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第六章 変異体《ミュータンテス》
変異体 第四節
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「魔獣だと?本当か?」
「はいっ、町長。最深部の方にいる子供達を誘導しようとした時に突如現れて…魔獣はすぐにどっか行ってしまいましたが、やつが暴れたせいで落盤が起きて、一部大人達とともに内部に閉じ込められてしまって…っ」
「どんな魔獣だったのか分かるか?」
「そ、それが、あまりにいきなりだったのでよく見えなくて…」
「それはいかん。大至急人を集めて救援に向かわせないと――」
「町長、救援は我が軍が行いましょう」
「ラナ様っ、し、しかし、町を解放して頂いたばかりの貴方たちに頼むのは…」
「ご心配なく、これも成り行きですし、戦争そのものでなく人々を助けることこそが我々の目的なのですから」
アイシャも同意するように頷くと、町長は深く一礼した。
「…ありがとうございますラナ様、アイシャ様」
「よし、レクス殿、救援隊の編成を頼むわ。私も用意したら一緒に――」
そこでミーナが割り込んだ。
「いや、ラナはここに残った方がいい。レクスも除外だな」
「なぜですか先生?」
「坑道内では落盤が起こる可能性もある。そんな中で軍の指揮官達が全員入っては万が一の時それで全滅だぞ。それに君の魔法は殆ど攻撃系だからなおさら坑道との相性が悪い」
「それはそうですが…」
「昔から他人に物事を任すことも学べと言っただろう、ここは我らに任せよ」
まだ少し不服ながらも、ラナは頭を縦に振る。
「分かりました、心苦しいですがお願いします先生」
「へえ、まさかのラナ様も頭があがらないだなんて、さすが巫女様のせんせイテッ!」
ゴツンとレクスの頭に叩かれるラナの拳。
「レクス殿。仕事」
「はいはい分かってますって」
少し涙目で離れるレクスにアイシャがくすりと笑う。
「ラナ様って意外とレクス殿のこと気に入ってらっしゃるのですね。あんな風で誰かと絡むの初めて見ました」
苦笑するラナ。
「やめてくださいアイシャ姉様。単に我が軍の軍師としてしっかり仕事しなければこちらとて困るだけですから」
アイシャに続くミーナ。
「それでもかなりキツめに感じられるな?実際今日の戦い、レクスの采配は中々悪くはないと思うが」
「いいえ、オズワルドはゴードンのような甘い相手ではありません。彼にはもっとがんばって貰わなければいけませんから、それぐらいで浮かれては困ります」
アイシャとミーナは少し意外そうにお互いを見る。ラナは元々公務に関しては厳しめだが、誰か一人にここまで容赦ないのは初めてだから。
「ここにいるのが今動ける人たち全員なのかいボルガ」
十数名の若い騎士達を連れてきたボルガにレクスが確認する。その場にはラナやアイシャ、ウィルフレッド達全員が集まっていた。
「ああ、他の奴らはマティ殿やアラン殿と一緒に捕虜の対処や既に外に出た子供達の世話に追われてな。それに坑道での仕事だとやっぱ力持ちの若いもんが適任と思ってよ」
「うん、助かるよボルガ」
「レクス様」
数名の騎士と一人のドワーフを連れた町長が声をかける。
「こちらの騎士達は占領軍として奴隷を坑道内に連れたことのある方達です。彼らなら子供達を捜す手助けとなりましょう」
騎士達はレクス、そしてラナに向けて頭を垂れる。
「ラナ殿下、レクス様、我らの無様さが今回の事態を招いてしまったのも同然。ですが同じ誤りはもう致しません。この命を替えても必ずや民たちを助け致しますっ」
「うん、頼りにしてるよ君たち」
「その意気やよし、これ以上ヘリティアの名を落とすな。その手で必ず汚名を雪げ」
「はっ!」
「それと、先ほど申し上げた坑道内の案内人のドーネも同行させます。彼ほどこのハーゼンの坑道を熟知するものはいませんよ」
町長がいうと、腕を尊大に組みながらしかめっ面をしたドワーフがレクスの前に出た。
「君がドーネ殿だね?救助隊のこと、よろしく頼むよ」
だがドーネは一言も話さず、ただじっとレクスを見つめていた。
「ええと、ドーネ殿?」
暫く彼を見つめると、ドーネは今度ラナの前に止まって見つめ、そして同じことをアイシャやミーナ、カイとエリネ、そしてボルガ達にもして、最終的にウィルフレッドの前に止まった。
「…」「…」
二人はただ無言でお互いを注視する。
「な、なんなんだこのおっさん。いきなり人のことジロジロ見てて」
「いやはやすみません、ドーネは少々マイペースなところがありまして。ですが坑道への知識や鍛冶の腕は確かなものですからご心配なく…」
カイと町長をよそに、ドーネはいきなり「うむっ!」と頷くと、どかっと傍に座った。
「出発の用意ができたら呼べ」
そしてそのまま動かなくなった。
「…あ~、まあそういうことで」
レクスが無理やりオチをつけた。
ミーナが最終確認を行う。
「よし、坑道へ入るのはドーネ、ヘリティアや連合軍の騎士達、我とアイシャ、ウィル、エリー、そしてさっきから参加すると口うるさいカイでいいな」
「口うるさいとはなんだよ、俺も結構力あるんだから参加するのは当たり前だろ」
「ほんとうにそうか?人の治療でエリーは必須だが、おぬしは何か他の理由があってついて来たいのでは?」
「ん、んな訳あるかっ、妹を一人にする訳にはいかないし、兄貴がいくところなら俺も行くだけだっつーの」
「下心みえみえなの分かってるのかなお兄ちゃん」
エリネがウィルフレッドに耳打ちし、彼もまた小さく苦笑した。
(これ以上アイシャ様を他の奴らと仲良くさせるかよっ、もっと彼女と接する機会を増やさなければ…っ)
あまりよく分かっておらず微笑んでるアイシャを見て、カイは気合を入れなおした。
「まあよい、だがあまり大人数なのもかえって動き難いな。ボルガとやら、騎士のメンバーをさらに数名選別してくれるか」
「おう、分かった」
ボルガが先ほど集まった連合軍の若騎士のところに寄ると、ふと彼ら何かに遠慮してそうな表情をしているのに気付いた。
「ん?どうしたおめえら?変な顔してよ」
「いえ、その…私達が同行しても良いのかと、ちょっと思ってまして」
「はあ?どういうことだ」
「救助隊には魔人様も同行するんですよね?あの方さえいれば、私達まで一緒にいく必要なのではないかなあ、と」
この時ようやく彼らの遠慮がちな視線は、ウィルフレッドの方に向いてるのを全員が気付いた。カイやエリネ達の顔色が変わる。
「てめえら…、なにバカなこと抜かしやがるっ!」
ボルガがうち一人の襟を掴んで怒鳴る。
「だ、だって竜さえも容易く屠れる力を持った魔人様ですよっ?私達の出る幕なんてないじゃないですかっ」
「魔人?それってまさか、前線で出没している噂のあれか…?」
ヘリティアの騎士達もどよめき始め、次々と視線をウィルフレッドに移す。
「ウィル様…っ」
(これは、まずいな…っ)
心配そうなアイシャの傍でレクスが対応を逡巡し、ミーナはどこか険しい目でウィルフレッドを見る。
「そんな言い方ないじゃないですかっ」
「そうだよっ、兄貴に何か文句――」
エリネとカイが弁護し、そしてラナが騒動を収めようと声をだそうとしたその時だった。ウィルフレッドがエリネ達を手で止めた。
「二人とも大丈夫だ」
「兄貴?」「ウィルさん…」
ウィルフレッドは若騎士達の前に歩き、おずおずと畏怖する眼差しを向ける彼らの目を真っ直ぐ見つめた。
「…君達が俺を恐れることは分かる。それが当然の反応であることも理解できる」
彼の声はとても落ち着いていた。
「確かに俺の力があれば、魔獣を倒すことも障害物を取り除くことも簡単だろう。だが一人では限度もあるし、繊細な救助作業は俺よりも君達の方が適任な場合もある。ここはどうか、下に救助を待ってる人たちのためにも、我慢して一緒に来て欲しい。頼む」
ウィルフレッドは頭を垂れて、若騎士達に懇願した。いきなりの行動に彼らは困惑し、お互いを見つめてはそんな彼を見つめていた。
「おい、何もあんたが頭を下げなくても――」
「しっ、ここはウィルくんに任せて」
何を話そうとするボルガをレクスが止めた。
「わ、分かった、分かったからとにかく頭を上げてくれ…」
「…ありがとう、助かる」
笑顔で顔を上げたウィルフレッドに、若騎士達は反応に困るように頭や頬を掻き、エリネ達もほっと胸をなでおろす。
(こやつ…)
その光景に思うところありそうなミーナだが、とにかく救助活動に専念することを優先することにした。
「話はこれまでだ。人選が決まったら救助道具などをさっさと用意したまえっ!」
ミーナの一喝で全員が動き始める。レクスは、笑顔を向けて礼を言うように頷くウィルフレッドに気付き、親指を立てては笑顔を返した。
「町長から貰った薬草箱を持ってきた。これでいいか?」
「…うん、完ぺきです。ありがとうウィルさん」
ウィルフレッドが持ってきた箱の中身を手で確認したエリネ。普段は魔法やバッグにある応急道具で事足りるが、今度は救助すべき人数も不明瞭から、予め魔法以外の回復手段も多めに準備することになった。
「こっちも…ぐぬぬ…っ、用意できたけどよ、何か俺だけ多めに装備背負わされてないか?」
採掘用の重い道具を幾つか背負ったカイが少しよろめきながら立ち寄る。
「もう、力持ちだから参加するの当たり前と言ったのはお兄ちゃんでしょ?いまさら弱音吐くなんて情けないわよ」
「うっせえ、ちょっとばかし重いと思っただけだ、これぐらいなんとも…ねえよっ」
踏ん張って立ち直すカイに、二人は小さく苦笑する。
「おう、がんばってんなカイ」
「ボルガのおっさん」
「ボルガさん…」
ボルガが三人のところの様子を窺いにきた。
「…すまねえなウィル殿、うちの若けえのが迷惑かけてよ。この前の宴の時もそういうことだったんだな」
「ああ、けど気にしないでください。元々慣れてるし、彼らにも言ったようにあれは至極当然の反応なのですから」
「へっ、大人だねえあんたさんも、あいつらとそう年も離れてないのによお」
ウィルフレッドは薬草箱を蓋するのを手伝いし終わると、ボルガを見た。
「ボルガさんこそ気にしませんか?俺のことを」
「ああ、まあ最初にあの姿をみたときは当然驚いたけどよ。あくまでそれだけだ。あんたとは旅の初めから接してきたし、若いのとは違ってそれなりに世間を見てきたんだ。あんたがどんな人なのはそれなりに理解しているつもりだ。だから別に気にしてはいねえよ」
大らかな笑顔をして語るボルガにウィルフレッドは感激する。
「…ありがとう」
カイとエリネも彼を見て微笑むと、ミーナがアイシャがドーネと他の騎士達とともに歩み寄った。騎士達はいまだ困惑そうな眼差しでウィルフレッドを見るも、畏怖的な感じはそこはかとなく薄くなった気がした。
「おぬしら用意はできたか?」
「はい、準備オッケーですミーナ様」
「おう、いつでもいいぜっ!」
「ああ、問題ない」
ラナとレクスが彼らを見送る。
「ミーナ先生、どうか気をつけて。アイシャ姉様もね」
「ええ、いってきますラナ様」
「…ついて来い」
無愛想な表情のまま先導するドーネに、ミーナとアイシャ達が続き、一行は坑道の中へと入っていった。
******
一行は最初に、トロッコ用レールが敷かれた通路を暫く歩いた。道中は明かり用の魔晶石カンテラが随所配置されているため、つまずく等の心配はなかった。やがて開けた採掘鉱石の集散地らしいところに出ると、その空間を中心に四方八方へと坑道が延び、あちこちに柱があり、多くのトロッコが鉱石を置かれたまま放置されていた。
「すげえな…鉱山のことはよく分からないけど、これって結構大きいやつじゃないのか」
驚嘆するカイにヘリティアの騎士が説明する。
「ええ、あまり詳しくはありませんが、町長の話によればここ一帯でも五本指に入るほどの大鉱山かと」
「ここ一帯じゃねえ、ルーネウス全国において、だ」
ドーネが補足する。
「表層の殆どは普通の鉱石だが、より深層にいけば魔晶石もわんさか出てくる。あれだけの量は俺達にとっても珍しいぐらいだ」
「なるほど、ここの地下には恐らく竜脈が流れてるのだろう」
「竜脈ってなんだ?」
ミーナの聞き慣れない単語にカイが尋ねる。
「マナが大地の中でまるで川のように豊富に流れるところのことだ。そういう場所は大抵、魔晶石の鉱脈が豊富になる。なるほど、ゴードンや教団はそれ目当てでこの町を狙ったのか」
旧式ながらも坑道だと分かるその空間を見て、ウィルフレッドはギルバート達とともに地球の荒廃した鉱山でのミッションを思い出す。
「…ここにいた人たちは全員外に出たのだな」
「はい、ミーナ様。最深部にある人たち以外は殆ど坑道から脱出したはずです」
「なら急ごうっ、ドーネのおっさん道案内頼むぜ」
「…こっちだ」
ドーネの案内で一行は比較的大きい坑道の中へと進み、途中でいくつもの岐路に入ると、ツルハシなど採掘道具が放置された採掘地点に到着するが、カンテラが微弱なものになっているのに気付く。
「暗いなあ、いきなりどうなってんだ?」
「ここから下のカンテラはわざと暗くするようゴードンめが指示したんです。これのせいで子供達の作業が一層困難になってますから、正直こうする理由は私達も見当がつきません」
(まさか、子供の不安を煽っているのか?)
ミーナは採掘跡の一つに近づいて岩壁に杖を当て、目を閉じては意識を集中する。
(((ほらっ!早く立て!)))
かつてここで重労働させられた子供の記憶の断片が浮かび上がる。
(((おう、良いねぇその目っ!思う存分に睨みな!そして呪え!あんたらをここに見捨てた女神様をなっ!)))
記憶の光景が途切れ、強烈な不快な感覚にミーナは軽く眩暈を覚えてしまう。
(むう、これは…この感情は…)
「先生、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。しかしこれほど暗いと流石に歩き辛いな。アイシャ、頼む」
「はい、お任せを。――月光」
アイシャの手に和やらかな月明かりの如き光の玉が浮んで回りを照らす。その明かりは不思議と目に優しく、しかも周りでなく坑道の先の先まで照らしていき、一行は感嘆の声を上げる。
「おおっ、めっちゃ遠くまで照らしてるっ、アイシャ様すげ…凄いですっ」
「ああ、前にエリーが使った奴よりもずっと明るいな、これも巫女の力ゆえなのか?」
「そうですけど、実はちょっと違うんです」
「違う?」
アイシャの代わりにミーナが歩きながら説明した。
「巫女はな、対象となる女神を源とする魔法系統を使うと飛躍的にその効力が増すのだ。例えば今の月光は女神ルミアナを源とする魔法なため、月の巫女であるアイシャが使うと、他人以上の効力を発揮することができる」
エリネが納得するように頷く。
「なるほどっ、だからラナ様の光槌はあれだけの威力を持ってるのですね」
「うむ、元々人と魔法には相性というものがあり、それに合った魔法系統を学ぶのが基本だが、女神の巫女となればその理も強く反映される。アイシャ達の話によれば、燃やすマナも他人と比べて量が少ないようだ。当然、厳しい練習が必要なのは言うまでもないが」
「へえ…なるほど、アイシャ様すげ、凄いですね。ここまで熟練に魔法を扱えるのも、色々と大変だったでしょう」
カイが荷物の重さに耐えてせっせと前へとアイシャに並び、それを聞いたエリネは「もう」と頬を膨らみ、ウィルフレッドが苦笑する。
「ふふ、確かにそうですけど、これも巫女の務めですもの。苦労こそすれ、辛いと思ったことは一度もありませんよ」
「素晴らしいですアイシャ様。国民としてとても誇らしい佇まいですよ」
「ありがとうございます」
そういうと、アイシャが少々困った表情で歯切れ悪そうにカイにお願いした。
「あの…カイさん、前にも仰ったように、そう固くなさらずにエリーさん達と話してるように気軽に話しても構いませんよ、私としてはそうした方が嬉しいですから」
「いえいえどんでもないです。王女たるアイシャ様にそんな恐れ多いことを、一国民として身を弁えないといけませんし、無礼を働いてはいけませんからね」
カッコつけた感じで話すカイ。
「そう、ですか」
だがアイシャの反応はカイの予想と反して、どこか寂しさを帯びたものだった。
(あ、あれ…?)
「すみません、無理を言ってしまって…」
「あ、い、いえ…」
気まずそうな雰囲気になると、お互いこれ以上話さずに歩き続けた。
(俺、なんかまずいこと言ったのか…?)
一行は引続き坑道内部へと進む。奥へと、下へと進むほど、回りの岩壁に様々な色で淡く光る箇所が増え続け、通路も徐々に大きくなっていく。
「この岩の光…これが魔晶石なのか、ミーナ?」
一部が水色に輝く岩の壁にウィルフレッドが触れる。
「魔晶石の原石、というべきだな。長らくマナの流れに照らされ続けた岩はこうして独特な力を帯びるようになり、内部が結晶化して魔晶石となる。マナの流れが強い場所だと、高純度の魔晶石が外まで成長するほど結晶化するし、マナ自体が結晶化することもある。中では長らくマナを帯びた結果、生き物のように動くものまで出てくる。まあそこまで豊かな鉱脈自体はかなり希少だがな」
「あ、シスターから聞いたことあります。確かロックゴーレムがそうですよね」
「そうだ、まだ詳しく解明されてないが、マナは魂に関わる力で、無機質に魂や意思さえ与えられると考えられている。世界の万物は全て三女神がマナにより作り出されたというマナ創世論も、この性質を元にしているな」
「そうなのですね。…前に別大陸の話と良い、ミーナ様って本当に物知りですよね。賢くて尊敬しちゃいます」
「それはそうですよ。ミーナ先生は元より書物や知識に精通するビブリオン族のエルフですし、封印管理者である賢者ビリマの直弟子でもありますから」
エリネとアイシャの言葉にミーナは得意げに胸を張る。
「ふふ、もっと褒めてもよいぞ。まあ、元より我ら管理者一族は万が一のために備えて常に知識の研鑽をしなければならない。いつか来る巫女や勇士達を補助するのも、また我らの務めの一つだからな」
「…生意気な性格だけが玉に瑕だな」
「なんか言ったか?」
「なんにも?」
睨むミーナからそっぽ向くカイに、エリネとアイシャが互いを見て小さく笑う。
「それにしても深い坑道だな…。なあドーネのおっさん、最深部まであとどれぐらいなんだ?」
「もうすぐだ」
「少々無駄話が過ぎたか、みんな急ごう、下の奴らが心配だ」
ミーナの一言で全員頷いては早歩きとなり、ドーネの案内でさらに奥へと、下へと降りていった。
【続く】
「はいっ、町長。最深部の方にいる子供達を誘導しようとした時に突如現れて…魔獣はすぐにどっか行ってしまいましたが、やつが暴れたせいで落盤が起きて、一部大人達とともに内部に閉じ込められてしまって…っ」
「どんな魔獣だったのか分かるか?」
「そ、それが、あまりにいきなりだったのでよく見えなくて…」
「それはいかん。大至急人を集めて救援に向かわせないと――」
「町長、救援は我が軍が行いましょう」
「ラナ様っ、し、しかし、町を解放して頂いたばかりの貴方たちに頼むのは…」
「ご心配なく、これも成り行きですし、戦争そのものでなく人々を助けることこそが我々の目的なのですから」
アイシャも同意するように頷くと、町長は深く一礼した。
「…ありがとうございますラナ様、アイシャ様」
「よし、レクス殿、救援隊の編成を頼むわ。私も用意したら一緒に――」
そこでミーナが割り込んだ。
「いや、ラナはここに残った方がいい。レクスも除外だな」
「なぜですか先生?」
「坑道内では落盤が起こる可能性もある。そんな中で軍の指揮官達が全員入っては万が一の時それで全滅だぞ。それに君の魔法は殆ど攻撃系だからなおさら坑道との相性が悪い」
「それはそうですが…」
「昔から他人に物事を任すことも学べと言っただろう、ここは我らに任せよ」
まだ少し不服ながらも、ラナは頭を縦に振る。
「分かりました、心苦しいですがお願いします先生」
「へえ、まさかのラナ様も頭があがらないだなんて、さすが巫女様のせんせイテッ!」
ゴツンとレクスの頭に叩かれるラナの拳。
「レクス殿。仕事」
「はいはい分かってますって」
少し涙目で離れるレクスにアイシャがくすりと笑う。
「ラナ様って意外とレクス殿のこと気に入ってらっしゃるのですね。あんな風で誰かと絡むの初めて見ました」
苦笑するラナ。
「やめてくださいアイシャ姉様。単に我が軍の軍師としてしっかり仕事しなければこちらとて困るだけですから」
アイシャに続くミーナ。
「それでもかなりキツめに感じられるな?実際今日の戦い、レクスの采配は中々悪くはないと思うが」
「いいえ、オズワルドはゴードンのような甘い相手ではありません。彼にはもっとがんばって貰わなければいけませんから、それぐらいで浮かれては困ります」
アイシャとミーナは少し意外そうにお互いを見る。ラナは元々公務に関しては厳しめだが、誰か一人にここまで容赦ないのは初めてだから。
「ここにいるのが今動ける人たち全員なのかいボルガ」
十数名の若い騎士達を連れてきたボルガにレクスが確認する。その場にはラナやアイシャ、ウィルフレッド達全員が集まっていた。
「ああ、他の奴らはマティ殿やアラン殿と一緒に捕虜の対処や既に外に出た子供達の世話に追われてな。それに坑道での仕事だとやっぱ力持ちの若いもんが適任と思ってよ」
「うん、助かるよボルガ」
「レクス様」
数名の騎士と一人のドワーフを連れた町長が声をかける。
「こちらの騎士達は占領軍として奴隷を坑道内に連れたことのある方達です。彼らなら子供達を捜す手助けとなりましょう」
騎士達はレクス、そしてラナに向けて頭を垂れる。
「ラナ殿下、レクス様、我らの無様さが今回の事態を招いてしまったのも同然。ですが同じ誤りはもう致しません。この命を替えても必ずや民たちを助け致しますっ」
「うん、頼りにしてるよ君たち」
「その意気やよし、これ以上ヘリティアの名を落とすな。その手で必ず汚名を雪げ」
「はっ!」
「それと、先ほど申し上げた坑道内の案内人のドーネも同行させます。彼ほどこのハーゼンの坑道を熟知するものはいませんよ」
町長がいうと、腕を尊大に組みながらしかめっ面をしたドワーフがレクスの前に出た。
「君がドーネ殿だね?救助隊のこと、よろしく頼むよ」
だがドーネは一言も話さず、ただじっとレクスを見つめていた。
「ええと、ドーネ殿?」
暫く彼を見つめると、ドーネは今度ラナの前に止まって見つめ、そして同じことをアイシャやミーナ、カイとエリネ、そしてボルガ達にもして、最終的にウィルフレッドの前に止まった。
「…」「…」
二人はただ無言でお互いを注視する。
「な、なんなんだこのおっさん。いきなり人のことジロジロ見てて」
「いやはやすみません、ドーネは少々マイペースなところがありまして。ですが坑道への知識や鍛冶の腕は確かなものですからご心配なく…」
カイと町長をよそに、ドーネはいきなり「うむっ!」と頷くと、どかっと傍に座った。
「出発の用意ができたら呼べ」
そしてそのまま動かなくなった。
「…あ~、まあそういうことで」
レクスが無理やりオチをつけた。
ミーナが最終確認を行う。
「よし、坑道へ入るのはドーネ、ヘリティアや連合軍の騎士達、我とアイシャ、ウィル、エリー、そしてさっきから参加すると口うるさいカイでいいな」
「口うるさいとはなんだよ、俺も結構力あるんだから参加するのは当たり前だろ」
「ほんとうにそうか?人の治療でエリーは必須だが、おぬしは何か他の理由があってついて来たいのでは?」
「ん、んな訳あるかっ、妹を一人にする訳にはいかないし、兄貴がいくところなら俺も行くだけだっつーの」
「下心みえみえなの分かってるのかなお兄ちゃん」
エリネがウィルフレッドに耳打ちし、彼もまた小さく苦笑した。
(これ以上アイシャ様を他の奴らと仲良くさせるかよっ、もっと彼女と接する機会を増やさなければ…っ)
あまりよく分かっておらず微笑んでるアイシャを見て、カイは気合を入れなおした。
「まあよい、だがあまり大人数なのもかえって動き難いな。ボルガとやら、騎士のメンバーをさらに数名選別してくれるか」
「おう、分かった」
ボルガが先ほど集まった連合軍の若騎士のところに寄ると、ふと彼ら何かに遠慮してそうな表情をしているのに気付いた。
「ん?どうしたおめえら?変な顔してよ」
「いえ、その…私達が同行しても良いのかと、ちょっと思ってまして」
「はあ?どういうことだ」
「救助隊には魔人様も同行するんですよね?あの方さえいれば、私達まで一緒にいく必要なのではないかなあ、と」
この時ようやく彼らの遠慮がちな視線は、ウィルフレッドの方に向いてるのを全員が気付いた。カイやエリネ達の顔色が変わる。
「てめえら…、なにバカなこと抜かしやがるっ!」
ボルガがうち一人の襟を掴んで怒鳴る。
「だ、だって竜さえも容易く屠れる力を持った魔人様ですよっ?私達の出る幕なんてないじゃないですかっ」
「魔人?それってまさか、前線で出没している噂のあれか…?」
ヘリティアの騎士達もどよめき始め、次々と視線をウィルフレッドに移す。
「ウィル様…っ」
(これは、まずいな…っ)
心配そうなアイシャの傍でレクスが対応を逡巡し、ミーナはどこか険しい目でウィルフレッドを見る。
「そんな言い方ないじゃないですかっ」
「そうだよっ、兄貴に何か文句――」
エリネとカイが弁護し、そしてラナが騒動を収めようと声をだそうとしたその時だった。ウィルフレッドがエリネ達を手で止めた。
「二人とも大丈夫だ」
「兄貴?」「ウィルさん…」
ウィルフレッドは若騎士達の前に歩き、おずおずと畏怖する眼差しを向ける彼らの目を真っ直ぐ見つめた。
「…君達が俺を恐れることは分かる。それが当然の反応であることも理解できる」
彼の声はとても落ち着いていた。
「確かに俺の力があれば、魔獣を倒すことも障害物を取り除くことも簡単だろう。だが一人では限度もあるし、繊細な救助作業は俺よりも君達の方が適任な場合もある。ここはどうか、下に救助を待ってる人たちのためにも、我慢して一緒に来て欲しい。頼む」
ウィルフレッドは頭を垂れて、若騎士達に懇願した。いきなりの行動に彼らは困惑し、お互いを見つめてはそんな彼を見つめていた。
「おい、何もあんたが頭を下げなくても――」
「しっ、ここはウィルくんに任せて」
何を話そうとするボルガをレクスが止めた。
「わ、分かった、分かったからとにかく頭を上げてくれ…」
「…ありがとう、助かる」
笑顔で顔を上げたウィルフレッドに、若騎士達は反応に困るように頭や頬を掻き、エリネ達もほっと胸をなでおろす。
(こやつ…)
その光景に思うところありそうなミーナだが、とにかく救助活動に専念することを優先することにした。
「話はこれまでだ。人選が決まったら救助道具などをさっさと用意したまえっ!」
ミーナの一喝で全員が動き始める。レクスは、笑顔を向けて礼を言うように頷くウィルフレッドに気付き、親指を立てては笑顔を返した。
「町長から貰った薬草箱を持ってきた。これでいいか?」
「…うん、完ぺきです。ありがとうウィルさん」
ウィルフレッドが持ってきた箱の中身を手で確認したエリネ。普段は魔法やバッグにある応急道具で事足りるが、今度は救助すべき人数も不明瞭から、予め魔法以外の回復手段も多めに準備することになった。
「こっちも…ぐぬぬ…っ、用意できたけどよ、何か俺だけ多めに装備背負わされてないか?」
採掘用の重い道具を幾つか背負ったカイが少しよろめきながら立ち寄る。
「もう、力持ちだから参加するの当たり前と言ったのはお兄ちゃんでしょ?いまさら弱音吐くなんて情けないわよ」
「うっせえ、ちょっとばかし重いと思っただけだ、これぐらいなんとも…ねえよっ」
踏ん張って立ち直すカイに、二人は小さく苦笑する。
「おう、がんばってんなカイ」
「ボルガのおっさん」
「ボルガさん…」
ボルガが三人のところの様子を窺いにきた。
「…すまねえなウィル殿、うちの若けえのが迷惑かけてよ。この前の宴の時もそういうことだったんだな」
「ああ、けど気にしないでください。元々慣れてるし、彼らにも言ったようにあれは至極当然の反応なのですから」
「へっ、大人だねえあんたさんも、あいつらとそう年も離れてないのによお」
ウィルフレッドは薬草箱を蓋するのを手伝いし終わると、ボルガを見た。
「ボルガさんこそ気にしませんか?俺のことを」
「ああ、まあ最初にあの姿をみたときは当然驚いたけどよ。あくまでそれだけだ。あんたとは旅の初めから接してきたし、若いのとは違ってそれなりに世間を見てきたんだ。あんたがどんな人なのはそれなりに理解しているつもりだ。だから別に気にしてはいねえよ」
大らかな笑顔をして語るボルガにウィルフレッドは感激する。
「…ありがとう」
カイとエリネも彼を見て微笑むと、ミーナがアイシャがドーネと他の騎士達とともに歩み寄った。騎士達はいまだ困惑そうな眼差しでウィルフレッドを見るも、畏怖的な感じはそこはかとなく薄くなった気がした。
「おぬしら用意はできたか?」
「はい、準備オッケーですミーナ様」
「おう、いつでもいいぜっ!」
「ああ、問題ない」
ラナとレクスが彼らを見送る。
「ミーナ先生、どうか気をつけて。アイシャ姉様もね」
「ええ、いってきますラナ様」
「…ついて来い」
無愛想な表情のまま先導するドーネに、ミーナとアイシャ達が続き、一行は坑道の中へと入っていった。
******
一行は最初に、トロッコ用レールが敷かれた通路を暫く歩いた。道中は明かり用の魔晶石カンテラが随所配置されているため、つまずく等の心配はなかった。やがて開けた採掘鉱石の集散地らしいところに出ると、その空間を中心に四方八方へと坑道が延び、あちこちに柱があり、多くのトロッコが鉱石を置かれたまま放置されていた。
「すげえな…鉱山のことはよく分からないけど、これって結構大きいやつじゃないのか」
驚嘆するカイにヘリティアの騎士が説明する。
「ええ、あまり詳しくはありませんが、町長の話によればここ一帯でも五本指に入るほどの大鉱山かと」
「ここ一帯じゃねえ、ルーネウス全国において、だ」
ドーネが補足する。
「表層の殆どは普通の鉱石だが、より深層にいけば魔晶石もわんさか出てくる。あれだけの量は俺達にとっても珍しいぐらいだ」
「なるほど、ここの地下には恐らく竜脈が流れてるのだろう」
「竜脈ってなんだ?」
ミーナの聞き慣れない単語にカイが尋ねる。
「マナが大地の中でまるで川のように豊富に流れるところのことだ。そういう場所は大抵、魔晶石の鉱脈が豊富になる。なるほど、ゴードンや教団はそれ目当てでこの町を狙ったのか」
旧式ながらも坑道だと分かるその空間を見て、ウィルフレッドはギルバート達とともに地球の荒廃した鉱山でのミッションを思い出す。
「…ここにいた人たちは全員外に出たのだな」
「はい、ミーナ様。最深部にある人たち以外は殆ど坑道から脱出したはずです」
「なら急ごうっ、ドーネのおっさん道案内頼むぜ」
「…こっちだ」
ドーネの案内で一行は比較的大きい坑道の中へと進み、途中でいくつもの岐路に入ると、ツルハシなど採掘道具が放置された採掘地点に到着するが、カンテラが微弱なものになっているのに気付く。
「暗いなあ、いきなりどうなってんだ?」
「ここから下のカンテラはわざと暗くするようゴードンめが指示したんです。これのせいで子供達の作業が一層困難になってますから、正直こうする理由は私達も見当がつきません」
(まさか、子供の不安を煽っているのか?)
ミーナは採掘跡の一つに近づいて岩壁に杖を当て、目を閉じては意識を集中する。
(((ほらっ!早く立て!)))
かつてここで重労働させられた子供の記憶の断片が浮かび上がる。
(((おう、良いねぇその目っ!思う存分に睨みな!そして呪え!あんたらをここに見捨てた女神様をなっ!)))
記憶の光景が途切れ、強烈な不快な感覚にミーナは軽く眩暈を覚えてしまう。
(むう、これは…この感情は…)
「先生、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。しかしこれほど暗いと流石に歩き辛いな。アイシャ、頼む」
「はい、お任せを。――月光」
アイシャの手に和やらかな月明かりの如き光の玉が浮んで回りを照らす。その明かりは不思議と目に優しく、しかも周りでなく坑道の先の先まで照らしていき、一行は感嘆の声を上げる。
「おおっ、めっちゃ遠くまで照らしてるっ、アイシャ様すげ…凄いですっ」
「ああ、前にエリーが使った奴よりもずっと明るいな、これも巫女の力ゆえなのか?」
「そうですけど、実はちょっと違うんです」
「違う?」
アイシャの代わりにミーナが歩きながら説明した。
「巫女はな、対象となる女神を源とする魔法系統を使うと飛躍的にその効力が増すのだ。例えば今の月光は女神ルミアナを源とする魔法なため、月の巫女であるアイシャが使うと、他人以上の効力を発揮することができる」
エリネが納得するように頷く。
「なるほどっ、だからラナ様の光槌はあれだけの威力を持ってるのですね」
「うむ、元々人と魔法には相性というものがあり、それに合った魔法系統を学ぶのが基本だが、女神の巫女となればその理も強く反映される。アイシャ達の話によれば、燃やすマナも他人と比べて量が少ないようだ。当然、厳しい練習が必要なのは言うまでもないが」
「へえ…なるほど、アイシャ様すげ、凄いですね。ここまで熟練に魔法を扱えるのも、色々と大変だったでしょう」
カイが荷物の重さに耐えてせっせと前へとアイシャに並び、それを聞いたエリネは「もう」と頬を膨らみ、ウィルフレッドが苦笑する。
「ふふ、確かにそうですけど、これも巫女の務めですもの。苦労こそすれ、辛いと思ったことは一度もありませんよ」
「素晴らしいですアイシャ様。国民としてとても誇らしい佇まいですよ」
「ありがとうございます」
そういうと、アイシャが少々困った表情で歯切れ悪そうにカイにお願いした。
「あの…カイさん、前にも仰ったように、そう固くなさらずにエリーさん達と話してるように気軽に話しても構いませんよ、私としてはそうした方が嬉しいですから」
「いえいえどんでもないです。王女たるアイシャ様にそんな恐れ多いことを、一国民として身を弁えないといけませんし、無礼を働いてはいけませんからね」
カッコつけた感じで話すカイ。
「そう、ですか」
だがアイシャの反応はカイの予想と反して、どこか寂しさを帯びたものだった。
(あ、あれ…?)
「すみません、無理を言ってしまって…」
「あ、い、いえ…」
気まずそうな雰囲気になると、お互いこれ以上話さずに歩き続けた。
(俺、なんかまずいこと言ったのか…?)
一行は引続き坑道内部へと進む。奥へと、下へと進むほど、回りの岩壁に様々な色で淡く光る箇所が増え続け、通路も徐々に大きくなっていく。
「この岩の光…これが魔晶石なのか、ミーナ?」
一部が水色に輝く岩の壁にウィルフレッドが触れる。
「魔晶石の原石、というべきだな。長らくマナの流れに照らされ続けた岩はこうして独特な力を帯びるようになり、内部が結晶化して魔晶石となる。マナの流れが強い場所だと、高純度の魔晶石が外まで成長するほど結晶化するし、マナ自体が結晶化することもある。中では長らくマナを帯びた結果、生き物のように動くものまで出てくる。まあそこまで豊かな鉱脈自体はかなり希少だがな」
「あ、シスターから聞いたことあります。確かロックゴーレムがそうですよね」
「そうだ、まだ詳しく解明されてないが、マナは魂に関わる力で、無機質に魂や意思さえ与えられると考えられている。世界の万物は全て三女神がマナにより作り出されたというマナ創世論も、この性質を元にしているな」
「そうなのですね。…前に別大陸の話と良い、ミーナ様って本当に物知りですよね。賢くて尊敬しちゃいます」
「それはそうですよ。ミーナ先生は元より書物や知識に精通するビブリオン族のエルフですし、封印管理者である賢者ビリマの直弟子でもありますから」
エリネとアイシャの言葉にミーナは得意げに胸を張る。
「ふふ、もっと褒めてもよいぞ。まあ、元より我ら管理者一族は万が一のために備えて常に知識の研鑽をしなければならない。いつか来る巫女や勇士達を補助するのも、また我らの務めの一つだからな」
「…生意気な性格だけが玉に瑕だな」
「なんか言ったか?」
「なんにも?」
睨むミーナからそっぽ向くカイに、エリネとアイシャが互いを見て小さく笑う。
「それにしても深い坑道だな…。なあドーネのおっさん、最深部まであとどれぐらいなんだ?」
「もうすぐだ」
「少々無駄話が過ぎたか、みんな急ごう、下の奴らが心配だ」
ミーナの一言で全員頷いては早歩きとなり、ドーネの案内でさらに奥へと、下へと降りていった。
【続く】
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