【R18】後輩エースの淫らな罠〜VRで募集したセフレは会社の後輩のエリート営業でした

大江戸ウメコ

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ふたりのきもち(4)

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「相手が問題なんですよ」
「なんかヤバい相手なのか?」
「その真逆です。優良物件過ぎるんです」

 そこまで言って、鈴はどうしてすぐに返事ができなかったのか、やっと気づけた。
 梶川は、何もかもができすぎなのだ。鈴とではつり合いが取れない。

「優良物件で何が悪い。良いことじゃあないか」
「そうですけど……私じゃあ、釣り合わないじゃないですか」
「ふぅん、なるほどねぇ」

 遊間は、したり顔で頷いてジョッキを煽った。

「要するに御影は、自信がないわけだ」

 遊間の言葉に、その通りだと鈴は内心で頷いた。
 梶川に好かれる自信が無い。言葉で伝えてもらっても、その好意に答える自信がないのだ。
 鈴はつまらない人間だ。なんの気まぐれか、梶川は鈴を好きだと思ってくれているらしいが、それがいつまでも続くとは思わない。
 なにせ、彼の周囲にはもっと可愛い女性が大勢いるのだ。
 彼に本気になってしまって、いつか捨てられるのが怖い。
 なるほど。鈴の根っこにあるのは、そんなつまらない自己保身の感情だ。

「大やけどする前に身を引きたいってのは、馬鹿ですかね」

 もし、今の関係を超えて彼氏彼女になってしまえば、きっと鈴は梶川に夢中になる。
 そうなってから、飽きられるのが怖い。だから、必死でブレーキを踏んでいるのだ。

「案外繊細なんだな、御影は。何を言われても、ビクともしないような面をしておいて」
「人付き合いが苦手なんです。恋愛なんて、その最たるものじゃないですか」

 傷つくのが怖いからこそ、鈴は人を避けるのだ。
 最初から他人であれば、深く関わらなければ、傷つかずにすむ。
 ずっとひとりきりでいられれば、楽なのに。

「じゃあ、やめとけばいいんじゃね?」

 しごく簡単な答えのように、遊間はそう言った。

「恋愛なんて、面倒なことばっかりだろ。傷つくのが嫌なら、そこに足を踏み込まなきゃいい」
「そう……なんですけど」

 遊間の言葉はもっともだ。理屈では納得できるのに、感情がついていかない。
 鈴の感情を見透かして、遊間はにやりと笑った。

「理屈で考えても、どうしようもないのが恋愛ってもんだ。やめようと思ってやめられるなら、それは大した思いじゃないのさ」
「……遊間先輩、大人ですね」
「そりゃあ、お前とは経験が違う」

 遊間はそういって、焼け過ぎた肉を皿に移した。

「まぁ、悩んだところでなるようにしかならん。しかし、お前からそんな人間らしい悩みを聞けて俺は安心したぞ」
「なんですか、それ」
「うちの部署で一番の問題児だからな、御影は。恋人でもできりゃ、愛想笑いのひとつでも出来るようになんだろ」

 揶揄うような笑いから逃れるように、鈴はお酒を口に含んだ。
 入社してから、なんだかんだで遊間には助けられてばかりだ。

「私みたいな人間に、誰かの彼女なんて務まりますかね」
「無理ならそれはそれで、そんときだ。失恋したからって死ぬわけじゃねぇ。傷は残るが経験も溜まる。だけど、逃げたら後悔しか残らない」

 遊間は、人生の先輩ぶった顔で指を一本立てた。

「逃げてばっかの人間は薄っぺらいぞ。傷だらけの方が、渋みが増すってもんだ」
「遊間先輩のくせに、カッコいいじゃないですか」
「だろう? まぁ、そいつにフられたら泣きついてこいや。慰めるくらいはしてやろう」
「遠慮しておきますよ。そのときは、ひとりで泣きます」
「そりゃあ残念」

 ちっとも残念そうじゃない顔で遊間が笑ったとき、鈴のスマホの通知が点滅しているのに気がついた。
 着信履歴が一件。梶川からだ。
 留守電が録音されているのに気づいて、鈴は息を飲んだ。

「すみません、遊間先輩。ちょっと失礼」

 そう遊間に断って、鈴は録音された留守電を聞いた。

『御影先輩、俺です。梶川です』

 名前を告げたあと、長い沈黙が落ちる。言うべきか迷っているような間だった。

『昨日と同じルームで待ってます。先輩が来てくれなくても、ずっと待ってますから』

 それだけを告げて、ぷつりと録音が切れた。
 鈴は慌てて電話があった時間を確認する。今から一時間も前だった。

「っ、遊間先輩、すみません。今日は先に失礼します!」

 血相を変えて鈴が言うと、遊間は何も聞かずににやりと口元を歪めた。

「おうおう、行ってこい。面白い話を聞かせてもらったからな。ここは奢っといてやるよ」
「すみません、ありがとうございます!」

 ひらひらと手を振る遊間に背を向けて、鈴は鞄をひっつかんで走り出した。
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