20 / 207
第三章 魔人
魔人 第四節
しおりを挟む
ウィルフレッド達が異音を確認するよりもやや前にさかのぼり、町長のところから出たレクスは、ラナのご希望どおり町の散策に付き合っていた。
「三国で最も文芸を重んじるルーネウス王国内だけであって、相変わらず綺麗な町並みね。エステラやヘリティアも負けてはいないけど、ここもまた様式美を意識した独自なスタイルがあって中々見飽きないわ」
「そういってもらえるとルーネウス国民としては光栄の至りだね」
町の雰囲気を心底から楽しそうに見ているラナを見るレクス。
「レイナ様ってこれまでどれぐらいの地方を見て回ったの?噂では皇国内は既に全土巡回済みとか言われてるよね」
「そうね、皇国国内の全ての領地はもう全部回ってるわ。エステラとルーネウスはここ二年間でようやく回り始めたところだけど…、エステラは領地区分が少なかったからもう半分は回ってるし、ルーネウスはさすがにまだ全体四分の一ぐらいね」
「ひええ~、それだけでも結構の数になるよ?想像するだけでもなんだか気が遠くなりそうだよ。苦に思うことはなかったの?」
「あら、別にそんなことはないわよ。新しい物事を見るのはとても新鮮で面白いし、見識を広めるのも上に立つものとしての責務の一つよ。貴方だって自国の王都ぐらいは行ったことあるでしょ」
「まあ一応はね。確かに王城の絢爛さや都の賑やかさは目を見張るものがあったよ。食べ物も美味しかったしさ」
だが同時に、あまり良くない思い出もある、という言葉をレクスは口に出さずにした。
「でしょ、王都の城下町の蚤の市、珍しいものが一杯で回るの楽しかったわ。他の国は?ロムネス殿と一緒にどこかの親善パーティぐらいは参加したことあるでなくて?」
「う~む、小さい頃は結構父さんに色々と連れまわした気がするけどあまり覚えてないし、大きくなってから自分は付いていかなくなったなあ。そういうパーティは僕、どうも苦手だからね」
「なるほどね…」
花屋の花を見たまま納得したように囁くラナ。
「それでも落ち着いたら一度長旅でもすることをお勧めするわよ。どうせ普段は暇をもてあましてるでしょ?」
レクスは冗談めかして肩をすくめる。
「生憎自分はインドア派ですからね。あちこち歩き回るよりものんびりお昼寝した方が性に合いますから」
少々あきれたようにため息をするラナ。
「はあ…今回の任務は貴方には丁度良い薬ね。マティ殿もだらしない主人がようやく重い腰を上げたのにほっとしてるに違いないわ」
「いや~そう褒められると照れイタっ!」
足を止めたラナが少々厳つい顔をして拳でゴツンとレクスの頭を叩いてた。
「前にも言ったように、貴方は上に立つものとしての自覚がなさ過ぎるわ。僻地の領地であっても領主は領主。もっと己を鍛えるように、もっと自分を磨くように。でないといつか痛い目に会うわよ」
振り向きもせずに前へとつかつかと歩いていくラナ。
「いたた…なんなのいったい…」
頭をさすりながらラナの背中を見る。
(何だかラナ様、自分に結構厳しい気がするけど気のせいかなぁ?まあ護衛を任せるからにはしっかりして欲しいのも分からなくはないけど…。それとも騎士道を最も重んじる皇国出身ゆえに、なのか…?)
骨董屋ウィンドウ内の展示品を見てるラナにレクスは追いつく。
「時にレクス殿。あのウィルフレッドという方って何者なの?」
「ウィルくん?」
「ええ、先日の戦いから見るとかなりの腕前を持っているようね。実際今まで見てきた剣士の中でも随一だと思うわ。見慣れない服装を着ているようだけど、どうやって知り合ったの?」
「えっと、彼はカイくんとエリーちゃんが森で倒れたところを拾われた人らしいね。なんでも雷に打たれて記憶喪失してしまって、そんで二人が住んでる教会にお邪魔してたんだ」
「記憶喪失…そういえばそのせいで邪神教団のことが分からなかったって言ってたわね」
「そそ、だからどこから来た人なんか分かんないんだよね。しかも症状が結構酷くて、魔法とか女神とかのこと全部忘れているぐらいだしさ」
「そんな常識まで…?」
ラナは少々不審そうな表情を浮かべ、レクスも彼女が思うことを察する。
「おかしい、と感じるよね。自分もウィルくんとの会話でどうも腑に落ちない気はするよ。記憶喪失の件はともかく、何か隠しているのは間違いないと思う。それに、その、うまく言えないけど、彼ってなんていうか…どこか変な違和感があるような…」
「違和感?」
「うん。服のことも勿論だけど、なんていうか…その~、う~ん。ごめん、とにかく違和感としか言えなくて――」
「違和感、ねぇ…」
「でもまあ、それ以外に特に危険な人って訳でもないよ。年齢の割に妙に落ち着いて、どっか諦観してるのがちょっとおかしいぐらいで。カイ達が結構懐いてるし、村の人からの評価も良いから少なくとも悪い人じゃないと思う」
ラナが工芸品の店の前で並べてある装飾品を手にして遊ぶ。
「…まあ確かに、少なくとも教団絡みの人には見えないわね。それさえ分かれれば十分よ」
「そうだね」
同意するようにレクスが頷くと、突如町の西門の方から警鐘が鳴り響いた。
「うん?なんだろう?火事とかでも起きたのかな?」
レクスとラナが同時に西門を見やる。町を囲む壁の向かい側の木々が揺らいだ。近くにいる町の自警団が慌てて西門に集まり、壁や監視塔に立つ自警団は外に向けて弓矢を放てていた。
ドォン!と大きな衝撃が壁を揺るがす。
「な、なんだなんだ!?」
衝撃に揺らされるとともにレクスが訝しむ。
そして次の衝撃が、壁をその上に立つ自警団の人たちとともに吹き飛ばした。崩壊した壁から、鉄のハンマーを持って唸る巨大な牛頭の魔獣が現れる。そして魔獣が壊した壁から、ドハン率いる盗賊団が町へとなだれ込んだ。
「さあ狩りの時間よ!あのいけ好かない領主をさがしなさい!そしてたっぷりと戦利品を頂くのよ!」
「あれは…タウラーかっ!」
「タウラーっ?それって古い遺跡とかにしか出ないあの魔獣っ?それにあいつドハンじゃないかっ!あの時見かけないと思ったらこんなところに…ってレイナ様!?」
レクスを待たずにラナが逃げまとう町民達を掻き分けてドハン達の方向へと駆けていく。
「まったく、大変なことになったなあっ!」
レクスもまた、騎士団に支援を求める信号花火を急いで取り出して空へと向けて放つと、ラナの後を追う。
「モゥオオオッ!」「「うわあああっ!」」
タウラーがハンマーを軽く振り回すだけで、前に出た五人の自警団が容易く打ち払われる。
「くそっ!なぜこんな所にタウラーが!しかもあいつらの命令を聞いているのか!?」
盗賊達を牽制するだけでも精一杯な自警団は、タウラーの恐るべき膂力の前に手も足も出すことができずに敗退していく。
「ふふふ、さすがタウラー、見事な筋肉のプロポーションよ。これならたとえ騎士団が相手でも恐れることはないわね…ん?」
タウラーの猛威で有頂天になるドハンの前に、フードを被ったままのラナがタウラーとドハンの前に立ちはだかる。
「なあにあなた?あたしに楯突こうとするの?考え直したほうが良いわよ。あたしのポチに踏み潰されたくなければ…ってああ~~~っ!?」
ラナの傍に駆けつけたレクスを見てドハンが声を上げる。
「やあ、おひさって言うべきかね、ドハンくん?ちゃん?まさかとは思うけどわざわざうちらを追っかけてきたの?しかもこんなでかいペットまで連れてきて、けなげだっていうかなんというか」
レクスは気楽な口調をしながら剣を構えて対峙する。
「ぐぬぬぅっ、奴と同じなめ腐った態度を取りおって…っ、だがここであったが百年目よっ!あの銀髪男をやる前にまずビルド様に恥をかかせたあんたを始末してやるわ!ポチ!」
ドハンの命令を聞くと、激しい殺気とともに前に踏み出すタウラー。
「うひゃ、流石にでかいな。レイナ様、騎士団がここに駆けつけるまで時間を稼いで―」
「不要だ。こいつは私が対処する。貴方はそこの筋肉達磨を片付けろ」
「へっ」
ラナの言葉の意味を完全に理解する前に、ラナは既にタウラーに向かって歩き出した。
「ちょっ、危ないよレイナ様!」
「上に立つものの戦い、よく見ておけ」
「あなたが先に潰されたいの?ならばよろしい!ポチっ!」
「モゥアアアアッ!」
タウラーがハンマーを高くかざすと、ラナに向かって重々しく振り下ろした。地面が割り、衝撃による振動が周りの屋敷の窓をビリビリと震わせる。
「まずはひと…り?」
凛とした光沢を放つ剣を抜いたまま、ラナは平然と振り下ろされたハンマーの傍に立っていた。代わりにタウラーのハンマー持った手に深々と斬り跡が付けられ、紫色の鮮血が噴出される。
「モアアアアアッ!」
タウラーは激痛で叫びながらハンマーで横振りするも、ラナや軽やかに跳んではハンマーをかわし、空中で舞うように回転して更に斬りつけた。再び血が噴出し、レクスが唖然とする。
(うそんっ!タウラーの体をああも容易く切り裂いただなんて…っ、ラナ様のあの剣の輝き…そうかミスリル製かっ!)
「ポ、ポチ…っ!」
二度も斬りつけられて激怒しかのか、タウラーはハンマーをみだりに振り回す。しかしラナはマントを翻してそれらを全て間一髪でかわし、その度にヘリティア皇家の宝剣、エルドグラムの冷たくも美しい軌跡がタウラーの腕に傷を増やしていく。
(す、凄い…!攻撃を全部間一髪で…、先にタウラーの動きを見極めて避けてるのか?それにあの切り込み具合、剣の威力だけじゃない、使い手の技量もあってのものだ。この剣捌きに身のこなし、歴戦の剣士でも中々見ないぞ)
「な、なんなのよあいつ!?こんな奴があるなんて聞いてないわよ!?」
焦り出したドハンは戦斧を持ってタウラーを支援しようとするも、レクスが横から剣を構えて立ちはだかる。
「おっとドハンくん。あんたの相手は僕だよ。正直、こういう肉体労働はあまり好きじゃないから、前に言ったように大人しく投降してくれないかい?ビルドも牢屋で君を待ってるよ」
「お黙り!あんたとあの銀髪男のせいであたしとビルド様のマッスルハネムーン計画は台無しよ!ここであのお方の無念晴らさせてもらうわ!はいやぁっ!」
戦斧を頭上に高々と振り回し、それを一気にレクスに叩き込む。
「おわっとと!」
慌てて後ろへ飛び避けるレクスは地面に落ちた木板にひっかかる。
「やばっ!」
だが立ち直ろうとする勢いで木板が前へと蹴飛ばされ、たたみ掛けようとするドハンの顔面へと直撃した。
「ぶへっ!」
「あっ、ごめんごめん。でもちょっとラッキーかな?」
「こっ、このクソガキィ~~~っ!」
にへらとするレクスにドハンは頭に血がのぼる程逆上し、戦斧を容赦なく叩き込んでいった。
――――――
「わわ、なんだあれ!?」
カイとエリネ、ウィルフレッド三人がようやく騒ぎの元へと到着すると、そこではラナ相手に大暴れしているタウラー、ドハンと対峙するレクス、そして盗賊達と自警団たちが戦いを繰り広げていた。
「あっ!あの野郎はドハン!また性懲りもなく襲ってきたな!」
「なんか大きい魔獣の声がするけど、あれはなに?」
「分からない、牛の頭してるけど…あれと戦ってるのはまさかラナ…レイナ様?」
「ウィル殿!カイくん!エリーくん!」
「マティ様!」
騎士団を率いるマティが、アランとともに現場へと駆けつけた。
「どうなってるのですこれは!?」
「ドハンの野郎だ!あいつ逃げたと思ったら変な魔獣連れてきて暴れてるんだっ」
アランとマティはラナ相手に暴れてる魔獣を見る。
「! レイナ様、またああやって一人で…っ」
「あれはタウラー…っ、たとえ古の遺跡でもかなり珍しい魔獣なはずなのに、それをあの盗賊達が?」
「分からない、でもとにかく助けなきゃ!」
カイの言葉にマティは現場を改めて確認して瞬時に判断し、命令を下した。
「第一、第三小隊は自警団の援護に回れ!盗賊どもを捕らえよ!第二小隊は私とともにレクス様を!第四小隊はアラン殿とともにレイナ様を援護!残りの小隊はまだ現場にいる町民の避難を誘導せよ!」
指示を仰いだ騎士団はすぐさま行動に移った。
「俺達も加勢にいこう!」
頷くエリネとウィルフレッドはカイとともに走り出した。
【続く】
「三国で最も文芸を重んじるルーネウス王国内だけであって、相変わらず綺麗な町並みね。エステラやヘリティアも負けてはいないけど、ここもまた様式美を意識した独自なスタイルがあって中々見飽きないわ」
「そういってもらえるとルーネウス国民としては光栄の至りだね」
町の雰囲気を心底から楽しそうに見ているラナを見るレクス。
「レイナ様ってこれまでどれぐらいの地方を見て回ったの?噂では皇国内は既に全土巡回済みとか言われてるよね」
「そうね、皇国国内の全ての領地はもう全部回ってるわ。エステラとルーネウスはここ二年間でようやく回り始めたところだけど…、エステラは領地区分が少なかったからもう半分は回ってるし、ルーネウスはさすがにまだ全体四分の一ぐらいね」
「ひええ~、それだけでも結構の数になるよ?想像するだけでもなんだか気が遠くなりそうだよ。苦に思うことはなかったの?」
「あら、別にそんなことはないわよ。新しい物事を見るのはとても新鮮で面白いし、見識を広めるのも上に立つものとしての責務の一つよ。貴方だって自国の王都ぐらいは行ったことあるでしょ」
「まあ一応はね。確かに王城の絢爛さや都の賑やかさは目を見張るものがあったよ。食べ物も美味しかったしさ」
だが同時に、あまり良くない思い出もある、という言葉をレクスは口に出さずにした。
「でしょ、王都の城下町の蚤の市、珍しいものが一杯で回るの楽しかったわ。他の国は?ロムネス殿と一緒にどこかの親善パーティぐらいは参加したことあるでなくて?」
「う~む、小さい頃は結構父さんに色々と連れまわした気がするけどあまり覚えてないし、大きくなってから自分は付いていかなくなったなあ。そういうパーティは僕、どうも苦手だからね」
「なるほどね…」
花屋の花を見たまま納得したように囁くラナ。
「それでも落ち着いたら一度長旅でもすることをお勧めするわよ。どうせ普段は暇をもてあましてるでしょ?」
レクスは冗談めかして肩をすくめる。
「生憎自分はインドア派ですからね。あちこち歩き回るよりものんびりお昼寝した方が性に合いますから」
少々あきれたようにため息をするラナ。
「はあ…今回の任務は貴方には丁度良い薬ね。マティ殿もだらしない主人がようやく重い腰を上げたのにほっとしてるに違いないわ」
「いや~そう褒められると照れイタっ!」
足を止めたラナが少々厳つい顔をして拳でゴツンとレクスの頭を叩いてた。
「前にも言ったように、貴方は上に立つものとしての自覚がなさ過ぎるわ。僻地の領地であっても領主は領主。もっと己を鍛えるように、もっと自分を磨くように。でないといつか痛い目に会うわよ」
振り向きもせずに前へとつかつかと歩いていくラナ。
「いたた…なんなのいったい…」
頭をさすりながらラナの背中を見る。
(何だかラナ様、自分に結構厳しい気がするけど気のせいかなぁ?まあ護衛を任せるからにはしっかりして欲しいのも分からなくはないけど…。それとも騎士道を最も重んじる皇国出身ゆえに、なのか…?)
骨董屋ウィンドウ内の展示品を見てるラナにレクスは追いつく。
「時にレクス殿。あのウィルフレッドという方って何者なの?」
「ウィルくん?」
「ええ、先日の戦いから見るとかなりの腕前を持っているようね。実際今まで見てきた剣士の中でも随一だと思うわ。見慣れない服装を着ているようだけど、どうやって知り合ったの?」
「えっと、彼はカイくんとエリーちゃんが森で倒れたところを拾われた人らしいね。なんでも雷に打たれて記憶喪失してしまって、そんで二人が住んでる教会にお邪魔してたんだ」
「記憶喪失…そういえばそのせいで邪神教団のことが分からなかったって言ってたわね」
「そそ、だからどこから来た人なんか分かんないんだよね。しかも症状が結構酷くて、魔法とか女神とかのこと全部忘れているぐらいだしさ」
「そんな常識まで…?」
ラナは少々不審そうな表情を浮かべ、レクスも彼女が思うことを察する。
「おかしい、と感じるよね。自分もウィルくんとの会話でどうも腑に落ちない気はするよ。記憶喪失の件はともかく、何か隠しているのは間違いないと思う。それに、その、うまく言えないけど、彼ってなんていうか…どこか変な違和感があるような…」
「違和感?」
「うん。服のことも勿論だけど、なんていうか…その~、う~ん。ごめん、とにかく違和感としか言えなくて――」
「違和感、ねぇ…」
「でもまあ、それ以外に特に危険な人って訳でもないよ。年齢の割に妙に落ち着いて、どっか諦観してるのがちょっとおかしいぐらいで。カイ達が結構懐いてるし、村の人からの評価も良いから少なくとも悪い人じゃないと思う」
ラナが工芸品の店の前で並べてある装飾品を手にして遊ぶ。
「…まあ確かに、少なくとも教団絡みの人には見えないわね。それさえ分かれれば十分よ」
「そうだね」
同意するようにレクスが頷くと、突如町の西門の方から警鐘が鳴り響いた。
「うん?なんだろう?火事とかでも起きたのかな?」
レクスとラナが同時に西門を見やる。町を囲む壁の向かい側の木々が揺らいだ。近くにいる町の自警団が慌てて西門に集まり、壁や監視塔に立つ自警団は外に向けて弓矢を放てていた。
ドォン!と大きな衝撃が壁を揺るがす。
「な、なんだなんだ!?」
衝撃に揺らされるとともにレクスが訝しむ。
そして次の衝撃が、壁をその上に立つ自警団の人たちとともに吹き飛ばした。崩壊した壁から、鉄のハンマーを持って唸る巨大な牛頭の魔獣が現れる。そして魔獣が壊した壁から、ドハン率いる盗賊団が町へとなだれ込んだ。
「さあ狩りの時間よ!あのいけ好かない領主をさがしなさい!そしてたっぷりと戦利品を頂くのよ!」
「あれは…タウラーかっ!」
「タウラーっ?それって古い遺跡とかにしか出ないあの魔獣っ?それにあいつドハンじゃないかっ!あの時見かけないと思ったらこんなところに…ってレイナ様!?」
レクスを待たずにラナが逃げまとう町民達を掻き分けてドハン達の方向へと駆けていく。
「まったく、大変なことになったなあっ!」
レクスもまた、騎士団に支援を求める信号花火を急いで取り出して空へと向けて放つと、ラナの後を追う。
「モゥオオオッ!」「「うわあああっ!」」
タウラーがハンマーを軽く振り回すだけで、前に出た五人の自警団が容易く打ち払われる。
「くそっ!なぜこんな所にタウラーが!しかもあいつらの命令を聞いているのか!?」
盗賊達を牽制するだけでも精一杯な自警団は、タウラーの恐るべき膂力の前に手も足も出すことができずに敗退していく。
「ふふふ、さすがタウラー、見事な筋肉のプロポーションよ。これならたとえ騎士団が相手でも恐れることはないわね…ん?」
タウラーの猛威で有頂天になるドハンの前に、フードを被ったままのラナがタウラーとドハンの前に立ちはだかる。
「なあにあなた?あたしに楯突こうとするの?考え直したほうが良いわよ。あたしのポチに踏み潰されたくなければ…ってああ~~~っ!?」
ラナの傍に駆けつけたレクスを見てドハンが声を上げる。
「やあ、おひさって言うべきかね、ドハンくん?ちゃん?まさかとは思うけどわざわざうちらを追っかけてきたの?しかもこんなでかいペットまで連れてきて、けなげだっていうかなんというか」
レクスは気楽な口調をしながら剣を構えて対峙する。
「ぐぬぬぅっ、奴と同じなめ腐った態度を取りおって…っ、だがここであったが百年目よっ!あの銀髪男をやる前にまずビルド様に恥をかかせたあんたを始末してやるわ!ポチ!」
ドハンの命令を聞くと、激しい殺気とともに前に踏み出すタウラー。
「うひゃ、流石にでかいな。レイナ様、騎士団がここに駆けつけるまで時間を稼いで―」
「不要だ。こいつは私が対処する。貴方はそこの筋肉達磨を片付けろ」
「へっ」
ラナの言葉の意味を完全に理解する前に、ラナは既にタウラーに向かって歩き出した。
「ちょっ、危ないよレイナ様!」
「上に立つものの戦い、よく見ておけ」
「あなたが先に潰されたいの?ならばよろしい!ポチっ!」
「モゥアアアアッ!」
タウラーがハンマーを高くかざすと、ラナに向かって重々しく振り下ろした。地面が割り、衝撃による振動が周りの屋敷の窓をビリビリと震わせる。
「まずはひと…り?」
凛とした光沢を放つ剣を抜いたまま、ラナは平然と振り下ろされたハンマーの傍に立っていた。代わりにタウラーのハンマー持った手に深々と斬り跡が付けられ、紫色の鮮血が噴出される。
「モアアアアアッ!」
タウラーは激痛で叫びながらハンマーで横振りするも、ラナや軽やかに跳んではハンマーをかわし、空中で舞うように回転して更に斬りつけた。再び血が噴出し、レクスが唖然とする。
(うそんっ!タウラーの体をああも容易く切り裂いただなんて…っ、ラナ様のあの剣の輝き…そうかミスリル製かっ!)
「ポ、ポチ…っ!」
二度も斬りつけられて激怒しかのか、タウラーはハンマーをみだりに振り回す。しかしラナはマントを翻してそれらを全て間一髪でかわし、その度にヘリティア皇家の宝剣、エルドグラムの冷たくも美しい軌跡がタウラーの腕に傷を増やしていく。
(す、凄い…!攻撃を全部間一髪で…、先にタウラーの動きを見極めて避けてるのか?それにあの切り込み具合、剣の威力だけじゃない、使い手の技量もあってのものだ。この剣捌きに身のこなし、歴戦の剣士でも中々見ないぞ)
「な、なんなのよあいつ!?こんな奴があるなんて聞いてないわよ!?」
焦り出したドハンは戦斧を持ってタウラーを支援しようとするも、レクスが横から剣を構えて立ちはだかる。
「おっとドハンくん。あんたの相手は僕だよ。正直、こういう肉体労働はあまり好きじゃないから、前に言ったように大人しく投降してくれないかい?ビルドも牢屋で君を待ってるよ」
「お黙り!あんたとあの銀髪男のせいであたしとビルド様のマッスルハネムーン計画は台無しよ!ここであのお方の無念晴らさせてもらうわ!はいやぁっ!」
戦斧を頭上に高々と振り回し、それを一気にレクスに叩き込む。
「おわっとと!」
慌てて後ろへ飛び避けるレクスは地面に落ちた木板にひっかかる。
「やばっ!」
だが立ち直ろうとする勢いで木板が前へと蹴飛ばされ、たたみ掛けようとするドハンの顔面へと直撃した。
「ぶへっ!」
「あっ、ごめんごめん。でもちょっとラッキーかな?」
「こっ、このクソガキィ~~~っ!」
にへらとするレクスにドハンは頭に血がのぼる程逆上し、戦斧を容赦なく叩き込んでいった。
――――――
「わわ、なんだあれ!?」
カイとエリネ、ウィルフレッド三人がようやく騒ぎの元へと到着すると、そこではラナ相手に大暴れしているタウラー、ドハンと対峙するレクス、そして盗賊達と自警団たちが戦いを繰り広げていた。
「あっ!あの野郎はドハン!また性懲りもなく襲ってきたな!」
「なんか大きい魔獣の声がするけど、あれはなに?」
「分からない、牛の頭してるけど…あれと戦ってるのはまさかラナ…レイナ様?」
「ウィル殿!カイくん!エリーくん!」
「マティ様!」
騎士団を率いるマティが、アランとともに現場へと駆けつけた。
「どうなってるのですこれは!?」
「ドハンの野郎だ!あいつ逃げたと思ったら変な魔獣連れてきて暴れてるんだっ」
アランとマティはラナ相手に暴れてる魔獣を見る。
「! レイナ様、またああやって一人で…っ」
「あれはタウラー…っ、たとえ古の遺跡でもかなり珍しい魔獣なはずなのに、それをあの盗賊達が?」
「分からない、でもとにかく助けなきゃ!」
カイの言葉にマティは現場を改めて確認して瞬時に判断し、命令を下した。
「第一、第三小隊は自警団の援護に回れ!盗賊どもを捕らえよ!第二小隊は私とともにレクス様を!第四小隊はアラン殿とともにレイナ様を援護!残りの小隊はまだ現場にいる町民の避難を誘導せよ!」
指示を仰いだ騎士団はすぐさま行動に移った。
「俺達も加勢にいこう!」
頷くエリネとウィルフレッドはカイとともに走り出した。
【続く】
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる