでダラダラしてたと思うから、とても感謝しているよ」
感慨深く自分見つめるレクスとその言葉に、ラナは小さく苦笑する。
「これで私のことを忘れてなかったから良い美談で終われそうなのにね」
「なはは、そこは勘弁してくれると嬉しいなあ」
いつもの笑顔でごまかすレクス。
「…ねえラナ様。前にも聞いてたけど、君は本当に僕に会うためだけにレタまで来たの?」
木に背を持たせて星空を見上げるラナ。
「さすがにそこまで酔狂ではないわ。ロムネス殿の人柄は元から知ってたし、少し回り道になるけど辺境で戦線から遠いという比較的安全という合理的な理由もちゃんとあった」
そうは言うが、ラナは目を閉じてフフッと小さく笑う。
「…でも、そうね、本心では、唯一自分の素をさらけ出せた男の子が、果たして昔のように頼れる人なのかどうか確認したかったのかも。それがまさか自分のことは忘れるし、妙にだらしなかったから散々だったわ」
「あはは…それは本当に申し訳ないです」
不満そうなラナにレクスが苦笑する。
「だけど同時に安心したのも本当よ。私のことを忘れても、兵士達への気配りはちゃんとしてるし、ふざけて見えても、そこには思いやりが隠されてるのは昔と変わらなかったからね」
艶やかなラナの笑顔に、レクスも心からの笑顔を見せる。
「僕だってそうだよ。自分を無理強いては泣いてたあの子が、こんなに強く綺麗で凛々しい女性に育ってたなんてさ」
「自分を忘れた人に言われてもあまり嬉しくないけど」
愚痴の割りには口元は笑っていたラナ。レクスがごまかすように頭を掻く。
「やっぱよほど怒ってるんだねラナ様。僕が君を忘れたこと」
「当然よ。女性との約束を忘れるだなんて、吊るされても文句言えないぐらいの大罪でしょ」
「ははは、仰るとおりで。でも、もう心配いらないよラナ様」
レクスの手がラナの手と重なり、その真剣な眼差しは美しい碧色を堪えたラナの目をみつめる。
「あの時約束したとおり、今まで忘れた分まで全力でラナ様を助けるよ」
「レクス殿…」
二人の手から互いの体温が流れ、レクスはゆっくりと顔をラナに寄せる。
「辛いときは僕に発散して良いし、助けが必要なときは、僕が必ず君の側で支えてあげる。もう、君を忘れたりなんか、しないから――」
そよ風が優しく木々を撫でる声が言葉を遮る。波のように靡く髪でより艶やかを増したラナの桜色の唇に、レクスが唇を近づけ―――――ラナの強烈なつねり攻撃が彼の頬に炸裂する。
「あだだだだだだぁ~~~~っ!」
「ちょっと、どさくさに紛れて何しようとしてるの?」
「だっでぇ今はおだがい綺麗なキスをする雰囲気ぃいいつつつっ!」
「貴方ねえ、さんざん人のこと忘れてた癖に、この短い語りだけでそれが全部帳消しできると思ってたわけ?お仕置き、まだ全然足りてないようね」
「いででででっ!ギブっ!ギブゥゥゥ!」
ようやくレクスを解放したラナが得意げに笑う。
「本当に悪かったと思ってるのなら、これからはしっかりと私の愚痴や気持ちを受けとめてもらうわ。司令官の精神ケアも、軍師殿の重要な役目でしょ?」
頬をさするレクス。
「あはは、正にその通りだよ。これからも全身全霊でサポート致します。ラナ様」
「ちゃん」
「え?」
「今は二人きりでしょ。なら昔のように、ちゃん付けで呼んで構わないから。その方が私、リラックスできるからね。レンくん」
自分のあだ名を呼ばれ、レクスが満面の笑顔を浮かべては、少し大袈裟に一礼する。
「仰せのとおりに、ラナちゃん」
「大変よろしい。でも覚えておきなさい。他人がいる場合は絶対にそう呼んではいけないからね。でないとただでは済まさないから」
「了解。僕としても、ラナちゃんとのそういう関係を他の人には見せたくないしさ」
「ふふ、ならそうならないよう。しっかりがんばりなさい」
二人が笑い合うと、ラナが頭をレクスの肩に寄せた。
「さっそく仕事よ。今日は色々と疲れたから、疲れが取れるようしっかりと労いなさい」
普段の皇女としての、巫女としてのものではない愛らしい笑顔を浮かべるラナ。レクスもまた、冗談じみた笑顔でない、ありのままの笑みをしては同じく頭を寄せて囁く。
「どうぞ好きなだけくつろいでください。ラナちゃん」
互いの仮面をはずし、雨上がり後の爽やかな風と木々の揺らぎの中で、二人だけの時間を満喫する。かつて笑いながら過ごしたあの夜のように。
【第九章終わり 第十章へ続く】
夜も深くなった帝都ダリウスの自室の外から、ラナと瓜二つの声が響く。
「ラナ様か、どうぞ」
宮内用のドレスを着た偽ラナが部屋へと入り、一度外を確認し、ドアを閉じてもう一度周りを確認すると、深々と頭を下げて丁寧に報告する。
「オズワルド様。さきほどオーデルめがラナ達に敗れたとの報告が入りました」
「そうか」
特に驚くこともなく、失望した素振りも見せずに、オズワルドはグラスを傾ける。ワインの芳醇な味と匂いが喉と舌を潤う。
「…ワインは奥深い。熟成するための時間がなければ至高の味を引き出せず、かと言って放置しすぎては乾いたマズイ味になる」
「と、仰いますと?」
「今はまだ飲み頃ではなかったということだ」
また一口ワインを飲み、目の前の魔晶石の照明の揺らぎを見つめるオズワルド。
「他には?」
「ガルシアの件についてはシルビアに既に伝え済みで、近日中動くかと思われます」
「分かった」
淡々と相槌するオズワルドがグラスを置き、偽ラナの方を見た。
「君には苦労をかけるな、メディナ」
無表情な顔。抑揚のない事務的な労いの言葉。だがその一言は、偽ラナ――メディナにとっては皇帝の賛辞以上の言葉のようで、その表情には感激の念で満たされていた。
「いえ、全てはオズワルド様のためであれば」
「そうか。もう下がって良い」
「かしこまりました」
礼儀正しく一礼すると、メディナはオズワルドの自室から退出する。グラスの縁を指で暫くなぞると、またワインを注いではその香りを満喫するオズワルド。魔晶石の照明がまた小さく揺らぎ、無表情のオズワルドの顔に影の表情を作らせた。
******
ヌトの残骸での回収と処理作業を終え、これからの道のりの会議も済ませては、キャンプ地内の喧々とした声も徐々に落ち着いてきた頃。空に浮ぶ月の明かりに照らされ、雨上がりの大地はまるで真珠をばら撒かれたかのように輝く。
そんな景色を俯瞰できるやや離れた丘の上で、ラナは木に身をもたせながらエリネが淹れてくれた温かい紅茶を飲んではそれを眺めた。今まで自分の気持ちを管理するよう、父エイダーンと母ヒルデのことを極力考えないようにしていたが、今日の様々な出来事でようやくそれに向き合うこととなった。
(((それでは父上、母上、出発致します。戻るまでどうかお体には気を配ってくださいね)))
(((ええ、いってらっしゃい。戻ったらまた久々に離宮でお茶会でも開きましょう)))
(((そうだな。ついでに今回の旅で、お気に入りの相手でも連れて帰ればいいのだが)))
(((ふふ、相変わらずね父上。ご心配なく、皇女の務めとして、父上に勝てるぐらいしっかりした配偶者を見つけて見せますよ)))
(((わははははっ!そんな条件では一生見つけられそうにないではないかっ)))
(((もう二人とも、早く孫を見たい私の気持ちも考えてくださいね?)))
ふと一筋の涙が頬に流れる。もうそれを抑えることはしない。確かに皇女として、巫女として弱みを他人に見せてはいけない。けれど一人の時だけは、追悼の涙ぐらい流しても良いと思うようになった。やがて彼女はそっと目を閉じて、未だ安否を知らない母の無事を女神に祈り、偲んだ。
「ここにいたんだねラナ様」
声からして数秒置いてから、後ろからレクスが姿を見せた。自分が涙を拭く時間があるように配慮したのだろう。
「まだ寝てなかったのレクス殿」
「治ったばかりの体がまだ少し火照ってね。ちょっと夜風に当たりたくて」
懐から防水シーツを取り出しては地面に敷くレクス。
「どうぞ。座りながらの方がリラックスできるよ」
「ありがとう」
二人は隣り合って座り、それに応じるかのように心地良いそよ風が吹く。
「…ねえレクス殿。貴方、今までずっと猫被ってたんでしょ?」
「へ、どういうこと?」
「こうしてわざととぼけてることよ。教団兵の三人を切り倒したあの剣捌き、特に最後の一刺し。あの状況で敵の防具の隙間を縫って倒すだなんて、手練れの剣士でもできる人はそうそういないわ」
「あ~あれね。買い被りですよ。あん時は単にラナ様を助けたい一心で、まぐれに当たっただけんあんですから」
いつものようなにへらな顔でごまかすレクスにラナは苦笑する。
「そういう態度も、自分の実力を隠すための演技ってことね。ほんとまんまと騙されたわ。似たような感じで自分を隠す人は結構見てきたはずなんだけど。なぜ貴方のことは気付かなかったんでしょうね?」
意味ありげに言うラナに、レクスはやはりいつもの笑顔を浮んで答える。
「そりゃきっと、僕が元からこういうおちゃらけな性格だからさ」
「よく言うわよ。…まあ良いわ。それが半分、私を紛らわすためのものだしね」
「あれま、気付きましたか」
「寧ろ気付かないと思ってたの?」
「いや、ラナ様だったら流石に気付くよね」
悪事を暴かれても悪びれない子供のように笑うレクス。
「だって前にも言ったでしょ。僕は堅苦しい雰囲気というのは苦手だし、ラナ様はいつもツーンとしかめっ面っぽくしているから、もう少し貴方が気楽になれるよう配慮してたんですよ」
「余計なお世話よ。まったく、そういう所は本当に変わってないわね」
懐かしそうに語るラナにレクスの表情が少し引き締める。
「あれって確か、エイダーン皇帝が主催した各国貴族との親睦舞踏会の時だったよね」
「ええ。あの日は新築の離宮ヘリヴェリアで開催されたものだから、つい護衛とはぐれてしまって迷子になってたの」
「そして花園に座り込んでたのを僕が見つけたって訳だね」
「そうよ。舞踏会は数日間開催されてたけど、結構楽しかったわ。一緒で衛兵にイタズラしたことも、それで叱れても今みたいに腑抜けた態度でごまかす貴方もね」
「あはは、確かエイダーン様にも笑われてたっけ。色んな意味で大物になれるって」
かつての思い出を歓談する二人。
「…エイダーン様のことはおぼろげだけど、大きな体で強面な外見に反して、優しくて逞しい人だと覚えてるよ」
「そう言ってくれてありがとう。慰めだけのお世辞でも嬉しいわ」
「別にお世辞じゃなく本当にそう思ってたんだよ。全部思い出したお陰でね。まあ、その…今までラナ様のこと忘れてたのは本当に悪かったよよあああいたあぁあっ!」
ラナ得意のつねり攻撃がレクスを捉えた。
「ほんっとうに、あの時あんなに立派そうに胸を張って頼りにしていいと言ったのに、ずっと覚えてた私がバカみたいだわ」
「いででででっ!だって仕方ないもんっ!まだ子供だったしっ、その後色んなことがあったからさっ」
「色んなこと?」
解放されたレクスが頬を小さくさする。
「舞踏会が終わって、父さんと一緒にレタ領に戻ってからのことなんだけど、母さんが亡くなってたんだ」
「モニカ殿が?」
レクスが空を仰ぐように倒れ込む。
「ラナ様は、ルーネウス王族のオーレアン家の醜聞は聞いたことある?」
「確か芸術界と社交界両方に深い繋がりを持ち、ロバルト王の叔父にあたる家系で、遺産問題で三人の姉妹達が争ってた話だったわね。何でも正統の相続者だった長女ヴィヴィアンは魔晶石不当密売の不祥事で捕まり、次女モリーは男性とのふしだらな関係が発覚して、いつの間にか姿を消し、最終的には三女のメリッサが相続したことになったけど。…まさか」
「モリーは母さんの古い名前さ。あのことを忘れるために、父さんと結婚した際に名前を変えてたんだ」
いつものお調子な口調もなくなり、彼は真剣に語る。
「メリッサは最年少でありながらなかなか悪辣でね、姉のヴィヴィアンに濡れ衣を着させて投獄させ、あらぬ噂をばら撒いて母さんの退路を断ててから始末しようとしただそうだ。それで行き場をなくした母さんを、舞踏会で一面の縁があった父さんが自分の領地で保護するように提案したんだ。自分は下級貴族で辺境の領主だから目立たないし、新しい生活するには都合が良いって」
「それで、名前も変えて保護生活をしている内に恋に落ちたってこと?ロムネス殿らしいわね」
「普通ならそのままハッピーエンドになるはずなんだけどねぇ」
レクスが小さく苦笑する。
「何かあったの?」
「ラナ様と出会ってレタに戻ったら、母さんが病で倒れてたんだ。これが中々の奇病で治療法も殆どなくてさ、程なくして他界してしまった。で、この病気をどこで患ってしまったのか調べたら、それが農民からの献上品のリンゴが原因だと分かったんだよ。しかも妙なことに、あれは僕と父さんが出掛けて程なくして贈られたものなんだ」
「それって…」
「うん、メリッサは凄く神経質な女でね、名前を変えた母さんがレタのオーレアン家にいるのを突き止めて、後顧の憂いを断つようタイミングを見計らって毒殺したんだ」
ラナは静かに耳を傾ける。
「それを知った父さんはすぐに証拠を揃えてロバルト王や貴族達の前でメリッサを訴えたさ。だけどメリッサは認めるどころか、不埒な関係の噂の相手が他ならぬ父さんであり、二人が共謀してオーレアン家の財産を狙ってると逆に非難してきた。結局メリッサを告発どころが、母さんはふしだらな女としての醜名を負い、父さんも危うく姦者の汚名を背負うところだったよ」
「辺境貴族に過ぎないロムネス殿だけじゃ、オーレアン家の勢力に対抗するのは難しそうね」
「まあね。ロバルト王は当時王都での軍事改革や北方での戦いに気を取られて調査は他の人達に任せっきりだったし、殆どの貴族はオーレアン家の勢力を恐れて父さんや母さんを味方する人は誰もいなかった。最終的にメリッサの数々の悪行が暴かれて取り押さえられ、母の汚名を返上できたのは随分後のことだったよ」
「そんな事情が…オーレアン家の話は耳にしたことあるけど、ロムネス殿やモニカ殿が当事者でもあったことは知らなかったわ」
「父さんの希望で自分達が関わったことを消して欲しいとお願いしたんだ。これ以上母さんに恥をかかせたくないって」
小さくため息してから、少し眉を寄せるレクスは語り続ける。
「だから僕は、王族や貴族達のことに嫌気がさしたんだ。本来なら傍系のことを本人が調査すべきロバルト王への不満もあるし、体面だけを重視し、本当は自分たちも愛人とか作ってるくせに、母さんだけをふしだらと認定する貴族達のことにもさ。ロバルト王が忙しい理由も一応は理解してるけど、気持ち的にどうしても…ね」
「それで皇国と開戦時の召集に応じなかったのね」
「それもあるけど…あの時は喧嘩したばかりの父さんと死別したばかりだから、それが相まって領土から出る気がなかったんだよ」
「喧嘩?ロムネス殿と?」
「父さんは母さんの件以来、いま自分の力を固めようと社交界や財政界へ勢力を拡張するよう躍起してたんだ。それこそ一ヶ月中殆どレタにいない日もあってね。自分に力があれば、母さんの名誉を…またはその命をも守れたと思い込んでると思う。僕はそんな父さんが嫌だったんだ。それじゃ闘争のために母さんを手助けしなかった貴族たちと同じって感じがしたから」
(((父さん。今年のヘリティア親睦使節団の一員に選ばれたって?)))
(((ああ。タークス伯爵の推薦でな。これで王都におけるレタ領の発言力も更に高くなる)))
(((ふうん。まあ、おめでとうとだけ言っておくよ)))
(((…レクス、君もそろそろ将来のことを考えてもう少し真面目に社交界で顔を出すべきとは思わないのか?)))
(((それで?母さんを侮辱した連中みたいになれと?)))
(((っ、レクス…)))
(((そんな連中を仕返しするために、連中と同じようになるのは真っ平ごめんだよ。面倒くさいし)))
(((レクス、私は別にそのために――)))
(((違わないよ。母さんも可哀相だ、生臭い闘争に巻き込まれ、その夫までもそんな人達みたいになろうとしてるんだから)))
(((レクスっ!)))
(((…ごめん、ちょっと言い過ぎた)))
(((別にいい。…戻ったらこの件についてもう少し話そう)))
(((そう、だね)))
起き上がって、いつの間にか頬に流れる涙を拭くレクス。
「あのことは今でも後悔しているよ。本当はもっと前から、母さんについて父さんとゆっくり話すべきだとね。それがまさか今生の別れになるだなんて…。だからラナ様たちと出会うまでは領地でだらだらと半隠居生活をしてたって訳」
「お互い色々と苦労してたのね。親のことで」
今までにない優しい口調。本来ならもう少し厳しい対応をしてたかも知れないが、親を亡くした痛みを、今のラナは十分に理解している。レクスは小さく微笑みながらそんな彼女を見据える。
「んで、その時だったよ。僕の前にとても立派な皇女様が来てさ、同じく父さんを亡くしたばかりなのに凄くしっかりしていて、自堕落な僕にはとても眩しく見えたんだ。ちょいと意地悪なところもあるけど、彼女が自分を叱ってくれなかったら、きっと今でもレタでダラダラしてたと思うから、とても感謝しているよ」
感慨深く自分見つめるレクスとその言葉に、ラナは小さく苦笑する。
「これで私のことを忘れてなかったから良い美談で終われそうなのにね」
「なはは、そこは勘弁してくれると嬉しいなあ」
いつもの笑顔でごまかすレクス。
「…ねえラナ様。前にも聞いてたけど、君は本当に僕に会うためだけにレタまで来たの?」
木に背を持たせて星空を見上げるラナ。
「さすがにそこまで酔狂ではないわ。ロムネス殿の人柄は元から知ってたし、少し回り道になるけど辺境で戦線から遠いという比較的安全という合理的な理由もちゃんとあった」
そうは言うが、ラナは目を閉じてフフッと小さく笑う。
「…でも、そうね、本心では、唯一自分の素をさらけ出せた男の子が、果たして昔のように頼れる人なのかどうか確認したかったのかも。それがまさか自分のことは忘れるし、妙にだらしなかったから散々だったわ」
「あはは…それは本当に申し訳ないです」
不満そうなラナにレクスが苦笑する。
「だけど同時に安心したのも本当よ。私のことを忘れても、兵士達への気配りはちゃんとしてるし、ふざけて見えても、そこには思いやりが隠されてるのは昔と変わらなかったからね」
艶やかなラナの笑顔に、レクスも心からの笑顔を見せる。
「僕だってそうだよ。自分を無理強いては泣いてたあの子が、こんなに強く綺麗で凛々しい女性に育ってたなんてさ」
「自分を忘れた人に言われてもあまり嬉しくないけど」
愚痴の割りには口元は笑っていたラナ。レクスがごまかすように頭を掻く。
「やっぱよほど怒ってるんだねラナ様。僕が君を忘れたこと」
「当然よ。女性との約束を忘れるだなんて、吊るされても文句言えないぐらいの大罪でしょ」
「ははは、仰るとおりで。でも、もう心配いらないよラナ様」
レクスの手がラナの手と重なり、その真剣な眼差しは美しい碧色を堪えたラナの目をみつめる。
「あの時約束したとおり、今まで忘れた分まで全力でラナ様を助けるよ」
「レクス殿…」
二人の手から互いの体温が流れ、レクスはゆっくりと顔をラナに寄せる。
「辛いときは僕に発散して良いし、助けが必要なときは、僕が必ず君の側で支えてあげる。もう、君を忘れたりなんか、しないから――」
そよ風が優しく木々を撫でる声が言葉を遮る。波のように靡く髪でより艶やかを増したラナの桜色の唇に、レクスが唇を近づけ―――――ラナの強烈なつねり攻撃が彼の頬に炸裂する。
「あだだだだだだぁ~~~~っ!」
「ちょっと、どさくさに紛れて何しようとしてるの?」
「だっでぇ今はおだがい綺麗なキスをする雰囲気ぃいいつつつっ!」
「貴方ねえ、さんざん人のこと忘れてた癖に、この短い語りだけでそれが全部帳消しできると思ってたわけ?お仕置き、まだ全然足りてないようね」
「いででででっ!ギブっ!ギブゥゥゥ!」
ようやくレクスを解放したラナが得意げに笑う。
「本当に悪かったと思ってるのなら、これからはしっかりと私の愚痴や気持ちを受けとめてもらうわ。司令官の精神ケアも、軍師殿の重要な役目でしょ?」
頬をさするレクス。
「あはは、正にその通りだよ。これからも全身全霊でサポート致します。ラナ様」
「ちゃん」
「え?」
「今は二人きりでしょ。なら昔のように、ちゃん付けで呼んで構わないから。その方が私、リラックスできるからね。レンくん」
自分のあだ名を呼ばれ、レクスが満面の笑顔を浮かべては、少し大袈裟に一礼する。
「仰せのとおりに、ラナちゃん」
「大変よろしい。でも覚えておきなさい。他人がいる場合は絶対にそう呼んではいけないからね。でないとただでは済まさないから」
「了解。僕としても、ラナちゃんとのそういう関係を他の人には見せたくないしさ」
「ふふ、ならそうならないよう。しっかりがんばりなさい」
二人が笑い合うと、ラナが頭をレクスの肩に寄せた。
「さっそく仕事よ。今日は色々と疲れたから、疲れが取れるようしっかりと労いなさい」
普段の皇女としての、巫女としてのものではない愛らしい笑顔を浮かべるラナ。レクスもまた、冗談じみた笑顔でない、ありのままの笑みをしては同じく頭を寄せて囁く。
「どうぞ好きなだけくつろいでください。ラナちゃん」
互いの仮面をはずし、雨上がり後の爽やかな風と木々の揺らぎの中で、二人だけの時間を満喫する。かつて笑いながら過ごしたあの夜のように。
【第九章終わり 第十章へ続く】
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる