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第六章 変異体《ミュータンテス》

変異体 第五節

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先導するドーネと道を照らすアイシャに続く一行は、早歩きになって坑道の奥へと進む。途中では人が掘ったものではなく、天然でできた空洞や、滝がある地下水脈をまたがる通路もあった。

「まさかここまで深いだなんて…しかも途中は坑道でなく天然の洞窟もいくつかありましたよねドーネ様」
アイシャが問うた。
「…ああ、この坑道の最初の採掘は俺が主導してたが、奥の奥に良い鉱脈の雰囲気がしていて、とにかくそこを目指すように掘ったのよ。最深部ってのはそこにある天然の大空洞のことを言ってんだ」

納得するように頷くミーナ。
「なるほど、道理でドワーフらしい堀り方だと思った」
「…ドワーフかどうか関係ねえ、俺ぁ良い鉱脈を探し当てて欲しいという依頼をやったまでだ、それだけよ」
「一応褒めてるんだぞ」
それ以上返事しないドーネにミーナはむっとしてアイシャが苦笑する。

「…着いたぞ、すぐそこだ」
大きな通路を抜けると、目の前に広がる光景に全員が思わずため息を漏らす。
その広く高く開いた空洞では、幾つかの石柱や岩石が地面から大きくせり上がっており、至るところに青や紫など様々な結晶が形をなしていた。

殆どの岩が色鮮やかに輝き、石が互いに共鳴しているのか、不思議な鳴り音が随所から伝わってくる。ここを重点的に採掘していたの、放置された採掘道具は上の階層よりも多く、あちこちに既に砕かれた水晶や採掘跡が見られた。

「すげえ…これら全部が魔晶石メタリカなのかよ…」
カイだけでなく、エリネもまた耳を澄ませると、魔晶石の共鳴が四方八方から響きわたっているのが分かる。
「素敵…まるで魔晶石がハーモニーを奏でているみたい。ここまではっきりと石同士が共鳴し合う場所なんて始めてです」「キュッ」

ミーナは杖先を軽く地面に触れさせる。
「…やはりこの下には大きな竜脈マナリバーが流れているな。これほどの魔晶石メタリカ結晶が形成されるのも頷ける」
しかしアイシャは思わず顔をしかめた。
「でもこの場所、なんて言いますか…変な不快感がこびり付いていませんか?」

「言われてみれば…確かにアイシャ様の言うとおり、どこか妙な雰囲気がします」
エリネ達だけでなく、同行の騎士達もまた美しい光景に反して、所々伝わってくる強烈な感覚に眉を寄せる。ミーナはそれが先ほど感じたものと同性質のもので、主に採掘跡あたりから発するものだと察した。

「ここいらの魔晶石には非常に強い思念が残留しているからだ。しかもこれは…、おぬし、確かさっき、大人達はわざと鉱床から離れた場所で痛めつけられていたと言ったな」
「はい、ゴードンの指示でそうしてました」
「彼らの悲鳴は、ひょっとしたら子供達が働く場所からよく聞こえるようなところにあるのではないか?」

「言われてみれば…確かにここにいた時は大人達の悲鳴がよく響いてきて…それのせいで子供達の作業の進行はとても鈍かったと覚えてます」
ミーナは深く考え込んだ。
(やはりやつら、子供達の負の感情をわざと煽ってたな。恐らくこれで特定の呪いを作るために。…しかし、?)

「それよりも早く閉じ込められた人たちを探そうぜっ、確かこの奥だよなっ?」
「はい、ここからさらに奥へ進むために掘ったばかりの浅い坑道があって、そこにあると聞いてます」
ミーナも一旦考えるのを止めた。
「…カイの言うとおりだ。例の魔獣モンスターがいつ戻ってくるかも分からないからな。ドーネ、頼む」
「こっちだ」

ミーナが地面に落ちた魔晶石の欠片を一つ取って懐にしまうと、空洞内をさらに進み、その突き当たりに落盤で崩れた石の山が見えてきた。
「あっ、あそこだと思いますっ!中から人の声が聞こえる!」
エリネ達がそこに集ると、カイが中に向けて叫んだ。
「お~い!中に誰かいるかっ!?助けに来たぞっ!」

「…助け…?外から助けがきたのか!?」
「ここにいるぞっ!はやく出してくれ!中には傷ついた子供もいるんだ!」
「ああっ!今すぐ助けてやるからな!」
カイが道具をおろし、さっそく岩をどかす作業に入ろうとすると、ドーネが彼の肩を掴まって阻止した。
「待て」
「なんだよ?」
「見ろ」

ドーネが指差す天井からパラパラと粉が降ってくる。注意深く見ると、さっき通った空洞の天井から断続的に粉が降ってきており、石の山の方も小さな石が時おり転がり落ちてくる。
「恐らくさっき言ってた魔獣モンスターが暴れたせいで岩盤が脆くなってる。迂闊に掘ると天井が崩れるぞ」
「じゃあどうしたら…」
「俺の指示に従え、てめえら全員、手を動かせ」
「ああ、分かった」

カイやウィルフレッド、そして連合軍とヘリティアの騎士がドーネの指示に従い、道具で補助しながら手作業で一つずつ埋もれた岩をどかしていく。エリネ達は薬草箱を開けて治療の用意をし、アイシャは時おり空洞内を見渡した。

「…魔獣、ぜんぜん見当たりませんね。ミーナ先生はどんなものだと思います?」
「そうだな…、こういう鉱床で出る奴といえば、魔晶石を好物とするランドワームの亜種か、さっき言ったロックゴーレムのどちらかだろう。どっちも厄介な魔獣だ。中の人たちを助けたらすぐ退散した方が良い」

カイ達がまた一つ岩をどかすと、ようやく中への隙間ができあがり、中の人たちが手を伸びだす。
「た、助かった…!」
「早くっ、外へ出してくれ!」
「待ってくれ!いま出れるようにするから…っ」
人が通れるほどの穴ができると、次々と中から子供達が這い出て、続いて大人達が出てきた。

「うわああん怖かったよぅ…」
「よしよし、もう大丈夫ですよ」
「うええん、痛いよぉ…」
「安心して、今から治療してあげるから」
アイシャやエリネ達が怖がる子供達や負傷者の応急治療を始める。幸い重傷者は出なかったため、処置はすんなりと進んでいった。

「閉じ込められてた人はこれで全部か?」
「あ、ああ…」
穴の中に入って確認し終わった連合軍の騎士に、ウィルフレッドが手を差し出す。騎士は少々困惑しながらもその手を取り、外に這い出た。

「…君たちが一緒に来てくれて良かった。こういう作業は人手がないと無駄に時間がかかかる。俺の力だけではどうでもできない。君達のお陰で彼らが助かったんだ。ありがとう」
小さく微笑んで礼を言うウィルフレッドに、目の前の騎士でなく、周りの連合軍の若騎士達も、これまでになく反応に困った顔で彼を見つめる。
「き、騎士として当たり前のことをした、それだけだ」

騎士は歯切れ悪そうに言うと、そそくさと他の若騎士達のところに移動した。隣でカイと一緒に道具の整理をするヘリティアの騎士も困惑の表情を浮かべて呟く。
「魔人とは言ってましたが、普通に良いお方にしか見えませんね…」
「そりゃそうだろ、兄貴は兄貴なんだ、それ以上でもそれ以下でもねえよ」
カイ達の会話を聞いたアイシャやエリネもまた嬉しそうに微笑み、ミーナは意味深にウィルフレッドを見つめた。

「…応急処置が終わったらさっさと出るぞ、ここの岩盤、かなりガタが来てやがる。いつまた落盤が起こってもおかしくない」
作業を終わらせたドーネが大人達を治療していたミーナを催促する。
「分かておる。おぬし達、自分で立てれるか?」
「あ、ああ、問題ない」

「よし、他に動ける奴は子供を背負うのを手伝え。アイシャ、エリー、そっちは終わったか?」
最後の子供を治療し終わると、二人は頷く。
「ええ、いつでもいけます先生」
「問題ないです」
「うむ、ではすぐ出よう、ドーネ、外まで案内を――」


「そうせっかちなさんな、お嬢さん」

一瞬、全員が大岩の頂上の方に顔を向き、特にウィルフレッドの全身が強張った。
「申し訳ねえが、今度はこっちの用事に付き合ってくれねえか」
大岩の上に不敵な笑みをしたギルバートがウィルフレッド達を見下ろしていた。

「てめえ…ギルバート!」
カイ達全員が武器を構え、ヘリティアの騎士達やドーネも、その只ならぬ雰囲気に触れて同じように武器を手にした。
「何者ですか彼は?」
「邪神教団に協力しているもう一人の魔人なんだ…っ」
「なんだって?」

「ギル…お前なんでここに…っ?」
ウィフレッドが前に出てギルバートを見上げた。
「そう緊張するなウィル。今日もあんたとやり合うために来たんじゃねえ。いや、協力して欲しいことがあるのは確かだがな」
「なんだって?」

「雇い主にうちらのをデモンストレーションしたいんだ。あとついでに、クライアントもあんた達に挨拶をしたいだそうでな」
「挨拶だと…?」
ギルバートが一歩退くと、教団の黒ローブを着た、赤色たゆたう青い目の男が前に歩み出た。それはかつて、採掘場でラナ達の行動を観察していた、エリクという男だった。

「初めまして、女神の巫女様、そしてその戦士達よ。一度じかにお会いしたいと思いました」
「邪神教団っ!」
カイが叫ぶ。

「あなた方の外でのご活躍、しかと見届けていましたよ。寡兵にも関わらずゴードン軍に勝つとは、巫女様がお導きなさるだけのことはありますね。…巫女様といえば、まさかアイシャ様が月の巫女だったなんて。神弓を持っていた時点で察すべきでしたが、この前我々が働いた無礼をどうか許していただきたい」

アイシャが構え、カイがアイシャを守るように移動する。そしてミーナが驚愕なあまりに杖がミシリと鳴くほど強く握り締めた。
「エ、エリク…っ!」
「先生、あの人を存じてるのですか?」
「…あやつはエリク、封印管理者の一族で、封印の里から封印の水晶を奪いさった張本人だ」
「なんですって…っ」
アイシャ達が声を上げる。

エリクは優しそうな笑顔をミーナに向けた。
「久しぶりですねミーナ殿、相変わらず元気そうで嬉しい限りです」
ミーナは険しい顔を見せる。
「まさか本当におぬしだったとは…、なぜだエリクっ!恩師と一族を裏切るなど…そんな愚かなことを…っ」

「裏切りとは心外です。私は渇望するただ一つの願いのためにすべきことをしたまでです」
「願い?」
「ミーナ殿なら存じてるはずでしょう。ことですよ」

ウィルフレッド達は怪訝そうにミーナの方を向いた。ミーナは複雑そうな表情を浮かべていた。
「おぬし、まだそのことを…っ。そんなことのために、一族を皆殺しにし、封印の水晶を奪ったというのかっ?」
「それ以外に何があるというのです。邪神の封印が存在する限り、貴方は自由にはなれません。ならば。それだけで貴方は自由となり、幸せになれるのですから」
「な…」

ミーナだけでなく、事情をよく知らないエリネ達もその矛盾な考えに、エリクの異常性に勘付いた。
「おかしいですよそんなのっ、封印が破れて邪神が復活したら、幸せも何もないじゃないですかっ」
だがエリクは平然な顔のままで答えた。
「そんなことはありません。ミーナ殿の幸せは封印に縛られてます。ならば封印を壊せば彼女は幸せになれる。理にかなった考えですし、その他のことなぞ大事の前の小事ですよ」
「え…」

エリネが思わず面食らう。この時、ミーナはエリクの目の中に混ざる赤い光を見て悟った。
「なるほどそうか…。おぬし、術をかけられたな」
「まさか、あの夜、私は水晶を見て初めてその事実に気付いただけです」
「なっ、おぬしっ、まさか勝手に一人で封印の間に…っ」
「管理者の継承の話を聞いた時から、ミーナ殿になにかしてあげられることあるかずっと考えましたが、一度水晶をじかに見れば、何か良いアイデアが浮ぶかもと思ってね。貴方が里にいなかったので、私一人で見に行ったのですよ。お陰でその事実に気付くことができました」

わなわなとミーナの手が震えると、まるで今までの鬱憤を発散するの如くミーナが咆えた。
「この馬鹿エリクっ!あんたはいつもそうだっ!こっちに相談しないで一人で勝手に突っ走って人の話もきかないでっ!お陰で私がどれほど苦労してたのか分かっているのかっ!?」
「お、おいミーナ?」

アイシャやカイ達が、いつも知的そうなミーナの豹変に驚く。だがエリクはまるで無邪気な子供のような爽やかな笑顔を返すばかりである。
「ははは、相変わらずミーナ殿は厳しいですね。でも逆に安心しましたよ」
「笑い事じゃないぞ笑い事じゃっ!」

「おい、痴話喧嘩するのは結構だがよ、そろそろデモを始めても構わねえか?」
ギルバートが気だるそうな顔を見せる。
「これは失礼。申し訳ないですがミーナ殿、今日は別の要件でこちらに来た故、昔話はまた別の機会にしましょう」
「エリク…っ」

これ以上ミーナに応じることなく、エリクはギルバートを見た。
「では、呼びますね」
「ああ」
エリクは懐から、小さな笛のようなものを取り出し、それを思いっきり吹いた。大きな音はならず、風が笛を通すような音しかでなかった。

「キュウウッ!」「つぅ…!」
しかしルルが突如嫌そうに鳴き、エリネもまた耳に不快感を感じて塞ぐ。
「エリー、どうしたっ?」
カイが心配そうに彼女の肩を支える。

「な、なんか妙な音が響いて…」
ウィルフレッドの聴覚センサーも人類の可聴域を超えた特殊な音を捕捉し、ドーネはその笛に見覚えがあるようだった。
「あれは…」

地面が揺れた。彼らのすぐ傍にあった大岩が、淡い翠色で金属のような輝きを帯びては両足が生えて大きく立ち上がる。そしてどこか間抜けそうな顔が浮かび、さらに生やした両腕を大きく広げて唸り声を上げた。
「ムオオオォォォッ」

「みんな下がれっ!」
ウィルフレッドやカイ、騎士達がアイシャ達や町の人々をかばいながら後退する。ミーナは動く大岩の輝きに目を見張った。
「ロックゴーレム!しかもこの輝き…ミスリル級か!」
「ムオオォォッ!」

ゴーレムがその鈍重そうな足をゆっくりと上げてはミーナ達めがけて歩き始める。子供達が泣き喚きながら大人達に強くしがみつく。
「こ、この魔獣モンスターだよっ!さっきここで暴れたのはっ!」

笛を悠々としまうエリク。
「このゴーレムは先日ここで見つかったばかりのものでして、当初はどう処理すべきか悩みましたが、丁度ギルバート殿のデモに生きの良い魔獣が一匹必要と言われましてね。貴方がたにそれの相手をさせるよう誘導するため、先ほどここで暴れさせたのです」

「エリク…っ」
ミーナがエリクを睨むと、ゴーレムが低く唸り、彼女ら目掛けてその重そうな足で小走りし出した。速度こそ遅いものの、その巨躯からの威圧感は見るだけで圧し潰されそうになる。

「危ないっ!」
ミーナやウィルフレッド達は慌てて分散してかわし、連合軍の若騎士は咄嗟に剣で斬りつけた。
「このっ!」
鈍い岩と金属の衝撃音が響き、綺麗に真っ二つに折れた剣の先端が宙に舞って地面に落ちる。

「なっ…」
「ムオオォ!」
「うわっ!」
ゴーレムの丸太ほどに太い腕が大きく横振りしてくる。騎士は辛うじてそれを避けるが、バランスを崩して倒れこんでしまう。

「こいつ…っ!」
「おのれっ!」
カイが急いで矢を放てて牽制し、他の騎士達も前に出てはゴーレムと対峙する。それを隙にウィフレッドが急いで倒れ込んでいた若騎士を後方へ引張った。
「大丈夫かっ?」
「あ、ああ」

一方ゴーレムは鈍重ながらも致命的なその両腕を振り回し、斬りつこうとする騎士達の剣をことごとくへし折り、飛来するカイの矢も全て弾いた。

「くそっ、こいつに剣や矢とか全然効かねえ!」
「当然だっ、ミスリル級ゴーレムの硬さは鋼以上で、魔法も非常に効きにくいゴーレムの上級種っ。ゴーレム狩り用の罠や武装がなければ太刀打ちできんっ!全員いますぐ退却するのだっ!」

ミーナの一言で騎士達が後退しようとするが、ゴーレムが両腕を大きく上げて唸ると、ズシンと重たい両腕を地面に叩きつけて四つ這いとなり、その巨躯には見合わない闘牛の如きスピードで彼女達に突進してくる。
「ムオオォォオッ!」

「なっ」「うわああああっ!」
ゴーレムの死の突撃に子供達が叫び出すと、アイシャ達の間に青き電光が爆風と共にはしる。
「オオオオッ!」
魔人アルマ化したウィルフレッドが雄叫びを上げて飛び出てゴーレムを迎撃するっ。

巨大な質量と力がぶつかり合い、激しい衝撃が空気を震わせ、粉塵を巻き上げた。
「うおっ!」
「きゃああっ!」
粉塵のなかから、なんとゴーレムの巨体が吹き飛ばされ、岩壁に深く叩き込まれた。
「ムオォォッ!」

衝撃で空洞内全体が振動し、天井からパラパラと小石が落とされる。エリネとカイ達は巻き上がった粉塵の方を見た。
「ウィルさんっ!」「兄貴!」

粉塵が散ると、赤い目をギラつかせ、荒々しく構えるウィルフレッドの魔人アルマ姿が見えた。ヘリティアの騎士達とドーネが、異質的なその存在に大きく目を見開く。
「あ、あれが、あれが魔人なのですか…っ!?」
「ああ、兄貴の…異世界から来た兄貴のもう一つの姿なんだ」
「こりゃたまげた…」

連合軍の騎士達は、再び見るウィルフレッドの現実離れした魔人姿にやはり強い畏怖感が込み上げてくる。
「やはり…人離れしてる…っ」

「ムオォ…」
ウィルフレッドは深く岩壁にのめり込んだゴーレムを観察する。その胴体は大きなヒビが入り、苦しそうな呻き声を上げている。先ほどの衝撃は、既にゴーレムに大きなダメージを与えていた。

「凄まじい…。ゴーレムの体に一撃でこれほどの痛手を…先ほどの手応えだと大砲でもなければ砕けなさそうなのに」
ヘリティアの騎士の感嘆の声に、ミーナもまた厳つい顔でウィルフレッドを見る。
ドラゴンを簡単に屠れるから当たり前だが、この目で実際見ると実にこの世界に相応しくない強さだ。これが良からぬ未来を呼び寄せるのか…?)

ゴーレムがようやく岩壁から身を抜け出すと、その振動で天井からいくつもの大きな岩がアイシャ達のそばに落ちた。
「きゃあっ!?」
「アイシャ様大丈夫かっ?」
カイ達が急いでアイシャや子供、負傷者達をかばう。ドーネが天井を見上げた。

「やばいぞ、このままこいつらが暴れたら間違いなく落盤が起こってしまう」
ウィルフレッドもそれに気付き、右手を強く握り締めた。
(これ以上長引いては危ない。こいつの強度はもう掴んだ、次の一撃で決める…っ)
右手の結晶から青いエネルギーがバチバチと迸り、拳に青きオーラを纏わせ始めた。

「ご覧のように、あのゴーレムとやらの力は俺達アルマと比べると比べ物にもならないぐらい弱いものだ」
その様を眺めていたギルバートがエリクに説明する。
「確かに、貴方の今までの活躍を見ればそれも当たり前ですね」
「ああ。けどな、そんなゴーレムを一気に強化できることができるんだよ。こいつを使ってな」

ギルバートが小さな銃と、それに込めるためと思われる一つのシリンジを取り出した。シリンジの中には、怪しく光る液体が詰め込まれていた。
「それが例のおもちゃ、ですか?」
「そうだ。岩のバケモンだと効くかどうか分からねえが、まっ、物は試しだ。よ~く見とけよ」
ギルバートがシリンジを銃の中に込めると、狙いをロックゴーレムに定めた。

ふらふらと立ち上がるロックゴーレムと対峙し、ウィルフレッドはエネルギーを込めた右拳を更に強く握り締め、身を前へと傾げる。
(この一撃で…っ)

駆け出す直前、彼は無意識にギルバートの方を向いた。ニヤリと笑う彼の手に持った銃から打ち出されたシリンジが、まるでスローモーションがかかったようにゴーレムへと打ち込まれた。

「ム、ムオオおオおオおぉぉォッ!」
ゴーレムが苦悶の叫びを上げ、シリンジが撃たれた場所からドロドロと液体が溢れ出て全身と中身へと広がると、ゴーレムの体が苦しく悶えながら急激に変化していく。
「なんだっ!?いったい何が起こったんだ!?」
カイ達が瞠目する。
「こ、これは…まさかっ!」
急停止したウィルフレッドもまた驚愕した。

岩石の外貌だったゴーレムの翠色の肌に妖しき虹色の輝きが光り、体が膨れ上がるにつれメキメキと体全体の形が、間抜けそうだった顔が禍々しく変形していく。無地の目のような結晶が生え、無機的な模様が体中に浮き彫りとなっていく。

「ムおオおおオォGYOGYOGYOAAAAAAA!」
吠え声までもが先ほどの低い鳴り声から、カイ達の聞いたこともない異形の叫びと化していく。一たび大きく吠えあがると、が、そこにいた。



【続く】
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