上 下
47 / 207
第六章 変異体《ミュータンテス》

変異体 第八節

しおりを挟む
「ウィルくん達、大丈夫かな…?」
さきほどから低い震動の音が鳴り続けていた坑道の入り口の前で、レクスはラナとともにずっと立って坑道の様子を観察していた。念のため、坑道口の周りで町長やボルガ達と協力して救急体制の用意をし、何かがあってもすぐに対応できるように待機している。

「慌てても仕方がないわ。私達はできる限りの用意をした。後はただウィルくんやミーナ先生達を信じて待つだけよ」
「それもそうだね…あっ、出てきた!」「おおっ」

坑道からまずは先導するドーネ、そして騎士達に護衛された町の子供や負傷者が次々と出てきた。カイがアイシャを支えてミーナ達とともに後ろについており、最後にエリネとランブレに担がれたウィルフレッドが出てきた。その直後坑道内に崩落の大きな音が響く。町の人たちが歓声を挙げると、急いで子供や負傷者達の手当てにかかった。

「みんな大丈夫っ?」
ラナがミーナ達に駆けつける。
「ああ、まだ生きとるよ」
「下に何かあったのですか先生?」
「話せば長くなる。今は他の奴らの手当てに回ってくれ」
「ええ…」

「カイ様、私はもう大丈夫ですので…」
「あっ、す、すみませんっ」
アイシャを支えていたカイが慌てて離れる。緊急時だったとはいえ、ついアイシャ王女の体に触れたことに申し訳なく思うと同時に赤面する。アイシャもまたこういうのに慣れていないのか、少しだけ頬を赤く染めていた。

「ぐぁぁあっ!」「ウィルさん!?」「ウィル殿っ!」
ラナやアイシャ達がウィルフレッドの方を見た。よろめいて跪いたウィルフレッドは苦しそうに悶えてコートと上着を脱ぐと、その強靭そうな体には先ほどの戦いで負った無数の傷が煙を上げ、ナノマシンより再生していく。だが痛み自体は消える訳でもなく、傷の深さと 魔人アルマ化後の反動である疲労と痛みが同時に彼を苛んでいた。

「どうしたのだこれはっ?」
彼の傍にミーナとラナ達が駆け寄る。
「魔人化後の反動だそうで、元の姿に戻ると強い痛みや疲労が来るだそうですっ」

「今すぐ治療しますから、じっとしててウィルさんっ」
エリネが 治癒セラディンを唱えた。温かい暖流が体を巡る感覚がウィルフレッドの痛みと疲労を緩和し、傷を癒していく。

「私も手伝いますっ」
アイシャに続き、ミーナとラナも同じく魔法をかけるが、三人ははすぐに違和感を感じた。
「あ、あら?これは…」「む、妙だな」(やっぱり…)

ミーナは魔法をやめ、ウィルフレッドを巡るエリネ達のマナの流れに意識を集中した。
「やはり…エリー以外の 治癒セラディンは、こやつの体に効いてないな」
「実は前にもそうでした。私の 治癒セラディンが効かず、なぜかエリーちゃんの魔法だけがウィルくんの体を癒せるようで…」
「なんだと?」

ラナの言葉を聞いて、ミーナは悶えるウィルフレッドの治療に専念するエリネを見た。
「…多分、エリーさんがスティーナ様の洗礼に集中してたからじゃないでしょうか。彼女が教会にいた頃、そちらの方が素質あるからとシスターの指導方針だったそうで」

アイシャの言うとおり、ハルフェンの人々は素質や相性により得意する魔法の方向性がある。それに合わせて魔法の洗礼を行うのが普通で、洗礼を受けた系統の魔法は一際強くなる傾向がある。だが、本当にそれだけが原因なのだろうかとミーナは考え込む。

「おい、あの人、胸に水晶があるぞ…?」「それに傷が変な感じで塞がっていくような…?」
外で待機した町の人々やヘリティアの騎士達、そして連合軍の騎士が、特異な目でウィルフレッドを見ていることにミーナ達は気付いた。

「ウィルさん…っ」
魔法をかけ続けるエリネが、俯いたままその視線を受けるウィルフレッドを案じると、ランブレがいきなり立ち上がった。
「みんな、どうかそんな目でウィル殿を見ないでくださいっ」
「え」「ラ、ランブレ…?」

外で待機してた一部連合軍の若騎士達が訝しんだ。
「この方は命を賭して私達を、子供や負傷者を助けてくださった恩人です。ウィル殿がいなかったら、子供達も、私も今ここには立ってはいないのでしょう。彼にはそういう眼差しでなく、最大限の賞賛を送るべきです」

「彼の言うとおりです」
一緒に坑道へ入ってたヘリティアの騎士達もまた続いた。
「上の命令とはいえ、騎士としての道を忘れた自分達よりも、この方は正に騎士としてのあるべき姿を示しました。多少一般人とは違うところがあっても、ウィル殿は立派な方で、信頼に値する人物だと断言しましょう」

ウィルフレッドが実に怪訝そうな表情で自分の前に立つ騎士達を見る。そして町の人たちが徐々に、そして一気に彼に群がって感謝を述べた。
「あ、ありがとうございますっ、息子を助けて頂いて…っ」
「ありがとうお兄ちゃん…っ、お陰で僕、パパとまた会えたよっ」
「ありがと…ありがと…っ!」

人混みに囲まれて困惑するウィルフレッドに、振り返るランブレが微笑んでいた。込み上がる思いで目が潤うのを堪える彼に、エリネやラナ達もまた嬉しく思った。
(ウィルさん、良かった…)

それを遠くで見たレクスとボルガも深く感慨する。
「ふう、正に雨降って地固まるって感じだね」
「ああ、うちの若いモンもようやく理解したようだな。あいつがどんな人なのかを」

アイシャやラナが苦笑しながら感謝する人達を退かせるなか、恥ずかしそうに人々に応じているウィルフレッドをミーナは意味ありげに見つめていた。

その後、町での連合軍の再編作業もラナ達により完了した。占領軍だったヘリティア騎士や兵士達は、一部はそこに留まって戦争が終わるまで町の復興作業を手伝うことにし、残りの人たちはラナの軍勢に加わることとなった。

坑道は崩落のせいで暫く封鎖することになったが、町長や町の人々は全然気にしてはおらず、寧ろ子供達や町の解放に喜んでいた。こうしてハーゼン町での戦いは一段落した。


******


「なるほど、まさか坑道の最奥でそんなことが起きていたなんて」
その夜の夕食後、町長が用意した館のリビングで、レクスやラナ達はマティが淹れたお茶を飲みながら、アイシャ達からゴーレム変異体の件を聞いていた。

「ええ、ゴーレムがまさかあれほど恐ろしい姿に変貌するだなんて、今思い出しても震えが出ます。正直今でも生きた心地がしないぐらいです」
「それってやはり、貴方の世界のものがそうさせたの、ウィルくん?」
ラナの問いにウィルフレッドが頷いた。

「ああ…。あれは 変異体ミュータンテスと呼ばれる生体兵器だ」
「 変異体ミュータンテス…」
聞き慣れないが、どこか不気味な響きの単語だと感じるエリネ。

「『組織』が異星人の技術を利用して開発した兵器の一つだ。下地となるアニマ・ナノマシンに様々な生物の特性を組み込み、それを生き物に打ち込んで相手を 変異体ミュータンテスへと変貌させる。今日ゴーレムに打ち込まれたのは『イモータル』というコードネームのナノマシンで、再生能力の高いサンショウウオやプラナリア等の遺伝子を組み込んである。あのゴーレムが驚異的な再生能力を持つようになったのもそれが理由だ」

「ええと、つまり生き物の特定した特性をごちゃ混ぜして更に強い生き物を作り上げるってことなのか…?」
「その理解で構わない」

レクス達はアルマのことを聞いた時と同じようにぞっと感じた。生き物をまるで物のように操作、改造することなんざ、命は女神がもたらしたという彼らの思想からみれば、思いつくことさえしない冒涜的なことであるからだ。

「ギルバート、でしたか?そんな恐ろしいものを何故あの人が持っていたのでしょうか」
アイシャが問うた。
「あいつも言っていたが、恐らく俺達と一緒にこの世界に転移してきたヌトの残骸から回収したものだ」
「ヌト、ですか?」

「次元跳躍戦術艦ヌト。『組織』が異星人の技術をリバースして作り上げた艦で、俺とギルがこの世界に来る前にはそこで戦っていたんだ」
「ジゲン…チョウヤク…?」
アイシャだけでなくエリネ達までもが首をかしげる。

「そうだな…例えば今俺達がいるところからブラン村まで時間差なく一瞬で移動できる船と考えて良い」
カイが怪訝とする。
「へっ、なんだそれっ、じゃあ俺達を乗せて一瞬でエステラ王国に行くこともできるってことなのか!?」
「そうなるな」

「…ちなみにだけど、そのヌトってやっぱ空飛ぶのね?」
ラナに頷くウィルフレッドに全員が呆れ果てたような表情を浮かべた。

「月に人が住んでるというから何があってももう驚かないと思ったけど、やっぱ君の世界はカッ飛んでるね」
苦笑するレクスにウィルフレッドもまた苦笑する。
「あまり聞きたくは無いけど、その船に他にギルバートが利用できる破天荒な兵器は積まれてないよね?」

「ない、とは言い切れないが、例えあるとしても、殆どは使い物にならなくなってると思う。ヌトは転移した瞬間、異空間で解体して爆散したのをはっきりと見てたから、あったとしてもギルや教団はとっくに俺たちに使ってきたはずだ」

「そう願いたいわね。次に一撃で町ひとつを平らげられる兵器とか持ち出されるのも勘弁だから」
「やめてよラナ様、縁起でもない。…さすがにないよねウィルくん?」
「そこは安心して構わない」

不安そうなレクスにウィルフレッドは苦笑して答える。ヌトに搭載されてる荷粒子砲や大型レールガンのことは黙った。艦ごと爆散してるのは確かなのだから。

「だけど変異体のシリンダ、だっけ?あれみたいに例外という場合もあるよね。今は教団のことで手一杯だけど、ことが落ち着いたら一度はウィルくんの言う残骸の探索をした方がいいかもしれないなぁ」
「そうだな。俺も気になるからぜひそうしてもらいたい」

「やれやれ、 変異体ミュータンテスといい、そのヌトといい、我々では想像することすら憚れることを、命を弄ぶことをこうも平然とやってのけるとは…そんな『組織』とやらに何故おぬしが居たのだ?」
「それは…」

歯切れ悪くなるウィルフレッドにカイが弁護する。
「別にいいじゃないかよそんなことっ。今の兄貴はもうそこにはいないしさ、そうだろ?」
「ああ…」
ウィルフレッドの表情はどこかやり切れない感じのものだったが、ミーナはこれ以上問い詰めることはしなかった。

「よい、人の過去に踏み込むことは趣味じゃないし、おぬしに助けられた上、エリクのこともある自分にどうこう言う資格もないからな」
「エリク…前にミーナ殿が言ってた封印の一族の裏切り者なんだな」
頷くミーナ。

「あの、乗り気でなければミーナ様も無理に言う必要は――」
「いや、邪神教団のこともあるから黙る訳にはいくまい」
心配するエリネに構いなく茶を一口飲むミーナ。

「…あやつは、エリクは我と同じ師に就いた相弟子だ」
「師というのは、アイシャ様も言っていたビリマ様のことですか?」
エリネに頷くミーナ。
「うむ。我とエリクは当代の封印管理者ビリマ師の元で、次期管理者候補として選ばれて師事していた。奴は 人間ヒューマにしては大変賢くてな、あまり人の話聞かずに突っ走るのが玉に瑕なのだが、その才能は里の誰もが認めるものだ」

「ふうん、そんな凄そうな奴がまたどうして封印の水晶を奪うことになったんだ?」
カイが首を傾げる。
「恐らくだが、術をかけられたのであろう」
「術だって?」

「さっき奴と対峙した時、あやつの瞳の中に不自然な赤色の輝きが見えたことに気付いたのだ。エリー達も気づいてあるだろうが、彼の話は明らかにつじつまが合わないのに、彼はそれを気に留めていもいないかったろう?それは――」
「思考判断への操作による洗脳、だろうか」
ウィルフレッドが言葉を繋いだ。

「特定の思考のロジックを強化し、その他の思考や判断を弱らせる、または無視させるタイプの洗脳だ。特定の思考は一見理に適うため、それを解除するのは中々難しいと聞く」

ミーナは少し感心そうに頷く。
「そのとおりだが、よく知っているな?」
「似たような手法は俺の世界にもあるから。もっとも、その原理は多分かなり違ってくるが…。ともかく、エリクの場合、特定の思考というのは…」
「確か、封印をなくすことでミーナ様をって言ってましたね…」
エリネが彼の言葉を思い出す。

「そうだ。封印管理者は一度前任者からその任を受け継ぐと、生涯里から出てはいけないと言う掟がある。なにせ邪神の封印を管理するのだからな、何かがあって管理者がいなかったら大事だ」

「そんな掟、初耳でした…じゃああのエリクが言ってた助けるというのは…」
アイシャの言葉にミーナはエリクのことを思ったのか、小さくため息をついた。
「我はこの前ビリマ師に正式に封印管理者として選ばれた。継承儀式が終えれば、我は里から出ることができなくなる。それを知ったエリクはかなり心配してたな。自分ならば良かったとか、何か里に留まらなくてもいい案はないのかとしつこく付き纏ってな」

「なるほど、その隙を突かれて、彼は何者かに術をかけられたという訳かな」
レクスが言うと、ミーナは更にイラつく口調になる。
「何者か、ではないっ。あやつめ、勝手に一人で水晶が置かれた封印の間に入ったと抜かしおってた。大方その際にゾルドの魔力に当てられたのだろう。…まったく、たとえ封印されても水晶からは時おり魔力が漏れてくるため、中に入る時は常に二人一組でやれと師があれほど厳しく言いつけていたのに…っ」

一気飲み干したカップを乱暴に置くミーナにラナ達が少し驚く。
「あの…ミーナ先生?」
「あやつはいつもそうだ!こっちの苦労も知らないでっ、私のためと言って勝手に突っ走るっ!毎回いつも何かやるときは一緒にやるべきだと言ってるのに!何故わからないんだっ!」

突然の豹変にレクス達が驚愕しては急いでなだめる。
「どうどうミーナ殿っ、落ち着いて、ステイだよステイっ」
「人を馬鹿にするでないっ」「いてっ」
ミーナの杖の一撃がレクスの頭に炸裂する。
「ほら先生、お茶飲んで」
ラナが入れなおした茶杯をまた一気飲みして一息ついた。

「すまない、少し熱くなり過ぎたか…」
「いや、俺は別にいいけどよ…ミーナがまさかここまでキレるだなんてなあ。あのエリクって相当な奴だな」
怪訝とするカイ。最後に一息吐いてミーナがようやく落ち着く。

「…なにはともあれ、エリクが教団についた以上、このまま放置する訳には行かない、管理候補者の一人として、あやつは多くの情報を握っているからな。彼がこれ以上罪を重ねないよう、早急に奴を――」
「助けなければならないな」
ミーナ達全員がウィルフレッドを見た。

「ミーナは彼に怒り心頭のようだが、本当はそんなに嫌いな訳ではないだろう?」
エリネも微笑んで頷く。
「ウィルさんの言うとおりですね。だってミーナ様がエリクのこと言ってる時の声の表情、怒ってると同時に心配そうにもなってますから」

「はぁっ?なんでこの我があやつの事なぞ心配せねば…っ」
慌てて否定しようとするミーナに、ラナとアイシャも少し驚いては微笑む。その人が彼女にとってどんな意味を持つのかなんとなく察しがつくから。

「ご安心を、私達も彼を助けることに力は惜しませんよ先生」
「アイシャ姉様の言うとおりですよ先生。それに教団の一員としてとっちめて有用な情報を搾り出すには最適そうですし」
「うわあ、ラナ様えぐい…」
「俺はそういうの良く分からないけどさ、これだけあいつに怒ってんのならあいつにその気持ちを伝えなきゃミーナだってすっきりしないだろっ。だったらいつか思い切ってあいつをぶん殴って鬱憤発散してやろうぜっ」

「おぬしら…」
ミーナはカイ達を見やると、とんがり帽子のをより深く被せて顔を隠した。
「…まったく、お節介なのはどうやらエリクに限らないようだな」
ラナ達が微笑む。

「まっ、なにはともあれ、今日の女神連合軍の初陣は結果として大成功だし、今はその戦果を素直に喜ぼうじゃないか」
レクスが手を合わせる。

「ええ、でも気は抜かないようにレクス殿、まだまだ先は長いし、オズワルドはゴードンみたいに甘くは無いわよ」
「もうラナ様、こっちがせっかく綺麗に話をまとめようと思ったのに」

ミーナ達が笑うと、ふと廊下から町長の声が聞こえた。
「ちょっとドーネ殿っ、いきなり入っては失礼――」
いきなり扉が開き、ドーネがつかつかと入って、その後ろに町長が気まずそうに謝りながら入ってきた。

「ラナ様、申し訳ございません。一言も無く突然お邪魔してしまって…」
「いいえ、構いませんよ。なにかご用ですか?」
「それが…」

町長の話を待たずに、ドーネは堂々とラナの手前に立った。
「おめえが連合軍の指揮官なのか?」
「ええ、そうだけれど」
「今日から俺がそっちの装備の鍛冶師になってやる。明日出発する時は一緒についてくからな」
「え」

いきなりの申出にラナだけでなくアイシャ達も目を丸くした。
「おめえんとこの軍の装備を一通り見回ったがな、ひでえもんだ。整備は最低限の程度しかされてないし、壊れた部分の補強も雑だし、どれも古い。あのまま放置したらいつかの戦いで痛い目見るぞ」

ラナが目を細めてレクスを見た。現在の連合軍の装備は殆ど彼の騎士団のものだから。
「し、しかたなかったんだよ~。うちは元々辺境の田舎にあるんだから軍備を整える資金も人力もなかったからさあ」

「そんな訳だ、あんたらはこの町の奴らを助けてくれたし――」
ドーネはウィルフレッドの方を見た。
「面白そうな奴もいるからよ」
目をぱちくりするウィルフレッド。

「申し訳ありませんラナ様、昼も申した通りマイペースな人で…。一度言い出したらなかなか曲がらないのです」
「気にしてませんよ町長。それにドワーフの鍛冶師がうちの軍に来てくださるのは寧ろ願っても無いお話です。これからよろしく頼むわ、ドーネ殿」

ラナの笑顔に、ドーネはただ頷くだけで今度はレクスの前に立った。
「装備関係はお前に言えばいいんだな?」
そして何か色々と書き込まれた紙の束を彼の手に押し込む。

「整備に必要な素材や道具のリストだ。今日すぐとは言わねえが、数日中で手配してくれ、以上だ」「あっ、ちょっと…」
レクスの返事も待たずに、ドーネはそのまま部屋を後にした。

「ほんと度々すみません皆様方、ああ見えて鍛冶屋としての腕も中々立つものですから、きっと皆様の役に立つと保証します」
かしこまった町長にミーナが苦笑する。
「おぬしも大変だな。しかし良いのか?ドーネの話だと、ここに坑道が出来たのも半分は彼の力によると聞くが」

「そうですね、浅い地層しか採掘してないあの坑道を今日の規模まで掘ったのは確かに彼のお陰ですが、なに、人材はまた探せば良いですし、町は一部ヘリティアの騎士達が復興を手伝ってくださるのだからすぐに立ち直れますよ。それに町の人々の命を救ってくださったご恩に比べれば、恩返しとしては寧ろ軽すぎるぐらいです」

感激の笑顔を浮かべる町長にラナもまた手をとって感謝する。
「ありがとうございます町長。わが国の不始末を許してくださって」
「そう仰らずに、ヘリティアとルーネウスは建国の祖たる勇者様たちのためにも、より良好な関係を持つべきです。ラナ様や皆様の道行きに、三女神様のご加護がありますように。それでは、失礼します」

町長が退去すると、レクスは長々と書かれたリストを眺めた。
「やれやれ、こりゃまた癖の強そうな人が仲間になったねエリーちゃん」
「ふふ。でもドーネさんが同行してくれるのはとても心強いですっ。坑道ではあの方のお陰で随分と助かったのですから」

ミーナも賛同する。
「うむ。気難しいところはあるが、鍛冶などの技術においてドワーフに勝る奴など滅多にいないからな。レクスには彼の機嫌を取るようにがんばってもらわないと」
「いーもん、こっちの調達はマティにお願いするからさ」

「あなたね…いつかマティ殿に愛想尽かれても知らないわよ?」
ラナが呆れたように言う。
「へーきへーき、うちのマティはそれぐらいではへばらないって」

カイとエリネ達が笑い出し、最後にお茶を飲み干したら、一行はそれぞれの部屋へと戻っていった。



【続く】

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...