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第七章 小休止
小休止 第二節
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「そこで俺は奴ら全員を切り倒したのよ。槍の一振りだけでな」
「わあ~ギルバート様凄いっ!そんなあっさりと騎士達を倒すなんてっ」
「ええ、天下無双とは正にギルバート様のためにある言葉ですね」
教団が当てた豪華な寝室の中。貴族御用達の天蓋付きベッドの上で、扇情的なネグリジェを着た女性二人をギルバートは両腕の中にへばらせながらここでの武勇伝を話していた。
「はっ、これでここの平和ボケどもも少しは戦争がなんなのか理解しただろう。…ただまあ、技術レベルが根本的に違うせいで少し退屈なのが残念だけどな」
「ふふ、そんなギルバート様を退屈させないよう、私たちがしっかりと楽しませてあげませんとね。はい、あーん」「おう」
大人の成熟した魅力を持った女性はブドウをギルバートの口に運び、彼はそれを一口で食べた。
「…ふぅ、こうも戦いが簡単すぎると、チームの奴らと一緒に色々とやってた頃が懐かしくなるな」
「チームってなぁに?」
もう一人の若く可愛らしい子が興味津々に聞く。
「俺が隊長を担当していたアルファチームのことさ。あいつらと一緒に色んな任務に出て、何度も危機を切り抜けたんだ。あん時はほんと楽しかったなぁ」
「へえ、なんか面白そうっ。そのチームの話をもっと詳しく聞かせてよギルバート様ぁ~」
若い子がねだるように体を彼にすり寄せる。
「私もとても興味あります。ぜひ聞かせてください」
大人の女性もそっと彼の胸にある赤いクリスタルを撫でながら彼の胸板に寄り添う。
「構わないぜ。そうだな、まずはどこから始めようか…」
二人を抱き寄せ、天蓋に描かれた絡み合う男女の絵を見ながら、昔のことを回想し始めた。
******
地球の、陰鬱な重金属雲に覆われたあるシティ。数年前に最初に出会って以来、ずっと同じチームで無数の訓練や任務をこなしてきたギルバート、アオト、そしてウィルフレッドは、『組織』の施設内にあるブリーフィング室で待ち合わせをしていた。
「…やっぱりちょっと緊張するねウィル」
「そうだな、アオト。俺たちと同じ改造手術に成功したもう二人のアルマ…いったいどんな人たちなんだろう…」
「おめぇら静かにしろ、来たようだ」
ギルバート達は開いたドアの方向を見る。まず最初に、鋭い目の男が先導して入る。そして彼に続いて、もう二人の男女が室内に入ってきた。女性はパンク風の緑と赤の髪と袖なしのシャツに、細身でありながら強靭な筋肉とガラの悪そうな目つきが印象的だ。もう一人は身長が200センチメートルぐらいありそうで、鍛え抜かれたがっしりとした肉体とは裏腹に気さくそうな顔をした大男だった。
「おせぇぞミハイル。なにモタモタしてやがる」
「…状況整理に少々時間をかけていてな」
細目の男が無表情なままギルバートに返事した。
「あ、ウィル、あの二人って…」
「…ん?ああーーーっ!てめぇ!あのクソッタレ甘ちゃんじゃねえかっ!」
女性の方がウィルフレッドを見た途端に声高く叫んだ。三人は立ち上がり、ギルバートはまるで旧知に会ったかのように嬉しく手を広げた。
「お前ら…キースとサラかよっ!ははっ、こりゃ傑作だっ、元気にしてたか?」
だがサラと呼ばれる女性は逆に怒りだす。
「ふざけんじゃねぇ!何が元気にしてたか、だっ!今までの作戦でそっちの甘ちゃんのせいでどんだけ大変な目に合ったか忘れたとは言わせねぇぞっ!」
青筋を浮かべるサラはウィルフレッドを指差すが、彼はとくにリアクションもせずにサラを見つめるだけだった。
「おいミハイル!アタシはこいつらと手を組むのは真っ平御免だっ!今すぐメンバーを変えてくれっ!」
ミハイルは淡々と答える。
「無理だな。先ほどにも言った通り、改造手術を最後まで生き抜き、作り出されたアルマはここにいる五人だけだ。それに君たちが一緒に参加してた作戦の殆どは高い評価を出している。相性的に何の問題もないと思うが」
「けっ!」
そっぽ向くサラをよそに、大男は気さくな笑顔でウィルフレッドとアオトの肩を叩いて挨拶した。
「やあルーキー達、それとギルバート大尉だっけか、まさかこんなところで会うとはねえ。前の作戦からずっと音沙汰無しだから、てっきりどっかでおっ死んだと思ったよ」
「バカ言え、俺が付いていてこの二人がそう簡単にくたばるかよ」
ギルバートが一笑し、アオトもまた嬉しそうに頷く。
「僕たちもまさかキースさんと再会できるとは思いませんでしたよ。ここにいるということは、キースさんも計画に選ばれて生き残ったんですね」
「ああ、俺もサラも悪運だけは強いようだからなぁ」
「サラさんと言えば、やはり彼女も相変わらずのようですね」
彼女の怒りっぽいことを指しているのを理解し、キースは一度、いまだそっぽ向いてるサラを振り返ってからウィルフレッド達に耳打ちする。
「なに、サラの奴はああ言ってはいるが、あんたが助けた子のこと、結構気になってたんだ。だから気にするな、すぐに収まるさ」
ウィンクしてくるキースにウィルフレッドもまた少し嬉しそうに微笑む。
「雑談はそこまでだ。今回の作戦は極めて重要なものであることを忘れるな。なにせ対異星人特殊部隊の最初の作戦だからな。アオト・カンナギ。ウィルフレッド。サラ・シャノア。キース・アイワート。そしてギルバート・ラングレン。今日から君たちが対異星人特殊部隊・アルマ部隊のアルファチームだ」
******
月がいつものように黒雲に隠された暗い夜。シティの外周部にある工場に向かう多目的装甲車の待機スペースで、ギルバート達五人は互いを見つめ合いながら、『組織』の指令室にいるミハイルの話を聞いていた。
「あと五分で目標地点に着くが、それまでにもう一度作戦内容を確認する。今回の作戦目標は数時間前に工場で暴れていた異星人の生体兵器の殲滅。先に制圧に出て壊滅した軍部の話によれば、相手は超振動を武器とし、強固な外殻を有しているそうだ。ターゲットのコードネームは『クエイク』と暫定している。イミテーション・ドローンは現場では確認されていない。現地に到着後、ギルバートの判断で展開し、目標を殲滅。工場の人員は全て退去され、周辺も既に封鎖班が封鎖しているため、人員被害の拡大や目撃の可能性はないが、君たちは公式的には存在しない部隊であることを忘れないように。以降の作戦サポートは共に乗っているビリーに任せる。以上だ」
ミハイルの代わりに若い青年の声がスピーカーから流れる。車の前の電脳室で各種モニタリング等を担当しているビリーだ。
「皆さん初めまして、ビリーです。これからのアルファチームサポートは私が行いますので、よろしくお願いしますね」
「おう、しっかりやっとけよ。場合によっちゃ俺たちの命はあんたにかかることになるからな」
気軽に返事するギルバード。
「異星人の生体兵器、変異体か…。今までは各シティの軍組織が対応してきたけど、これからは僕たちが対処することになるんだねキースさん」
「ああ、気をつけろよアオト。俺たちはまだアルマに改造されたばかりで力に慣れてないし、変異体はそれぞれ厄介な能力を持っている。油断すると痛い目に合うからな」
「分かってますよ。相変わらず心配性なんですね。昔から全然変わってません」
「はは、そういう性分だからなあ俺は。あんたはどうだウィル、緊張とかするか?」
そんなウィルフレッドは寧ろ少し嬉しそうな顔をしていた。
「特には。それに緊張よりも、またキース達に会えた嬉しさの方が大きいから」
キースは目を丸くしては大笑いしてウィルフレッドの肩を叩く。
「ハハハハッ!やっぱ面白いねあんたっ!ほんと今時に珍しい奴だよっ!」
「へっ、今そうやって笑えるのはいいがなキース。これからずっと一つのチームで行動すれば、こいつで色々と苦労させられて嫌になってくるかもよ?なあアオト?」
「はは、確かにギルの言うとおりかもね」
「やめろよ二人とも…」
冗談交じりの口調で話す二人に少々恥ずかしがるウィルフレッド。
「ハッ!悪いがアタシはおめでたい奴らとチームを組む気なんざ毛頭ないからなっ」
サラは機嫌悪そうに悪態をつきながらギルバートを、そしてウィルフレッドを見た。
「先に言っておくが、こっちは好き勝手やらせてもらうぞ。アタシの邪魔をしたら容赦なく叩き潰す。覚えときな、特にてめぇだお人よしの甘ちゃん!」
サラに指差しされるウィルフレッドは何か返事しようとする時、車が減速し始めた。
戦闘に巻き込まれないよう目標地点からやや離れた箇所で車が完全に停止し、ビリーがアナウンスする。
「作戦領域に到着。目標もドローンが捕捉しました。アルファチームは作戦を開始してください」
「おめぇら聞いたなっ!仕事の時間だ!気ィ引き締めろよ!」
ギルバートが叫ぶと、装甲車の後部ハッチが開いた。最後に自分を睨むサラをウィルフレッドが見つめ返すと、アオト達に続いて飛び出した。
******
装甲車内で、サポート特化のサイバネ化処理を施されているビリーが専用のチェアに横たわり、項のコネクタをサポート用インターフェイスと接続して車の各サポート機能のチェックをコンマ秒単位で進んでいた。大量の情報を脳内で瞬時に処理し、その都度に特殊バイザーの光がせわしなく点滅する。
「通信システム確認。アルファチーム順次点呼してください」
「A1『コマンド』ギルバート、感度良好だ」「A2『アサルト』ウィルフレッド、通信確認」「A3『メレー』キース、問題ない」「A4『スナイパー』アオト、聞こえますよビリーさん」「ちっ、A5『ジャマー』サラ、聞こえてらぁ」
「確認終了。作戦区域のマップ情報を送信します」
内蔵通信装置の状態を確認すると、ギルバート達の網膜に工場周辺のマップが浮かび、それに従って市街地を駆け抜ける。壁に囲まれた工場に辿り着くと、五人は軽やかに壁を跳び越し、集合地点である建物の上部で止まった。
「こりゃひでえ…」
キースが思わず呟く。下には物資集散のための空き地があるが、そこには変異体に破壊されたタンクやヘリ、アーマードスーツの残骸がいまだに燃え盛って煙をあげ、無数の躯と化した軍の死体があちこちに横たわっていた。
「…あれだな」
ギルバートが指す方向には、まるで一つの岩石と化してるように体を丸めている生き物がいた。その体のあちこちには無地の目のような結晶が生え、無機的な模様が体中に浮き彫りとなっている。その表面に淡い脈動の輝きが時折流れては、独特な低い音を規律的に出していた。
「あれって…ひょっとして眠っているのかな?」
アオトのサイバネアイは変異体の生命活動が低くなっているのを観測し、遠くの空で監視しているドローンからのフィードバック情報もそれを示している。
「良いタイミングだな。よし、アオトはここに残って援護だ。残りの三人は俺について――」
「めんどくせぇっ!今のうちに一気に叩き潰せりゃいいんだよ!」
「なっ、サラ!」
キースが制止するよりも早く、黄色の電光がサラの胸からほとばしる。彼女を中心に砂塵が巻き上がると、スマートな体形の深紅のアルマと化したサラが飛び出した。
「あいつまた先走りしてっ!」
「ははは!任務の最初からアクシデントとは退屈しねぇなあ!アオト!援護しろ!」
「はい!」
キースとギルバート、ウィルフレッドは急いで駆け下り、アオトは彼らを見送りながら翠色の電光に包まれた。
「おおらあぁぁくらいやがれぇっ!」
疾走するサラの腕部結晶の電光とともに金属のような玉が次々と生成される。それに黄色のエネルギーが纏うと、変異体めがけてサラがかざす手と共に一斉発射される。
一部玉はそのまま直撃し、他の玉はまるで意志があるように変異体の周りを周回すると、四方八方から変異体にエネルギー弾を射出して集中砲火を浴びせた。激しい衝撃が工場を震撼し、変異体の表面にのめりこんだサラの玉からも電撃が走り、変異体を苛む。
「ハハハッ!楽勝だなぁ…っ!?」
『JIIIIIIIII!』
奇声とともにクエイク変異体周りの大気と地面が大きく震え、地面に亀裂が走ると玉は全て粉々に粉砕される。丸めていた変異体が体を大きく展開し、昆虫と思わせる六本の足と羽、そして複眼結晶を露わにした。
「ぬああっ!」
変異体が展開する衝撃で軽く飛ばされたサラは慌ててバランスを取る。
「くそっ!これがさっき言ってた超振動ってやつか!」
『JIIII!』
変異体は威嚇するように大きく体を起こすと、脇腹と思わしき部分が割れ、そこから更に強烈な振動が大気を震わせる。鋭利な超音波がサラを襲った。
「なろぉ!」
サラは再び玉を生成し、それらが彼女の前でバリアのように展開して超音波を防ぐが、変異体は前肢を地面に刺すと、指向性を持った超振動が地面を粉々に粉砕しながらサラの足元に伝わり、体勢のバランスを崩した。
「なっ」
『JIIIiiiiiIIII!』
口器と思しき針を露出して変異体が彼女めがけて突進する。
「危ないっ!」
間一髪。アルマ化したウィルフレッドが辛うじてサラをかばい、変異体が転倒する二人をかすめる。
「ぐっ、ウィル、てめぇ…っ!」
『JIIJJJIIIII!』
勢いのまま突進する変異体の前に、茶色の結晶を胸にし、紫色の重装甲アルマと化したキースが手に持ったハルバードを、全身の重量を載せて変異体の頭めがけて振り下ろした。
「ぬおおおおっ!」
ズガンッと鈍く重い一撃が、変異体の強固な外殻をいとも容易くかち割り、深々と頭部へとめり込んでいく。変異体の黒色の血が飛び散り、苦悶してもがく。
『JIIIIEEEEE!』「おおっ!?」
だが変異体は再び超振動を発し、体内にのめりこんだハルバードを粉砕した。キースは慌ててそれを手放して離れる。変異体がキースに突っ込もうとするが、キースの後ろから翠色の光矢が連続して飛来してそれを阻んだ。後方の建物の上で、青色のアルマ、アオトが右手に展開したビームボウでエネルギー矢による援護をしていたのだ。
「後退しろキース!こいつの超振動は想像以上の出力だ!うかつに接近するとてめぇでも持たねぇぞ!」
「くそっ!」
変異体の後方から黒いアルマのギルバートがアオトに合わせて光弾を掃射し、その隙にキースは急いで後退する。
「サラ、大丈夫か」「放せっ!」
サラを起こそうとするウィルフレッドの手をサラが打ち払う。
「甘ちゃんのお前の助けなんざ必要ねぇっ!アタシは一人でやれ――」
サラがまた飛び出そうとするとする瞬間、変異体が高く鳴りだした。虫の腹部と思しき部分を大きく持ち上げると、まるで蜂が巣から流れ出るかの如く量の弾…いや、小型の虫状変異体が溢れ出てサラとギルバート達を襲う。
「ぬおっ!」「なんだこりゃっ!」
エネルギー弾で遠距離から牽制していたギルバートとキースは瞬時にバリアを張りながら後退する。
『Byuuuuuuu!』
バリアや地面に張り付いた虫たちが強烈な振動を発した。その衝撃波バリアを歪め、地面を震わせる。そして残りの虫たちは後退するキース達の後を正確に追尾してくる。
「くっ、こいつら一つ一つがホーミングする超振動弾ってことか!」
襲来する虫弾をサラとウィルフレッドもバリアを張って防ぐが、駆け出そうとするサラは防御がギリギリ間に合わずに数発の虫弾が体に直撃してしまう。
「がああ!」
強烈な振動でサラの体がヒビ割れてよろめき、残りの虫弾がトドメを刺すかのように彼女に押し寄せる。
「サラッ!」
ウィルフレッドは彼女の前に出てバリアを高出力展開し、さながら無数の榴弾砲が降り注ぐ如く爆撃の中でそれらを全て防いだ。
「ぐうぅっ!」「ウィルっ、てめぇ二度も…っ!」
「ははぁっ!まったく最初の任務からドえらい奴と当たったもんだなぁキース!」
「ああ、遠距離と近距離どっちも厄介な攻撃してくるっ」
「このままじゃさすがにマズイよギル…っ!」
ギルバートが興奮した笑い声をあげ、キースとともにバリアを張りながら回避機動をとる。際限なく発射される虫弾を光弾で打ち落とし、後方で支援射撃しているアオトも飛来する虫弾を避けるために移動を強いられて援護できずにいた。
「アルファチーム。変異体が発するその弾はどうやら君たちのアスティルエネルギーに反応して追尾しているようです。『ジャマー』による攪乱作戦を提案します」
ドローンからのデータで状況分析したビリーが通話してくる。
「おい聞いたかサラ!ボサッとしてねぇで仕事しろや!」
自分を呼ぶギルバートに、サラは大きく舌打ちする。
「ちぃぃ…っ!やりゃあ良いんだろ!」
サラが再度玉を生成し、それらに意識を込めると玉一つ一つが熱を帯び始めた。
「おらいけぇっ!」
手を大きく広げると、それらは一目散に四方へと飛ばされる。すると虫弾は突如ギルバート達から離れ、彼女が飛ばす玉の方に追尾していく。
『JIIII!?』
変異体は異変に気付き、翅を広げては空へと大きく飛び出す。
「逃がすかよ!アオト!ウィル!」
ギルバートの指示でアオト達は瞬時に反応する。アオトはビームボウにより強くアスティルエネルギーを込めて一際巨大な矢を生成し、変異体に向けて放った。一条の翠色の流星が闇夜を切り裂き、片方の翅を貫通して破壊した。
『JIEEEE!』
「結晶励起!」
ウィルフレッドもまた力を込め、肩と膝にブースト結晶を展開させる。それらから放たれる青の電光で体を包むと、背中のスラスターを思いっきって吹かし、変異体目がけて飛翔した。
「るああああっ!」
さながら青き鳥のようにアスティルエネルギーを纏うウィルフレッドが、螺旋を描いてもう片方の翅に突貫し、丸ごと貫いて粉砕せしめた。
『JIIIIIEEEEE!』
地面に落下して苦悶する変異体に、キースもまた再生成したハルバードを大きく構えて力を注ぎこむ。
「結晶励起!コーティング!」
キースの体に展開した結晶から茶色の光がハルバードへとほとばしり、周りの大気を震わせるっ。
『JIIIII!』
逃げ出そうとする変異体が行動を取るより先に、アオトが動いた。
「させないよ!結晶励起!バインドシュート!」
アオトから放たれた矢が途中で弾けた。複数の矢が螺旋を描きながら飛翔し、まるで蛇が得物に絡みつくように変異体の体を纏わりついては地面に貼り付ける。
『JIEEEIIIEEEE!』
がんじがらめとなった変異体は抵抗するよう超振動を発しようとするが、なぜか出力が先ほどより大きく落ちていた。超振動を発生させると思われる脇腹には、いつの間にかサラの玉が張り付き、同じく振動を発して超振動の発生を妨げていたのだ。
「そう何度も同じ手食らうかよ!」
サラが遠方で中指を突き出すと、キースは激しい雷光を纏い、今や巨大な斧のようにエネルギーを発するハルバードを変異体に向けて全力で振り落とした。
「おおりゃああああっ!」
さながら工場に隕石が落ちたかのような衝撃と爆音があたりを震撼する。砂塵が天高く巻き上げられ、変異体が強固な外殻もろとも頭を切断された。
『JEEEEEEAAAA!』
断末魔を発しながら吹き飛ばされる変異体の頭部を、ギルバートがその口に自分の腕を突っ込む。
「ははぁっ!あばよクソッタレ!」
連射される光弾が変異体の中に爆ぜ、赤色の花火が工場の上空で咲いた。残りの変異体の残骸も、何度か跳ねて動くが、程なくして動かなくなり、泡を立てて消滅した。
「ふぅ…おうてめえら、生きてるか?」
ギルバートは地面へと降り立ち、地面に空いた大きな穴や散乱とした工場の空き地、そして戦いに巻き込まれて破壊された工場の施設を見ながら、他の四人に確認する。
「ああ、ピンピンしてるよギルの旦那」「僕も傷はとくにないよ」「こっちも問題ない」「………」
「へへ、初戦にしちゃあ上出来じゃねえか」
最後にウィルフレッドを無言のまま睨むサラを確認すると、ギルバートはビリーに通信する。
「おい若造、聞こえてるか?ターゲットの消滅を確認、作戦は終了だ」
【続く】
「わあ~ギルバート様凄いっ!そんなあっさりと騎士達を倒すなんてっ」
「ええ、天下無双とは正にギルバート様のためにある言葉ですね」
教団が当てた豪華な寝室の中。貴族御用達の天蓋付きベッドの上で、扇情的なネグリジェを着た女性二人をギルバートは両腕の中にへばらせながらここでの武勇伝を話していた。
「はっ、これでここの平和ボケどもも少しは戦争がなんなのか理解しただろう。…ただまあ、技術レベルが根本的に違うせいで少し退屈なのが残念だけどな」
「ふふ、そんなギルバート様を退屈させないよう、私たちがしっかりと楽しませてあげませんとね。はい、あーん」「おう」
大人の成熟した魅力を持った女性はブドウをギルバートの口に運び、彼はそれを一口で食べた。
「…ふぅ、こうも戦いが簡単すぎると、チームの奴らと一緒に色々とやってた頃が懐かしくなるな」
「チームってなぁに?」
もう一人の若く可愛らしい子が興味津々に聞く。
「俺が隊長を担当していたアルファチームのことさ。あいつらと一緒に色んな任務に出て、何度も危機を切り抜けたんだ。あん時はほんと楽しかったなぁ」
「へえ、なんか面白そうっ。そのチームの話をもっと詳しく聞かせてよギルバート様ぁ~」
若い子がねだるように体を彼にすり寄せる。
「私もとても興味あります。ぜひ聞かせてください」
大人の女性もそっと彼の胸にある赤いクリスタルを撫でながら彼の胸板に寄り添う。
「構わないぜ。そうだな、まずはどこから始めようか…」
二人を抱き寄せ、天蓋に描かれた絡み合う男女の絵を見ながら、昔のことを回想し始めた。
******
地球の、陰鬱な重金属雲に覆われたあるシティ。数年前に最初に出会って以来、ずっと同じチームで無数の訓練や任務をこなしてきたギルバート、アオト、そしてウィルフレッドは、『組織』の施設内にあるブリーフィング室で待ち合わせをしていた。
「…やっぱりちょっと緊張するねウィル」
「そうだな、アオト。俺たちと同じ改造手術に成功したもう二人のアルマ…いったいどんな人たちなんだろう…」
「おめぇら静かにしろ、来たようだ」
ギルバート達は開いたドアの方向を見る。まず最初に、鋭い目の男が先導して入る。そして彼に続いて、もう二人の男女が室内に入ってきた。女性はパンク風の緑と赤の髪と袖なしのシャツに、細身でありながら強靭な筋肉とガラの悪そうな目つきが印象的だ。もう一人は身長が200センチメートルぐらいありそうで、鍛え抜かれたがっしりとした肉体とは裏腹に気さくそうな顔をした大男だった。
「おせぇぞミハイル。なにモタモタしてやがる」
「…状況整理に少々時間をかけていてな」
細目の男が無表情なままギルバートに返事した。
「あ、ウィル、あの二人って…」
「…ん?ああーーーっ!てめぇ!あのクソッタレ甘ちゃんじゃねえかっ!」
女性の方がウィルフレッドを見た途端に声高く叫んだ。三人は立ち上がり、ギルバートはまるで旧知に会ったかのように嬉しく手を広げた。
「お前ら…キースとサラかよっ!ははっ、こりゃ傑作だっ、元気にしてたか?」
だがサラと呼ばれる女性は逆に怒りだす。
「ふざけんじゃねぇ!何が元気にしてたか、だっ!今までの作戦でそっちの甘ちゃんのせいでどんだけ大変な目に合ったか忘れたとは言わせねぇぞっ!」
青筋を浮かべるサラはウィルフレッドを指差すが、彼はとくにリアクションもせずにサラを見つめるだけだった。
「おいミハイル!アタシはこいつらと手を組むのは真っ平御免だっ!今すぐメンバーを変えてくれっ!」
ミハイルは淡々と答える。
「無理だな。先ほどにも言った通り、改造手術を最後まで生き抜き、作り出されたアルマはここにいる五人だけだ。それに君たちが一緒に参加してた作戦の殆どは高い評価を出している。相性的に何の問題もないと思うが」
「けっ!」
そっぽ向くサラをよそに、大男は気さくな笑顔でウィルフレッドとアオトの肩を叩いて挨拶した。
「やあルーキー達、それとギルバート大尉だっけか、まさかこんなところで会うとはねえ。前の作戦からずっと音沙汰無しだから、てっきりどっかでおっ死んだと思ったよ」
「バカ言え、俺が付いていてこの二人がそう簡単にくたばるかよ」
ギルバートが一笑し、アオトもまた嬉しそうに頷く。
「僕たちもまさかキースさんと再会できるとは思いませんでしたよ。ここにいるということは、キースさんも計画に選ばれて生き残ったんですね」
「ああ、俺もサラも悪運だけは強いようだからなぁ」
「サラさんと言えば、やはり彼女も相変わらずのようですね」
彼女の怒りっぽいことを指しているのを理解し、キースは一度、いまだそっぽ向いてるサラを振り返ってからウィルフレッド達に耳打ちする。
「なに、サラの奴はああ言ってはいるが、あんたが助けた子のこと、結構気になってたんだ。だから気にするな、すぐに収まるさ」
ウィンクしてくるキースにウィルフレッドもまた少し嬉しそうに微笑む。
「雑談はそこまでだ。今回の作戦は極めて重要なものであることを忘れるな。なにせ対異星人特殊部隊の最初の作戦だからな。アオト・カンナギ。ウィルフレッド。サラ・シャノア。キース・アイワート。そしてギルバート・ラングレン。今日から君たちが対異星人特殊部隊・アルマ部隊のアルファチームだ」
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月がいつものように黒雲に隠された暗い夜。シティの外周部にある工場に向かう多目的装甲車の待機スペースで、ギルバート達五人は互いを見つめ合いながら、『組織』の指令室にいるミハイルの話を聞いていた。
「あと五分で目標地点に着くが、それまでにもう一度作戦内容を確認する。今回の作戦目標は数時間前に工場で暴れていた異星人の生体兵器の殲滅。先に制圧に出て壊滅した軍部の話によれば、相手は超振動を武器とし、強固な外殻を有しているそうだ。ターゲットのコードネームは『クエイク』と暫定している。イミテーション・ドローンは現場では確認されていない。現地に到着後、ギルバートの判断で展開し、目標を殲滅。工場の人員は全て退去され、周辺も既に封鎖班が封鎖しているため、人員被害の拡大や目撃の可能性はないが、君たちは公式的には存在しない部隊であることを忘れないように。以降の作戦サポートは共に乗っているビリーに任せる。以上だ」
ミハイルの代わりに若い青年の声がスピーカーから流れる。車の前の電脳室で各種モニタリング等を担当しているビリーだ。
「皆さん初めまして、ビリーです。これからのアルファチームサポートは私が行いますので、よろしくお願いしますね」
「おう、しっかりやっとけよ。場合によっちゃ俺たちの命はあんたにかかることになるからな」
気軽に返事するギルバード。
「異星人の生体兵器、変異体か…。今までは各シティの軍組織が対応してきたけど、これからは僕たちが対処することになるんだねキースさん」
「ああ、気をつけろよアオト。俺たちはまだアルマに改造されたばかりで力に慣れてないし、変異体はそれぞれ厄介な能力を持っている。油断すると痛い目に合うからな」
「分かってますよ。相変わらず心配性なんですね。昔から全然変わってません」
「はは、そういう性分だからなあ俺は。あんたはどうだウィル、緊張とかするか?」
そんなウィルフレッドは寧ろ少し嬉しそうな顔をしていた。
「特には。それに緊張よりも、またキース達に会えた嬉しさの方が大きいから」
キースは目を丸くしては大笑いしてウィルフレッドの肩を叩く。
「ハハハハッ!やっぱ面白いねあんたっ!ほんと今時に珍しい奴だよっ!」
「へっ、今そうやって笑えるのはいいがなキース。これからずっと一つのチームで行動すれば、こいつで色々と苦労させられて嫌になってくるかもよ?なあアオト?」
「はは、確かにギルの言うとおりかもね」
「やめろよ二人とも…」
冗談交じりの口調で話す二人に少々恥ずかしがるウィルフレッド。
「ハッ!悪いがアタシはおめでたい奴らとチームを組む気なんざ毛頭ないからなっ」
サラは機嫌悪そうに悪態をつきながらギルバートを、そしてウィルフレッドを見た。
「先に言っておくが、こっちは好き勝手やらせてもらうぞ。アタシの邪魔をしたら容赦なく叩き潰す。覚えときな、特にてめぇだお人よしの甘ちゃん!」
サラに指差しされるウィルフレッドは何か返事しようとする時、車が減速し始めた。
戦闘に巻き込まれないよう目標地点からやや離れた箇所で車が完全に停止し、ビリーがアナウンスする。
「作戦領域に到着。目標もドローンが捕捉しました。アルファチームは作戦を開始してください」
「おめぇら聞いたなっ!仕事の時間だ!気ィ引き締めろよ!」
ギルバートが叫ぶと、装甲車の後部ハッチが開いた。最後に自分を睨むサラをウィルフレッドが見つめ返すと、アオト達に続いて飛び出した。
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装甲車内で、サポート特化のサイバネ化処理を施されているビリーが専用のチェアに横たわり、項のコネクタをサポート用インターフェイスと接続して車の各サポート機能のチェックをコンマ秒単位で進んでいた。大量の情報を脳内で瞬時に処理し、その都度に特殊バイザーの光がせわしなく点滅する。
「通信システム確認。アルファチーム順次点呼してください」
「A1『コマンド』ギルバート、感度良好だ」「A2『アサルト』ウィルフレッド、通信確認」「A3『メレー』キース、問題ない」「A4『スナイパー』アオト、聞こえますよビリーさん」「ちっ、A5『ジャマー』サラ、聞こえてらぁ」
「確認終了。作戦区域のマップ情報を送信します」
内蔵通信装置の状態を確認すると、ギルバート達の網膜に工場周辺のマップが浮かび、それに従って市街地を駆け抜ける。壁に囲まれた工場に辿り着くと、五人は軽やかに壁を跳び越し、集合地点である建物の上部で止まった。
「こりゃひでえ…」
キースが思わず呟く。下には物資集散のための空き地があるが、そこには変異体に破壊されたタンクやヘリ、アーマードスーツの残骸がいまだに燃え盛って煙をあげ、無数の躯と化した軍の死体があちこちに横たわっていた。
「…あれだな」
ギルバートが指す方向には、まるで一つの岩石と化してるように体を丸めている生き物がいた。その体のあちこちには無地の目のような結晶が生え、無機的な模様が体中に浮き彫りとなっている。その表面に淡い脈動の輝きが時折流れては、独特な低い音を規律的に出していた。
「あれって…ひょっとして眠っているのかな?」
アオトのサイバネアイは変異体の生命活動が低くなっているのを観測し、遠くの空で監視しているドローンからのフィードバック情報もそれを示している。
「良いタイミングだな。よし、アオトはここに残って援護だ。残りの三人は俺について――」
「めんどくせぇっ!今のうちに一気に叩き潰せりゃいいんだよ!」
「なっ、サラ!」
キースが制止するよりも早く、黄色の電光がサラの胸からほとばしる。彼女を中心に砂塵が巻き上がると、スマートな体形の深紅のアルマと化したサラが飛び出した。
「あいつまた先走りしてっ!」
「ははは!任務の最初からアクシデントとは退屈しねぇなあ!アオト!援護しろ!」
「はい!」
キースとギルバート、ウィルフレッドは急いで駆け下り、アオトは彼らを見送りながら翠色の電光に包まれた。
「おおらあぁぁくらいやがれぇっ!」
疾走するサラの腕部結晶の電光とともに金属のような玉が次々と生成される。それに黄色のエネルギーが纏うと、変異体めがけてサラがかざす手と共に一斉発射される。
一部玉はそのまま直撃し、他の玉はまるで意志があるように変異体の周りを周回すると、四方八方から変異体にエネルギー弾を射出して集中砲火を浴びせた。激しい衝撃が工場を震撼し、変異体の表面にのめりこんだサラの玉からも電撃が走り、変異体を苛む。
「ハハハッ!楽勝だなぁ…っ!?」
『JIIIIIIIII!』
奇声とともにクエイク変異体周りの大気と地面が大きく震え、地面に亀裂が走ると玉は全て粉々に粉砕される。丸めていた変異体が体を大きく展開し、昆虫と思わせる六本の足と羽、そして複眼結晶を露わにした。
「ぬああっ!」
変異体が展開する衝撃で軽く飛ばされたサラは慌ててバランスを取る。
「くそっ!これがさっき言ってた超振動ってやつか!」
『JIIII!』
変異体は威嚇するように大きく体を起こすと、脇腹と思わしき部分が割れ、そこから更に強烈な振動が大気を震わせる。鋭利な超音波がサラを襲った。
「なろぉ!」
サラは再び玉を生成し、それらが彼女の前でバリアのように展開して超音波を防ぐが、変異体は前肢を地面に刺すと、指向性を持った超振動が地面を粉々に粉砕しながらサラの足元に伝わり、体勢のバランスを崩した。
「なっ」
『JIIIiiiiiIIII!』
口器と思しき針を露出して変異体が彼女めがけて突進する。
「危ないっ!」
間一髪。アルマ化したウィルフレッドが辛うじてサラをかばい、変異体が転倒する二人をかすめる。
「ぐっ、ウィル、てめぇ…っ!」
『JIIJJJIIIII!』
勢いのまま突進する変異体の前に、茶色の結晶を胸にし、紫色の重装甲アルマと化したキースが手に持ったハルバードを、全身の重量を載せて変異体の頭めがけて振り下ろした。
「ぬおおおおっ!」
ズガンッと鈍く重い一撃が、変異体の強固な外殻をいとも容易くかち割り、深々と頭部へとめり込んでいく。変異体の黒色の血が飛び散り、苦悶してもがく。
『JIIIIEEEEE!』「おおっ!?」
だが変異体は再び超振動を発し、体内にのめりこんだハルバードを粉砕した。キースは慌ててそれを手放して離れる。変異体がキースに突っ込もうとするが、キースの後ろから翠色の光矢が連続して飛来してそれを阻んだ。後方の建物の上で、青色のアルマ、アオトが右手に展開したビームボウでエネルギー矢による援護をしていたのだ。
「後退しろキース!こいつの超振動は想像以上の出力だ!うかつに接近するとてめぇでも持たねぇぞ!」
「くそっ!」
変異体の後方から黒いアルマのギルバートがアオトに合わせて光弾を掃射し、その隙にキースは急いで後退する。
「サラ、大丈夫か」「放せっ!」
サラを起こそうとするウィルフレッドの手をサラが打ち払う。
「甘ちゃんのお前の助けなんざ必要ねぇっ!アタシは一人でやれ――」
サラがまた飛び出そうとするとする瞬間、変異体が高く鳴りだした。虫の腹部と思しき部分を大きく持ち上げると、まるで蜂が巣から流れ出るかの如く量の弾…いや、小型の虫状変異体が溢れ出てサラとギルバート達を襲う。
「ぬおっ!」「なんだこりゃっ!」
エネルギー弾で遠距離から牽制していたギルバートとキースは瞬時にバリアを張りながら後退する。
『Byuuuuuuu!』
バリアや地面に張り付いた虫たちが強烈な振動を発した。その衝撃波バリアを歪め、地面を震わせる。そして残りの虫たちは後退するキース達の後を正確に追尾してくる。
「くっ、こいつら一つ一つがホーミングする超振動弾ってことか!」
襲来する虫弾をサラとウィルフレッドもバリアを張って防ぐが、駆け出そうとするサラは防御がギリギリ間に合わずに数発の虫弾が体に直撃してしまう。
「がああ!」
強烈な振動でサラの体がヒビ割れてよろめき、残りの虫弾がトドメを刺すかのように彼女に押し寄せる。
「サラッ!」
ウィルフレッドは彼女の前に出てバリアを高出力展開し、さながら無数の榴弾砲が降り注ぐ如く爆撃の中でそれらを全て防いだ。
「ぐうぅっ!」「ウィルっ、てめぇ二度も…っ!」
「ははぁっ!まったく最初の任務からドえらい奴と当たったもんだなぁキース!」
「ああ、遠距離と近距離どっちも厄介な攻撃してくるっ」
「このままじゃさすがにマズイよギル…っ!」
ギルバートが興奮した笑い声をあげ、キースとともにバリアを張りながら回避機動をとる。際限なく発射される虫弾を光弾で打ち落とし、後方で支援射撃しているアオトも飛来する虫弾を避けるために移動を強いられて援護できずにいた。
「アルファチーム。変異体が発するその弾はどうやら君たちのアスティルエネルギーに反応して追尾しているようです。『ジャマー』による攪乱作戦を提案します」
ドローンからのデータで状況分析したビリーが通話してくる。
「おい聞いたかサラ!ボサッとしてねぇで仕事しろや!」
自分を呼ぶギルバートに、サラは大きく舌打ちする。
「ちぃぃ…っ!やりゃあ良いんだろ!」
サラが再度玉を生成し、それらに意識を込めると玉一つ一つが熱を帯び始めた。
「おらいけぇっ!」
手を大きく広げると、それらは一目散に四方へと飛ばされる。すると虫弾は突如ギルバート達から離れ、彼女が飛ばす玉の方に追尾していく。
『JIIII!?』
変異体は異変に気付き、翅を広げては空へと大きく飛び出す。
「逃がすかよ!アオト!ウィル!」
ギルバートの指示でアオト達は瞬時に反応する。アオトはビームボウにより強くアスティルエネルギーを込めて一際巨大な矢を生成し、変異体に向けて放った。一条の翠色の流星が闇夜を切り裂き、片方の翅を貫通して破壊した。
『JIEEEE!』
「結晶励起!」
ウィルフレッドもまた力を込め、肩と膝にブースト結晶を展開させる。それらから放たれる青の電光で体を包むと、背中のスラスターを思いっきって吹かし、変異体目がけて飛翔した。
「るああああっ!」
さながら青き鳥のようにアスティルエネルギーを纏うウィルフレッドが、螺旋を描いてもう片方の翅に突貫し、丸ごと貫いて粉砕せしめた。
『JIIIIIEEEEE!』
地面に落下して苦悶する変異体に、キースもまた再生成したハルバードを大きく構えて力を注ぎこむ。
「結晶励起!コーティング!」
キースの体に展開した結晶から茶色の光がハルバードへとほとばしり、周りの大気を震わせるっ。
『JIIIII!』
逃げ出そうとする変異体が行動を取るより先に、アオトが動いた。
「させないよ!結晶励起!バインドシュート!」
アオトから放たれた矢が途中で弾けた。複数の矢が螺旋を描きながら飛翔し、まるで蛇が得物に絡みつくように変異体の体を纏わりついては地面に貼り付ける。
『JIEEEIIIEEEE!』
がんじがらめとなった変異体は抵抗するよう超振動を発しようとするが、なぜか出力が先ほどより大きく落ちていた。超振動を発生させると思われる脇腹には、いつの間にかサラの玉が張り付き、同じく振動を発して超振動の発生を妨げていたのだ。
「そう何度も同じ手食らうかよ!」
サラが遠方で中指を突き出すと、キースは激しい雷光を纏い、今や巨大な斧のようにエネルギーを発するハルバードを変異体に向けて全力で振り落とした。
「おおりゃああああっ!」
さながら工場に隕石が落ちたかのような衝撃と爆音があたりを震撼する。砂塵が天高く巻き上げられ、変異体が強固な外殻もろとも頭を切断された。
『JEEEEEEAAAA!』
断末魔を発しながら吹き飛ばされる変異体の頭部を、ギルバートがその口に自分の腕を突っ込む。
「ははぁっ!あばよクソッタレ!」
連射される光弾が変異体の中に爆ぜ、赤色の花火が工場の上空で咲いた。残りの変異体の残骸も、何度か跳ねて動くが、程なくして動かなくなり、泡を立てて消滅した。
「ふぅ…おうてめえら、生きてるか?」
ギルバートは地面へと降り立ち、地面に空いた大きな穴や散乱とした工場の空き地、そして戦いに巻き込まれて破壊された工場の施設を見ながら、他の四人に確認する。
「ああ、ピンピンしてるよギルの旦那」「僕も傷はとくにないよ」「こっちも問題ない」「………」
「へへ、初戦にしちゃあ上出来じゃねえか」
最後にウィルフレッドを無言のまま睨むサラを確認すると、ギルバートはビリーに通信する。
「おい若造、聞こえてるか?ターゲットの消滅を確認、作戦は終了だ」
【続く】
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